仕事をするからには、「自分だからこそできること」に注力したいと考える人が多いと思います。
でも実際の職場では、上司から急な指示が飛んできたり、お客さまの対応に追われたりと、想定外のタスクが積み上がっていくこともしばしば。仕事で自分らしさを発揮するというのは、至難の業なのでしょうか……。
そんな疑問を抱えていたときに知ったのが、株式会社ガイアックスのソーシャルメディアマーケティング事業部が進める「アウトソーシング義務化」です。
この部署では、人に任せられるタスクを外注することが義務化されているのだそう。
その結果、「自分だからこそできること」に向き合えるようになり、さらには「幸せに生きる」ことにもつながっているといいます。
人に任せることで、仕事のあり方はどのように変化したのでしょうか? 取り組みを主導する事業部長の管大輔さんと、実際に日々アウトソーシングを活用している吉田朋子さんに、サイボウズ式インターン生の山口がお話をうかがいました。
「もはや友達」というくらいの関係性で弱音を聞いてもらうと、アウトソーシングが進む
山口
部署全体で、アウトソーシングを義務化していると聞いて驚きました。
「外部に任せる仕事」と「自分たちでやる仕事」の切り分けに、基準はあるのでしょうか?
管
切り分けの際には、僕たちが「お客さまからどのようにお金をもらっているか」を強く意識していますね。
山口
詳しく教えてください。
吉田
たとえば、私たちの業務の中にはデータ収集や、パワーポイントで資料をきれいにまとめるといったものもありますが、これで直接お客さまからお金をもらっているわけではありません。
管
僕らがお金をもらっているのは、経験をもとに、データを自分たちなりに解釈して、次のアクションへつなげる提案をする部分。だから、それ以外の業務は外部へ依頼してもいいよね、と。
あとは、アウトソーシング先の人に「できる仕事」を選んでもらうこともあります。
管 大輔(すが・だいすけ)さん。株式会社ガイアックス ソーシャルメディアマーケティング事業部 事業部長。2013年にガイアックス入社。26歳(当時)という同社最年少で事業部長に就任。アウトソーシング義務化や、リモートワーク・副業促進などの新しい働き方を導入して部署の改革に挑んでいる。
山口
選んでもらう?
管
はい。抱えている業務を全部洗い出して、見てもらうんです。そうすると「この仕事なら私にもできますよ」と選んでもらえる。新しい業務が発生したときも、まずは相談するようにしていますね。
吉田
管さんはずっとそのスタイルですよね。
管
もともとアウトソーシング化の取り組みは僕個人で始めたんですよ。オンライン秘書という、ビジネス上の業務の一部を代行・サポートしてくれる方へ依頼をするようになったんです。
最初の頃は、毎朝オンライン秘書の方と10分くらい電話して、その日に抱えている業務を全部伝えていました。そうしたら「その業務も任せてもらっていいですよ」と言ってくださるようになって。
山口
すごい。
管
ただ業務をお願いするだけの関係性ではないんですよね。仕事を越えた話をお互いにすることもあって。金曜の夜に3時間くらい、電話で愚痴を聞いてもらったこともあります。こういった信頼関係は、アウトソーシングをする上で欠かせないと思っています。
吉田
もはや友だちですね(笑)。
でもその雰囲気、わかります。私もアウトソーシング先の方と「子どもが同い年ですね」と盛り上がることがあるので。なにげないコミュニケーションは、信頼関係をつくるうえで大切ですよね。
同じ人でも、任せ方1つで成果は大きく変わるということに気づいた
山口
僕はてっきり、社外のアウトソーシング先とは淡々と業務の話だけをするものなのかと思っていました。関係性作りを重視するようになったきっかけはなんだったのでしょう?
管
アウトソーシングを活用するようになって自分の業務が効率化されたことを感じたので、知り合いの経営者の方などにも積極的に紹介したんですね。
すると、同じフリーランスの方に同じような業務を依頼しているのに、「なかなかうまくいかない」と悩む方がいたんです。
山口
なるほど。
管
一方でフリーランスの方も、「なかなか上手にやりとりができない」と悩んでいて。連絡がスムーズに取れないとか、フラットに話をするのが難しいとか。
関係性ができていない状態で淡々と業務の話だけをしていると、結果的に成果が出ないんだなあと思いました。それからはメンバーにも「関係性構築が大事だよ」と伝えるようになりましたね。
吉田
関係性を築いて一緒に仕事を進めていく経験をすることで、マネジメントの勉強にもなりますよね。
管
そうですね。うちの事業部では、部下がいない新人メンバーでもマネジメントスキルが身についてきていると思います。
吉田
私の場合、以前の部署では1人で完結する仕事が多かったんです。でもここでは、複数の人が関わって「いかに仕事をやりやすくするか」を常に考えている。1人では仕事ができないんですね。
吉田 朋子(よしだ・ともこ)さん。株式会社ガイアックス ソーシャルメディアマーケティング事業部所属。2009年にガイアックス入社。社内SNS「エアリーシリーズ」のサポートや営業を経験した後に現部署へ異動。2013年に出産、産後2カ月半で復帰。
管
最初はもどかしさもあったんじゃないですか?
吉田
はい(笑)。1人で1から10までやれていたものを、3人くらいでやる感じだったので。
でも、実際に人に任せることで業務が効率化されることを実感して、私の考え方も部署の人との関係性も良い意味で変わっていったと思います。
関係性をつくるコツは、「どんどん言ってください」という状況をつくること
山口
「人に任せることが苦手」という人もいると思うんです。相手が社外であればなおさら。円滑にアウトソーシングを進めるために、どんな工夫をしているのでしょう?
吉田
私は「依頼の仕方」が大切だと思っています。伝え方も相手に合わせて変えています。
詳細に目的を説明し、最終的にどんなものがほしいかまで落とし込んで伝えることもあれば、簡単に説明してお任せしてしまうこともあります。
人によって、依頼するときに求めている情報は大きく違うんですよね。相手の立場や性格など、さまざまな要素を考えたうえで依頼の方法は考えています。
管
僕は部署の責任者として、メンバーからの依頼方法に問題がないか、定期的にチェックしています。
仕事をお願いしているフリーランスの方とは毎月定例会を開き、「依頼の仕方に問題はありませんか?」「うちのメンバーでやりづらい相手はいませんか?」「ルールを破って無理な発注をしている人はいませんか?」といったことを聞いているんです。
吉田
日頃から「気になることがあればメモしておいてください」とお願いしていますよね。
管
「どんどん言ってください」というスタンスを前面に出している感じですね。実際になにか問題が出てくれば、依頼している本人にすぐ伝えて対応を改めてもらっています。
山口
相手が仕事をしやすい状況になっているかどうかをきっちりチェックしているのですね。
モーレツに働いていた自分が、売り上げ10倍を目指して取り入れた「幸福経営」
山口
そもそも、管さんの部署ではなぜ「アウトソーシング義務化」のような社員全員がコアな業務に集中できるような体制を作ろうと思ったのでしょう?
管
アウトソーシングの活用やリモートワークの推進は、あくまでも業績を伸ばすための手段です。
よく「社員の働きやすさを考えてのことですか?」と聞かれるんですが、実はそこが理由ではなかったんですね。
山口
それは意外です。
管
僕が事業部長になった頃、この部署は過去3年間の売り上げが横ばいでした。それを「ここから3年で10倍に伸ばす」と決めたんです。
事業部長になる前の僕は、かなりモーレツに働くタイプだったんですよ。
吉田
当時私はまったく違う部署でしたが、管さんのモーレツな噂は聞いていました。
管
「ハッピーとか言っている奴とは仲良くなれないな」くらいに当時は思っていました。死ぬほど働くのが当たり前だと。
山口
「3年で売り上げ10倍」という目標を置けば、部署運営はバリバリ働くことが正義だという雰囲気に傾いていく気がします。
管
以前の自分のままだったら、そうなっていたと思います。ただ、これまでのやり方の延長線上では、目標を実現できないとも考えていました。
「メンバーのパフォーマンスを最大限に発揮してもらって、非連続の成長を実現しなきゃいけない」と。
そんな時にガイアックスの先輩の立ち話を聞き、「幸福経営」の考え方に出会ったことで、自分の働き方の常識が変わったんです。
山口
幸福経営。いったいどのような考え方なのでしょうか?
管
簡潔に言うと、社員の心的安全性を確保したり、生き方そのものの向上に向き合ったりする考え方です。
幸福がパフォーマンスを高めることにつながると知って、もっと勉強してみようと思いました。恐怖政治で部署をまとめるのではなく、働く環境や人間関係に配慮し、「無駄な不満」が生まれないようにすることが大切だと学んで。
山口
そうして、今のチームの形ができあがったんですね。
吉田
コアではない業務をアウトソーシングしたり、リモートワークを取り入れたりするのは、まさに無駄な不満を生まないための工夫ですよね。タスクに追われるのではなく、自分の仕事の質を高めるためにどうすべきかを考えられるようになったと思います。
トゲトゲしながら仕事していた自分が、「仕事以外に優先することもあるよね」と言えるようになった
吉田
管さんのことは、モーレツに働いていた頃から知っていますが、本当に変わったなあと思います。
管
そうですか?
吉田
はい。前は業績面でも尖っていて「数字のことばかり言う人」の印象がありましたが、今は「仕事以外にも優先すべきことがあるよね」とはっきり言ってくれますよね。
だから私は、チーム内で子どもの話をしやすくなったんです。数字のことばかり考えているチームだったら、子どもに関することはなかなか言い出せないと思います。
管
そうですよね。
吉田
私の子どもは来年から小学校なんですが、そのタイミングで時短勤務に切り替えたいと思っています。そんな希望も周りに話せるようになりました。
山口
環境が変わったことによって、コミュニケーションにも変化が生まれたんですね。
管
はい。私生活も変わったように思います。僕自身が働きやすくなって、時間にもゆとりが生まれ、周りの友だちとの付き合い方が変わりました。
「最近、明るくていいね」とも言われます。以前の僕はどこかトゲトゲしていて、友だちといるときもスマホばかり見て、いつも仕事のことを気にしていたみたいです。
吉田
メンバーにかけてもらう声も変わりましたよね。
管
そうですね。当たり前のことなんですが、メンバーそれぞれに家族や友だちがいて、それぞれの人生があるんだということに思い至るようになりました。
僕よりも年上のメンバーだと、一人ひとりがお母さんやお父さんだったりもするわけです。だから仕事で幸せな時間を過ごして、プライベートでも一層幸せになってほしいと。
山口
考え方にかなりの変化があったんですね。若手メンバーの中には、「モーレツに働きたい」という人もいるのでは?
管
モーレツに働きたいと考えること自体は、別に悪いことではないと思っています。大切なのは、「世の中にはいろいろな価値基準を持つ他者がいる」と意識すること。時短で働きたいと思う人もいるわけです。
だから「お前はモーレツに働いても良いけど、他の人を同じモノサシで判断するなよ」と話しています。まるで昔の自分に言っているみたいですね(笑)。
山口
そうした考え方を組織内で共有することがますます大切になっていきますね。
管
そうですね。あうんの「感覚値」を共有していくことに最近はチャレンジしています。
一部の人たちが決めた共通言語を浸透させようとするのではなく、全員でとにかく徹底的に話し合うこと。
これからも「僕らの組織の価値観はこれだね」という認識を、どんどん尖らせていきたいです。
執筆・多田 慎介/撮影・尾木司/企画編集・山口遼大