自信を失った私が本気になれた。それは「自分の物語を生きよう」と気づかせてくれたから──小杉湯・塩谷歩波×平松佑介

「メンバーがモチベーション高く働けて、期待以上の結果が出せるチームになるには、どうしたらよいだろう……」
リーダーやマネージャーが日々悩むのがこのテーマ。 特に、会社での出世や成功より、自分らしい働き方への関心が高いと言われる20代に対して、どう接するべきかを悩む30代以上の方は多いように思えます。
そのヒントを得るためにお会いしたのが、高円寺にある創業80年の銭湯「小杉湯」の3代目オーナー・平松佑介さんと、描いたイラスト「銭湯図解」が話題になり、NHKドキュメンタリー番組「人生デザインU-29」にも出演するなど、番頭兼イラストレーターとして活躍中の塩谷歩波さんです。
実は、以前の職場で体を壊し、自分への自信を失った過去がある塩谷さん。平松さんはそんな塩谷さんに直接声をかけ、家族経営のイメージが強い銭湯で、いっしょに働く仲間を外部から採用しました。
年の差が10歳以上も離れている30代の平松さんは、どのように接してきたのでしょうか? 心地よいチームのあり方を模索するサイボウズ式第2編集部の井手桂司が話をうかがいました。
なぜ上司・部下のような関係にならないのか?



塩谷歩波(えんや・ほなみ)さん。インテリアコーディネーターの母と描いた住宅パースから建築の道を志す。早稲田大学建築学科に入学。2015年、住宅設計で著名な某設計事務所に就職するも、身体を壊す。休職中、医師の勧めで始めた湯治から銭湯の魅力を知り、喋らずとも温かみを感じられる銭湯という場がいつしか心の支えに。「銭湯に恩返しがしたい」と始めた都内の銭湯図解がネットで話題となる。2017年小杉湯に転職、ポスターや店内のデザインを担当している。ねとらぼ「えんやの銭湯イラストめぐり」と旅の手帖「百年銭湯」で銭湯図解を連載中。NHKドキュメンタリー「人生デザイン U-29」出演。好きな水風呂の温度は16度。



ん~。上司とか、部下とか、そんな感じではないですね……。

平松佑介(ひらまつ ゆうすけ)さん。2003年よりスウェーデンハウス株式会社に入社。入社4年目で全国トップの営業成績を記録し社長賞を受賞しトップセールスとして活躍。2011年8月、株式会社ウィルフォワードを創業。国内最大手のタクシー・ハイヤー会社の採用コンサルティング、WEB制作、マーケティング、法人営業部署の再生、広報PR部門の立ち上げ等の組織変革や、中小企業の採用コンサルティングなどに従事。2016年10月より、杉並区高円寺の銭湯「小杉湯」の三代目として働く。





そして、『塩谷歩波の物語』を素晴らしいものにするために小杉湯や、経営者である僕を利用してほしいと話しました。
自分のためと、自分の物語のためでは、全然違う


そういう仕事柄、どうしたら新入社員や若いメンバーのモチベーションが上がるかを、ずっと考えていたんです。
そこでわかったのは、若いメンバーは会社のビジョンを押しつけるより、個人のビジョンをもって動いてもらう方がモチベーションが上がるということ。
もちろん個人のビジョンと言われても、新入社員のほとんどがポカーンとします 。



その内容を聞いてあげたり、先輩やほかのメンバーの志も共有していくうちに、自分のやりたいことが見えてきたり、磨かれていくんですよね。
これを定期的にしているうちに、メンバーのモチベーションがどんどん高くなっていきました。


そして個人のビジョンは、「自分のため」にやるのと、「自分の物語のため」にやるのでは、全然意味が違うと気づいたんです。


井手桂司(いで・けいし)。サイボウズ式の第2編集部員。心地よいチームのあり方や、これからの働き方に興味がありサイボウズ式を愛読。30代半ばにさしかかり、20代のメンバーのマネジメントを求められるシーンが増える中で、どのような接し方が20代の持っているポテンシャルを生かせるのかに悩み、小杉湯の2人にお話を伺った。

でも自分の物語となると、話は違います。
例えば主人公が塩谷歩波だったとして、それを素敵な物語にするためには当然、舞台である小杉湯だったり、登場人物である僕や従業員、お客さんとの関係性はすごく大切になってくる。
なので、結果的に「for you」につながると思うんです。


もしかしたら「小杉湯のために」「銭湯業界のために」と思って働いているのかもしれないけど、それは自分の物語のためでもあると思うんですね。


こんな自分が、物語なんてつくれるわけないと思っていた





学生の時は先輩や教授のために模型作りを手伝ったり、設計事務所では上司のためにいろいろ動いたり……。


なので「小杉湯に入って、自分の物語をつくろう」と言われても、何も持っていない自分が物語なんてつくれるわけない、と思っていたんです。大学での成績もよくなかったし、体も壊してしまったし……。


平松さんのスゴイところは、絶対否定しないし、メチャクチャほめるんですよ! 適当なときもあるんですけど(笑)。



多くの人に認められているという感覚が結びついて、平松さんが言っていることが、より実感できるようになってきました。
ギャップのある掛け算の法則が、物語を魅力的に変えていく


あとは、「掛け算の考え方」が大事だと思っています。3つの分野でそれぞれ100分の1の人材になる。それらを掛け合わせることで、100万人に1人の希少性の高い人材になれるという話です。


それが銭湯という、今までと全然違う領域で掛け算が発生した時に、いろんな人が注目してくれたんです。
掛け算をして行くキャリアがこんなに強いんだと実感しました。


それが建築業界出身で、イラストレーターであり、そして……、銭湯(笑) このギャップですよね!


早稲田大学の建築学科を卒業して、有名な設計事務所に入社した人が、なんで高円寺の銭湯で番頭兼イラストレーターをやるの? みたいな。


何よりも、メディアに掲載されたことを塩谷ちゃんのご両親が喜んでくれているのがうれしかったんです。

でもそれを見るとすごくうれしいですし、自分の物語を生きていくことに対して、自信になりました。
両世代のつなぎ役になれる30代が、重要な存在になる





ただ、イラストで食べていける自信がなく、本業は別に持って、趣味としてイラストをやればいいと考えていたんです。
でも今は本気でやろうと思っています。自分の好きなものを、本気で自分のものにするってことが、自分の物語かなとも思うようになりました。


メチャクチャ構図を考えて、何回も何回も書き直して、真剣に絵を描いていくと、着実にレベルがあがっている感覚があるんです。

塩谷さんは訪れた銭湯のレポートを、「銭湯図解」という絵にまとめてネット上に発表されている。

今は幸いSNSとかが発達しているので、お金になる仕組みもできると思うんです。なので覚悟とか、意思みたいなものが大切だと思いました。


最近の若い子はモチベーションが低いとか言われるけど、全然そんなことはないんです。
好きなこととか、自分の物語のためってなった時のモチベーションの高さは、僕ら上の世代よりも高いんじゃないかなと思います。


バブル期に活躍していた40~50代の人達に鍛えられているので、上の世代の気持ちもわかるし、20代とも年齢が近いので下の世代の気持ちもわかるのは30代だけなんです。


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