場所にとらわれない働き方への挑戦や、時間当たりの生産性を向上させる施策など、働き方変革に積極的に取り組んでいるリクルートグループ(以下リクルート)の社員60名と、これからの働き方を考えるイベントを開催しました。 働き方の変革を考えた時にぶつかる、「子育てや介護で16時に帰る社員と、残業してもバリバリ働きたいという社員を同じ基準で評価するにはどうしたらいい?」「上司が時短だと困らない?」「夫の働き方が古いけど、どうしたらいい?」などの疑問にサイボウズの青野社長が答えました。
会社を辞めたいと社長に告げた社員が、その年MVPに選ばれたわけ
まず、サイボウズ株式会社(以下サイボウズ)社長の青野が自著『チームのことだけ、考えた。』をもとに特別講演を行いました。 私が社長を引き継いだ2005年に、サイボウズの離職率は28%という衝撃的な数字にまで上がってしまった。社員の採用と教育にはかなりのお金がかかるので、さすがに効率が悪いぞということで、なんとか離職率を下げようと思ったのが、働き方について考えるようになった最初のきっかけでした。 まずやったのは、給与の引き上げや業務の転換といった引き留め工作です。全然、効きませんでした。とにかく離職が止まらない。 毎週どこかしらで送別会が行われているような状態でした。 ある日、また辞めたいという人が出てきたときに、諦めの境地に入っていた僕は、『お前の人生を考えたら、辞めた方がいいんやろな。次が決まってないんやったら、相談にのってやるから考えとけ』と言ったところ、『え、青野さん、僕のことは止めてくれないんですか』と言うわけです。 次の日、彼はPCを持ってきて、『自分の部署ではこんな問題が起きているのに、一向に解決に向かう気配がないから辞めたい』とプレゼンを始めたんですね。それを聞いた僕は『それなら話が違う。そんな問題が起きているのなら、一緒に解決しようやないか』と言いました。その後、彼はサイボウズを辞めるのをやめて、人が変わったように働き始め、その年のMVPに選ばれるまでになりました。 給与も上げてないし、仕事の内容も変えてないのに、モチベーションがどん底からいきなりマックスになった。それを見て僕が理解したのは、“モチベーションはひとりひとり違うんだ”ということです。 そこから考え方を変えて、みんなモチベーションが違うんだったら、それを前提に人事制度を作り直そうと。副社長の山田と生み出したのが『100人いれば、100通りの人事制度があってよい』という、公平性より個性を重んじる考え方です。 これは、あくまでも経済合理性からくる意思決定。効率がいいからやっているだけ。みんなの理想の働き方を言ってもらって、それを実現できるように人事制度を足してきました。 こうやって変えていくと安心感ができたみたいで、出産モードも高まって、ある部署では6人いる女性のうち、5人が同時に妊娠してマネージャーが『人を増やしてください』と泣きついてくるなんていうこともありました(笑)。改革に必要不可欠な「風土」を作るには、トップが発信することが大切
そんなこんなで離職率が下がり、今は4%くらいになっています。それで、よく『働き方を変えるにはどうすればいいですか?』と聞かれるようになったんですけど、今まで僕が話してきたのは制度の話。 ワークスタイルを変えるためには、『制度』の他にも、『ツール』と『風土』の2つが必要だと思っています。 例えば、在宅勤務をすると言ったときに、グループウェアのような『ツール』がなかったら、仕事ができる環境ができません。 『風土』つまり“何が良くて何が悪いか”といった会社の価値観が変わらないと、何が起きるかわからず怖くてみんな動けない。大企業の男性の育休制度が典型的な例です。 どうやって『風土』を作るのか?それはコミュニケーションをしていくしかなく、トップが発信することが大切だということで、僕がグループウェアに投稿した一例をご紹介します。 これは社員のお子さんが骨折をしてしまい、保育園に預けられないので1ヶ月間くらい在宅勤務をしないといけなくなったときに書き込んだものです。 “とにかく周りの人も大変だったと思うけれど、商売より子育ての方が大切だ。子育ては長期の顧客創造業務なのだから、優先されて当然だ”というメッセージを発信しました。 もちろん心の中で『これで仕事が振られた方は大変なんだよ』というのもあるんですけど、だからと言って“子育てで抜けるのが悪い”ではなく、“問題が生まれたなら、それを解決する方策を新たな制度を考えましょう”という方向へ持っていくようにしています。16時に帰る社員と、残業してもバリバリ働きたい社員を同じ基準で評価するにはどうしたらいい?
次に、サイボウズのワークスタイルドラマ「声」(ドラマは公開を終了しました)の第1話「先輩」と第2話「悠太」を鑑賞し、多様な価値観や働き方について考えた後、株式会社リクルートホールディングス 広報ブランド推進室室長・働き方変革プロジェクトリーダー(※)の林宏昌氏とサイボウズ社長の青野による対談を行いました。 サイボウズのワークスタイル改革に対する考え方を理解したからこそリクルートの社員の方から湧き上がる、「じゃあ、こんなときはどうするの?!」という疑問に対し、青野はどう答えていくのでしょうか。私は経営企画室 室長をしていた頃から“働き方変革”を掲げ、2015年4月からプロジェクト化してリーダーを務めている(※)のですが、私たちの考え方はサイボウズさんとかなり近いと感じているので、今日はぜひいろいろ教えていただければと。 私自身、3歳と0歳の子どもがいるので、先ほど「声」の第2話を見て、だいぶ身につまされました。ただ、結局すべてを満たすことはできなくて、仕事と子育てのバランス感も人それぞれの解があると思うのですが、青野さんは今、ご自身の子育てと仕事のバランスは理想を実現できていますか? ※記載されている情報は、2016年3月時点のものです。
我が家は子どもが3人いまして、子どもが生まれるたびに私の労働時間が減っていきました。 昨年は3人目が生まれて、私は上の子どもたちを見るために、保育園の送迎をしないといけない。9時-16時勤務ですよ。育休期間中は16:30に迎えに行く必要がありますから。 これをやってみて気がついたのは、“いかに労働時間が減らせるか”ということです。それまでは、「自分は重要な仕事をいっぱいしているのだから、これを減らすなんてありえない!」と思っていたんだけど、16時に帰るしかないとなって、自分の仕事の棚卸しをしてみたら、実は16時までに収まることがわかりました。 もちろん、子どもが寝た後にPCを開くことはありますけど、これでも全然パフォーマンスは落ちないんだとわかったんですよね。
「帰れるかどうかではなく、帰るしかないんだから、やるしかない」ってことですよね。一方で、リクルートには子育てや介護で時短勤務したい人だけでなく、バリバリ働きたいという人もいます。 子育てなどで16時に帰らなくてはならない社員と、残業してもバリバリ働きたいという社員が、まったく同じ基準で評価されているかというと難しい現実があります。サイボウズさんはそこをどうやってクリアされましたか?
サイボウズでは社員同士を比較するのを、やめたんです。社内で人を比較すると、どうしても労働時間に目が向きがちになってしまうので。 給与の評価基準を外に見出して、「もし今、この16時までしか働けない人が転職してくるとしたら、僕らはいくら払うだろう?」という発想へ転換した。 そうすると16時までしか働けなくても、高いスキルがあって手放したくないと思えば、高い給料を出せるようになります。“社員同士を比較しない”という頭に切り替わってから、そこを乗り越えられるようになってきたと思います。
「この会社には、会社に来ることを評価して欲しい人はいないんだな」と、安心した
多様な働き方が受け入れられるようになると、個人にとってメリットがあるのは当たり前なんですが、マネジメントしている側からすると、負荷が高まりますよね?
昔のマネージャーは楽だったと思うんですよね。「あっちへ行け!こっちで働け!以上!」って命令すればいいだけですから。ただ、それは言い換えるとマネジメント力が低いということですよね。多様化した働き方をマネジメントできる能力こそ、21世紀型のマネージャーに求められているものだと思います。 そんな21世紀型のマネジメントを実現するには、“普段からタスクをチームで共有しておく”ことが必須。誰が何の仕事をどこまでやっているかが把握できていれば、急に人が欠けても、簡単に振り分けられますから。
成果が同じであれば、本来は生産性高く、早く帰る人を評価すべきですよね。しかし、いわゆるハロー効果というか、たとえ同じ成果であったとしても、16時に帰る人よりも、残業して仕事をしている人の方が、がんばっていそうに見えるという理由で、なんとなくオフィスにいる人もいると思います。サイボウズさんはこうした風土をどうやって変えたのですか?
そういう意味では、僕はまだ全然変わってないんですよ。がんばって会社に来たことをアピールしたがる自分がいる(笑)でも、例えば台風が来たときには、僕が必死で出社してきても、サイボウズの社員は誰もいません。それを見て「この会社には、会社に来ることを評価して欲しい人はいないんだな」と、安心しましたね。
“会社にいるか/いないかで評価が変わらない”という安心感があるんでしょうね。
そうですね。最初からできていたわけではありませんが。「あ、こういう働き方もありなんだ」という事例が少しずつ増えてくると、「じゃあ自分はどう働こうか」と考え始めるので、自分事化させることが大事なんだと思います。
これまで伺ったお話を踏まえた上で、さっそく明日から踏み出すための1歩について、何かアドバイスはありませんか?
いきなり全部を変えるのは難しい。仕事を細かく細分化してみて、どこか一部でもできるところはないか考えてみる。少しでもできるところから始めることをチャレンジしてもらいたいと思います。 例えば、「今週だけチーム内でこういう働き方をしてみよう」と提案してみるのは、どうですか?ダメだったらやめればいい。やってみると次のアイデアが出てくるはずです。そうした小さな成功が積み重なったら、あとは範囲を広げていくだけ。最初の一歩が途方もなく大きく見えがちですが、短期間かつ少人数でお試しするだけなら、賛同も得られやすいのではないでしょうか。
16時退社して判明、「もしかして、足を引っ張っていたのは社長の俺だったのか?! 」現象
ここからは、会場の質問に答えます。マネジメント層が時短勤務をすると、部下が困るのではないですか?タスクを可視化しただけでは、補えないのでは?
私が16時退社を決意したときに、自分にしかできない仕事は何かと考えてみました。 そうしたら、「複数の本部間をまたいだ意思決定」と「社長の肩書としての広報機能」の2つだけではないかと気付きました。広報機能に関しては、できる量が減ってごめんなさいということで厳選すればいい。意思決定についても重要な会議を16時までに終わるようにすればいいだけ。 これが大好評で、「16時以降に会議の決定事項に沿って動けるようになったので、すごく効率がいいです」と言われて、「もしかして、足を引っ張っていたのは俺だったのか?!」という現象が起きました(笑)確かに不都合もあるかもしれないけれど、意外とそうでもないこともあるはずですよ。
私も5歳と2歳の男の子の母なのですが、リクルートはこうして変わっていこうとしているのに対し、夫が勤める建設業はまだ柔軟に働く環境が整っていないこともあり、夫婦間で意識の乖離が起きています。 このギャップはどうやって埋めればいいですか?
今、サイボウズが直面しているのが、まさに夫婦問題。最近、旦那の転勤でサイボウズをやめなければいけなくなったママ社員が2人いて。日本の大企業の「2週間前に転勤って言ったら、どこでも行かせるぞ!」という横暴な人事が、本当に許しがたいんですけど。 結局、社会として問題解決しないと根本的には変わらない。リクルートさんのような何万人もの従業員がいて影響力のある会社が、新しい世界へ突入したという事例が欲しいんです。そうしたら、次に続く大企業が出てくるはずなので。ぜひ一緒に社会を変えてもらいたいと思います。
誰かが急に休みを取ると、その分の仕事を補うための余剰人員が必要になりませんか?それとも、仕事を減らしていく方向で対応しているのでしょうか?
余剰を持っておくべきだとは思いますが、“今やっている仕事のクオリティを下げてはいけないというこだわりは捨てていい”と考えています。 日本人はオーバークオリティーを追求しすぎて、泥沼にはまっている気がしていて。別に深夜にコンビニが営業してなくても、ちょっと工夫すればなんとかなるじゃないですか。もっと仕事の質じゃなくて、生活の質に目を向けたほうが、みんなハッピーに働けるのではないかと。なので、今の仕事の質を維持しなければいけないという発想は、ちょっと疑ってかかっていいんじゃないかと思っています。
法人というバーチャルなモンスターに縛られないようにしないといけない
この先10年後、20年後の働き方を変えていくために、青野さんがいま必要だと思うことは、何ですか?
今、僕が参画している厚労省のプロジェクトでキーワードとして挙がっているのが「個」です。 例えば、男性/女性・正社員/非正規といったように、僕らの引きやすい線でパクッと分けてしまうと、個が消えていってしまいますが、ひとりの人間、生身の人間として「個」に注目してみると、カテゴリーにとらわれることなく、ひとりひとりの幸せを追求しようという発想になる。これからは「個」に注目して、物事を考える習慣を続けていく必要があるのではないかと思っています。 もうひとつは、法人というバーチャルなモンスターに縛られないようにしないといけない。法人が偉そうにしすぎなんですよ。永続する会社がいい会社だって言われますけど、会社なんてバーチャルなものなんですから、本来であれば会社よりも生身の人間のほうが、はるかに大切なはず。それなのに、法人様は「何時に来い、ここで働け、副業するな」とたくさんの理不尽な命令をしてくる。法人様のために生身の人間が頭を下げて働くという図式をなくしたいですね。だって、そこに「リクルート」っていう人もいないし、「サイボウズ」っていう人もいないんだから。法人と個人の関係性を見直すべき時が来ているのではないでしょうか。
ありがとうございました。いかに個人の思いや価値観の違いを最大限に受け入れ、モチベーションを高めてクリエイティブに結びつけていくのかがテーマであると、今回改めて思いました。
文:野本纏花/写真:佐坂和也/編集:小原弓佳
「サイボウズ式」とリクルートホールディングスの「 Meet Recruit 」のコラボレーションでお届けしています。「これからの働き方は十人十色。サイボウズ株式会社 青野社長に学ぶ」も合わせてどうぞ。
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