これからの家族と、仕事のカタチ。
結婚という「契約の重さ」が私には合わなかった。1度目は法律婚、2度目は事実婚を選んだ理由──水谷さるころさん
人生100年と言われる時代に、今このタイミングで一生の愛を誓っていいの? 失敗したらどうしよう? これまでキャリアを築いてきた自分の名前を変えたくない──。そんな思いが頭をよぎって、「結婚」を躊躇している人もいるかもしれません。
そんな時、「事実婚」という選択肢が浮かんできたとしても、まだまだ一般的ではないその選択肢に懐疑的な人もいると思います。法律婚を前提につくられている社会で、不利益を被(こうむ)ることはないのかな? そもそも「法律婚」と「事実婚」って何が違うの?
そんな思いをもとに、「法律婚」と「事実婚」、そのどちらも経験されているイラストレーター・マンガ家の水谷さるころさんにお話を聞きました。
1回目の結婚では、「結婚生活をなめていた」ことに気づいた
というのも、自分が生まれ育った家族のあり方に影響を受けていまして。
しかも、父はいわゆる亭主関白でもなく、お酒も飲まず、母にも私たちにも優しい人。
だから、アラサー当時付き合っていた彼に、「共働きで、家事も全部私がやるから大丈夫!」と宣言して、結婚したわけです。
でも実際は、負担がどんどん増えていきました。彼にとっては「家事はやってもらって当たり前」。かといって「私がやるから」と言ってしまった以上家事も仕事も、自分だけが頑張らないといけない関係性に疲れてしまって。
結婚の良い面ばかり見ていたので、自分を助けてくれない人と暮らすのが辛いということが想像できてなかったんです。
「結婚したんだから、旦那さんに養ってもらうんでしょ?」と、ギャラの値下げ交渉をされた
私は「親が喜ぶようなちゃんとした結婚式」を挙げたせいで、「家庭に入って悠々自適な生活を送るんだな」と勝手にイメージされちゃったんですよね。
水谷さんのお母さまは専業主婦ですが、水谷さんにその考えが一切ないのはなぜですか?
母の時代は、結婚することが家を出る唯一の手段で自立の道だったけれど、私たちの時代は女性が働くことも当たり前。結婚して仕事をやめる選択肢を最初から持っていませんでした。
離婚してはじめて、「自分の親は幸せな家庭を築いていたんだ」と気づいた
元夫は「オレが結婚したかったわけじゃないし」みたいな感じでしたし子どももいなかったので、「解散だ、解散ー!」という感じのノリでわりとあっさり。
たまたま自分の親が運よく幸せな家庭を築いていたことに対して、何の疑問も持たなかった自分を恥じました。
結婚というより「法律婚」に向いていないんだと思った
法律で契約された関係なんだから「一生我慢しないといけないんだ」と自分を追い詰めてしまった。さらに「結婚式」で「神様に誓った」みたいなのにもかなり縛られていましたね。
でも、幸せになると神に誓ったことが原因で不幸になるのはおかしいな、と。
いつでも引き返せるので追い詰められることもない。法律婚で最初に本契約をして、そこに忠実であろうとして挫折したので、契約力が弱い事実婚の方が自分には向いていると思いました。
結婚で「男だから」「女だから」という役割に縛られるのは窮屈
おたがいに一回失敗して、法律婚に向いていないこともわかっていたので、一緒に暮らすなら事実婚にしようとすんなり決まりました。
ただ、親は反対しましたね。
もういい大人なので、許諾を得る必要はないと思いましたが、ちゃんと説明すればわかってもらえるという信頼関係はあったので、両親に理解を得られるように話はしました。とはいえ、ある程度やってみないとわからないので見切り発車ぽくはありましたが。
「男」と「女」という役割に縛られずに、もっと合理的に能力に対して、均等に家庭内で家事育児を割り振ればいいよね、と意見が一致しました。
契約よりも、家族であるという「事実」が重視される
子どもの口座を開設したり、入院や手術で家族のサインが必要になったりしたときも、一緒に暮らしている家族であるという「事実」があれば、たいていの手続きはクリアできるんです。
実際に病院で「事実婚ではサインさせない」というケースも稀にあるらしいのですが、それは「法律」じゃなくて「ローカルルール」なんです。
徐々に、いろんな家族のかたちに合わせて社会も変わっていければいいですよね。
一方、事実婚は「この人と死ぬまで一緒にいられたらラッキー」くらいの気持ちで最初の志は低く、そこから信頼と実績を積み上げていくかたちです。最終的なゴールを決めていないから、おたがい関係が続くように努力もするので、理解が深まって仲も良くなるんです。
事実婚は法的なつながりが薄い分、「事実」をどれだけ積み上げられるかが重要なんだなと感じていますね。
ですが、おたがいに苦手なことを受け止め合って、変わっていくことも含めて、話し合いを重ね、心地よく暮らすためのルールを更新し続ける。そうして「事実」を積み上げて、私たちなりの家族のかたちを築いていきたいと思っています。
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執筆
撮影・イラスト
三浦 咲恵
1988年大分県生まれ、サンフランシスコ市立大学写真学科卒。帰国後都内のスタジオを経て、鳥巣祐有子氏に師事、2016年独立。雑誌や広告、Webなどで活躍。
編集
あかしゆか
1992年生まれ、京都出身、東京在住。 大学時代に本屋で働いた経験から、文章に関わる仕事がしたいと編集者を目指すように。2015年サイボウズへ新卒で入社。製品プロモーション、サイボウズ式編集部での経験を経て、2020年フリーランスへ。現在は、ウェブや紙など媒体を問わず、編集者・ライターとして活動をしている。