「チームのリーダーは、誰よりも優秀で、どんなときもメンバーを引っ張っていくものだ」というイメージを持つ人が多いかもしれません。しかし、リーダーに悩みはつきもの。「自分はリーダーの器ではない」「何でも言い合えるチームの作り方がわからない」と日々、頭を抱えていませんか?
そんな悩みを抱えたリーダーに向けて、サイボウズ式編集長の藤村能光が、自著『「未来のチーム」の作り方』と同じタイミングでチームビルディングの書籍『宇宙兄弟 今いる仲間でうまくいく チームの話』を上梓された長尾彰さんと一緒にトークイベントを開催しました。
モデレーターに、経営コンサルタントの経験を生かして今治で活躍する中島啓太さんを迎え、参加者と、これからのリーダー像について語り合いました。
「お世話になります」をメールで書く必要ある?
会場は表参道にある「subaCO」。40人以上の参加者が集まりました
藤村
長尾さんとお会いするのは、実は今日が初めてなんですよね。数年前からツイッターでつながっていたので、なんだか初めて会った気がしませんが。
長尾
本当ですね。
中島
僕は数か月前に藤村さんに初めてお会いして、今日は突然巻き込んでもらいました(笑)。
▲開催は「サイボウズ式第2編集部(*)」の青山さんのツイートが長尾さんの目に止まったのがきっかけ。「この企画を実施したい」という思いからSNS上でのやりとりが続き、実現しました
(*)「サイボウズ式をもっとおもしろくしたい」という思いを持った読者とサイボウズ式編集部が集まったチーム。「新しい価値を生み出すチームと働き方を考え、実践する場」を活動指針として、多様なメンバーが、それぞれの考えをアウトプットし、形にしていくことを大事にしています。
藤村
ははは。僕が巻き込んだことをすっかり忘れていました。
今日のイベントでは、新しいチームの可能性や楽しさを感じていただければと思います。
中島
ではさっそく、参加者のみなさんから事前にいただいた質問に答えていきましょう。
質問1:「今のチームメンバーで意見を伝えあって、前を向いていきたいが、ぶつかってしまうときはどうすればいいでしょう。うまく思いを伝えつつも、相手の立場を尊重したいです」
長尾
ご自分で、すでに答えを出していると思います。
中島
うまく思いを伝えて、相手の立場を尊重しましょう、ということですね。
長尾
具体的なお答えをすると、無用なすれ違いや誤解を発生させないように、私の場合は感情的なことは対面で、事務的なことはテキストベースかつ箇条書きにして伝えるようにしています。
なので「お世話になります」はメールなどのテキストベースでは、ほぼ使いません。
長尾彰(ながお・あきら)さん。組織開発ファシリテーター。日本福祉大学卒業後、東京学芸大学にて野外教育学を研究。企業や団体、教育、スポーツの現場など、約20年にわたって3千回を超えるチームビルディングを実施。現在は、複数の法人で「エア社員」の肩書のもと、組織開発や事業開発をファシリテーションする。株式会社ナガオ考務店 代表取締役、一般社団法人プロジェクト結コンソーシアム理事長、NPO法人エデュケーショナル・フューチャーセンター代表理事、学校法人茂来学園大日向小学校の理事を兼任する。著書に『宇宙兄弟「完璧なリーダー」は、もういらない。』(学研プラス)
中島
なぜそうしているんですか?
長尾
感情的なことは、その場でどうにかする必要があると思うんですよね。
テキストベースで「ごめんね」「嫌だよ」を伝えたとき、相手は誤解してしまったり、歪曲して捉えてしまったりするかもしれない。
でもそれを対面で伝えられれば、あとに長引くことはないでしょう。とくに、たまにしか会えない相手には、対面で気持ちをきちんと伝えるようにしています。
藤村
それは僕も社内でグループウェアを使いながら実感しますね。オンラインツール上でのコミュニケーションは、テキストベースでのやり取りが圧倒的に多くなるんです。
そのとき、書き方によっては、自分の意図しない形で伝わってしまうことがある。相手に「怒ってる?」と誤解されやすくなったり。
中島
なるほど。藤村さんがオンライン上で連絡を取るときに、気を付けていることってありますか?
中島啓太(なかじま・けいた)さん。FC今治 経営企画室長。英国の大学を卒業後、外資系コンサルティング会社に就職。その後、岡田武史と夢を追いかけるために、東京から今治に移住を決意。四国初となるJリーグ基準を満たすサッカー専用スタジアムの建設や、社会変革者を生み出すためのワークショップ「Bari Challenge University」の統括などを務め、現在は教育事業の展開にも携わる
藤村
事実を書くようにしています。議論するときに、事実ベースでコミュニケーションしないと、問題解決できないので。
その事実を見る人によって、解釈は違いますよね。だから、解釈だけを見てはいけないなと。
長尾
うん、うん。
藤村
ただ、解釈には人の気持ちが込められているので、ないがしろにしてもいけないとも思います。
解釈をしっかりとすくいあげたり、寄り添ったりして受け止める。その大切さを実感できるオンラインツールも使ったやり取りは、意見をきちんと伝え合うトレーニングになっているのかな、と感じますね。
藤村能光(ふじむら・よしみつ)。サイボウズ式編集長。1982年生まれ、大阪府出身。神戸大学を卒業後、ウェブメディアの編集記者などを務め、サイボウズ株式会社に入社。製品マーケティング担当とともにオウンドメディア「サイボウズ式」の立ち上げにかかわり、2015年から編集長を務める。メディア運営や編集部のチームビルディングに関する講演、勉強会への登壇も多数。複業としてタオルブランド「IKEUCHI ORGANIC」のオウンドメディア運営支援にも携わる。著書に『「未来のチーム」の作り方』(扶桑社)
言いたいことを言えない雰囲気、どうすれば?
当日、参加者には「青・黄・赤」の用紙を配布。話が長かったら「レッドカード」を出すなど、参加者からのフィードバックを受けながらイベントが進んでいきました
質問2:「上下関係のある会社では、言いたいことを言いづらい。言い合える環境は、どうすればつくれるのか?」
藤村
以前、サイボウズ式編集メンバーのチーム状態が「あんまりよくないな」と感じたことがあったんです。
そのときに、メンバーに「個人的に不安に思っていること」をポストイットに書き出してもらいました。
長尾
どのくらい出たんですか?
藤村
30個くらい一気に出てきて。実はもっと少ないと思っていたんですよ。「ふだんのコミュニケーションで言えない不安がこんなにあるんだ」と驚きましたね。
中島
それらの不安は、藤村さんが解決策を考えていったんですか?
藤村
それだと「不安を言い合える雰囲気」をつくれないんですよね。
なので、1週間ごとに「チームとして解決したい課題」をみんなで1つ決めました。そして、その解決策を話し合いながら、実行していったんです。
中島
コミュニケーションの量を増やして、思っていることを言いやすくなるように?
藤村
そうです。もともとサイボウズには、チームワークに貢献するために、グループウェア上などで思ったことをオープンに伝え合う「分報」と呼ぶ取り組みがあります。
藤村
それをより活発にしようと、話し合ったり日報を書いたりして、お互いの考えを伝え合うようにしました。その結果、1か月後には話しやすい雰囲気が生まれ始めましたね。
「言いたいことが言えない関係」は決して悪いことじゃない
長尾
それは、僕が本のなかで書いている「チームの成長ステージ」の話にもつながりますね。
長尾
言いたいことって、いきなり最初から言えませんよね。だから、最初は遠慮している「フォーミング(形成期)」のステージから始まります。
お互いのことがだんだんわかってくると、チーム内に「心理的安全性」が生まれる。言いたいことを言い合える雰囲気になっていく。
中島
それが第2ステージの「ストーミング(試行錯誤期)」。
長尾
そう。この第1ステージから第2ステージに進めるためには、まずはコミュニケーションと情報の量が必要なんです。
この発達段階は、「スーパーマリオ」をイメージすれば、わかりやすいと思います。
藤村
スーパーマリオですか?
長尾
難易度が徐々に上がっていきますよね。まだゲームに慣れていない「1-1」で、ボスキャラのクッパがいきなり出てきたら焦るでしょ?
ある程度レベルが上がった状態の「1-4」でクッパを倒して、ステージ2に上がっていくのが当然ですよね。
中島
たしかに。
長尾
チームのコミュニケーションも同じ。そんなふうに段階を踏みながらステージをクリアして、失敗したらまた「1-1」からやり直す。それを繰り返せば、習熟度が上がっていくんです。
これをチームづくりに置き換えてみると、ステージをクリアするほど、コミュニケーションの習熟度が上がっていきます。
藤村
チームメンバーが、成長にはステージがあることを、まずは把握するのが大事ですよね。そうすれば、「まだステージ1で、ステージ4に行くまでの序章なんだ」と希望が持てる。
中島
うん、うん。
藤村
その上で、次のステージに上がる方法を考えるには、メンバーが「チームの現段階」を把握しなければいけません。そのために、リーダーには「今はステージ3に上がったところだね」などと、現段階をメンバーと共有する役割があるなと。
長尾
そうです。「言いたいことが言えない関係」は決して悪いことじゃない。段階を踏むことでチームは成長していくので、今の状態を心配しなくてもいいと思いますよ。
「自分たちで決めたこと」ならチームのモチベーションは上がる
藤村
会社内でのチームビルディングでは、最初の一歩として何から始めればいいんでしょう。
長尾
まずは、リーダーではなくチームメンバーが決められる目標を決めるといいと思います。「自分たちの目標」があるところにチームが生まれると考えているからです。
たとえば、経営者や管理職が「今期の売上目標」の決裁権を持つ会社がほとんどだと思います。ただ、そうやって上が決めた目標を、メンバーが仕方なく実行しても、チーム化は進みません。
藤村
そうですよね。
長尾
一方、自分たちで決めた目標ならメンバーの自分ゴトになるので、目標に対して前向きな気持ちになるはずです。
中島
リーダーは不安になりませんか? どんな目標になるのかがわかりませんよね。
長尾
不安だったら「僕はこうしたい」と伝えればいい。この目標だとビジョンが達成できないと思ったら「もっと高い目標にしたい」とハッキリと伝えればいい。そして、その反応をまた見るんです。
中島
プロセスをオープンにするんですね。
長尾
そう。そのなかで、「そんなの無理ですよ!」「どこが無理だと思う?」というやり取りを繰り返せば、最終的には高い目標にたどり着きやすいんです。
オジサンになると「できない人は何ができないのか」がわからない
藤村
僕も、このあいだ同じようなことを経験しました。以前、サイボウズ式の編集長として、チームメンバーに「僕の考えたメディアのビジョン」を発表したんです。
ただ、最近になって「それを覚えている?」と聞いたら、みんな忘れていました。つまり、そのビジョンを達成したいのは僕だけだった。
中島
そういうリーダーは少なくないでしょうね。
藤村
それを反省して、会議で「みんなはどうしたい?」と聞くようにしたんです。そうしたら、「この方向性いいじゃん」とチームみんなで共有すべきビジョンが見えてきた。それによって、チームが一気によくなった実感があります。
長尾
そんなふうに「できること」から話し合って決めればいいんです。たとえば「今週のトイレ掃除の当番」でもよくて。大事なのは、合意形成をしてから物事を決めることです。
藤村
リーダーは、大きな問題から解決したくなるんですよね。
でも、メンバーの困りごとって、リーダーからすれば「その最初の段階で悩んでいたんだ」と思うことがよくあります。
長尾
オジサンになってくると、「そんなこと当たり前だよ」と思って、できない人は何ができないのか、わからないことが増えてしまう。
経験値がある分、仕事の習熟度が高くなっているからです。
部下から見れば、上司は“何でもできる人”。だから「これを聞いたら叱られるんじゃないか?」と思って、言いたいことが言えなくなりがちです。
藤村
そのとき、チームはスキルの低い人に合わせたほうがいいんですか?
長尾
悩みどころですね。ただ、最近思うのは、スキルの低い人を排除しないのが大事だなと。
その人に合わせながら、チームとしてベストなパフォーマンスを発揮できるのが、よいチームなのだと思います。
リーダーは正解がわからなくても、決断しなくちゃいけない
中島
ここまでの話を聞いて、参加者のみなさんから、何か質問はありますか?
参加者
ボトムアップで、チームの目標を決める話がありました。そのときのリーダーの役割はどうなるんでしょう。また、理念もボトムアップで決めたほうがいいのか教えてください。
長尾
経営者の存在意義は「理念を定義する」ことだと思っています。だから、ボトムアップで決める理念はありえません。
リーダーには、理念を細かく分けて、「どうすれば、目的にたどり着けるのか?」を考える役割があるんです。
藤村
僕も同じ考えです。弊社の青野は、「チームワークあふれる社会を創る」というビジョンにこだわっています。
サイボウズのメンバーは、その理念を達成するために各部署に分かれ、自分にできることをする。
そもそも理念がブレていて、経営ビジョンがつくれないと、チームとして連携できません。
中島
僕も上位概念の決め方は、トップダウンだと思っていて。「判断」と「決断」は違います。判断は客観的指標に基づいた合理的な選択で、決断はわからないものに対する意思決定です。
そう考えると、“正解がない理念”を決めるとき、全員の意見を聞いて中間を取るのは違うのかなと。リーダーは正解がわからなくても、孤独のなかで、「僕たちはこれで行くんだ」と理念を決断する役割があるんです。
まずはチーム内に「相棒」をつくろう
参加者
ちなみに、戦略はボトムアップで決めるんですか?
長尾
「理念→ビジョン→ミッション→戦略→戦術→計画」のレイヤーでいえば、戦略までは管理職とメンバーで話し合うけど、メンバーは意思決定しない。
個人的な感覚でいうと、戦術と計画はボトムアップで決めるのが、僕は好きです。
中島
戦略は次の一手を考えることであって、「非連続的なアート」だと思うんです。アートって、これが正解と言えないじゃないですか。
長尾
エビデンスがないからね。
中島
みんなで決めたことが、決してアートになるわけじゃない。だから、みんなの話は聞くけど、最後は誰かがセンスを持って決断しないといけません。
長尾
非合理的な意思決定でいいんだよね。「やると決めたからやる」のほうが、実行されやすいイメージです。
中島
模倣するハードルが高いので、ユニークにもなりますよね。ほかに、質問はありますか?
参加者
「チームになる意味がわからない」「自分だけ成功すればいい」と思う人がチームにいたら、どうすればその人とチームになれるんですか?
中島
うーん。人の心って、そんな簡単に変わらないので、僕だったら無理やりチームメンバーにしようとは思わないかなと。どう思いますか?
長尾
僕はチームづくりは2人からだと思っています。まずは1人でもいいから、チーム内に相棒をつくる。2人でチームづくりをはじめれば、次のステップに進みやすくなるんです。
藤村
このイベントが終わったあと、会場のみなさんとオンライングループをつくります。そこで2人、3人……とつながって、チームになれればいいですね。
中島
この話の続きは、ぜひ、そのチームでしましょう。
執筆:流石香織/撮影:二條七海/編集:松尾奈々絵(ノオト), 山口遼大/企画:青山直人(サイボウズ式第2編集部)/動画:高橋団
訂正履歴:記事内の以下の文章の修正を行いました。
なので「お世話になります」はメールなどのテキストベースでは絶対に使いません(訂正前)
↓
なので「お世話になります」はメールなどのテキストベースでは、ほぼ使いません(訂正後)
(2019/10/01 10:30)