個人をないがしろにする組織はもう生き残れない──ティール組織 フレデリック・ラルー×上田祐司×青野慶久
「この会社で働いている限り、自分のやりたいことができない」「組織を変えたいけれど、どうしたらいいかわからない」
多くの人が抱えている会社や組織に対する不満。このような状況を打開するにはどうしたらいいのでしょうか。
『ティール組織』著者のフレデリック・ラルーさんが考える「人生の目的との付き合い方」を紹介した前編に続き、後編では、株式会社ガイアックス代表執行役社長の上田祐司さんとサイボウズ代表取締役社長の青野慶久が、ラルーさんとともに人生や組織の目的、そしてこれからの組織のあり方について考えます。
ラルーさんいわく「世間一般の経営者とはちがう、珍しいタイプのマネジメントをしている」2人は、どのように人生の目的と出会い、その実現に向けて組織づくりをしているのでしょうか?
3人で、これから求められる会社や組織のあり方や、そして会社をよくするための方法を考えました。
会社がめちゃくちゃになって経営者としての自分に絶望。そして人生の目的に気づいた
サイボウズは、1997年に創業して、3年くらいで上場したものの、業績が伸び悩んだ時期がありました。そこで「グループウェア事業だけではだめだ。事業を拡大しよう」とM&Aを推し進めたんです。
その結果、さらに業績は傾くわ、離職率は上昇するわで。会社の中がめちゃくちゃになってしまいました。
当時は、上場企業の社長として、会社を大きくしなくてはいけないという考えにとらわれていました。でも、本当にやりたかったのは、グループウェアを提供して情報共有を進める組織を増やし、働く人たちをハッピーにすることだと気づいたんです。
マネジメントも社員一人ひとりが幅広い選択肢を持って働けるような方法(*1)に変えたら、離職率は下がり、そして業績も上がってきました。そんなおもしろい経験をさせていただいています。
(*1)サイボウズの「働き方制度」についての記事はこちら
インターネットって、いわば私たちの脳がつながっていると言えなくもない。現在は、人と人をつなげるためのソーシャルメディアとシェアリングエコノミービジネスを提供しています。
マネジメントについては、出社も会議への参加も、すべて社員の自由に任せています。興味がなければ来なくていいし、逆に興味があるのなら、外部の方も参加可能です。ライフプランや働き方、給与も社員に自分で決めてもらっています。
社員のわがままを聞けば自分のビジョンに近づく。社員の希望をサポートするほうが効率的
そのような考えを持つようになった経緯や、個人的なエピソードを教えていただけますか?
だから、2005年に離職率が28%になったとき、「どうしたら辞めないで残ってもらえますか?」と社員に聞いて、可能な範囲で実現していきました。
すると、みんなのモチベーションが上がって、多様な人材が集まり、新しいアイデアが生まれるようになったんです。社員のわがままを聞いていったら、自分のビジョン、夢が近づくんだと確信しました。
たくさんの社員が不満を抱いて会社を辞めていくような状況で、みんなの意見を聞くのは勇気がいることだと思います。どうしてそれができたのでしょうか。
会社が最悪の状況になり、自分には経営者としての才能も実力もないことがわかりました。人生に絶望し、消えてなくなりたいという気持ちでした。
私は自分に真剣さが欠けていることに気付きました。「これからは命をかけて仕事に取り組もう。残りの人生はこんなバカな自分についてきてくれるみんなに捧げよう」。そう考えました。
一度人生をあきらめたのですから、みんなに何を言われても怖くない、と思うことができたんです。
社員一人ひとりのライフプランが達成できるかどうかがいちばん人生の満足度に響きますから。
日本社会では個人よりも集団が優先されがち。でも、変わらざるを得ない時がきている
組織と個人の間にひずみが生じた場合、一般的に西洋では個人が優先されますが、東洋では集団のほうが優先されると聞いています。
個人と組織の関係性についてどう考えていますか。
「会社の方針に従う」「会社に迷惑をかけてはいけない」とよく言います。でも、「会社」という人は実在しません。
方針を決めるのは経営者で、迷惑がかかるとは、同僚に負荷がかかる、ということ。
安定したモデルではあるのですが、日本にはこういう会社がたくさんあるがゆえに、社会の仕組みがなかなか変わらなかった。
(*2)固定的な階層に基づく、ヒエラルキー型の組織。役割が厳格に分けられ、上意下達で業務の執行が行われる。『ティール組織』では時代とともに進化してきた組織形態を色に例えて定義している。ティール組織に関する記事はこちら
「アンバー型」の組織を次のステージに進めないと、企業として存続が難しくなる。そう多くの経営者が気づき始めています。
「赤字になろうがどうでもいい」と「神様」に言われたから、オフィスの移転を決めた
経営者として判断する際は、何を軸にしていますか?
と、口では言うのは簡単ですが、実際は結構大変で(笑)。
ひとつ例を紹介しましょう。サイボウズは2015年に東京オフィスを日本橋へ移転したのですが、じつは日本橋オフィスの賃料を初めて見た時は「これはないな」と思ったんです。「高過ぎる。赤字になってしまう」と。
そうしたら、上からチームワークの神様が降りてきて、わたしに語りかけてきたんですね。
それで日本橋への移転を決めました(笑)
もう少し真面目に言いますと、組織を経営していると、自分の視点よりももう一段視座の高い「メタの視点」が必要になることがあります。「この状況に対して、神様だったらなんて言うだろう?」というように、視点を切り替えないとならないときがあるんです。
「神様だったら今の社会の状況を見て、どんな判断を下すのかな」と想像する感じですね。
たとえば各事業部の発表でも、単なる数字の発表だけだと、だれも参加してくれなくなります(笑)。
プロジェクトメンバーの引き抜きも自由なので、結果パワーのあるところに人が集まるようになります。
動物の群れが大陸を大移動するなかで意思決定するようなイメージです。
情報はオープンにしたほうが圧倒的に効率的。アホなのはばれるけど
従来のリーダーシップ観から一歩踏み出すにはどうしたらいいのでしょうか?
ここまでするのは、全部情報が明らかになったほうが効率的だから。
これは従来型のリーダーシップをとってきた人にもわかるはずだと思うので、そこから始めたらいいのではないかと思います。
でも、上田さんがおっしゃるように実際、効率がいいんですよね。
サイボウズの経営会議はだれでも参加可能ですし、議事録も公開しています。すると、すぐにフィードバックをもらえるから、経営者としては精度の高い戦略を、短期間で考えられるわけです。経営効率が格段に上がるんですよね。自分がアホなところもばれますが(笑)。
思っていることがあるのなら、少しでも安心できる人とシェアし、徐々にその輪を広げていけばいずれは大きな変化になるのではないかと思います。
どうせ辞めるのなら、やりたいことをやったら? 最悪失敗しても辞めろと言われるだけだし
たとえば青野さんが実践していたように、周囲に語りかけて、本音を聞いてみる。その際、自分としても仮面を脱いでさらけ出すことで、少しずつ周囲の関係性を変えることができると思います。
これは大きなシステムの中で、小さな実験をやっているようなものです。システムは強固で、「実験」はとても壊れやすいものですから、簡単に潰されてしまいます。
それでも、その実験を通して、視点が変わったという人が出てくるかもしれません。組織のあちこちで実験されるようになれば、いずれ大きく変わるかもしれない。大きなアリ塚も、小さな穴がたくさん穿たれれば、やがてガラガラと崩れます。
プランBがないと、「キャリアに支障が出たら生活が成り立たなくなるのではないか」と怖気づいてしまうでしょう。でも、プランBがあれば、リスクをとることができます。
それから、「会社をもう辞めたい、これ以上我慢できない」という人に伝えたいのは、「辞める気があるのなら、辞める前に会社の中でやりたいことをやったら?」ということ。
結果失敗しても、最悪「辞めてください」と言われるだけです。もう辞めると決めているならいいじゃないですか。
辞めてもいいんだ、という考えを持つことで、ポジティブに、アグレッシブに組織に提案できる、というのは、大きなヒントですね。
挑戦すればいろいろな経験ができます。そして、その次に自分に合った職に就ける確率も高くなるはずです。
あなたを通して生きることを望む、人生、目的、命に耳を澄ませてください。今あなたが感じている欲求不満ややるせなさは、ある目的があなたを通して実現を望んでいるというしるしだからです。
いつかやってくる大きな仕事のために、自分を磨き上げておかなければならない
小説を執筆していてアイデアが降りてこなくなり、執筆が止まってしまったとき、彼女は休憩をとるそうです。そして、ベッドルームに戻ってセクシーな服に着替えるのだといいます。
アイデアにとって自分がセクシーな存在でないとアイデアが降りてきてくれないんだそうです。
この世界の中には成し遂げられるべき重要な仕事があります。そして、その仕事はわたしたちが受け止める準備ができるのを待っています。
準備が整ったら、仕事たちはこちらに降りてきてくれます。でも、わたしたちがオープンで受け止める準備をしない限り、降りては来られないのです。
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執筆
撮影・イラスト
高橋団
2019年に新卒でサイボウズに入社。サイボウズ式初の新人編集部員。神奈川出身。大学では学生記者として活動。スポーツとチームワークに興味があります。複業でスポーツを中心に写真を撮っています。