大きくなった組織でもスピード感がほしい。でも一人ひとりとも向き合いたい──フローレンス代表がサイボウズの経営者に相談した

先日、認定NPO法人フローレンス代表理事の駒崎弘樹さんが、サイボウズ代表取締役社長 青野慶久の1日カバン持ちにやってきました。
「大きくなった組織でも、スピード感をもって事業を進めたいと思っています。ただ、一人ひとりに向き合うことも大事だと思っていて......」
そうした悩みを解決するヒントを得るべく青野の1日に密着する駒崎さん。社長・副社長とのランチミーティングを経て、悩みは解決されたのでしょうか?
事業は、本当に社会を変えられるコア部分に絞る



今日はカバン持ちとして勉強させていただくので、ちゃんとした身なりで臨もうと。



フローレンスは、有名な病児保育に加え、さまざまな保育施設運営も手がけていますよね。サイボウズはグループウェアを中心としたシンプルな事業だけど、駒崎さんたちの場合は多岐にわたっています。

そのため自分で持っているプロジェクトの7割くらいは新規事業になってしまい、多すぎたなと反省しています。

駒崎弘樹(こまざき・ひろき)。認定NPO法人フローレンス代表理事。子育てと仕事の両立、そして自己実現のすべてに誰もが挑戦できる社会をつくりたいという考えのもと、2004年に認定NPO法人フローレンスを立ち上げる。自身も一男一女の父。著書に『「社会を変える」を仕事にする 社会起業家という生き方』(英治出版)、『働き方革命』(ちくま新書)など



同時に、本当に社会を変えられるようなコア部分に絞っていきたい。短期的には社会に与える影響のスピードが遅いように見えるかもしれないけど、コアの部分だけで勝負していけば、めちゃめちゃレバレッジが効きますから。

青野慶久(あおの・よしひさ)。1971年生まれ。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立。2005年4月には代表取締役社長に就任(現任)。社内のワークスタイル変革を行い、2011年からは、事業のクラウド化を推進。著書に、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない』(PHP研究所)など

コアな部分に集中してレバレッジを効かせ、影響範囲を広げていく。そんな決断も必要なんだと思います。
人数が増えたら全員と話すのは無理。一網打尽でやりとりし、熱量をもって語り続ける

加えて「コミュニケーションのやり方を変える」という方法もありますよね。
僕たちの場合は、社員の人数が多くなるにつれてまずは「一網打尽にコミュニケーションを図る」ようにしてきました。
山田理(やまだ・おさむ)。サイボウズ 取締役副社長 兼 サイボウズUS(Kintone Corporation)社長。1992年日本興業銀行入行。2000年にサイボウズへ転職し、責任者として財務、人事および法務部門を担当し、同社の人事制度・教育研修制度の構築を手がける。2014年からグローバルへの事業拡大を企図し、米国現地法人立ち上げのためサンフランシスコに赴任し、現在に至る。初の著書『最軽量のマネジメント』を11月7日に上梓




駒崎さんがやるべきなのは、熱量を発揮していくことだと思うんですよね。とにかく熱く(理想を)語り続けて、共感してくれる人を集める。その中でも「辞めてほしくない人」を見極めておく。


それでも「とにかくあなたと一緒に仕事がやりたい、会社をこんなふうにしたい」と語りかけて、その人がもっといい人を呼んでくるサイクルをつくっておく。経営のキャパシティを広げるためには、これが必要だと思います。




距離感が近い人は自分の話を積極的に聞いてくれるのでいいんですが、遠い人に対しては他の「馬が合いそうな人」にコミュニケーションを任せることもあります。
「僕はAさんとは馬が合わないから、馬が合いそうなBさんに任せよう」といった感じです。




駒崎さんが1人で担っていることを分解して、役割分担をしながら組織と向き合っていけると思います。
給与は「適当に決めます」と宣言している

同時に「ちょっと難しいなぁ」と思うのが評価です。マネジャーって、メンバーみんなを見ているからこそ評価できる面があるじゃないですか。



なぜそれができるかというと、僕たちは給与を「市場価値」で決めているので、ある意味では日々の仕事を全部見ておく必要がないんですよ。
ランチの時間なのに給与評価について真面目に話し始めました

そもそも、採用するときにも給与を決めているけど、その面接って「30分を何回」程度じゃないですか。


とはいえ昇給などもあるわけですから、ちゃんとした決定の場はあるんですよね?



あとは「どんな仕事や働き方をしたいか」を聞きます。そうすると、人によってほしいものは違うことが見えてくるんです。


もちろん1つはお金の分配なんですが、もう1つはフィードバックだと思うんですよ。
どうすればもっと成長できるのかに対してちゃんとフィードバックがあれば「自分を見てくれている」と感じる。うまくいったときには賞賛されて、承認欲求が満たされる。


本人としては、本当は失敗してアドバイスをもらいたいのに、これで給料を下げられると困るから、「いかにそれが自分のせいではないか」とか「いかに自分は頑張っているか」といったことばかり熱弁してしまう(笑)。


「お金」と「成長のためのフィードバック」を分けたほうがコミュニケーションしやすいし、納得しやすくなるんじゃないでしょうか。
終始メモの手が止まらない駒崎さん
お金は報酬の一部でしかない。給与以外の引き出しをどれだけ持っているか

大企業と比べて「私は市場よりも低いからもっと上げてほしい」と思う人もいるだろうなと。




給与テーブルに乗った瞬間に「なんであの人が自分より上なんだ?」って感じてしまうと思うので。

「駒崎さんと働ける」という報酬もあるし、「こんな仕事や事業ができる」という報酬もある。与えられる裁量や身につけられるスキルもそうですね。
「報酬の中でお金は一部でしかない」という前提のもとに、いかに他の報酬ラインアップを増やせるか。

でも彼らは、給与以外の別の報酬を求めて来ているわけで。


市場での独特さという意味では、フローレンスさんも同じだと思います。





うん、決めました。これまでの常識で続けていた評価をフローレンスらしい考え方に変えていきます!
そして翌日からは……

今回の「カバン持ち」での気づきを、さっそく取り入れてくださっているようです!(駒崎さんのFacebook投稿より)
1日インターン当日の様子はこちらをご覧ください!
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執筆

多田 慎介
1983年、石川県金沢市生まれ。求人広告代理店、編集プロダクションを経て2015年よりフリーランス。個人の働き方やキャリア形成、教育、企業の採用コンテンツなど、いろいろなテーマで執筆中。
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