社内の議論は「顧客に喜んでもらうこと」ファーストですか? 元Netflix人事責任者は「社員を子ども扱いしない」で成果を出した
組織における人材マネジメントの難しさは、誰もが知るところです。考え方もやり方も異なる人間が集まる環境では、リーダーは日々、火消しに走りまわることが珍しくありません。
「誰もが望むハイパフォーマンスなチームを築くには、優れたコミュニケーション能力と共感力、そして正直で誠実なリーダーシップが不可欠だ」と話すのは、パティ・マッコードさんです。
マッコードさんは、Netflixのチーフ・タレント・オフィサーを14年間務め、有名なNetflixの企業文化や社員の行動指針を定めた文書「Culture Deck(カルチャーデッキ)」の作成を通して、同社の企業文化の醸成に大きく貢献しました。サイボウズの人事本部長である中根弓佳と対談し、透明性のあるリーダーシップ、また人材を“一人前の大人”として扱うことの大切さを語ってくれました。
※この記事は、Kintopia掲載記事What Every Leader Can Learn from Netflix's High-Performing Company Cultureの抄訳です。
リーダーが体現することで、企業文化はつくられる
Netflixの企業文化や社員の行動指針を定めた「Culture Deck(カルチャーデッキ)」と呼ぶ文書の初期版をつくるのに、10年かかったんですよ。
リーダーは「文化をつくることはプロセスであり、そこに終わりはない」ということを認識しなければいけません。
「オープンで正直な文化にしよう」と声高に叫んでも、トップの人間が秘密主義のままでは、従業員にすぐに伝わりますから。
会社をどう定義するのであれ、リーダー自身が、その文化を日々体現する必要があるんです。
リーダーは、その文化をどのようにして創っていけばよいのでしょうか?
リーダー自身が議論をオープンに行うこと。正直かつオープンに反対意見を交わしながら、コミットし合う姿を見ることで、従業員は背中を押されます。
また、重要な情報が共有されていないことがわかったなら、お互いに指摘し合うことです。人は良いニュースだけを報告したがりますが、悪いニュースを伝えたときのほうが、人があなたに寄せる信頼は高まるんですよ。
リーダーは、職場にいる全員が一人前の大人で、誰もが良い成果を出したがっていることを信じて疑わないことです。子どもと働いているわけではないのです。これが基盤にあることで、人を管理する方法が変わってきます。
私心ではなくファクトに基づいて、”顧客を喜ばせるか”を基準に議論する
社内で行われる議論のすべては、最終的には「顧客を喜ばせることにつながるか」を指針にするべきなんです。
また、私心(自分の利益ばかり考えること)を忘れることで、良い議論が生まれます。両者間に尊敬の念があり、お互いがビジネスにとって最適な解決策を求めているのなら、意見がぶつかったっていいんです。
わたしは人事部に、「Netflixはサービス会社です」と口を酸っぱくして言っていました。わたしたちのサービスの対象は、従業員ではありません。サイボウズのように、顧客のチームワークと効率を支援する企業には特に当てはまりますね。
自己中心的に振る舞う人がいたら、間に入って「あなたのしていることは、顧客のチームワーク強化につながりますか?」と問いかけましょう。こうしたフィードバックがチームワークの鍵を握り、その実践はまず社内から始まるんです。
フィードバックは成長の糧。リーダーは良く聞き、従業員は視野を広く持つ
1. あなたがマネージャーなら、どんな決断をしますか?
2. 良い意思決定をするために、どんな情報が欲しいですか?
特に2つ目の質問は、従業員が会社のビジネス全体を考えるきっかけになります。視野を広く持つことで、個人的な感情をわきに置くことができるんです。
長い歳月を要するかもしれませんが、人は徐々に「フィードバックは人を傷つけるためのものではなく、人を成長させるためのもの」だということに気がつくでしょう。
誰にも有効な方法ですが、特にわたしがマネージャー相手に使っていたテクニックがあります。
相手の話を聞いて「この人は何もわかってないし、考えが足りない!」と思ったなら、「そんなはずはない」と自分を説得してみてください。彼らはみんな賢い大人で、役目を果たすためにここにいることを思い出しましょう。
これができるようになると、相手に不満を感じるより先に、彼らの考えを理解しようとすることが習慣になるはずです。
良い聞き手であるために、いますぐにでも実践できる簡単なコツがあるんですよ。
誰かの意見に対して、「いや、君より頭がいいわたしはこう思う」と相手をさえぎるのではなく、部下の意見を反復すること。「君はこっちのやり方のほうがいいと思うんだね?」と。これだけで、意見をきちんと聞いていることが相手に伝わります。
組織の足並みをそろえるため、「会社にとって重要な取り組み」をあらゆる層に聞いてまわった
(*)サイボウズでは「問題解決メソッド」と呼ぶ手法を使って、問題を事実と解釈に分けて議論をします。
議論が物議をかもすようなテーマなら、従業員をグループにわけて、各グループの意見や情報が上に吸い上げられる仕組みを設けるんです。
情報が組織全体にまわり、それがまた心臓に戻ってくるため、わたしはこれを「コミュニケーションの鼓動」と呼んでいます。
また、従業員に何かを伝えるときは、常にその会話の目的を考えましょう。大きなアイデアを全社的に発信するなら、明瞭な言葉を使い、それが会社のDNAになるまで同じ言葉を継続的に伝えるんです。
会社の異なるレベルで違う答えが返ってくるということは、コミュニケーションに何らか問題があるということです。
マネージャーには、部下に伝えたいことがきちんと伝わっているか、また伝えるために適切な手段を用いているかを念を押して確認していました。
メンバーへの期待値は高く。月並みを求めれば月並みが返ってくる
Netflixにとってのハイパフォーマーは、「会社の来年の優先事項を達成できる高能力のチーム」でした。わたしたちの業界では、1年以上先の計画は架空でしかなく、意味がないからです。
従業員には、ビジネスやチーム、製品が今後どう変わっていくのかを正直かつ率直に伝えていました。情報がちゃんと伝わっていれば、誰も不意打ちを食らうことはありません。
成果を上げる素晴らしいチームをつくることが、その誇りにつながります。そのためには、正直でオープンな企業文化が必須条件なんです。
するとコーチは、「これはプロのバスケットボールチームです。終わりがあることは、みんな百も承知ですよ」と、何のためらいもなく返答しました。
25歳のスポーツ選手とは現実をありのままに話せるのに、会社で働く45歳の大人相手にそれができないのはなぜでしょう?
スポーツ選手の姿勢から、キャリアは「あらゆるステージで、貴重な経験を少しでも多く積んでいく旅」のようなものだということを学んだんです。
月並みを求めれば、月並みが返ってきます。卓越性を求めれば、月並みな人材でさえも、その成果であなたを驚かせてくれるはずです。
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執筆
撮影・イラスト
高橋団
2019年に新卒でサイボウズに入社。サイボウズ式初の新人編集部員。神奈川出身。大学では学生記者として活動。スポーツとチームワークに興味があります。複業でスポーツを中心に写真を撮っています。
編集
三橋ゆか里
IT関連の話題をビジネス誌や女性誌などで執筆。BBC(英国放送協会)などで日本文化について発信し、2018年にイギリスで本を出版。海外の子育てネタを扱うポッドキャスト「HearMama」を配信中。ロサンゼルス在住。