どうする? 在宅勤務
「在宅勤務でメンバーの動きが見えない」は、リモートワークをいいわけにしているだけです──キャスター石倉秀明×Goodpatch Anywhere齋藤恵太

「会社で顔を合わせないと、メンバーが自発的に貢献したくなるチームになるのは難しい」
新型コロナウイルス感染症の影響でリモートワークを実践して、こう感じている人も少なからずいるのではないでしょうか。
「リモートワークをいいわけにしていないか?」
こう問いかけるのは、株式会社キャスター取締役COO 石倉秀明さんと株式会社グッドパッチのフルリモートデザインチーム「Goodpatch Anywhere(以下、Anywhere)」事業責任者 齋藤恵太さん。
約700名のメンバーが全員リモートワークで働くキャスター。そして「勤務地は、Slack」と掲げ、100名近くのメンバー全員がフルリモートワークで働くAnywhere。2社のリモートワークの勘所をお聞きしました。
当初、取材は対面で行われる予定でしたが、新型コロナウイルスの感染拡大リスクを考慮し、急遽オンラインで行いました。
リモートワークをいいわけにしていないか?




もちろん事業や組織における課題はありますが、それはリモートワークに起因するものではないんですよ。

石倉秀明(いしくら・ひであき)さん。「リモートワークを当たり前にする」をミッションに掲げる株式会社キャスター取締役COO・株式会社bosyu代表取締役。Goodpatch Anywhereでは、立ち上げ期からリモートワークの専門家としてアドバイザーを務める。最大の関心ごとは「働き方」


でも基本的には、リアルオフィスに出勤した状態での関わり方と変わりません。


齋藤恵太(さいとう・けいた)さん。「デザインの力を証明する」をミッションに掲げる、株式会社グッドパッチのサービスデザイナー。2018年からグッドパッチ内の新規事業として、フルリモートチームによるデザインを提供するGoodpatch Anywhereを立ち上げ。事業責任者を務める

それらは、リモートワークのせいで課題が生まれたのではなく、リアルオフィスでも存在していたはず。
課題がリモートワークによって増幅されて露呈しただけです。つまり、可視化されていなかった課題に気づくきっかけになります。



オフラインでの密なコミュニーケションを大切しなければクライアントにデザイナーとしての価値提供をするのが難しいと思い込んでいたんです。
そんなときに、社内で完全フルリモート体制のAnywhereを立ち上げる話が出ました。「自分の思い込みを壊せるかもしれない」、そう思って責任者に立候補したんです。


その結果、「オフラインでなければ時間が掛かりすぎてしまう」と思っていたクライアントの課題整理や、チーム内でのアイデア出しを、オンラインでも問題なく実現できたんです。



デジタルホワイトボードツール「miro」の使用画面




デジタルツールでも、お互いの気配を感じたり、相手の動きが見えたりすると、オンラインでもオフラインと似た感覚で会話しやすくなり、言葉の意味以上の情報まで含めたコミュニケーションがしやすくなるんです。
たとえばmiroは、会議に参加している人のそれぞれのカーソルが、画面上のどこにあるか見えます。「ここに集まって」と言ったらみんなのカーソルが集まってくるので、誰がどこを見ているのかがわかりやすいんです。


デジタルであれば会議の参加者が100人以上いたとしても、同じものを見て作業できる。リアルタイムで取り扱える情報が増え、コミュニケーションの量も増やしやすいと感じます。
心理的安全性は、誰かから与えられるものではない

とはいえやっぱり、直接顔を合わせていないといいチームをつくるのは難しくないですか?



会社もチームも、個人の集合体であって、実態はないじゃないですか。
マネジメント側だけで考えてもいいチームにはならない。メンバー全員が集合体の一員として、チームを良くしていく責任があると思います。

メンバーが「自分はチームの一員である」と感じられる状態にするには、心理的安全性が重要と言われますよね。
リモートワークで心理的安全性を得るのって、リアルオフィスに出社する環境より難しい気がします。

会社はあくまで個人の集合体なのだから、心理的安全性も上から降ってくるわけではありません。

前提として、Anywhereでは気兼ねなく質問したり提案したりできる関係を心理的安全性のある状態だと考えています。
これは、チームの一人ひとりが努力して獲得するものです。

Goodpatchオフィスで仕事をする齋藤さん。いまではなかなか見られない光景だそう(提供写真)

だからメンバーには、リモートでも心理的安全性を感じられる関係をみんなで築いていきましょう、と伝えています。
雑談はチームを保つ潤滑油になる



私はキャスターから分社化したbosyuの代表でもあるのですが、そこでは業務のやりとりと雑談合わせてメンバー10人で1日合計1500ポストほど投稿がされているんですよ。

bosyuのSlackで行われている雑談の様子。業務とは関係のないやりとりも気軽に行われている(提供画像)


メンバーが「このチームなら何を言っても大丈夫だ」と思えないと、本当に困ったときに発信しづらい。ほかのメンバーからは困っている様子が見えないので、チームの崩壊につながります。




Anywhereで使っているチャットアプリケーション「Discord」。ルーム名に遊び心がある




僕ができるのは、コミュニティへの貢献を重視している会社の姿勢を示すために、委員会活動に対しても仕事と同様の対価をお支払いすることだけなんです。

情報の透明性無しには、速度を上げて組織をスケールできない


給与も財務状況も全員が等しく見られる状態ですし、役員会に誰でも参加できるんです。


でも知っていれば、気になったことに関して意見を言えますよね。

キャスターのオフィスで仕事をする石倉さん。齋藤さん同様この光景はあまり見られないとのこと(提供写真)




情報をオープンにし、メンバーそれぞれが自律して動けなければ、組織として時代の変化に対応できなくなると思います。
Anywhereの給与は時給ベースになっており、勤怠も付けてもらっています。監視する意味ではなく、どの業務にどれくらい時間がかかるのかといった情報を蓄積するためにお願いしているんです。

「自分の可能性を広げられる」と実感できる環境をつくること


「自分がやりたいことを、組織の看板を使って挑戦してもいい」と思えることが、組織に所属する意味につながります。



PC画面の先にいるメンバーと楽しそうに会話をする齋藤さん(提供写真)




「理由はそれぞれ違うけれど、いまここにいる」権利を、会社が邪魔してはいけないと思うんです。
メンバーが求めていないのに無理やり会社がほかのメンバーとの関係構築を働きかけてしまうのって、エゴでしかない。

オフラインで打ち合わせをしている石倉さん(提供写真)


キャスターに在籍している理由は、人それぞれでいい。事実として、いまキャスターに在籍していて、キャスターのなかで自分の役割を果たしてくれていることが重要だと思っています。
メンバーに「もっとうちの会社でこんなことをしたい」「会社にこんな貢献をしたい」と思ってもらえる会社にしていくのは、マネジメント側の役割です。




それぞれにとってAnywhereと関わるちょうどいい濃度がある。メンバーがここにいて楽しいと思えていたら、それが一番いいと思っています。
リモートワークを当たり前にして、働き方の選択肢と可能性を広げる

とはいえ、急にリモートワークを導入することになってマネジメントに不安を感じているチームリーダーもいるかもしれませんね。


だから僕らが経験してきたリモートワークでつまずきがちなポイントを共有し、「リモートワーク、意外と実現できたじゃん」と思ってもらえたら嬉しいです。

お二人はリモートワークが当たり前になった先にどんな未来を思い描いていますか?

僕らの強みは、実験しながら変化を続けられること。強みを活かして新しい領域の仕事に挑戦し、Goodpatchやデザインそのものの可能性を広げたいですね。
それが、僕たちの掲げる「デザインの力を証明する」ということにつながっていくのだと思っています。

リモートワークが浸透すると、場所や家の事情、体調などさまざまな理由で仕事が選びづらかった人にとって、選択肢が増えます。
リモートワークが当たり前になり、個人に合わせた働きかたが増え、豊かな生活を送れる人が多い社会になってほしい。
そのためにやれることを模索し続けたいと思っています。
企画・執筆:菊池百合子 撮影:川島彩水 編集:木村和博(インクワイア)
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