どうする? 在宅勤務
在宅勤務というボクの働き方は本当に「仕方ないね」だったのか?──いまこそ考えたい「働き方少数派」の気持ち
地方でNPO法人を運営しながら、サイボウズで副(複)業している竹内義晴が、実践者の目線で語る本シリーズ。今回のテーマは「マイノリティ(少数派)との関わり方」。
「コミュニケーションが難しい」「さみしい」――在宅勤務・テレワークが一気に広まったいま、多くの人が感じた在宅勤務の課題。だが、これらは「いま、はじまった」わけではなく、以前から、在宅勤務者の多くが抱えていた課題だ。
多くの人が経験すると課題は表面化する。だが、マイノリティ(少数派)の時は、悩みはなかなか理解されない。在宅勤務が広まったいま、改めて「マイノリティとの関わり方」を考える。
在宅勤務、ごきげんいかが?
在宅勤務・テレワークが強いられて数か月。多くの人が大変なご苦労をされたのではないかと思う。ツラいことはなかっただろうか? ごきげんはいかがだろうか?
もし、あなたが、今回はじめて在宅勤務を体験したなら、こんな悩みやストレスを抱えたのではないか?
- 仕事のコミュニケーションがオンラインだけだと難しい
- テキストでのやりとり、言い方にいちいち悩む
- 「ちょっと聞きたい」ができなくて仕事がはかどらない
- オンライン会議が1日に何本も。正直疲れる
- 請求書とか領収書とか、紙面の手続きがめんどくさい
- 慣れない椅子で腰が痛い
- モニターやキーボードがないと疲れる
- 体がなまる。運動不足になる
- 仕事をしているのに、家族から「ちょっと手伝ってよ」と言われる
- 子どもがうるさくて仕事に集中できない
- 電気代がかかる
- 食費がかかる
- さみしい
そして、こうも思っただろう。
- 外に出たい
- (意外と)会社に行きたい
- くだらない雑談がしたい
- ランチ行きたい
- 飲みに行きたい
- 人が恋しい
もちろん、「在宅勤務、意外と快適だったよ」「むしろ、会社よりも集中できていいかも」と感じた人もいるだろう。でも、何かしら「大変だったなー」と感じた人も多かったのではないかと思う。
今回、多くの人が体験することによって明らかになった在宅勤務の悩みごと。わたしにとっては、「いま、はじまった」わけではなかった。
わたしは2017年5月からサイボウズで仕事を始めた。そのはたらき方は「週2日の在宅勤務」。新潟の自宅からの「フルリモート」。しかも、本業がある傍らサイボウズでもはたらく「複業」という働き方。
サイボウズで複業をはじめるずいぶん前から、私はフリーランスのような形で在宅勤務をしてきた。だから、自宅で仕事をするのは慣れていると思っていた。だが、組織に所属する形での在宅勤務は、フリーランスで仕事をする働き方とはかなり違い、戸惑うことも多かった。
在宅勤務だから、仕方ないね
冒頭に挙げたような在宅勤務の悩みは、サイボウズ社内で積極的に開示してきた。でも、誤解を恐れず正直な気持ちを話せば、この3年間、理解されないことも少なくなかった。
たとえば、Web会議。今回、多くの人が体験したWeb会議は、それぞれが自宅から接続する「フラットな感じ」だったのではないだろうか。
会話は意外とスムーズで、「これなら、通常の業務でも全然問題ないな」と感じた人も多いはずだ。むしろ、立場や役職が関係ない感じで、「リアルオフィスよりも話しやすいんじゃないか」と思った人もいるかもしれない。
だが、1人だけが在宅勤務で、ほかのメンバーがオフィスにいる「1対n」のWeb会議の場合、オフィスで行われている会話の中に、リモートで接続している側から声を発していくのは難しく、会話に入りづらい。
また、在宅勤務の場合、ネット環境や、業務に使う電気代は基本、自腹だ。以前、在宅勤務者同士で雑談したとき、「ネット環境や電気代、どうしてる?」という話が出たこともある。けれども、その場の答えは「まぁ、仕方がないね」だった。
さらに、冒頭でもふれたように在宅勤務は意外とさみしい。そして、人恋しくなる。たまには、みんなといっしょに話したいし、飲みに行きたい。いまでこそ「オンライン飲み会」が盛んだか、いまのような「みんなが在宅勤務」になる前は、そのような話題になることはなく「まぁ、仕方がないね」だった。
逆に、飲み会にオンラインで接続することで、孤独感を感じることもあった。サイボウズではかつてより、花見や創業記念日をはじめ、全社でイベントをするときは、オフィス以外からもつながれるようにオンラインで同時中継する。
だが、オフィスではビールを飲みながらみんなで盛り上がっているのに、こっちは1人。画面越しにその状況を眺めるさみしさといったら、ない。
もっとも、そうなってしまうのも理解できる。なぜなら、多くの人は「フルタイム在宅勤務」という働き方をしたことがないのだから。そして、「まぁ、仕方がないね。だって、在宅勤務は自分で選んだ働き方なのだから」「こういう状況でも、働かせてもらっているのだから」と、自分の中で処理する術(すべ)を覚えるのであった。
少数派が多数派になると物ごとは一気に動く
だが、みんなが在宅勤務をするようになって、状況が変わってきた。
たとえば、毎年オフィスで行われてきた「お花見」は、今年はオンラインで開催された。希望者には「お花見セット」が自宅に届けられた。
また、出勤停止に伴い、通勤手当の支給が停止された代わりに、在宅勤務の経費補助として正社員、契約社員、アルバイトに関わらず電気代の手当が支給されるようになった。
さらに、「家の机では仕事がしづらい」「家庭用の椅子では腰が痛くなる」「照明が暗くて目が疲れる」などの社員からの声を受けて、机や椅子、照明等の購入するための補助3万円が支給された。
社員のわたしが言うのもおかしいかもしれないが、「いい会社だな」と思う。わたしは複業で、社外でも仕事をしている。だから、社会の厳しさも知っている。その立場からあえて言うよ。「こんな会社、なかなかないよ」と。
一方で、こうも思ったのだ。「だけど、これらの在宅勤務の課題は、いま、はじまったわけじゃないんだけどな。ボクは3年間、ずっと抱えてきたんだけどな」と。
「困っています!」が少数のときは、なかなか理解してもらえない。でも、「困っています!」が大多数になると事態は一気に変わり、変化のスピードは圧倒的に早くなる。
これは、多くの人が在宅勤務を体験してくれたおかげで、「在宅勤務の困りごとを理解してくれる人が増えた」ということだ。とてもうれしいことである。「これからは仕事がやりやすくなるな!」という期待もある。
だけど、今回のような変化は「強制在宅勤務」という非常事態があったから起こったわけで、もし、非常事態が起こらなければ、ひょっとしたらいまも「まぁ、仕方がないね」だったのかもしれない。
そこで、思ったのだ。「今回のような非常時や、大多数がそうであるときだけではなく、普段から少数派の意見にも耳を傾けてくれるといいな」と。
在宅勤務の話だけではない。世の中には多くの「少数派の人たち」がいるのだから。
少数派の人たちもはたらきやすい、本当の「多様な個性の尊重」とは
こういった、「少数派の人たち」が働きやすい環境は、どうしたら実現できるのだろうか。
サイボウズで大切にしている価値観に「多様な個性の尊重」がある。「100人100通りの働き方」も、その1つだ。
一般的に「多様な個性」といえば、性格や得手不得手、価値観といった、それぞれの人が持つ「個性」を示すのではないかと思う。個性には性別や国籍などといったものも含まれるだろう。
だが、今回の経験を通じて思うのは、「多様な個性」には、それぞれの人が置かれている「環境」も含まれるのではないか……ということだ。
たとえば、「在宅勤務」と一言で表現したとき、その中には「自分の好きなところで仕事がしたい」「場所や時間の制約を受けたくない」のように、自ら望んではじめる人もいるだろう。
一方で「親の介護」や「パートナーの転勤」など、その環境を選びたくて選んだわけではない人もいるだろうし、「子どもの世話をしながら働かないといけない」人もいる。また、身体的に、あるいは精神的に、自分の意思とは関係なく「そうせざるを得ない」人もいる。
こういった、「そうせざるを得ない」人たちの多くは少数派で、それぞれの事情があるがゆえに、「この環境の中でも働かせていただいている」という気持ちが強く働く。そのため、なかなか本音は言いづらい。
だが、当事者でないと、その事情がよくわからずに、「それは、仕方がないですね」と言ってしまうことが少なくないのではないか?
だからといって、「すべての意見に耳を傾けろ」などと、乱暴なことを言いたいわけではない。少数派の意見を「全部聞いてほしい」「受け入れてほしい」なんて、全然思っていないし、思わない。人とは異なる環境で仕事ができるだけで、本当にありがたい。
それでも、勇気を出して声を上げたとき、耳を傾けてもらえるだけでうれしいし、少数派が「特別」でなくなるといいなと思うのだ。
最後に――
これからもうしばらく続くであろう在宅勤務やテレワーク。みなさんお疲れ様です。また、さまざまなお立場で、それぞれの課題を抱えている方もたくさんいらっしゃるのではないかと思います。
なんとなく思うのですが、今回のできごとは、今までマジョリティだった人たちが、それぞれの環境の中で一斉にマイノリティになったんだと思います。そりゃあ、大変ですよね。1日も早く、またみんなで集えるといいですね。ランチに行ったり、飲みに行ったりできるといいですね。
そして、いままでの「特殊」で「少数派」だった働き方が、「誰でも」「いつでも」できるようになり、それぞれの事情にあった「多様な個性が尊重」された働き方ができること……今回の非常事態は、その「変化の入り口」に思えてしかたがありません。
執筆・竹内義晴/イラスト・マツナガエイコ
SNSシェア
執筆
竹内 義晴
サイボウズ式編集部員。マーケティング本部 ブランディング部/ソーシャルデザインラボ所属。新潟でNPO法人しごとのみらいを経営しながらサイボウズで複業しています。
撮影・イラスト
松永 映子
イラストレーター、Webデザイナー。サイボウズ式ブロガーズコラム/長くはたらく、地方で(一部)挿絵担当。登山大好き。記事やコンテンツに合うイラストを提案していくスタイルが得意。