ブロガーズ・コラム
会社内の「無駄な頑張り」はどうすればやめられるのか?
よく「日本企業の生産性は低い」と言われます。生産性が低いということは、仕事の中に成果には無関係な無駄が多く含まれているということです。実際、多くの職場では「無駄な頑張り」としか思えないような業務がそのまま放置され続けています。
たとえば、ほとんど何も決まらないのに時間だけが浪費される定例会議や、稟議で承認を得るための形式的なスタンプラリー、メールや電話だけで済ませられる用件なのに「とりあえず会ってご挨拶させていただく」ことを良しとする慣習などは、多くの日本企業にはびこる「無駄な頑張り」の典型だと僕は思います。これらを改善しようという動きは一部の企業で見られるものの、まだまだこういった無駄を廃止できずにいる企業は少なくありません。
これらの業務や慣習は、僕がわざわざ指摘するまでもなく、多くの人が実際には「無駄だと気づいている」ものでもあります。問題なのは、そうやって無駄であることには誰もが薄々気づきながらも、業務自体は未だに廃止されずに存続してしまっていることです。このことは、無駄であると気づくだけでは、組織から無駄な業務はなくならないという、とても大事なことを意味しています。
思うに、部外者が「この業務は無駄だ!」と指摘するのはとても簡単です。しかし、そのような指摘だけで無駄が削減されるほど、話は簡単ではありません。組織から本当に「無駄な頑張り」をなくしたいのなら、単に上から目線で無駄を指摘するだけでなく、現場を巻き込み改革を実行させる働きかけが必要になります。
では、具体的にどのようにすれば組織から「無駄な頑張り」をなくすことができるのでしょうか? 今回はこの問題について、僕の過去の体験なども踏まえて考えてみたいと思います。
新卒の時の「無駄な頑張り」
今から約10年ほど前、僕が新卒で入社した会社でのことです。当時、新卒一年目だった僕は完全な下っ端で、いわゆる下働き的な仕事を数多くやらされました。その仕事の中のひとつに「定例会議の議事録を作成する」という仕事がありました。
定例会議に出席していた新卒は僕以外にも何人かいたので、新卒全員が毎週持ち回りでこの仕事をしていたのですが、何度かやってみるうちに、僕はこの仕事の存在意義自体を疑うようになりました。
定例会議は基本的に、事前に用意されている資料を発表者が読み上げるだけです。そして、その資料は会議後に各発表者から共有されます。となると、定例の内容を知りたければ、資料を見るだけで十分足りることになります。それなのに、僕たちはせっせと二重で議事録を作成していました。
まさに「無駄な頑張り」以外の何ものでもないように思えた議事録作成ですが、そう思いつつも、僕は議事録を作成する仕事をやめることができませんでした。新卒の立場で反抗的な態度を取って、職場に居場所がなくなったら大変です。
そんなリスクを取るぐらいなら、無駄でもいいからおとなしく議事録を作成したほうが安全です。同期たちも同じ考えだったようで、結局、議事録作成の仕事は後輩が入ってくるまでずっと続き、さらにそのまま後輩へと引き継がれることになりました。
今になって振り返るとだいぶ情けない話ですが、この経験は僕に、組織で何かをやめさせることの難しさを痛感させるものとなりました。
組織に何かをやめさせるのは思った以上に難しい
自分の立場が危うくなることをおそれて、改善の提案を躊躇してしまうというのは別に新卒に限った話ではありません。基本的に「何かを変えよう」と提案する人間は、日本の組織だと煙たがられることのほうが多いと言えます。特に、その提案が「何かを始めよう」ではなく「何かをやめよう」だった場合、提案者には様々な障害が立ちふさがります。
まず、「何かをやめよう」と提案することは、それを最初に始めた人のメンツを潰すことになると考える人がいます。たとえば、部長の提案で始まった定例会議を、新卒社員が廃止するのは、部長の明示的な許可がない限り難しいと多くの人は思うでしょう。
また、長く続いてきた何かを廃止する場合は、それまで「無駄な頑張り」をしてきた人たちに悪いという気持ちが生まれることもあります。先の議事録作成の例で言えば、それまで一生懸命議事録を作成してきた先輩社員に悪いのではないか、という気持ちが生じる可能性があるということです。
チームリーダーやマネージャーといった上に立つ役割の人ならともかく、一般のメンバーがボトムアップで何かの業務なり制度なりを組織にやめさせるには、少なくともこれらのハードルを超えなければいけません。
中には強い心を持ってやり抜く人もいますが、多くの人は立場が悪くなるリスクを取れずに断念します。会社内の物事の多くは、始めるのは比較的簡単でも、やめるのは非常に難しいという構造を持っているのです。
リーダーは何かを「やめさせる」のも仕事
ボトムアップで組織の中の「無駄な頑張り」を廃止するのが難しい以上、残された道はトップダウンで廃止する以外にはありません。一般のメンバーが自らの立場を危険に晒して「やめませんか」と提案するのに比べれば、リーダーやマネージャーから「この業務は無駄だからやめよう」と提案するのは圧倒的に簡単です。
意外と見落とされがちなのですが、リーダーは何かを「始めさせること」だけでなく、「やめさせる」ことも仕事です。これら二つはほとんど等価値なのですが、新しく何かを「始めさせる」ことばかり考えて、「やめさせる」ほうにはほとんど気が回っていないリーダーは少なくありません。
理想を言えば、何かを新しく始める時には、必ずそれをやめる時のことまでセットで考えるようにすべきです。新しい取り組みの裏には、必ずそれがうまくいかない可能性がつきまといます。うまくいかなかった時にきちんとリーダーがやめることを決断できないと、メンバー側からそれをやめさせるのはかなり大変です。メンバーに無駄なエネルギーを使わせないためにも、リーダーにはきちんと自分の仕事のもう半分もこなして欲しいものです。
「やめる提案」を吸い上げる機会をつくる
とはいえ、リーダー自身が把握できる「無駄な頑張り」には限界もあります。本当にその業務が無駄であるかどうかは、実際にその業務に従事しているメンバーのほうが詳しい場合は多いでしょう。やめる決断自体はトップダウンでするにせよ、その材料となる声はボトムアップで拾えるのがベストです。
そこでおすすめしたいのは、リーダー自らがメンバーに「やめたほうがいい仕事が今チーム内にないか?」と定期的に呼びかけて、メンバーからの「やめる提案」を吸い上げる機会を作るというものです。メンバーから一方的に「やめましょう」と言うのは難しくても、リーダー自らが提案を吸い上げる機会を作ることができれば、メンバーも意見が言いやすくなります。
これは組織改善や生産性向上に役立つだけでなく、チームの心理的安全性を高めることにも繋がります。チーム内に「無駄なことは無駄だと言っていいんだ」という空気を作ることができれば、チーム内の議論の質なども向上することになり、業務効率改善以上の効果があります。
それでもボトムアップで無駄な頑張りをやめさせたいときは?
中にはリーダーにはまったく期待できない、というチームで働いている人もいると思います。そういう場合にチームから「無駄な頑張り」を取り除くためには、ボトムアップでなんとかするしかありません。
たとえば、仮にいま僕が新卒に戻ったとして、定例会議の議事録を作成する仕事をやめさせたいと思ったら、どうすればよいのでしょうか? 今ならこうするという方法を二つほど考えてみました。
まずひとつ目の方法は、リーダーに「なぜ議事録を作成しなければならないか理由を訊いてみる」というものです。資料も別途共有されるのに、二重で議事録を作成する理由は何か? と率直に質問してみて、明確な答えが返ってこなければ「やめます」と宣言してやめてしまいます。これは比較的、正攻法だと思います。
ふたつ目の方法は、勝手に自己判断で議事録を作成するのをやめてしまうというものです。ひとつ目の方法に比べるとやや強引な気がしますが、案外、この方法でも問題は起きないと社会人生活が長くなる中で気づきました。無駄なものはやめても誰も困らないから無駄なのです。そうやって既成事実を作ってしまうというのも、リーダーがあてにならないなら時には必要です。
もちろん、リーダー自身に「何かをやめる」ことの重要性に気づいてもらうのが理想的なのは言うまでもありません。あまりにもリーダーの「無駄な頑張り」信仰が強く、何かをやめることに意識が向かないようであれば、そのような環境に固執すること自体が「無駄な頑張り」になってしまうこともあるでしょう。その時は無理をせずに、異動の希望を出したり、転職したりすることで環境を変えることを考えてもよいと思います。
「無駄な頑張り」を実際になくしていくのは簡単ではないですが、やり方次第では不可能ではありません。今のポジションに応じて、できることからチャレンジしてみていただければ幸いです。
サイボウズ式特集「そのがんばりは、何のため?」
一生懸命がんばることは、ほめられることであっても、責められることではありません。一方で、「報われない努力」があることも事実です。むしろ、「努力しないといけない」という使命感や世間の空気、社内の圧力によって、がんばりすぎている人も多いのではないでしょうか。カイシャや組織で頑張りすぎてしまうあなたへ、一度立ち止まって考えてみませんか。
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執筆
撮影・イラスト
松永 映子
イラストレーター、Webデザイナー。サイボウズ式ブロガーズコラム/長くはたらく、地方で(一部)挿絵担当。登山大好き。記事やコンテンツに合うイラストを提案していくスタイルが得意。