そのがんばりは、何のため?
「まっとうな頑張りを評価して」は意外と生きづらいんです──けんすうさんの「成果が出るズル賢い努力」をサイボウズ青野が聞いた

「努力をする」という言葉は、一般的にポジティブなニュアンスで使われます。一生懸命がんばることは、ほめられることであっても、責められることではありません。
一方で、「報われない努力」があることも事実。むしろ「努力をすべきだ」という使命感や世間の空気、社内の圧力によって、がんばりすぎている人も多いのではないでしょうか。
今回は、自らを「努力できないタイプ」と語り、「努力ができない人の戦略」を取り続けてきたという古川健介(以下、けんすう)さんと、同じく経営者として「がんばらずに済むことをどう増やすか」を考え続けてきたサイボウズ社長の青野慶久が「しなくてもいい努力」について語り合います。
いまさら「努力」程度じゃ差がつかない

けんすうさんは「努力できないタイプ」だと伺いましたが、実際にそうなんですか?


古川健介(ふるかわ・けんすけ)。マンガ情報共有サービスを運営するアル代表取締役。受験情報掲示板「ミルクカフェ」やハウツーサイトの「nanapi」など、学生時代から多くのネット企業や事業を立ち上げてきた連続起業家。通称は「けんすう」





「努力している姿」よりも「成果」が大事でしょ?


そこから「じゃあ、どうすれば点数が取れるだろう」と考えて。


すると、サイトにオススメの参考書や塾講師、次の早稲田の入試問題をつくる教授などの情報がたくさん集まるようになって。



「なんで勉強しないんだ」って怒る人もいそうだけど、「自分でサイトつくるなんてすごい努力家だな」という見方をする人もいそうです。

青野慶久(あおの・よしひさ)。1997年8月、愛媛県松山市でサイボウズを設立し、2005年4月に代表取締役社長に就任(現任)。著書に、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない』(PHP研究所)など

でも、そうやって「がんばり」を誰かに評価してもらおうとすると、たとえ成果が出なくとも自分がとても辛い状況で耐えることになってしまうじゃないですか。
人から見て努力しているかよりも、実際に成果が上がっているかを考えたほうがいいと僕は思っていますね。
「世間的な努力」は、あまりにまっとう

目的の定義づけの話でいえば、会社での昇進はまた難しくなってきます。
大学受験のようにわかりやすく点数で可視化されるわけでもないから、「がんばっている感」をアピールできる無駄な残業をしてしまうのかも。




あと、聞いたことがあるのは、自分の成績よりも上司の成績を上げるほうがいいらしいとか。上司が出世したときに自分の貢献が影響しているから、結果的に自分の評価もついてくるそうで。




いま、世界中でベストセラーになっている『サードドア』(東洋経済新報社)という本が、まさに「抜け道」を示す内容で。
世の中には99%の人が並ぶ正面口の「ファーストドア」、お金やコネを持つVIP専用入り口の「セカンドドア」、そして、誰も知らない抜け道につながる「サードドア」の3つのドアがあるんです。
だから、お金やコネを持たない凡人は、まだ誰も見つけていないサードドアを探すべきですね。


たとえば、上司から資料作成を頼まれたとき、提出が1週間後だと内容についてのハードルが上がりますよね。でも、10分後に提出したら、内容がどうであれ「資料作成が速い」とほめられるんですよ。
僕がリクルートにいたとき、それをやるために資料や図形のテンプレートを用意しておいて、速攻で提出できるようにしていました。

凡人は「掛け合わせ」で「独自性」を生み出す

誰もができる作業は機械に置き換わってしまう。それなら、1日15時間やっても苦じゃないことを探すのがいいのかな、と考えています。

ただ、僕は必ずしも15時間ひとつのことに没頭しなくてもいいと思うんです。
5時間没頭できるものを3つ用意して、その掛け合わせで独自性を出すことも可能じゃないかと。



農業に明るく、最新のクラウドサービスが語れる人は日本で一握りしかいない。だから、その掛け合わせの話になると、必ず彼に声がかかる。
もちろん、イチローみたいに野球一本に専念するのもいいですけど、それはやっぱり一握りの天才肌の人たちのもの。凡人には凡人なりの戦い方もある気がしますね。
新しいことに挑戦するのは、無難な人生を歩むため







いちばんリスクが高いのは、ひとつの会社に勤め続けて、社外で通用しない技術しか得られていない状態でクビになること。
そう考えたら、無難に生きるための最適解は、新しいことに挑戦し続けることだろうと。

起業家ってリスクをとっているように見えるけど、実は優秀な起業家ほど慎重だ、という話があります。

存在しうるリスクをリストアップして対処法までまとめておく。上場企業のリスクマネジメントと近いですね。
なるべく自分の頭では考えずに、賢い人にのっかる




だったら僕が考えるより、賢い人の考えに乗っかったほうがいい! だから、頭がいい人の話はめちゃくちゃ鵜呑みにするんです。



そして、それだけ情報を集めても、必ずどこかに自分で考えるべき余地は生まれます。そこにリソースを寄せたほうがいいなと。


ちなみにこの話をすると、よく「そんなに本を読めません」と言われます。でも、そういう人って、一ページ目から真面目に読みすぎなんですよね。
僕がおすすめしているのは、本を辞書のように使う方法。目次と著者欄に目を通したら、ネットでその本のレビューを熟読する。大体の内容を紙に書いておいて、それを確かめるために本を読むんです。

自分でできたら格好いいけど、全部は無理









僕の場合は、やってみてうまくいかなかったことをポイントから外していく。そして、人に比べて自分がやったほうがいいところだけに集中する。
たとえば、自分で考えることは苦手だけど、人の話を聞いてまとめるのは得意かも、というように。
すべて自分でできたら格好いいですが、まあ無理ですから。しなくてもいい努力を捨てるためには、諦める勇気も必要かもしれませんね。
企画:吉原寿樹(サイボウズ) 執筆:園田もなか 撮影:栃久保誠 編集:野阪拓海(ノオト)
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