失敗を歓迎する心理的安全性は、オンラインでも高められます──「未来のチームの作り方」で情報格差をなくそう
サイボウズ式編集長 藤村が執筆した書籍『未来のチームの作り方』の第2章から一部を公開します。リーダーとして多くの失敗を経験してきた僕が、改めて「チームづくり」と向き合って考えてきたことを記しました。
サイボウズ式編集部のようなチーム作りのポイントは、どんなチームにも生かせると考えています。在宅勤務やテレワークでチームの働き方が多様になる中、チーム作りにつながるヒントをお届けします。
心理的安全性とは「さらけ出す」ことで生まれる
新たにリーダーやマネジャーになった人がチームをつくるときに、何が一番重要なのか。僕は「心理的安全性の確保」だと思うようになりました。Googleが「心理的安全性は成功するチームの構築に最も重要なものである」と発表したことによって大きな注目を集めたので、知っている人も多いでしょう。
「Googleのリサーチチームが発見した、チームの効果性が高いチームに固有の5つの力学のうち、圧倒的に重要なのが心理的安全性です。リサーチ結果によると、心理的安全性の高いチームのメンバーは、Googleからの離職率が低く、他のチームメンバーが発案した多様なアイデアをうまく利用することができ、収益性が高く、『効果的に働く』とマネジャーから評価される機会が2倍多い、という特徴がありました」
『Googlere:Work-ガイド:「効果的なチームとは何か」を知る』より
その心理的安全性とは、不安や恐れを感じることなく、発言や質問ができる環境や関係性のことを意味します。要するに、チームのメンバーそれぞれが、自分自身を「ありのまま」にさらけ出し、それをお互いが受け止め合える状態のことです。
だから、どんな些細なことでも、まずはチームに共有してみる姿勢が大切です。気軽な雑談や思いつきのアイデアに加え、プライベートで思ったことや感じたことでも自分の思考だけにとどめておかず、積極的にチームに共有してみる。そして別のメンバーが何を考えているのかを知るきっかけをつくりだす。こういったチーム環境をつくることに注力しました。
チームメンバーが「ありのまま」になるほど、それによって生まれる多様性は武器になります。そしてチームがそれぞれの多様性を認められれば、メンバーから新しい切り口や視点の違う意見・アイデアが出やすくなります。「みんな違ってみんないいし、それがチーム躍進のカギになる」といった共通認識が育てば、申し分なしです。
サイボウズ式で取材した株式会社コルクの佐渡島庸平さんは、ソーシャルメディアの活用で自分自身を「さらけ出す」ことの大切さを説いていました。アドラー心理学では「他者は、仲間である」という考え方があるそうです。これも「心理的安全性」の担保に多大な力を発揮すると思います。
「アドラー心理学で興味深いことが言われているんですよ。『他者は、仲間である』と認識するのが大事だと。人は他者に対し、基本的には悪意を持っていないし、こちらが悪意を持たなければ、仲間になれる可能性がある、というんですね。(中略)このとき前提にあるのは『自分が変わらなければ相手も変わらない』という考え方。『相手は自分の仲間なんだ』と信頼して、自らを変えていくのが、自分からさらけ出す行為です。ぼく自身、そういったスタンスでSNSを使っていますね」
(社員に求めるのは「会社に◯時間いるか」よりも「Twitterのフォロワー数」―コルク佐渡島庸平さんに聞く、「会社に依存せずに生きる自立心の作り方」より)
一方、心理的安全性が確保されていないチームでは、自分らしく、意見や考えをさらけ出すことは難しくなります。意見を出したとしてもすぐに反対されたり、批判されたりするようなチームでは、闊達なディスカッションが進まないどころか、「どうせ何を言っても反論されるだけなので、自分の意見なんて出さないほうがいいんだ」という気持ちになり、自分という名の檻の中に閉じこもってしまいます。
仕事において自分らしさを出すことは難しいと思われがちですが、リーダーが心理的安全性を担保することで、それは可能になるはずです。サイボウズ式編集部でも、心理的安全性を担保したチーム作りを心がけたところ、メンバーからの発言が増えてチーム内の意見交換が活発になりました。明らかにディスカッションの質も量も改善したのです。
たしかに今でもチームメンバーからもらった意見に対してキツいコメントをしてしまうこともありますが、心理的安全性が担保された場所だからこそ、忌憚なく意見を出し合えます。
僕は編集長なので、サイボウズ式に関するあらゆることを決めて推進していく必要があります。その際に、上司の意見が出てきたとしても、自分の意見をしっかりとぶつけるようにしています。そういったやりとりやリーダーとしての姿勢を通じて、チームメンバーにも編集部の文化や考え方が伝わっていきます。
他者から手厳しい意見をもらったとしても、それを人格否定と捉えていてはディスカッションが進みません。むしろ、どんな意見をもらったとしても、まずはそれを素直に受け取り、「自分以外の第三者の客観的な視点では、こう見えている」と考え、自分の意見をよりハッキリさせるための材料にしたほうがいいでしょう。
メンバー同士が遠慮したり萎縮したりして、意見を出し合えない状態は危険です。チームのためを思って素直な意見を出すのに、上司と部下という関係性も、年次も関係ありません。チームの心理的安全性を確保すれば、きっとチームはいい方向に変わります。切り札は「オンラインコミュニケーション」
では、心理的安全性を生み出すにはどうすればいいか。日ごろから密に接しているチームなら、会社でのコミュニケーションを少しずつ変えて心理的安全性を育むこともできるでしょう。
しかし、僕らサイボウズ式は「個々人の自立した働き方」を推奨した結果、働く時間や場所もバラバラなので、どうしても会ってコミュニケーションをとる機会が少なくなります。そこで僕がたどり着いたのが、チームで「コミュニケーションツール」をフル活用することでした。
コミュニケーションツールとは、オンライン上で意思や情報を伝達するときに使われる、さまざまな種類のサービスのことです。メールはもちろん、さまざまなSNSやフェイスブックメッセンジャー、LINEなどのメッセージツール、グーグルドライブやドロップボックスなどのストレージサービスも含まれます。
さらに最近ではSlackやチャットワークのような仕事でのやりとりに特化した「ビジネスチャット」や社内SNSを導入する会社も増えています。今は多種多様なコミュニケーションツールが溢れる時代でもあり、相手や組織別に何種類ものツールを使い分けている人もいるでしょう。
詳しくは第4章で解説しますが、サイボウズ式では自社製品のグループウェア『kintone(キントーン)』を使って、編集部が円滑に意思や情報を共有できる〝場所〞をつくっています。キントーンは簡単に説明すると、社内SNSのようにやりとりができるコミュニケーションツールです。
心理的安全性の確保が「チームの風土づくり」だとすれば、その風土をつくるにはチームがオープンに使えるツールが不可欠です。風土づくりには個人個人の感情や意見、解釈を伝え、議論することが欠かせないからです。
一方、多くの会社では、今でもメールを使った情報共有がメインになっていると思います。しかし、メールは「情報」の伝達には向いていますが、「人の感情」を大人数に伝えて議論をするには適していません。
もしあなたがチームリーダーの立場であり、チームに心理的安全性をもたらしたいのであれば、ツール選びにもこだわったほうがいい効果を生み出せるはずです。もちろん、社内全部の情報管理システムをすぐに変えるのが難しいのは重々承知のうえですが、まずはあなたのチームから最適なコミュニケーションツールを導入すれば、きっといい影響が生まれると思います。
一昔前は、お互いをさらけ出して、受け止め合う場の役を担っていたのは、お酒の席でした。いわゆる飲みニケーションは、心理的安全性を担保する機会だったはずです。しかし、サイボウズの場合、働く場所や時間がバラバラで、そもそも顔を合わせる機会がほかの会社に比べると多くありません。そのため、オンラインのコミュニケーションによってメンバーとの距離感を補う必要がありました。
こちらのイメージは、サイボウズ式の情報共有の場所です。キントーンの「スペース」という機能を使って、編集部のあらゆる情報をまとめています。
読者の皆さんのチームとサイボウズ式編集部の最も大きな違いは、この、チームが会話を交わす場所を、社員なら〝誰でも〞閲覧できるようにしていることでしょう。チームの活動を閉じたものにせず、とことんオープンにしておくことで、社員の誰もが必要に応じて何かしらのコメントができます。
「部署やチームが違うのに意見を書き込むのは気がひける」と思われてはダメで、むしろ「サイボウズ式編集部の活動が楽しそう。自分も加わりたい」と思ってもらうことが大切です。編集部以外の社員がこのスペースに書き込んでくれるのは大歓迎ですし、たとえ的を射ていない内容だったとしても、自分たちのチームのことを気にかけてくれるだけで、なんとも嬉しい気持ちになります。
少なくとも編集部が単独で活動しているわけではなく、同じ編集部のビジョンに向かって一緒に歩んでくれる社員がいるということがわかります。それだけで、力が湧いてくるものです。チーム内に「情報格差」は絶対につくらない
情報をオープンにすることによって、チームのみんなが等しく情報にアクセスできるようになり、チーム内では情報格差がなくなります。情報が正しく伝われば、メンバーみんながその情報をもとに考え、新しい価値を生み出す一手につながります。
例えば、サイボウズ式のようなメディア運営や編集の仕事の場合、メンバーひとりひとりが企画を考え、記事を編集し、公開していきます。各々の企画や編集の仕方は、 個人のやり方に紐づくところも多いのですが、そのノウハウがチーム内で正しく共有されていれば、チーム全体のメディア運営力につながってくることは明らかです。
その人に属人化しがちなノウハウやスキルをチームに開放し、みんなで共有できるようになれば、チーム全体の学びの高速化にもつながります。それはチームに新メンバーが 入ったときにも大きな効果を発揮します。
逆に、情報をオープンにしない場合の情報格差は、チームでの仕事の推進力を奪ってしまいます。個人個人が備えている仕事のスキルやノウハウが共有されなければ、 その仕事は属人化してしまいますし、その人に仕事のやり方をいちいち確認するのは 効率的ではありません。
属人化したスキルやノウハウを持つ人がもしチームを離れることになってしまった場合、またゼロからチームを作り直さないといけない状態に陥るのは避けたいところです。
また、クローズドな情報共有はチームのリスクにもなります。たしかにチームのなかには「自分のミスをメンバーに知られたくない」「相談事はこっそりしたい」という考えの人もいるでしょう。ですが、それをそのまま隠し続けてしまうと本人が後ろめたい気持ちになり、仕事のパフォーマンスにも悪影響が出ます。
都合の悪いことは早い段階でチーム内に共有しないと、後々致命的な失敗につながりかねません。ミスが早めに共有できていれば、リカバーもしやすくなります。
仕事においては大きなリスクが顕在化する前に、リスクの芽を摘み取っておくことが大事です。僕自身、もしミスをした場合はその段階でチームに共有することを努めています。リーダーこそ、ミスや失敗を認めて自ら共有していったほうが、結果的にチームのためになると思うからです。
心理的安全が確保されているということは、メンバーの弱みすらチームで受け止めるということです。自分の弱さを受け止めてもらえたという経験を一度でもすると、より素直に自分をさらけ出せるようになります。
何かミスをしたとき、普通の会社ならまずは上司に報告をして対策を相談するものですが、僕らの場合は失敗したことを率先してキントーンに書き込み、チームみんながその内容を把握できるようにしています。やましいことは、隠せば隠すほど、後々大きなリスクになると知っているからです。
サイボウズには「公明正大」という嘘をつかない文化があり、オープンに情報共有することが推奨されています。何か問題が起こったとしても、それをチームでオープンに共有し、みんなで議論をしながら解決策を見いだしていこうとする考え方です。
失敗をオープンに共有することが、チームにとってはいいことという認識があるのです。そういった考えのもと、サイボウズ式編集部ではまず僕自身が率先して行動し、たとえ失敗であろうと、あらゆる情報をオープンにしようと心がけています。
働きやすさを考えるメディアが自ら実践する 「未来のチーム」の作り方
「未来のチーム」の作り方は、書店やAmazon Kindleで発売しています。ご意見・ご感想は、Twitterのハッシュタグ「#未来のチームの作り方」までお寄せください。
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高橋団
2019年に新卒でサイボウズに入社。サイボウズ式初の新人編集部員。神奈川出身。大学では学生記者として活動。スポーツとチームワークに興味があります。複業でスポーツを中心に写真を撮っています。