特集・連載
「がんばらないために工夫してきた人」が、いつだって時代を作ってきた
サイボウズ式特集「そのがんばりは、何のため?」。長野県で「パンと日用品の店 わざわざ」を経営している平田はる香さんに、「がんばりたくない人間の、がんばりかた」について執筆いただきました。
はじめまして、株式会社わざわざ代表の平田はる香と申します。
2009年に長野県東御(とうみ)市に「パンと日用品の店 わざわざ」を開業し、2種類の食事パンと、2000種類を超える日用品を取り扱う店を運営しています。
2017年に法人化して現在は20名ほどが働く会社となり、昨年度の年商は2億6000万ほど。
文字通りがんばり続けてきましたが、正直、がんばるのめんどくさいなって最近は思っています。
昔から、がんばりたくない人間だった
思えばわたしは、昔から「がんばりたくない」という気持ちの塊のような人間でした。
競争がいやだから、誰も店を出していないような山の上に店を出す。20数種類のパンを焼いていた時代もありましたが、正直作るのがものすごくめんどくさくて、どうにか楽をしたくて考えたのが、「パンの総量を増やしながら種類を極端に減らす=食事パン2種類だけを売る」という方法でした。
パン作りでわずかなミスをするとパンが全滅して、何度も悔しい思いをしました。その悔しくて辛いのが嫌で嫌で、ミスの原因のデータを取って徹底的に追求し、二度と繰り返さないように製造環境を整えていきました。
ほかにも、早起きが辛いので、24時間で冷蔵発酵させるパン作りを考えて、朝5時に起きて毎日24時間サイクルでパンを焼ける製造方法を作ったりもしました。
「そんな方法でパンが焼けるのですか?」と驚かれることも多く、セオリーにない製造法を信じてもらえないことも多かったのですが、これらはすべて、わたしのがんばりたくない性格からきていることでした。
人間が、一番めんどくさかった
そのうち、一人でパンを焼いて店をやってオンラインストアで発送するのが、大変で大変でめんどくさくなったので、人を雇って手伝ってもらうことにしました。
ですが、人間が一番めんどくさかったです。
パンは、泣きも怒りもしませんが(ただ生地がだれるだけ)、人間は一人として同じ人がいません。給料が少ないとか休みが少ないとか、不満や感情のパターンも人の数だけあって、本当にめんどくさいとしか言いようがありません。
全部効率化して、仕事が楽しくて給料がわりかしよくて、休みが多い会社にすれば文句も出ないだろうと考えて、どうにか会社をおもしろくしようとしていますが、それでもどこからか不満が漏れ聞こえてきます。
あぁ、本当にめんどくさい。どれもこれも全員が満足することはなくそれ以上を望むのですから、これが人間というものなのでしょう。なのに会社というものを経営してしまうのは、人が集まれば一人ではできないことをできるようになってしまうことに、期待しているからに違いありません。
人間が人間を正当に評価できるわけがないという考え方を軸に、まぁ評価するのがめんどくさかっただけなんですが、評価を一切しないと2017年に断言して社内ベーシックインカムだと給料を一律にしたら、そのうち辞めたいと言う人が出はじめました。
それで「自己評価制度」なるものを作り、自分を自分で評価して、自分で給料を決められる制度を作って、とりあえず今のところ平和になりそうな予感がしてきましたが、どうせほかの問題がすぐ出ると思っています。ええ、全部想定内です。
わざわざは「いかに楽に楽しく仕事ができるか?」を問い続けた実験の軌跡
わざわざの11年間は、わたしがわたしのために、いかに楽に、楽しく仕事をできるか? を問い続けた実験の軌跡です。
仕事とは苦しく辛いものであり、生活のために仕方なくやるものであるとなれば、わたしという人間はそれをやることができません。
そして、怠惰で楽をすることしか考えていないわたしができる仕事ならば、おそらく誰でもできるだろうと思っていましたが、どうやらそうでもないことがようやくわかってきたところです。
不思議なもので、世の中には、辛く厳しい仕事を望む人もいます。自由に考えて自由にやっていいですよというのが、辛くて辛くてたまらない人もいます。
ルールがたくさんあってがんじがらめを好む人もいますし、外枠のルールがありつつも狭い範囲での自由を好む人もいます。
仕事というものは、人生においてお金をもらえるただのツールだと考えている人もいて、出勤することだけが仕事だと思っている人さえもいます。
これは最初からすべて見えるものではありません。みんながみんな、人間の形をしていて、まったくそんなことをうかがい知る由がないのです。
「めんどくさい」の欲求に答えるビジネスが勝者
ただ1つ、想像できることがあります。
時間をお金に変えているような仕事はいずれ、テクノロジーによって代用されてしまうだろうということです。
多くの仕事は、これまでにも淘汰されてきました。蛇口をひねれば水が出るという当たり前の生活からは考えにくいかもしれませんが、かつては水を汲むという仕事があったのです。みなさんも多からず少なからず生きてきた軌跡を振り返ると、テクノロジーの進化による代替があったと気がつくはずです。
そう、すべての人間は、めんどくさいのが嫌なんです。
商店街がなくなり郊外のスーパーに人が集まるようになったのは、移動手段が電車から車に変化していったからです。小さな書店が町中から消え始めたのは、Amazonという巨大な書店がインターネットに登場したころからでしょう。コンビニエンスストアの登場で町中の商店が消え、そのコンビニにあらゆる機能がついたことから喫茶店が消え、銀行や郵便局へ行く人が減りました。
そして、そのコンビニさえもインターネットでの買い物の増加や人口減少により淘汰され始めています。さまざまないいわけをつけて、電子マネーなどの決済手段の選択肢を増やさない店も、いずれ消費者にそっぽを向かれていくのでしょう。
人間の「めんどくさい」の欲求に答えるビジネスが、いつだって勝者なのです。
これからは、「がんばらないために」がんばろう
まずこれから一番に淘汰されるのが、所属することが目標だった人の仕事です。
大学や会社に入ることが目標だった時代もありましたが、これからは、ミッションを持って働く人だけが必要とされるようになるでしょう。仕事は細分化され専門職が必要とされるようになっていきます。うすくさまざまな業務ができるといった人の仕事は、代用されていく可能性が高いです。
なぜなら、その仕事の生産性が低いからです。低いものにコストはかけられないので、利益を高めるためにテクノロジーで代用されます。それが進歩です。
都会に住んでいないので使ったことがないですけど、Uber Eatsとかすごいですよね。店の出前の機能だけを専門化させると、大きなビジネスになるのですから。「あれもこれもできますよ」という会社は、そういった専門機能に仕事を受け渡すことになりそうです。
現在も仕事は確実に変わっていますが、同じ仕事のやり方を続けている人がたくさんいます。いくら手の動きを早くしても、数分の時間短縮だと気がつかない人がいます。
それよりも、周りの意見に耳を傾け、よいサービスの真似をして、さまざまなパーツを集めてよりよくなる手段を思考することが、画期的な効率化や新しいサービスを生み出します。
これからは、がんばらないようにするために、がんばるんです。いや、これまでだってそうだったんです。がんばらないために工夫してきた人がいつだって時代を作ってきたのです。
がんばらないために、あきらめる
さて、ここでわざわざをやりつつそんなことを考えてきたはずなのに、いつの間にかわたしもがんばってしまいがちです。わたしは今年度、がんばらないために、2つのことをあきらめました。物流と人事です。それで、今はこんなことに取り組んでいます。
長野県に雇用を作るという観点から、かたくなに自社で倉庫を持ち自社から出荷するという物流を作ってきましたが、やめることにしました。外部倉庫に、まずは一部の商品出荷管理を委託する方向で現在検討中です。
出荷に関するテクノロジーの遅れを自社でカバーすることができず、誤配送をゼロにすることがどうしてもできませんでした。また、商品在庫管理の観点からも、外部倉庫には劣ります。潔くあきらめ、外部に委託します。
会社として自由に働く環境を与えることをある程度あきらめます。ベーシックインカム的制度に加え成果報酬制も導入します。
人間が千差万別な思考を持っており、会社の考える自由が不自由になるケースが増えました。今まで明確にしてこなかった上下関係や骨格になるルールと組織体制を設定しつつ、社内でカスタムできるしくみを作ります。
これまでの制度は自由度が高すぎて解釈に幅があり、個人の倫理によってなぁなぁになる部分が多かったです。今年の秋には新たな就業規則や社内ルールの確立を目指します。
結局、会社も人間も同じです。よい会社であろうとすることと、よい人間であろうとすることは同じなのです。わたしはわたし自身が成長し続けよい人生だったと最期を迎えられるように、今日も働きます。
ということで、わたし、今年も絶対にがんばらないですから!
毎年言ってる気がしますけど。今年こそじぇええっったいに、がんばらないっと。
サイボウズ式特集「そのがんばりは、何のため?」
一生懸命がんばることは、ほめられることであっても、責められることではありません。一方で、「報われない努力」があることも事実です。むしろ、「努力しないといけない」という使命感や世間の空気、社内の圧力によって、がんばりすぎている人も多いのではないでしょうか。カイシャや組織で頑張りすぎてしまうあなたへ、一度立ち止まって考えてみませんか。
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執筆
平田はる香
2009年、長野県東御市の山の上に元々好きだった日用品の収集と掛け合わせた店、パンと日用品の店「わざわざ」を開業する。2017年に株式会社わざわざ設立。
撮影・イラスト
編集
あかしゆか
1992年生まれ、京都出身、東京在住。 大学時代に本屋で働いた経験から、文章に関わる仕事がしたいと編集者を目指すように。2015年サイボウズへ新卒で入社。製品プロモーション、サイボウズ式編集部での経験を経て、2020年フリーランスへ。現在は、ウェブや紙など媒体を問わず、編集者・ライターとして活動をしている。