独創的な発想で新しい組織づくりに取り組む、小さなパンと日用品の店「わざわざ」を経営する平田はる香さん。サイボウズ本社にお招きし、これからのマネージャー像についての書籍を執筆中であるサイボウズ副社長の山田理と「新しい組織づくりやマネジメントを考える」をテーマに対談イベントを行いました。
イベントが始まるまで2時間近く、深く話し込んでいたというふたり。本番ではその熱が冷めないまま、前編では「人は人を正当に評価できるのか」「マネジャーに最も求められるスキル」など、自身の失敗談なども交えながら、これからの組織づくりについての話で盛り上がりました。
後半は、参加者の方々からの質疑応答タイム。参加者には人事やマネジャーの方が多く、具体的な質問が飛び交う中、ふたりは頭をひねりながらも、実践的な解決方法を探っていきました。後編では、この質疑応答を抜粋してご紹介します。
お金で評価するほうがずっと楽? 社員のやりがいはどうつくる?
質問者
おふたりは「人は人を正当に評価できない」とお話しされていました。人事評価は、社員の育成やモチベーションの維持などに役立つこともあると思いますが、サイボウズやわざわざではどう考えていますか?
山田
僕は「評価するのも、されるのも嫌だ」と話しましたが、サイボウズには、評価制度はあります。
大切にしているのは、給料=フィードバックとしないことです。
イコールにすると、評価する側は給料を上げたくないから厳しい評価をする。社員は給料を上げたいから、自分を大きくみせちゃう。両者の会話が噛み合わなくなるんです。
平田
お金で評価するほうが、評価する側にとって作業としては、ずっと楽だと思いますよ。
やりたい仕事や好きな働き方を選べるのはモチベーションにつながると考えていますが、どうすればモチベーションが維持できるのかは、試行錯誤中ですね。
信頼は「あるか・ないか」ではなく、あくまでグラデーション
質問者
3人以上の組織になると、人間関係がこじれやすくなる気がします。おふたりはどうやって解決していますか?
平田
3人以上になると、「ひいき」や「派閥」が生まれ始めるんですよね。そうならないように、メンバーには均等に声をかけたり、軋轢が起きているところには積極的に干渉するようにしています。
人が増えてくると私ひとりで全てをカバーできないので、その役割はチームリーダーにも任せていますね。とにかく、問題は小さいうちに解決するようにしています。
山田
僕はこれまで信頼関係を築くために一生懸命がんばってきたんですが、結果的には諦めました(笑)。
平田
え、そうなんですか。
山田
信頼って「あるか・ないか」ではなく、あくまでグラデーションだと気づいたんですよ。全員を等しく100%信頼するのは大変です。
僕はよく「距離感」という言葉を使うのですが、大切なのは一人ひとりとの「距離感」を知ること。
平田はる香(ひらた・はるか)。株式会社わざわざ代表取締役。1976年生まれ、東京生まれ静岡育ち。1996年川村都スタイリストスクール卒業。2002年に夫の転勤により長野県に移住。2009年にわざわざを一人で開業。前職はWEBデザイナーでありながらも、パン焼きにハマり、元々好きだった日用品の収集と掛け合わせた店、パンと日用品の店「わざわざ」を開業する。段々とスタッフが増えていったことで、店舗や事業を拡張し、2017年に株式会社わざわざ設立。二児の母。
山田
友だちでも週1で会いたい人もいれば、年に1回会う関係がちょうどいい人もいます。どの距離感が心地よいかは、人によって変わるんですよね。
平田
たしかにどうしても、合う人と合わない人はいますよね。私も干渉するかどうかは、距離感を考えています。メンバーには話を聞いてほしいタイプの人もいれば、干渉されたくないタイプの人もいますし。
山田
「好き」「嫌い」というと語感が強くなるけど、「距離感」という言葉を使えば柔らかいし、理解もしやすいですよね。
たとえ合わない人がいたとしても、その人は会社に必要な人材。適切な距離感を知ることが大切だと思います。
上司に「当事者意識」をもってもらうことはできるの?
質問者
役員が現場に意見を言ってくるのですが、どれも現場の状況がわかっていない発言で困っています。どうすれば、わかってもらえるのでしょう。
平田
違う方向を向いている人に、状況や考えを理解してもらうのは難しいですよね。
山田
他人はなかなか変えられないので、環境を変えるのも一手だと思いますよ。
もし今の会社で働き続けたいなら、自分を変えてでもやれることをやるしかない。その役員の方々が、どれだけ何もしていないのかを公開しちゃうのもありかもしれませんが、ちょっと覚悟が必要になりますもんね。
チームの弱みを補強するには、「全員を横にスライス」
質問者
会社でチーム編成をするときに、スケジュールを管理できない人たちだけで集まってしまうことがあります。
「一緒に働きたい」と思う人たちが集まったら、似たような性格の偏った集団になってしまいました。
バランスのいいチームづくりをするには、採用しかないのでしょうか。
平田
採用以外におすすめの方法は、スケジュール管理が得意な1人に、複数のチームに所属してもらうことです。
実際に「わざわざ」では1人が3部署に所属して、曜日で分けて仕事をしています。
平田
カメラマンの子も水曜はパンを焼いて、店頭に立っている子も金曜には仕入れをする。
特に小さな組織の場合、複数のスキルをもっている人には、どの能力も発揮してもらった方がいいと思うんですよね。
山田
それ、おもしろいですね。メンバーがどんなことができるのか、業務ごとに分解して、それを元に割り振る。「業務=人」と縦割りにするのではなく、一人ひとりを横にスライスしているんですね。
どんなきっかけで、1人が複数の業務を担うようになったんですか?
山田 理(やまだ・おさむ)。サイボウズ 取締役副社長 兼 サイボウズUSA(Kintone Corporation)社長。1992年日本興業銀行入行。2000年にサイボウズへ転職し、責任者として財務、人事および法務部門を担当し、同社の人事制度・教育研修制度の構築を手がける。2014年からグローバルへの事業拡大を企図し、米国現地法人立ち上げのためサンフランシスコに赴任し、現在に至る。
平田
わざわざは私がひとりで始めたお店なので、最初は全部の業務をひとりでこなしていたんです。
でも、だんだんと業務が増えてきて、1日でやろうとすると物理的に無理が生じたので、「もっと作業を効率化できないかな」と自分を時間で割ったんです。
たとえば毎日30分かけて計量していたのを、月曜にまとめて作業したり。散らばった時間をまとめて仕組み化していくと、時間が空いていくんです。タイムロスが減るので、効率化につながりました。
山田
なるほど。
平田
それをほかの人にも応用しました。8時間出勤のうちの2時間は違う場所に行ってもらうとか、時間帯や曜日によって部署を変えて。そうしたら、みんな自然とできるようになり、今は私の指示がなくても自発的に部署をまたいで作業しています。
社員には「嫌いな仕事」はさせない。大切なのは「会社に行くのが嫌じゃない」こと
質問者
私は「外に出る仕事が向いている」と自分では感じていますが、実際は社内で人事を任されています。
得意分野や好きな作業を仕事にすることが、社員の成長につながると思っているのですが、おふたりはどう考えますか?
平田
その通りだと思います。3年前に、厨房の掃除をしてもらうために60代くらいの方を雇ったんですよ。一緒にご飯を食べていたときに、彼女が唐突に「私、掃除嫌いなんですよ」って打ち明けたんです。
「じゃあ、何がしたいんですか」と聞いたら「包むのが好き」と。そこで梱包の仕事を頼んだら、以前よりも段違いのパフォーマンスを発揮するようになったんです。
山田
それはすごいですね。
平田
それ以来、たとえばミスを連発している人には「その仕事は嫌い?」「もっとほかにやりたいことある?」と聞くようにしています。
大切なのは「会社に行くのが嫌じゃない」状況。仕事に対する価値観は人それぞれだと思うので、楽しいとまでは思わなくていい。
「嫌じゃない」要素をどんどん積み重ねていけば、いい組織になるのかな、と思います。
山田
僕も、同じような意見ですね。
「やりたいこと」はモチベーションにはなりうるけど、1番大切なのは「できること」だと思います。なぜなら、強みと弱みは相対的だから。
自分ではキッチリしていると思っていても、もっとキッチリしている人に囲まれたらそうでもないかもしれない。
山田
好きなことをやって認めてもらえなかったら、不幸じゃないですか。
まずはできることを売り込んで、その場で自分の役割をつくる。そこで結果を出しながら、最終的に好きなことも重ね合わせていく。そういうステップが必要なのかな、と思いますね。
※サイボウズ副社長・山田理の書籍を現在制作中です。ご予約は
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文:園田もなか/編集:松尾奈々絵(ノオト)/撮影:栃久保誠/企画:小原弓佳