そのがんばりは、何のため?
テレワークを阻むのは「全員を公平にしないとみんなが不幸になる」という思い込み
新型コロナウィルスの影響を受け、多くの企業で急速にテレワークが導入されました。しかし全国規模の緊急事態宣言が解除され、徐々にオフィスへ社員を呼び戻す企業も増えています。
なぜ日本ではテレワークが根付かないのでしょうか。
背景には、「テレワークができない職種もあるのだから同じ社員なのに働き方に差が出るのは不公平だ」というマネジメント側の思い込みもあるのではないでしょうか。
そもそも、人によって働きやすい環境は違うはず。サイボウズでは「100人100通りの働き方を実現する」という考えのもと、2020年8月現在も、ほとんどの社員がテレワークを選んでいます。
社長の青野慶久は、これからの組織のあり方をどのように見ているのか。人影のまばらな本社オフィスで、サイボウズ式編集部の高橋団、神保麻希、アレックス・ストゥレが話を聞きました。
初対面でもリモート前提、社会が大きく前進した
まずは家族と一緒にいられる時間が増えました。
今は18時には仕事を終えて家に帰り、子どもの勉強を手伝っています。ゆっくり時間をかけられるから、「あ、意外とここが分かってないぞ!」といったこまかな部分にも気づくようになりました。
今はオンライン会議への社会的コンセンサスが得られているから、「リモートでやりましょう」と言いやすくなった。これは大きな前進ですよね。
もう「テレワーク最高!」ですよ(笑)。
何を幸福だと感じるかは人それぞれ。「公平」と「幸福」は区別すべき
一方で世の中には、「公平にしないとみんなが不幸になってしまう」と考える人もいます。
でも本当にそうでしょうか? 実際の世の中はそうなっていません。「公平と幸福」は区別しなければいけないと思います。
ところがその3人を個別に見ていくと、事情はバラバラです。
A君はお腹が空いていなくて、B君はダイエット中、C君はとてもお腹が空いている。そんな状況だとしたら、ケーキはどう扱うべきだと思いますか?
その人が何を求めているのか、どうすれば幸福なのかは、確認しなければわかりません。これが公平と幸福を区別する考え方です。
今回で言えば、「テレワークをやりたいかどうか」確認した上で、続けるかどうか、実際に声を聞いてみることが大切ですね。
一人ひとりのニーズを確認しながら応えていくということだと思います。
そうした個人のニーズを把握できていないから、「給料を上げたのに突然辞められてしまった」なんてことが起きるんです。
でも、これが後々響いてくるんです。早い段階でわがままを聞いておいたほうが、組織にとってプラスだと思います。
人は「ばらついていて当たり前」だからチームが多様になる
テレワークを選択する人が増えれば、一人ひとりの目の前でマネジメントすることはできなくなっていきますからね。
でも僕はそもそも、人は「ばらついていて当たり前」なんじゃないかと思うんです。
サイボウズには、ソフトウェアを作りたい人や売りたい人、プロモーションをやりたい人、サイボウズ式をやりたい人など、いろいろな人がいますよね。
大きくて高品質なカラーテレビはまさに代表例。テレビをたくさん作って売れば儲かる「大量生産」の時代でした。
だから、画一的に同じような人を集めたほうが、マネジメントもやりやすかったんです。
かつては予想もしなかった競合が現れている今は、変化し続ける多様なニーズに合わせて製品開発を続ける「多品種・小ロット」の時代です。
Appleは最近では時計を作っているけれど、もはやデバイス屋さんなのか音楽屋さんなのか時計屋さんなのか分からないですよね。
誰が誰と競合するか予測できない時代なので、バラバラな人たちを組み合わせ、柔軟に組み替えられる組織が強いんです。
思わぬ仕事に繋がるから、自分を語れる組織であるべき
でもテレワークでは、仕事以外の雑談がしづらいのも事実です。特に気持ちの部分も含めて。
しかし、プライベートまで共有するといいことがあります。
サイボウズのグループウェアに「プロレス部」というスペースがあり、僕も入っているんですけど。
あるとき、某有名プロレス団体の社長が、商談でサイボウズ本社を訪れてくれたことがありました。
僕には事前にメンバーが共有してくれていたので、当日はその団体の最新Tシャツを着てお出迎えしたんです。
結果、商談は見事に成功。もちろん僕がTシャツを着ていたからという理由だけではないと思いますが(笑)。
一見すると仕事にかかわらないと思うようなことでも、互いに知っておくことで仕事につながる場面もあるんですね。
経営者やマネジャーは、「みんな自分の好きなことやわがまま語っていいんだよ」「多様な人がいる中で、組織を作るんだよ」というメッセージと共に積極的に発信していくべきでしょう。
自分のこだわりポイントは趣味でも何でも、発信しておくべきだと思います。
天龍さんと対談させていただいた上、本の帯まで書くという幸運。長年プロレスファンをやってきてよかったー。天龍さんは大好きなレスラーで、3年前の引退試合では両国国技館で号泣してました。本もとても面白いです! https://t.co/vJ4pNGhtFW
— 青野慶久/aono@cybozu (@aono) October 31, 2018
相手との共感を省いたわがままは、単なるわがまま
でも僕には、そんな自信はないんです。
だから今は、みんなからわがままを引き出したほうが成功すると思っています。
ただし、どんなわがままでも大事にするわけではありません。僕の判断基準は、理念に向かっているかどうか。
僕は、個人のわがままを実現できる人には「高い共感力」があると思っています。
でも、「お客様のために活動できるよう、外回り中のカフェで仕事したい」ということだったら、「チームワークあふれる社会を創る」というサイボウズの理念に通じます。
単なるわがままではなく、理念に沿ったわがままなので、コーヒー代すら、会社の経費にしちゃいます。。
みんながオフィスにいないときにも、いかに理想を伝えられるかが問われる。
これからは、経営者やマネジャーが日頃から理想を伝えられているかどうかが分かれ道となって、求心力を維持できる会社と人が離れていく会社に二極化していってしまうのではないでしょうか。
「優秀かどうか」よりも「個性が生かせるかどうか」
そうなると、「人の優秀さ」についての考え方も変わっていくような気がします。
むしろ、画一的に「優秀な人」のイメージを決めて、同じような人ばかり採用するほうが怖いですよ。
新卒の中で誰か1人、ずば抜けた存在がいたら、「あの人を目指そう」というロールモデルにされがちです。
学校では「全教科の合計点が高い人が優秀」という定義がありました。
だけど世の中に出たら、合計点で争うことはしないじゃないですか。営業が得意な人にあえて開発をさせることは少ないと思います。
会社としてはそれぞれの部門に得意領域を持つ人が入ってほしいし、突出した能力がなくても、後ろから応援することが上手な人もいます。そうなると、誰が優秀かなんて分からなくなってくるんですよね。
だから、経営者やマネジャーは一人ひとりが最大限の力を発揮できるように個人と向き合っていくべきだと思います。大切なのは一律の管理ではなく、一人ひとりと向き合えるかどうか。
そのためには、働きやすい環境を自分で選択できる制度があるといいですよね。テレワークを今よりもっと当たり前にしていくことも、その選択肢の1つだと思います。
企画:高橋団、神保麻希、アレックス・ストゥレ(サイボウズ) /執筆:多田 慎介/撮影:加藤甫
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執筆
多田 慎介
1983年、石川県金沢市生まれ。求人広告代理店、編集プロダクションを経て2015年よりフリーランス。個人の働き方やキャリア形成、教育、企業の採用コンテンツなど、いろいろなテーマで執筆中。
撮影・イラスト
加藤 甫
独立前より日本各地のプロジェクトの撮影を住み込みで行う。現在は様々な媒体での撮影の他、アートプロジェクトやアーティスト・イン・レジデンスなど中長期的なプロジェクトに企画段階から伴走する撮影を数多く担当している。
編集
高橋団
2019年に新卒でサイボウズに入社。サイボウズ式初の新人編集部員。神奈川出身。大学では学生記者として活動。スポーツとチームワークに興味があります。複業でスポーツを中心に写真を撮っています。