そのがんばりは、何のため?
時代が変わるとは、少数派が多数派に入れ替わること。未来は少数派の「わがまま」にある──明石市長 泉房穂×サイボウズ 青野慶久
ともにサイボウズ社員である酒本健太郎・村川みゆ夫婦は、コロナ禍による働き方の変化を受け、10年住んでいた東京から、兵庫県明石市へ移住しました。
その移住の理由をつづったブログ記事が、なんと明石市長・泉房穂さんの目に止まり、移住したての夫妻の家へ訪問することに。
話し合ううちに市長の考えに感銘を受けた酒本・村川夫妻。「明石の魅力を伝えたい!」という気持ちからサイボウズ代表取締役・青野慶久との対談を提案します。そして、泉さんの快諾により、2人の対談が実現しました。
子育て支援や障害者支援などに力を入れ、人口や税収を大幅に伸ばしている明石市。前編では、そんな明石市のまちづくりとサイボウズの組織づくりの共通項を「わがまま」という観点から探っていきました。
1人ひとりの幸せは異なるからこそ、それぞれの「わがまま」を応援する社会をつくる
「社員はこう考えているだろう」という社長の勝手な思い込みで経営をするのではなく、現場の社員1人ひとりの要望に耳を傾け、コツコツと叶えていく。
おそらく1つひとつの施策が的確なのは、同じように明石市の市民の声に耳を傾けてきたからじゃないかな、と。
いまから40年ほど前、わたしが20歳のときに「これからの時代はわがままが大切だ」とミニコミ誌(自主制作雑誌の総称)に書いていたんです。
まさにこれは、いまの明石市の街づくりのスタンスなんです。
それで、やっと弟といっしょに小学校に通えると思ったら、役所から「周りの子どもの迷惑になるので、養護学校(現・特別支援学校)に行ってください」と言われて。
でも、1人ひとり顔も体格も異なるように、本来は願いも異なるはず。当たり前から外れているだけで「わがまま」と切り捨てられるのはおかしい。
だから、小学生のときから1人ひとりの「わがまま」を応援できる社会をつくりたいと思うようになったんです。
少数派に目を向けて、わがままを叶えると、みんなが幸せになれる
1人ひとりのわがままを拾っていけば、みんなが幸せになれるのにな、と。
たとえば、9割の人々が求める施策を次々に続けていくとします。すると、その施策すべての恩恵を受ける人は9割×9割×9割……と徐々に減っていく。そのうち多数派である9割に当てはまらなくなって、排除されてしまうんです。
一方、1割の人々に向けて100個の施策を打っていくと、案外みんな10個くらいは当てはまる要素があり、恩恵を受けられる。
だから、少数派を排除せず、少数派のための施策をたくさん打ったほうが、むしろ幸せになる人が増えるんですよ。
それこそ、多数派向け施策に予算を大きくつけるより、少数派向け施策に小さくつけていったほうがいいと。
でも、明石市におけるひとり親世帯の割合って実は1%程度。そこに手厚い施策を打っても、たいしてお金はかからないんです。
ピンポイントで本当に困っている人たちに施策を打つことで、より効果の高いものになると思いますよ。
市民と親しい関係を築き、要望をコツコツと叶えていく
明石市では、意見箱を駅前や市役所に置いたり、明石市公式サイトにメールアドレスを載せたりしています。これらの意見は直接わたしに届くようになっていて、その1つひとつにしっかり目を通しています。数としては週に50通くらいですね。
けれど、市長であるわたしが「市民からこういう要望が届いている」と一言声をかければ、ありがたいことにすぐ対応いただけるので。
あまりオープンにしすぎると問い合わせが殺到しそうですが、こうした市民との距離の近さは、要望を拾う上では大切ですね。
1人のわがままが大きな変化を呼ぶ。わがままを切り捨ててはいけない
たとえ、当人にしか関係のないことのように思えても、共有することで「困っているんだったら、わたしが協力しますよ」と助け合いが生まれたりもする。
「そんなのはただのわがままだ」と切り捨ててしまうと、助け合いの雰囲気を妨害することにつながってしまう。だからこそ、たった1人のわがままでも大切にしたいなと。
多数派は過去、少数派は未来。たった1人のわがままを叶えることが、未来につながる
少数派の要望だったとしても、叶えてみたら他にも喜ぶ人がたくさんいたという事例はけっこうあるそうです。
その点、少数派に光を当てながらも、多くの人が幸せになる施策を実現させている泉さんは、未来型の政治をしていると思いました。
逆に言えば、多数派のためだけに政治をするのは「未来をつくらない」ことでもあります。
だからこそ、たった1人のわがままを叶えていくことこそが、未来につながると本気で考えています。
なんなら、人生100年時代を見据え、国をあげて複業を推進する動きもあります。
これまでの「当たり前」を問い直し、少数派のわがままに耳を傾けることで、未来につながるよりよい働き方や生き方が見つかるんだなと思います。
(後編に続きます。)
企画:野阪拓海(ノオト)+サイボウズ式編集部 執筆:野阪拓海 編集:鬼頭佳代(ノオト)
変更履歴:明石市の代表的な施策一覧表と記事本文内の泉さんの発言に内容修正がありましたので、下記のように変更しました。(2021/02/04 9:50)
<明石市の代表的な施策一覧表> ●所得制限の項目 変更前:所得制限なし 変更後:すべて所得制限なし ●医療費の項目 変更前:中学生まで 完全無料 変更後:高校卒業まで 完全無料 ※2021年7月開始予定 ●高齢者の項目 変更前:65歳以上 認知症診断無料、在宅介護の支援金 変更後:認知症の診断費用無料、在宅介護の支援金支給 ●障害者の項目 変更前:合理的配慮への公的助成 手話言語・障害者コミュニケーション支援 変更後:スロープ設置費用などへの公的助成 手話言語・障害者コミュニケーション条例制定 <本文> 変更前:だから、少数派を排除せず、彼らのための施策をたくさん打ったほうが、むしろ幸せになる人が増えるんですよ。 変更後:だから、少数派を排除せず、少数派のための施策をたくさん打ったほうが、むしろ幸せになる人が増えるんですよ。SNSシェア
執筆
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編集
鬼頭 佳代
コンテンツメーカー・有限会社ノオトのライター、編集者。コワーキングスペースContentzの管理人も兼任中。好きなテーマはすこやかに生きるためのヒント、空間&仕組みづくり、世界の歴史と言葉など。