社内で「正社員、非正規雇用」と呼ぶのをやめると、何が変わるんですか? 社長に聞いてみた

社内で正社員、非正規雇用という名称を使うのをやめます──。 サイボウズ代表取締役社長 青野慶久が突如こんなツイート。ツイッターや社内を中心に、意見や質問がたくさん届いたので、サイボウズ式編集部が青野に取材してみました。 「社内での名称や言葉が変わるだけで、現実は何も変わらないんじゃないですか?」
本質的に正社員って一体なんだろう? と議論をした

サイボウズ社内では「正社員/非正規」という表現をやめ、「無期雇用/有期雇用」とすることに。やった!
— 青野慶久/aono@cybozu (@aono) August 26, 2020
正規とか非正規とか契約内容が違うだけでどちらも仲間であることに変わりはない。無期雇用でも週3日の人もいるし、有期雇用でもフルタイムの人もいる。そして雇用形態は選べればいい。



青野慶久(あおの・よしひさ)。サイボウズ代表取締役社長。大阪大学卒業後、松下電工(現パナソニック)を経て、97年にサイボウズを設立。2005年より現職。18年より社長兼チームワーク総研所長




それを聞いて、僕は個人的に盛り上がったんです。「人事部の意思決定、かっこいいな」って。そこから、あたかも僕が(意思決定を)やったかのようにつぶやいてしまいました。


人事部によると、(正社員/非正規雇用にかかわらず、サイボウズで働く人は)みんな正式に手続きをして、契約をしています。それなのに「非正規雇用」と呼んでいることに違和感があったんです。
もっと本質的に「正社員って一体なんだろう」という議論をして、社内では正社員、非正規雇用の呼び方を止めようとなりました。
社内での呼び名が変わるだけで、何か社内外に効果ってありますか?



非正規雇用には、「正社員になりたいけど、非正規でしか雇用されない」「給料が安い」といった問題もあります。これ自体は呼び名を変えただけですぐに問題が解決されるとは限りません。

例えば、正規・非正規という言葉には「正しい、正しくない」という印象や、「正規が偉い、非正規はダメ」といった優劣のレッテルがあるかもしれない。
言葉の印象を受けて、僕たちはふるまってしまいがちですが、そうではないと思うんです。例えばプログラマーの中には、非正規雇用だけど、正社員の雇用の人以上に給料をもらっている場合もある。
正しい、正しくないという表現を変えることで、見方が変わってくるのではないでしょうか。



非正規雇用と呼ばれていた人も「私は非正規雇用だから」と思う必要はなくて。単に雇用が有期か無期かの違いだけですから、対等に話せるようになることを期待しています。
言葉を変えても現実は変わりません。何が嬉しいんですか?


例えば「ボケ老人」という表現は、昔はよく使われていましたけど、最近は使いません。アルツハイマー病などと病名で語られるようになりましたが、受ける印象は異なりますよね。
正社員/非正規雇用という言葉を社内で使うのをやめることで、人間の思考にも影響を与えるはずです。それが将来、何かしらの現実を変えることにつながるかもしれない。
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言葉の選び方で大事なのは「実態にあった表現かどうか」


言葉の選び方で大事にしているのは、「実態にあった表現になっているんだろうか?」ということ。実態と異なる言葉を使ってしまうと、事実と解釈にズレが出てしまいますから。
今回の「無期/有期雇用」という言葉は、雇用の実態に合わせた表現です。けど、それで差別がなくなるわけでもない。「あの人は有期雇用だ」といった印象は、なおも残るかもしれません。
それでも言葉を変えたことで、正社員と非正規社員の差は「(雇用期間が)有期なのか無期なのかだけ」だとわかるようになるはずです。
言葉の選び方1つで、実態の認識が合うこと。それが進歩につながっていくと思っています。実態にあった言葉の表現を使っていくことが大切です。
言葉を変えることで、雇う側の罪悪感を減らしたいだけでは?


いっしょに働いているのに非正規雇用と言われれば、正しくない(正規ではない)という意味になりかねない。それが解消されるのであれば、ありがたいかなとは思います。
雇われる社員の気持ちも変わってくるんでしょうね。非正規雇用だった人が(有期雇用と呼ばれることで)、サイボウズをさらに自分の会社だと思ってもらえるかもしれない。
非正規というと、上下で見る/見られる意識が出やすいでしょう。正しく表現すれば、ほかの人の見方も変わるはずです。
もしも「正社員です」と胸を張って威張っていた人がいるとしたら、それは必要ないと言えるようになったりもするのかもしれません。

サイボウズの社内でも、雇用に関する議論は続いている。これはサイボウズ式編集部がGaroonの予定で社長の青野への取材予定を入れた後、副社長の山田 理とこのテーマについてコメント欄で議論している様子
無期雇用/有期雇用を行き来してもいいし、本人が選べるようにしたい


安心してモチベーション高く働けると思う人は無期雇用を、契約期間が決まっていて、その都度更新がある方がいいなら有期雇用を、というように。その人のライフスタイルに合わせて選べるといいですね。


大リーグだと10年契約というのもありますね。選手側からすると、いきなり首を切られたりせずに、10年分は安心して野球ができますよね。球団側としては、10年間はこの球団でプレイしてもらえる安心感がある。
お互いのメリットがある中で、給与をどう決めるかという話になります。


例えば、正社員=無期雇用で契約をしている人でも、いつでも会社をやめられますし、ライバルの会社にも転職することだってできます。その点では無期ではなく、プロ野球選手より、雇われる側が自由なんですよね。



雇用形態が変わることで、給与は変わりますか?


理由は、雇う(法人)側が有利になるからです。契約の自由度が増し、契約を切ること・リセットができるようになる。
ここは僕としては、めっちゃ大事なポイントだと思っていて。


条件が変われば給与が変わってしかるべきだし、僕は「有期雇用と無期雇用で同じ条件なら、給与が変わらない」とは言いたくないかな。


具体的には「僕は5年間転職も複業もしないので、給料をあげてください」や「精神的に、毎年給与交渉をするのがつらいので、10年で(トータル)これぐらいの金額で」といった交渉が出てくることもありそうですね。
給与評価がそもそも好きじゃない人もいるはずだし、考えずに仕事をしたいですというニーズがあってもいいですよね。
雇用を選べることと自立って、どうつながるんですか?



働き具合によって給与が上がり下がりこともありますし、場合によっては「残念ながらこの(サイボウズという)組織であなたが果たすべき仕事はありません。転職したらどうですか?」といったケースもあるかもしれません。
それも含めた上での無期雇用であり、厳しさの点はあると思います。



でもサイボウズでは、定年退職がそもそもないので、その点では無期雇用になるなと。

これって本当に無期雇用なのかな。なんだか理不尽ですよね。僕たちは100人100通りでありたいなと思います


自分から有期雇用を進んで選ぶ選択肢も出てくるでしょうし、一人ひとりと向き合って対話をしていけば、「契約だから」とバサッと切るといったこともなくてよくなると思うんです。
「ぬるいプールの中で正社員を守らなければ」といったことを続けていたから、しわ寄せがきたんでしょうね。このしわ寄せがなくなれば、全体的に働く人の幸福度は上がる気がします。
もしかしたら格差を生むかもしれない、それが難しい


このギャップをどう埋めていくか。世の中の非正規雇用の人がどんな差別を受けているか、僕はあまり知らなかったりします。
世の中ではどうなんだろうね。サイボウズだけ突っ走っているとならないようにしたい。


その格差を埋めるには、社会システム側からの努力も必要だと思います。これは僕たち1社だと実現できませんから。それも合わせて考えていく必要があると思うんです。

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撮影・イラスト

高橋団
2019年に新卒でサイボウズに入社。サイボウズ式初の新人編集部員。神奈川出身。大学では学生記者として活動。スポーツとチームワークに興味があります。複業でスポーツを中心に写真を撮っています。
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