多様な意見を「秒でジャッジ」って傲慢じゃないですか? 石井遼介さんに聞く心理的安全性の高いチームのつくりかた
「心理的安全性」の大切さは認識されつつあります。しかし、具体的にどうすればチームの心理的安全性を高められるのかという問いに、胸を張って答えられる人は少ないのではないでしょうか。
テレワークが広がった2020年は、「同じ場所で働けなくてもチーム内で健全な対話が交わされるようにしたい」と考えるようになったマネジャーやリーダーも多いはず。
よく耳にする自己開示というキーワードに飛びついて「自分の弱みをさらけ出そう」とやみくもに動いた結果、チームの状態を悪化させてしまう場合もあるかもしれません。
今回お話を聞いたのは株式会社ZENTech 取締役であり『心理的安全性のつくりかた』の著者である石井遼介さん。 石井さんは「心理的安全性の4つの因子」を提唱し、「マネジャーやリーダーが取るべき行動」を考えるための具体的な視点を伝えています。
どんな行動がチームの心理的安全性を高めるのか。その実践知を伺いました。
『半沢直樹』に出てくる組織は心理的安全性が低い?
「彼ら個人の」心理的安全性は高いかもしれませんが、一方で、彼らと働く組織やチームの心理的安全性は低いといえると思います。
そんな感情から言いたいことを言えなくなっている人が、『半沢直樹』には登場していたと思います。
彼らは「罰」や「不安」に よって行動が縛られており、あくまで「怒られないために」仕事をこなしていたのではないでしょうか。
チームの成果のために貢献したいと考えても、結果として罰せられる可能性があるなら行動しないほうがマシだと思ってしまいますよね。
逆に言えば、罰や不安を避けるためではなく、いい仕事をするために率直に意見を言い合えるチームが心理的安全性が高いチームなんです。
「健全な衝突」が繰り返されることでチームは強くなる
なぜなら、情報共有と意見の対立の頻度が高まるからです。どんな組織でも、クレーム発生などの「まずい情報」は燃え広がる前に早く共有されたほうがいいですよね。
まずい情報が早く共有されれば迅速に対策ができるし、チームとしてトラブルへの対応や、再発防止・改善も早く進みます。
「健全な」というのは、人間関係や管轄について衝突するのではなく、「物事や課題(タスク)についての意見の衝突」であるという意味です。
先程のクレームの例で言うと、意見の対立が起きるほどのディスカッションは、トラブルへの対応や再発防止に向け、さまざまな観点から多様なアイデアが出るということですから、対応や改善も早く進みます。
重要なのは、心理的安全なチームであれば、意見が対立しても人間関係にヒビが入ったりはしない、ということです。
チームのカルチャーは1人ひとりの行動の積み重ねで形作られる
この行動は正解なのでしょうか。
なぜかというと「正解」を大事にし、信じ込むことで、目の前にいるメンバーの実際の反応を軽視するようになってしまうからです。
たとえば、メンバーがマネジャーに相談しに行く場面を思い浮かべてみてください。
自身の仕事で忙しいマネジャーはメンバーと目も合わさず、PCを見つめたまま相談に対応している。よかれと思ってメンバーがチームの課題を報告したら、「じゃあその課題、対応しておいて」と言われ、褒められも評価されもせず、単に自分の仕事が増える。
こうした日常の行動が積み重なって歴史となり、「話しやすさ」の損なわれたチームが作られてしまうんです。
そんなチームでマネジャーが急に自己開示を始めると何が起きるでしょうか。いきなり上司に弱みを見せつけられたら、メンバーは「何か大変なことを押しつけられるんじゃないか」と警戒してしまうかもしれません。
リーダーシップにはいくつかの有名な「型」があるんです。マネジャーやリーダーが自身のリーダーシップスタイルを理解し、状況に応じて使い分けていくことで、メンバーにいい影響を与えられると考えています。
「なんで?」「なぜ?」の“要注意ワード”を連発していないか
自分が無意識に「罰的なコミュニケーション」を取っていないか、自分の行動を振り返り、洗い出していくことからはじめるのも1つだと思います。
マネジャーやリーダーのちょっとした一言が、メンバーにとっての「罰」になっている可能性があるんですよ。
日常の仕事のシーンを思い浮かべてみてください。メンバーが成果を出したとき「なんでうまくいったの?」とわざわざ聞く上司は少ないのではないでしょうか。
その問いかけが課題をとらえるために使われていたとしても、メンバーにとって「なんで?」「なぜ?」は、ミスを責められている文脈で受け取られてしまいやすいです。
こうやって自身の行動を振り返りながら、罰的なコミュニケーションを減らしていく。そうすることで、メンバーの行動に変化が生まれていきます。
「相談責任」という言葉で、行動の入り口が簡単になるかも
自分が理解できないことを仕事でする場合、その人には「なぜする必要があるのか」を問う責任があり、それをしてほしい人にはその質問に答える責任があることを明文化しています。
「なんでも質問してね」と呼びかけるだけでは、なかなか人は動きません。
思い切って質問ができたとしても、きちんと説明されないことが続いた場合は「じゃあ聞かなくていいや」となってしまう。「なんでも質問してね」と言うのであれば、質問されたとき、丁寧に説明する責任をセットにして言葉の旗を立てるのは重要だと思います。
同じような考え方で、「相談責任」という言葉があってもいいかもしれませんね。特に日本のチームだと「相談責任があるのでお聴きしますが……」などと、使いやすいかもしれません。
でも「相談して、自分が無能だと思われたくない」という気持ちを抱くメンバーもいるかもしれません。
行動分析の観点では、人に望ましい行動を起こしてもらうには、行動を実際にとるまでの「入り口」を簡単にすることが大切だと考えられているんです。
「このやり方を試してみようよ」とか「1ヶ月だけ試しにやってみよう」とか。組織によっては「フィジビリ」なんてワードもいいですよね。
メンバーの行動と仕事の「品質」を切り分けて考えられているか
成果を重視するがゆえに、メンバーの仕事の「品質」ばかりにとらわれていないでしょうか。
品質ばかり意識しているマネジャーやリーダーは、この場面で「そんな提案内容じゃダメだ」「もっと考えてくれ」といった返事をしがちです。
そんなことを言われて、このメンバーは次回からも積極的に提案しようと思うでしょうか?
品質にとらわれてチームに働きかけてくれるメンバーの行動を減らしてしまっては意味がない。
「意見を出してくれて本当にありがたい」という気持ちを伝えた上で、「そのアイデアは、この見方だとどうなるかな?」と一緒にブラッシュアップしていくほうが成果につながるはずです。
「秒でジャッジ」しなくてもいい。いろいろな意見を「置いておく」だけでもチームは良くなる
そうした意見の中にはチームには関係ない個人のわがままととらえられるものもあるでしょう。多様な意見をチームの成長に生かしていくためには何が大切なのでしょうか。
それを「秒でジャッジする」なんて傲慢だと思いませんか?
だから、せっかくいろいろな意見が出るようになったなら、すぐにジャッジせず、まずは置いておけばいいと思うんです。
仮にとんでもない意見が出てきても、それを否定しないで置いておけば、ほかのメンバーは「あの意見よりはマシだから自分も言ってみよう!」と思ってくれるかもしれません。
そうやってさまざまな声が流通するのは、チームが前向きに動けている証です。
この状態になれば、メンバーはもちろん、マネジャーやリーダーも余計なストレスを抱えずにいられると思うんですよね。
こうやってお話を伺う中で、チームの心理的安全性はマネジャー・リーダーの日々の行動の積み重ねで育むことができると感じています。
逆にメンバーの目線として、上司が心理的安全性をなかなか重視してくれない場合に何かできることはありますか?
いま与えられている立場や役職に関わらず、おひとりおひとりの方が、自分の手でチームを良くするという気概をもって、行動を積み重ねてみてほしいと思います。
たしかに、どれもチームメンバー同士からでも実践できるものですね。
だからこそ、マネージャーやリーダーだけに背負わせずチーム全体の課題として考えてもらえたら嬉しいです。
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執筆
多田 慎介
1983年、石川県金沢市生まれ。求人広告代理店、編集プロダクションを経て2015年よりフリーランス。個人の働き方やキャリア形成、教育、企業の採用コンテンツなど、いろいろなテーマで執筆中。
撮影・イラスト
加藤 甫
独立前より日本各地のプロジェクトの撮影を住み込みで行う。現在は様々な媒体での撮影の他、アートプロジェクトやアーティスト・イン・レジデンスなど中長期的なプロジェクトに企画段階から伴走する撮影を数多く担当している。