「合理性よりワクワクを選ぶ」。無理はしないけど利益は出す、すこやかな事業のつくり方──マール・コウサカ×木村祥一郎
自分たちが本当にいいと思うものを、できる限り何かを犠牲にすることなく、嘘をつかず正直につくり、届けていきたい。
頭ではそう願っていても、「流行に乗らないと」「売れるものをつくらないと」など、いろんな事情と心情が絡まり合って、理想通りかたちしていくのは難しいようにも思います。
すこやかなものづくりをして、健康的に事業を回していくためには?
「健康的な消費のために」という姿勢のもと、買う人もつくる人も売る人も、ブランドに関わる人が幸せであれるヘルシーな服と仕組みをつくる、アパレルブランドfoufouのマール・コウサカさん。
「くらし、気持ち、ピカピカ」をモットーに、大阪の町工場で、残業をせず家庭生活も大切に、高品質でちょっとユニークな商品を開発する木村石鹸工業株式会社(以下、木村石鹸)の木村祥一郎さん。
服と石鹸。商品をつくり届けるおふたりは「すこやかなものづくりと事業」をどうやってかたちにしているのでしょうか。オンラインでつないだ画面越しに、語り合ってもらいました。
自分たちがファンでいられるものをつくる
さっそくですが、それぞれが考える“いいもの”をつくるために、意識していることはありますか?
foufouの服は1人でつくっているわけではありません。どちらかと言うとバンドに近くて、デモテープを渡してメンバーにベースラインを決めてもらう感じです。
一人でやっていても、いつか行き詰まってしまうと思っているので、たとえ自分のこだわりをひっくり返したとしても、常にfoufouを拡張していけるものづくりのかたちを探し続けていますね。
それは、つくり手である自分たちが愛着を持って使い続けられるものをつくることです。たとえ結果が出なかったとしても、自分たちが最後までその商品のファンであろうと。
というのも、長い間OEM(受託製造)だけをやっていたので、メーカーでありながら、自分たちでものをつくることに慣れていなくて、リスクや失敗を恐れていたんです。
だから、失敗してもいい、けれどつくることから逃げない。マーケティングありきではなく、自分たちが使いたいものを自分たちで生み出す。ここ5年間は、そういう文化をつくることに力を入れてきたつもりです。
目標は売上の数字ではなく「自分たちがどうありたいか」
以前は、営業部から開発部に「依頼書」を出して社内で審査をしていたんですが、その仕組みを変えました。
真面目な会社なので、僕が数字の目標を立てるとみんな必死に追いかけるんですが、足りない分を無理やりつくり上げて達成をしたときに、その中身に対して、本当にこれでいいのかな? と思うようになって。
数字の魔力にとらわられすぎてしまうのは危険だと思ったので、昨年から、会社の目標を売上の数字ではなく、自分たちがどうありたいかという「状態」に変えたんです。
僕らは一度も売上の数字目標を設定したことがないし、前年比で一喜一憂することもなくて。目先の売上を取るためにセールや広告のような小手先のドーピング的な施策を打つ「数字とのレース」はしません。
そこで、あわせて評価制度も変えました。社員それぞれが自ら目標を決めて、自分が提供する価値に見合った給与を自己申告するようにしたんです。
会社は投資家のような感覚で、結果ではなく、その人の過去の実績や想い、人柄を総合的に見て判断して、未来に対する提案にお金を払います。
会社全体では数字は追わないけれど、追いたい社員は数字を追っているかたちですね。
利益の範囲内で、損得を忘れさせる
というのも僕は、服をつくることはある意味、加害者になることだと思っているんです。
もう1つは、職人さんやスタッフ、関わる人に対してです。僕がつくりたい服を一緒につくってもらっているわけなので、成果というかたちでちゃんと返したい。だから、売れなくてもいいとはまったく思ってなくて、1着1着、1人1人の「1」という数字は常に気にかけています。
数字は気にするけれど、追わないし、追われない。絶妙なバランスなんですが。
非合理な選択をすることも大事だと思っているんです。
これは最近、クラシコムの青木さんとお話してその通りだなと腑に落ちたことなんですが、好きなブランドやお店で買い物をするとき、人って損得を忘れるじゃないですか? でも商売をしている自分たちは完全に損得を忘れることはできない。
だから、仕組みをつくってちゃんと利益を出した上で、一見無駄に思えるようなことをして、損得を忘れるような体験を提供していく。無理をすることなく、利益の範囲内で、お客さんに還元することが大切だと思ってます。
合理性を追わないところに、オリジナリティが生まれる
ハプニングが起きて合理的には解釈できない方に進めば、思わぬ出会いがあったり、思わぬところにたどり着いたり、オリジナリティが生まれていく。そういう、自分では予想も解釈もしきれないことの積み重ねがブランドをつくっていくと思っています。
自分が企んでいることで、まずは社内を驚かせたいんですよね。だから、心が踊ることを思いついても雑談などでもあまり話さないようにしています。
それってすごくもったいないと思うんです。社内を沸かせることができれば、お客さんも沸かせることができると思うので。
でも、このシャンプーはただひたすら開発者がほしいものをつくった。そしたら、語れるものが一切ない製品ができてしまって(笑)。
ところが、今の流行、王道やマーケティング要素は一切排除して、「髪に本当にいいこと」だけを追求したことに、この商品だけのストーリーが生まれたんですね。
大ヒットは狙わず、シンプルに着実に長く成果を上げていく
「定価で買う人を大事にするため」だとおっしゃっていて、反省すると同時に勇気付けられました。
セールって、早い段階で定価で買ってくれたお客さんが損をする仕組みだと思っていて。僕らは新作を待ち望んで買ってくれたお客さんを大切にしたい。ただそれだけのことなんです。
それから、「買うという選択肢を一番最後に持ってきてほしい」というのもすごいなと思いました。
セールや衝動で売れてしまったものを来年どう超えていくか。それこそセールや広告を打ってドーピングするしかない。
僕は怖がりなんで、手堅く、一段一段を登っていきたいんです。わかりやすいシンプルな仕組みの中で、できるだけ細く、着実に利益を出していく。ひたすらそれを積み重ねているだけです。
爆発的なヒットが生まれて売上が上がったとしても、翌年0になったら、その分穴埋めをしないといけない思考になってしまう。
打ち上げ花火的なものではなく、5年、10年、細く長く使い続けてもらえるものをつくろう。そういう姿勢でやっています。
要は、シンプルに自分の手元から届けているだけなんです。昔からのシンプルな商売のやり方を模倣すると、新しく見えるんだなあと感じています。
変わりゆく中で、ずっと変わらない芯を保ち続ける
家庭で使うものをつくっているので、自分たちの製品をちゃんと使う生活を大事にする。残業は限りなくゼロに近いです。
僕はもともとIT企業にいたので、初めは定時に帰ることに慣れませんでしたが、生活用品を作っているのでより、家庭を犠牲にして成り立つ事業であってはならないと今は思っています。いい悪いではなく、根付いてきた文化として守っていきたいと。
foufouようなブランドがどうなっていくのか僕自身も気になるので、この姿勢で、今もこれからもやっていこうと思っています。
会社に染み付いている経営理念や文化、自分たちの価値観は変わらずにずっと大事にしていきいですね。
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執筆
編集
高橋団
2019年に新卒でサイボウズに入社。サイボウズ式初の新人編集部員。神奈川出身。大学では学生記者として活動。スポーツとチームワークに興味があります。複業でスポーツを中心に写真を撮っています。