部下に怖いと思われるのは、「等身大の自分」を分かち合えていないから。リーダーはケアの気持ちを示そう
多くのリーダーは、チームで成果を出すことが求められています。そして、仕事を円滑に進めるために、チームメンバーにアドバイスをします。
しかし、よかれと思ってアドバイスをしているにもかかわらず、メンバーとの間に距離が生まれたり、メンバーの自由な発想が出にくくなったりすることも。
サイボウズ財務経理部の田中那奈も、そんな悩みを抱えるリーダーの一人。意欲的にアドバイスをしてきた結果、周りから「怖い人」と思われている気がするのだそう。
こんなとき、リーダーは自らの考えや行動をどう変えればいいのでしょうか? コーチングやチームビルディングを専門とする、はぐくむ代表の小寺毅さんにお話を伺いました。
「怖い人」というイメージ。まずは等身大の自分を見せて、安心できる関係性を
わたし、チーム内で「怖い人」と思われている気がして……。どうしたものかと悩んでいるんです。
「せっかくならいい仕事をしたい!」と思って、積極的に意見を言ったり、細かくアドバイスしたり、と頑張ってきたつもりなんですが……。
どうも、周りから距離を置かれているような気がして。
相手の状況や仕事へのスタンスを思いやらず、自分の「こうあるべき」というエゴを押し付けて、一方的にアドバイスしていたんじゃないかって。
でも今度は、「本当にこんなフィードバックで伝わるのだろうか」と悩むようになって……。
でも、そんなコミュニケーションを取ってきてなくて……。突然改まって「さあ、ザツダンしましょう!」なんて言い出したら、多分みんなびっくりしちゃう(笑)。
理解を深め合うための第一歩は、生存を脅かされない関係性を築くこと
「自分が意見をいうことで、なにか不利になるんじゃないか」という不安があると、なかなか本音を話せませんよね?
待遇が下がるとか、尊厳を傷つけられるとか。それを恐れる関係性では、本音で語り合うのは難しい。
そうなると部下は、常に上司の反応を伺うようになる。「この人はわたしをどう思っているんだろう?」「自分の意見を聞いて、どう処遇するつもりなのか」と警戒してしまうのです。
この前提がある上で、よりよい関係を築くには、上司から先に自己開示をするのが重要です。
逆に、上司が手札を見せないままに「あなた(部下)は、何を考えているの?」なんてたずねたら、とっても怖いじゃないですか(笑)。
善意ですれ違うからこそ、部下の前でカッコつけなくていい
友人にはいくらでも素で話せるのに、チームメンバーに対しては、自分の「人となり」をあまり見せられていない気がします。
とはいえ、いざ自己開示をしようとすると、ついついカッコつけちゃうんですよね。
みんな、それぞれの立場でチームをよくしようと思っている。言い換えれば、すべての行動は善意から始まっているはずなんです。
ついカッコつけてしまうのも、「信頼してほしい」という善意スタートの行動なのに、結果的に部下の警戒心を高めている。いわば、善意がすれ違っているわけです。
部下の前でカッコつけるのではなく、弱さや本音も公開する。そうすることで、部下もまた、悩みや本音を話しやすい環境が生まれ、強い絆が結ばれるのではないでしょうか。
「怖い」と思われないためには、まずフィードバックからの「対話」を意識する
冒頭の悩みに戻るのですが、「怖い」と思われないようにするには、どうすればいいんでしょうか。
そもそも、アドバイスとは「相手に行動を促す声かけ」です。一方、フィードバックとは「客観的な事実を認識してもらう声かけ」を指します。
よいフィードバックをするには、以下のように、3つのステップを踏む必要があります。
1. 事実だけを伝える
2. 事実に対して自分が感じたことを伝える
3. 相手に問いかける
1. 今回は算数の点数が〇〇点だったね(事実)
2. わたしは、〇〇点は低い点数だと思ったよ。もう少し勉強法を工夫したほうがいいと思う(感じたこと)
3. あなたはどう思う?(問いかけ)
先ほどの例で言えば、「今回の算数の点数は〇〇点だったね」と伝える形です。
今回のケースであれば、「○○点は、満足できない点数だ」が事実かどうかを、子どもとすり合わせておくわけです。
その上で、「もっと勉強時間を増やしてほしい」「勉強法がよくなかった」といった自身の解釈を伝えます。
とはいえ、気を抜くとつい、望む方向に「圧」をかけちゃいそうで……。あらかじめ用意された結論(勉強しなさい)に誘導してしまうのでは、と。
自分の「こうすべきだ」という基準や、怒りの感情を脇に置く訓練が日々求められます。
アドバイスによって、メンバーとの距離が生じ、可能性を閉じ込めてしまうことも
アドバイスって、実はとても「怖い」行為なんです。
そして、アドバイスが効果を発揮するには、そもそも「アドバイスを受け入れられる関係性」がなくてはならない。
これが構築できていないと、たとえ「よかれと思って」のアドバイスでも、相手との距離はどんどん遠のいてしまいます。
アドバイスできるのは、自分の知っている範囲だけなんです。だから、先回りしてアドバイスをしてしまうと、部下の思考も「上司の知っている範囲」に閉ざされてしまいます。
メンバーが思うままに意見を発信し、上司も知らなかった領域が拓けていく。それが理想です。
安心安全な関係性を築くには、相手の考えを良い・悪いで評価しないこと
自分の意見に対して評価されている感覚があると、「いいことを言わなくちゃ」という強迫観念が生じてしまうものなんです。
だからこそ、いろいろな考え方や選択肢を受け止めるオープンなマインドで、相手の意見をたくさん聴く。
それを繰り返していけば、徐々に「評価されている」という感覚がなくなり、自由に話しやすくなります。
しかも、そのことにまったく自覚がありませんでした。一連の振り返りで、アドバイスや質問をするのが、ちょっぴり「怖く」なってきました……。
それと、リーダーは次の2点も意識するとよいでしょう。1つは、「自分のアドバイスは、万能ではない」と胸に刻むこと。こうした姿勢なら、自然と伝え方も柔らかくなってくるはずです。
もう1つは、ときに相手に問いかけてみること。「尊敬する〇〇さんは、この状況をどう打開すると思う?」「自分が自分にアドバイスするなら、何を伝える?」とか。相手の考えを引き出す意識で、質問してみるといいでしょう。
アドバイスも、質問も、ていねいに付き合いさえすれば、相手への理解を深める手段になるはず。ポイントを押さえつつ、どんどん実践してみてください。
リモート・対面限らず、余白をつくって「ケアの気持ち」を示そう
就業時間中は業務のことで頭がいっぱいだったので、コミュニケーションに時間を使うのは、どこか違うなと感じていました。
でも、仕事の一環として、コミュニケーションの時間を積極的に確保したほうがよいのかもしれません。
いまの会社って、最短最速で利益を生んで、効率も重視して、という風潮がありますよね。そこにテレワークが普及して、コミュニケーションの「余白」がますます削られていく。
結果、関係性を築きにくくなり、チームワークをうまく発揮できなくなる。
そういうとき、「そんなに悩んでいたなら、もっと早く言ってくれればよかったのに!」と感じていました。
でも、もともと業務の「余白」で適切にコミュニケーションを取れていたら、そんなふうにならなかったのかなって。
ひょっとすると、いま多くの会社が効率を求めるがゆえに、非効率になっているのかも。仕事を円滑に進めるには、「余白」が大事だったんですね。
そういう人には、まず「余白」を削ったことで生じた「痛み」に気付いてもらう必要があります。部下が相談しづらい雰囲気になっているとか、チームの一体感がなくなっているとか。
時に立ち止まって、「どこかに痛みがないか? 本当にこれでいいのか?」と内省することが求められています。
その前提を頭に置いた上で、おたがいに話し合う場をもつのがいいのかも。
一方的に「アドバイスしてやろう」ではなく、相手をケアする気持ちがあるかどうか。そして、その気持ちをどう表現できているか。
これらを定期的に自己点検しつつ、試行錯誤を重ねれば、きっとよいチームになるでしょう。
企画:横山智之(サイボウズ) 執筆:夏野かおる 編集:野阪拓海(ノオト)
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執筆
夏野かおる
フリーランスの編集者・ライター。高等学校教諭一種免許状(国語)保有。京都大学大学院博士課程指導認定退学(博士論文準備中)。ライターとしての専門分野はICT教育・STEAM教育。趣味はゲーム。