きれいごとだらけのSDGsについて考えたら、これからの企業のあり方が見えてきた──PIVOT竹下隆一郎×サイボウズ青野慶久
SDGsについて経営者からは、よく「メリットがわからない」「どこから始めていいのかわからない」「人手が足りない」といった声が聞こえてきます。SDGsはきれいごと、腹落ちしづらいというのが、多くの経営者たちの本音ではないでしょうか。
一方、PIVOT株式会社でチーフSDGsエディターを務める竹下隆一郎さんは『SDGsがひらくビジネス新時代』(ちくま新書)の中で、いま企業が大きな転換点にあることを指摘。
この考えにサイボウズ代表取締役社長の青野慶久も賛同し、企業のあり方を見直す重要性を唱えています。
SDGsを切り口に、ビジネスは今後どのように変化していくのか、その変化は企業にどんな影響をもたらすのか。お二人の対談を通じて、そのヒントを探っていきました。
これからは国ではなく企業が社会を変える
たとえば、僕が国に対して訴訟を起こしている「選択的夫婦別姓」って、大抵アンケートを取ると国民の約7割が賛成しているんです。
でも、政治家が実現に向けて動かず、むしろ政治が足を引っ張っている状態で。僕たちは国というものを大事にしすぎている、期待しすぎていると思うところがあって。
一方、アメリカの民泊大手Airbnbがアフガン難民の再定住を助けるため、2万人に住宅を一時無料提供しているように、社会貢献をするカッコいい企業がどんどん増えてきています。
だったら、巨大な力をもつグローバル企業が頑張れば、国が果たす役割はいらなくなるのでは、と。そんなふうに思うんです。
この考え方は、村上誠典さんという方が書いた『サステナブル資本主義』という本から学びました。
極端なことを言えば、最初は消費者の賛同がすぐ得られてなかったとしても、社内の人たちを説得したり、経営者が責任を持って舵を切ったりすることもできてしまう。
いまは変化にスピード感が求められている時代ですし、少人数でスピーディに意思決定できる企業のほうが、国よりも社会を変えやすいんです。
そもそも投資家は、現在の利益よりも未来の利益に投資するもの。だからこそ、大きなビジョンを持って社会に貢献しようとしている企業のほうが、長期のリターンを上げてくれるだろうと期待できる。
たとえば、家電メーカーが「もっと大きな画面のテレビをつくる」と言っているだけでは、先が見えてしまいますよね。
一方、Netflixのように「最高のストーリーを届け、世界中を楽しませる」という長期的なビジョンを掲げていれば、投資家への信用にもつながります。
きれいごとは長期的に社会のニーズを満たしていく意思表明
たとえば、Amazonは「インフラを取る」戦略のもと、当初は赤字を垂れ流し続けましたが、いまは大成功していますよね。
そういう意味では、SDGsに関しても「儲かるからやる」ではなく、「やったら後で何か新しいビジネスチャンスが生まれる」という発想で、グローバル企業は取り組んでいる気がします。
そんなふうに大きな目標を掲げて、共感を集め、巻き込んでいくのが、「インターネット経済」なんです。
そうした時代の流れを理解している“新しい現実主義的”な人たちが、いま社会課題の解決を目指しているのだと感じています。
SDGsは矛盾する。だからこそ、パートナーシップが求められる
どれか1つでも興味を持てればいいのか、すべてに興味をもつべきなのかだと、どっちなんでしょう?
たとえば、気候危機で災害が発生したときに、被災地の避難所に生理用品がそろっていないなど、男性中心に考えられている点も指摘されています。
そう考えると、「5.ジェンダー平等を実現しよう」と「13.気候変動に具体的な対策を」はどちらもつながっていますよね。
最近は海洋プラスチックごみ問題のため、プラスチックから紙のストローに変える動きがありますよね。でも、そうするとプラスチック製品を作っている人の仕事がなくなってしまいます。
つまり、「14.海の豊かさを守ろう」を立たせると、「8.働きがいも経済成長も」が立たなくなってしまう。
これはまさに、SDGsの最後の目標「17.パートナーシップで実現しよう」なんです。だから、SDGsにおいてパートナーシップが最後に掲げられているのは、とても意義深いなと思います。
共存共栄はきれいごとではなく、これからの生存戦略
よく上の世代から「いまの若者はぬるくなった」という話を聞きますが、実際は協力しないと生き残れないという、よりシビアな問題に向き合っているのかな、と。
いま伸びている企業の特徴も、エコシステム重視なんです。複数の企業で相互に協力しあってビジネス環境を構築して、社会全体で価値の総和を増やしているパートナーシップ型の企業が強い。
それこそ、Googleに対して自分が払っているのは、YouTubeファミリープランの1,780円だけですから(笑)。
そうした観点からも、誰かが勝つ(儲ける)よりも、みんなで共存・共栄というきれいごとのほうが、ビジネス的においしいんだな、と。
あの時、「グローバル経済はつながっているから、みんなで危機に備えよう」という意識が芽生えた気がするんです。
新型コロナウイルスもそうです。自分たちの地域だけロックダウンしたとしても、他地域でパンデミックが起これば、いずれ影響を受けることになる。
だから、世界的にはこうした危機に備えて「サプライチェーンの先の先まで考えなくちゃいけない」というモードになっていて。日本の多くの経営者たちは、まだそこに気づけていないような気がしています。
巨大企業のダークサイドへの対処が、新たな政治の役割になる
でも、彼らの月1000円払える人を増やすビジネスモデルを考えると、あまり貧富の差がなく、すべての人が平等に豊かになったほうが、都合がいいと思うんです。
その意味でも、ビジネスときれいごとが一致してきた気がします。
加えて、企業が社会を変えていくのは良いことではあるものの、それって「1人1票の原則」に反するのでは、という議論もあって。
つまり、企業がそうした影響力を使って、政治や経済をハックしてしまう可能性も出てくるんです。
そこでは、新しい経済の仕組みを理解した上で、フェアなルールをつくる、高度な政治が求められると思います。
SDGsもそうですが、これからは一国ではなく、環境問題におけるEUのような国際的にルールメイクする高度な技術が求められそうですね。
日本としても、今後その辺のルールメイキングに関わりたいですね。
自分の思いを語る経営者に、自ずと人はついてくる
経営者は、そうした独自の価値観をもう少し洗練させて言語化し、グローバル社会に発信すべきだと考えています。
ただ、多くの日本の経営者は、発信して巻き込むのが苦手なんですよね。その点、サイボウズは社会に訴えてうまく巻き込んでいますが、なぜそのような動きができたのでしょうか?
ビジネスで解決できないことは、Twitterで発信したり、政治に訴えかけたりするなど、別の方法をとっています。
ただ、なぜか日本の経営者は「この立場ならこんな発信をしてはいけない」という暗黙の足かせがあるように思っていて。
むしろ、それを外して、本音で自分の思いをもっと語ったほうが、喜ぶ人が多いんじゃないかと。もちろんそういう発言を嫌う人もいますが、5%の市場を取れればビジネスは成立するので。
そしたら先日、北欧のメディアが取材にきたんですよ。僕らからしたら北欧って、いろんなことが進んでいるイメージがありますよね。
でも話を聞くと、国をあげて男女平等を進めた結果、女性の公務員率が高くなった一方で、一般企業では依然として男性優位が残っているらしいんです。
SDGsに完璧を求めず、まずは一歩踏み出す
何かを立てると何かが立たないのがSDGsなので、矛盾を覚悟のうえで踏み出す。やってみて失敗したら撤退すればいいし、成功すれば続ければいい。何も行動しなければ、ずっとこのままなので。
たとえば、コンビニやスーパーは膨大な消費者データを持っています。そこで、わたしたちが大豆由来の製品を買い、お店の売り上げが上がったというデータが出れば、企業は大豆製品への投資を始めます。
消費者は「個人が行動しても意味がない」と思うかもしれませんが、めちゃくちゃ意味があって。SDGs時代の市民がもつ力って、実はものすごいんですよ。
というのも、企業はSNSでエゴサーチをしており、個人の発信や検索にも大きな影響を受けているから。
だから、意識を変えるというより、「いま世の中は一人ひとりが大きな力を持っていて、誰かに影響を与えている」と考えるだけでいい気がします。
個人レベルで言えば、テレビCMよりも「友人が食べていた」というほうが広告効果がある。この動きは指数関数的に広がっていると思います。
それこそ、資本主義の中で新しいイノベーション・働き方が出てきて、いまの資本主義を変えていくのではないでしょうか。
ある意味それは、人間のアイディア・パワーを信じることなのかな、と思っています。
企画:高部 哲男(サイボウズ) 執筆:中森りほ 撮影:栃久保誠、岡田晃奈(竹下氏アイキャッチ写真) 編集:野阪拓海(ノオト)
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