理想を実現できれば、経済性はちゃんとついてくる。 小杉湯の「100年後の文化を見つめる」パートナーシップ──小杉湯原宿 番頭・関根江里子さん
昭和8年に創業した高円寺の老舗銭湯「小杉湯」。変わらず“街の銭湯”でいるために、変わり続ける。そんな思いで、2024年4月、東急プラザ原宿「ハラカド」に2店舗目となる「小杉湯原宿」を開業しました。そこでは企業の垣根を超えたコラボレーションが実施されています。
小杉湯のぶれない思いに共感する人々が集まり、協働することで新しい価値が生まれ、互いが長期的に活動を続ける仕組みができていく。その姿は、サイボウズが重視する「多様な個性を活かしたチームワーク」と重なります。
100年後も街の銭湯としてあり続けるために、他社と協働しながら、理想と利益の両立をどう実現しているのだろう?
そんな問いを携えて、サイボウズ式編集長・神保麻希が「小杉湯原宿」の番頭・関根江里子さんを訪ねました。
人を選ばず受けいれて、誰にも閉じない“街の銭湯”
目先の利益ではなく、100年後の文化を見つめる
小杉湯原宿は「100年続く“街の銭湯”をつくる」ことを本気で目指しているので、あらゆる判断基準が目先の利益にはないんです。
前職時代は「1か月先をどう乗り越えるか?」という超短期視点でしたが、いまは常に「10年後も続けるために、いまどうするか?」という長期視点で物事を考えています。
開業時、イベント時に街の銭湯が大混雑して「3時間待ち」のアミューズメントパークになってしまったら、お客さんもスタッフも疲弊してしまう。
私たちが大切にしたいのは、街の銭湯として、みなさんの日常にそっと寄り添うこと。街の人たちに平日も含む週1回のペースで通ってもらいたいんです。
混んでいる銭湯に通いたいとは思いませんよね? 2回目も3回目も来てもらいたいから、混雑を避ける運営を続けています。
「小杉湯原宿」の銭湯文化をつくっていくスタートラインに立てるのは、いまから5年後だと思っています。
「思い」をベースに築く、長期的なパートナーシップ
一見、突拍子もない決断をして驚かれるんですが、「ハラカド」を運営する東急不動産さんには、何年もかけてやっと「小杉湯さんならそうするよね」と理解してもらえるようになりました。デベロッパーとテナントという関係性ではなく、もはや運命共同体ですね。
花王さんって1882年の創業以来、石鹸をつくることから始めて日本の公衆衛生を支えてきた企業なんですね。清潔な日本の公衆衛生の文化は銭湯と花王が支えてきたと言っても過言ではない。だからどうしても花王さんとやりたかった。花王さんじゃなきゃだめだった。
どの企業さんも1社ずつ、私たちの熱い「思い」を伝えてパートナーになってもらいました。小杉湯の営業に上から順に当たっていくようなアタックリストはないんです(笑)。コラボできれば誰でもいいわけではないので。
10年後、20年後も変わらずお付き合いできる企業さんと手を組んでワンチームになる。私たちが思い全開なので、パートナー企業の担当者さんたちも思いを持って動いてくれるんです。
「理想」を出発点に、「経済性」も置き去りにしない
私たちは、文化をつくることは、長期的に見て、経済が大きく回ると確信しています。「理想と利益」、「文化と経済」を天秤にかけてはいないんです。100年続く“街の銭湯”をつくるという理想を追い求めて実現できれば、経済性はちゃんとついてくると考えています。
パートナー企業さんにも、直近でテレビに何本出たかではなく、一緒に生涯商品を使い続けてくれるファンを増やしたいと伝えています。
同じ理想をもつ人たちが、長く働ける組織づくりを
だからコアなメンバーを採用するときにいちばん見ているのは、小杉湯の理想とその人の理想が一致するか。社会にとっていいことをしたい“公益フェチ”であるかどうか、ですね。理想が一致していれば、あとは人を軸にやり方を考えていけばいいと思っています。
お風呂に浸かったときのお客さんの目線に合わせる。そのやさしさのラインを共有できていれば、耳が聴こえない人には手紙を添えるとか、文字が見えにくい人のためにルーペを置くとか、やさしい場づくりが自発的に行われるんですよね。
組織の拡大は目指していないので、正社員が20人以上になることはないと思うんですが。変わらない場所で、ともに考えて変わり続けていけたらいいなと。
すべてはその日々の営みでしかなくて。365日続けて、5年、10年積み重ねた先に「小杉湯原宿」にしかない文化が生まれる。そう信じて、私たちは今日もここで湯を沸かします。
企画・取材:神保麻希/執筆:徳瑠里香/撮影:もろんのん
高円寺・小杉湯にて、サイボウズ式 特別展示
「ワークお湯バランス」を実施中です。7/31(水)まで!
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執筆
撮影・イラスト
もろんのん
明るくポップな世界でトラベルや人物撮影を行うフォトグラファー。雑誌Hanakoで、『#Hanako_hotelgram』のシティホテル連載、『弘中綾香の純度100%(写真)』担当。
編集
神保 麻希
サイボウズ株式会社 マーケティング本部所属。 立教大学 文学科 文芸・思想専修 卒業後、新卒で総合PR代理店に入社。その後ライフスタイル系メディアの広告営業・プランナーを経て、2019年よりサイボウズに入社。