料理だけは「ぼくが作ったら負け」だと思ってた――イクメン社長が忘れていた素朴な幸せ
2014年に青野社長のイメチェン企画を断行したサイボウズ式。今年もやります、チャレンジ企画! ということで青野社長に今回チャレンジしてもらったのは、ずばり「料理」です。
前編では、大学時代に週11個のカップラーメンを食べていたせいで「体が黄色い」と友人に言われたことがあるという衝撃的な過去を暴露した青野社長。後編では、この企画を通じてイクメンに磨きをかけた姿を見ることができるかもしれません。『青野社長の料理教室』開講もそう遠くない……?!
料理はストレス解消になる
さて、後編が始まりました。枝豆のなかでも弦が長くて、粒が大きく香りのいい「秘伝豆」を使って、枝豆ごはんを作っていきますよ。
では、さっそく始めましょう!
子どもが混ぜごはん大好きなので、これはモノにしたいですね。
塩少々と昆布を入れると、枝豆の味が引き立ちますよ。お醤油は、素材の風味をひき立てます。ちなみに、ここで使う昆布はさっきの出汁取りに使ったものです。
おお、こんなところにも。
そうなんです。お出汁を使えば簡単においしい混ぜごはんがつくれるので、ぜひご家庭でも挑戦してみてください。では、沸騰するまでに擬製(ぎせい)豆腐の生地を完成させましょう。
では、先ほど作っていた生地に卵を4つ割り入れます。
卵割るくらいならね、できるね。あ、いま余計なことゆうたね(笑)
あらためて気付いたんですけど、仕事をやっていると無心になれる瞬間ってあまりないんですよね。常になにか余計なことを考えている。その点、料理をしていると無心になれるというか。
ストレス解消になったりもしますからね。
ここで、ガチャガチャと卵をかき混ぜていた青野社長に「ボウルの下に濡らした布巾をひくと安定しますよ」と先生からのワンポイントアドバイスが。これは帰ってからもすぐ使える学びだと大喜びでした。
料理に対する不安感って、分量の感覚があるかどうかで全然ちがうんだよね。“少々”ってなんだかわからないし、今日も「こんなに入れていいの?」と思う場面が多い。
そうですよね。実際に作ることで感覚を覚えていただくしかないところもありますが、レシピを作る側も分量の書き方を意識できるといいですよね。
擬製豆腐は最初に伝えたようにとても焦げやすく、厚みがありますので、弱火にしてゆっくりと火を通していきます。ごはんにも蓋をして、およそ10分~15分くらい置いておきましょう。
料理は化学実験みたいなもの
では、お出汁をたっぷり使ったお味噌汁を作ります。具には、サッとゆがいたきぬさやを使います。ポイントは、お味噌とお出汁の割合ですね。
待ってました! なかなか手を出したくても出せないんですよ。味噌をうまく使えるようになるとレパートリーが増えますよね。
そうですね。さて、お味噌汁にはお出汁を入れます。お味噌は沸騰すると風味が飛んでしまうので、入れる前に沸騰させておくといいですね。
きぬさやのスジは、取れなかったら取れなかったで大丈夫ですよ。それだけ細いということですので、口当たりも悪くなりません。
なるほど。やはり素材を知るって大切ですね、納得です。
では、8割を目安に味見をしつつ、お味噌の量を調節してください。
8割! 8割ですね、8割! いやぁ、責任重大だな。
先にお味噌汁を作っておいて、置いておくと焦らずに済みますね。きぬさやなどの食感を楽しみたいものは後でいれるといいですよ。
なるほど、理に適っていますね。今日の学びとしては、食材を知ると手順や流れをもっと考えられるようになるということがあります。
厚いものは弱火で調理するとか食感を残したければ後に入れるとか、当たり前なんですけど気付かなかった。
経験を重ねてわかることもあるので、一番の上達方法は実際に作ることだと思いますよ。
レシピを増やすというよりは、ある程度数を決めて練習した方がいいんですか?
一番は食べたいものを作ることだと思いますね。あまり気にせず、食べたいものを作るのがいい。その方が美味しく作ろうっていう意欲がわきますよね。
たしかに。食べたいっていう食欲で選ぶのが一番ですね!
料理の楽しいところは、自分の食べたいものを作って食べれるというところ。「料理を楽しみ、食事を楽しむ」ことが上達への一番の近道ですね。
そして、ついに一大イベントの時間がやってまいりました! ぶあつい擬製豆腐を裏返すという任務が先生より青野社長へ言い渡されます。
……失敗するイメージしかわかないのはさておき、豆腐の材質が変化してるのが面白いね。実験みたいですよね! インプットがあって、アウトプットがある。料理ってつまりそういうものだよねって思う。
たしかに、ある程度のところまでは、科学的に決まったことをきちんと手順通りにやっていけばできますね。でも最終的には、味見などの五感を頼りに作っていくので、決め手はイメージや感覚になるのかなと思います。
なるほど。今まで料理をしたことがない理系パパさんは、意外と料理との相性がいいかもしれないですね。「これは化学実験なんだ」と思えば苦手意識もなくなって料理を始める一歩になるかもしれない。
レシピづくりなどは、特に実験に近いですよね。
たしかに! レシピといえば、このあいだチャーハンを作ろうと思ってクックパッドさんで検索したらレシピがたくさん出てきて驚いたんですが。見てるだけで想像がかきたてられて、あれもこれも作ってみたくなりました。
その中から王将のチャーハンを再現したものを選んで作ったんですが、このレシピの工程が面白くて。白身とごはんを先に混ぜておくとパラパラになるんですよ! これ誰が実験したんだろう。
あ、15分たちましたね。擬製豆腐の工程も面白いところに来ましたよ。これを裏返して裏面もじっくり焼けば完成です。
ひっくり返すとかもね、料理のこわいところ。
とりあえず、うまくひっくり返せてよかったです! 最初に聞いたときは無理だと思ったんですが、ちゃんと手順をふめばテクニックがなくても大丈夫なんですね。
料理はコミュニケーションツールになる
さて、次はから揚げを揚げていきましょう。片栗粉と小麦粉を混ぜ合わせたものを使用します。片栗粉は外の衣をカラっとさせ、小麦粉はしっかりと肉のうまみを中に閉じ込めます。
衣の二度づけでよりお肉をコーティングして、うまみと口当たりの良さを上げましょう。
そういえば、最近、妻と料理について話すようになりました。人の作ったものに興味が出てきて、このあいだ「これどう作ったの?」と聞いたら「結婚して15年、料理について初めて聞かれた」と言われましたよ。コミュニケーションの一環で、夫婦で料理をつくるのもいいかもしれないなと思いますね。
本社にもキッチンがあるんですが、それは社員が「キッチン(料理)はコミュニケーションの場になる」と言うから作ったものなんです。
料理は片付けが大変だったり、閉鎖感があったり、ストレスになることもあると思うんですけど、そういう風に夫婦間コミュニケーションがあるといいですね。
自分が料理をしているかたわら、夫はとなりでテレビを見ているだけで「料理は出てくるのが当たり前」だと思っている。その挙句、出てきた食事になんの感想もない……。
たしかに、世の主婦たちが「ちょっと待て」となる気持ちがわかってきますね。やってみるとわかるけど、料理って意外と神経使いますし。
料理は単純作業じゃなくて、五感をフルに使いますからね。五感すべてを使うのって、料理くらいじゃないですか?
なるほど。味覚・嗅覚・視覚・触覚・聴覚すべて使いますね!
油の温度を確認するのには、視覚と聴覚を使いますよ。菜箸を油につけて確認します。油が170度になると、菜箸の先がブクブクと泡立ちますので、よく見て聞いていてくださいね。
油があたたまるのを待つ間にごはんが炊けたようなので、サクサクとほぐしておきましょう。
そろそろ170度になったと思います。菜箸をつけてみてください。
ブクブクしていますね!
では、手際よく手羽先を入れていきましょう!
やる前はできるわけないと思っていましたが、料理ってひとつひとつ積み重ねていけばできるものなんですね。まだ油はこわすぎて、家では一人でできなさそうですが、頑張りたいですね。今度は「これちがう」と子どもたちに言われないように(笑)
ところで、なんで料理のような大事なことをもっと学校でちゃんと教えないんですかね?料理ができたら、なんだかんだ生きていけると思うんですよ。
そうですね。家庭科の授業があってもカバーしきれていないところは多いですよね。お出汁が取れるようになるだけでも料理が身近なものになると思います。
センスが光る?盛り付けはみんなちがってみんないい
それでは、さいごに盛り付けをして完成です! おいしいものをよりおいしく見せる盛り付けにしましょう。
まず、酢の物を盛りつけていきます。和食の盛り付けのポイントは、余白をとることと高さを出すことです。そうすることで、品よく美味しそうに見えますよ。
なるほど。家だとどうしてもてんこ盛りにしてしまいます。
つぎは、擬製豆腐を切っていきましょう。今回は形がシンプルなので、並べ方に工夫してみます。四角いお皿にナナメで配置するときれいに見えますよね。
すごい。このひと手間、考えたことなかったです。
最後のから揚げの盛り付けのポイントは、骨を外側に向けて並べること。空いたところには、ミドリとして旬のかぼすを置いたら完成です! 炊き立ての枝豆ごはんにあたたかなお味噌汁を協力して取り分け、揚げたてから揚げとできたてフワフワの擬製豆腐、そしてひんやりと冷えた酢の物を並べます。
幸せはすぐ近くに落ちている
ついに! 実食のお時間がやってまいりました。はじめての料理教室。お出汁を取るところから始め、盛り付けまで5品を同時進行でしっかりと作り上げた青野社長。手間をかけた分だけ感動もひとしおです。まずは、お味噌汁を一口。
「から揚げは男のロマン」と言っていた青野社長。大好きなから揚げがおいしく出来ていることに喜びが溢れます。
青野社長は、今回の料理教室で食材を知ることの大切さを知り、これからは食材と仲良くなれそうだと話します。そこにはもう、「料理だけはぼくが作ったら負け」と思っていたというかつての姿はありませんでした。
ぼくもそうだったんですが、仕事をしすぎて料理の楽しさを忘れてしまっている人が多い気がします。
きっと東京にくると素朴な幸せの優先順位が下がってしまうのかもしれません。幸福は近くに落ちているのに、気付けなくなってしまう。
青野社長の言葉にその場にいる全員が深くうなづきました。また、「料理初心者にありがちな悩みが解消されたから、もっと料理を楽しめそう」とのことでした。
ぼくは凝り性だから、料理との相性もいいと思う。ハマっちゃうね。我ながら本当においしくできてる。先生、ありがとうございます!
いえいえ! ぜひお家でも作ってみてくださいね。
それからどうなった?
あの料理教室から早一ヶ月。以前お子さんに「これじゃない」と言われたから揚げの再チャレンジは? 料理に対する心境の変化は? などなど、その後の料理事情はいかがなものか青野社長に直接インタビューをしてきました!
青野さん、先日の料理教室のあと「パパ料理デー」では何を作ったんでしょうか?
このあいだ『グッチ裕三のハッピー晩ごはん』を買って、その中に書いてあった「ナポリタン焼きそば」を作りました。生まれて初めて料理本というものを買ったんですが、自分じゃ思いつかないようなレシピがたくさん書いてあってとても楽しいです。
グッチ裕三さん……そのチョイスに理由はありますか?
ありますよ。表紙に子供の好きそうな料理がたくさん載っていたので。あとは、古本屋でリーズナブルだったからこれに決めました(笑)
あとは、回鍋肉も自分の分だけでしたが作りましたよ。冷蔵庫をあけて残り物をチェックしながら「あ、しめじあるやん。ラッキー」と思ったり、足りないものを買いにスーパーに行ったりして、もう主夫かと。最近は、台所が汚いとムカつくようになってきました(笑)
完全に主夫化してきていますね(笑)。今度は、27階のキッチンスペースで青野社長が料理教室をひらくっていうのはいかがでしょう?
夢じゃない話ですよ、それ。いまは料理に対して自信がついてきたし、レベルはさておき、料理が楽しいのでいずれはやってみたいですね!
それは楽しみですね。ありがとうございました!
思った以上に育成されていたようで、青野社長は「イクメン」から「主夫」に進化しようとしていました。
料理にハマる男性が増えつつある昨今、果たして青野社長の料理教室はニーズがあるのか? そもそもサイボウズ式による(無茶ぶり改造)企画の次回はあるのか――?
写真:尾木司、文:石川涼子
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