人海戦術の発想を捨て、「早く仕事を終える」社会を肯定する──クラシコム青木耕平×サイボウズ青野慶久
ECサイト「北欧、暮らしの道具店」を運営するクラシコムの代表取締役 青木耕平さんが、サイボウズ社長 青野慶久の『チームのことだけ、考えた。』を読んだことで実現した2人の対談。
「「私は長時間働いているのに、あの人は……」とならない理想の立て方」に続く後編は、チームでの理想の働き方について意見を交わします。
クラシコムの「北欧、暮らしの道具店」と「サイボウズ式」のコラボレーションでお届けしています。「 上手なチームワークの作り方(対談・サイボウズ青野社長×クラシコム代表青木) - 北欧、暮らしの道具店」もあわせてどうぞ。
日本・欧州圏の働き方の違いは本当に顕著
クラシコムは18時に全員が退社するなど、今の日本でややマイノリティーに分類される働き方をしているかもしれません。マイノリティーな働き方ができる会社を作っておけば、仮にあとでマジョリティーな働き方を選びとるのも比較的容易ではないかと思っていて、今は自分たちのややマイノリティな働き方を徹底できるように、オペレーションや組織を磨いている段階だと考えています。
なるほど。
僕らがなぜマイノリティーな働き方をしているかというと、女性が8割近くを占める会社としてスタートしたからです。家庭をもつ人も多いですから、彼女たちにとってはマジョリティーな働き方、社会にとってはマイノリティーな働き方、ということなのかもしれません。
ただ、最近は男性も増えてきていますし、女性の中にも「9〜18時の働き方じゃないほうがいい」と考える人もちらほら出てきている。だから『チームのことだけ、考えた。』を読んで、9つとまではいかなくても、2〜3のワークスタイルを作らないといけないかな、と最近考えていたところでした。
なるほど。
経営者のミッションとして、お客さまのみならずスタッフにも、最大限の価値を提供しなければ、と僕は考えているんです。
もちろん順序はあって、「僕(経営者)の直接的な顧客=スタッフ」「スタッフの直接的な顧客=お客さま」だというのが、僕の考え方です。そこの価値を最大化すれば、あとはスタッフがしっかり動いてくれるだろう、ととらえていて。
お話聞いていて、大阪に住んでいた独身時代の記憶が、ふとよみがえりました。近所にセブン-イレブンができて、レジのおじさんと仲良くなったんです。
当時、僕は夜中の1〜2時ころにふらっと買い物に行くことが多くて、そのおじさんがいつもつらそうな顔してたんですよ。それを見て純粋に「大変だなぁ」と思いましたし、申し訳ないなとも感じました。僕みたいな人が夜中にやってくるから、つらそうなんだよな、と。
その後、仕事でドイツに行く機会があったんです。日本とは対照的に、ドイツだとお店が18時くらいに一斉に閉まっちゃって。日本の24時間営業のコンビニに慣れきっていた僕としては「何これ? 信じられん!」みたいな気持ちで。
わかります。そのへんの感覚における日本と欧州圏の違いは顕著だなと僕も感じました。
ほんとにそう。仕事が終わって夜、買い物に行くつもりだったんですけど、コンビニのおじさんの顔を思い出して、「もしかしたら、ドイツのやり方が正しいんじゃないか」と考えたんですよ。
本当に人間のことを思うなら、夜はお店を閉めたほうがいい。お店の人も休むほうがいいんですよ。僕みたいな夜行性の人でも、ほんのちょっと工夫すれば、昼間に買い物の時間くらいはとれますし。18時でお店を閉めちゃうドイツのほうが、断然「進化系」だと思うんですよね。
バカンス中の担当者と連絡が取れないのはあたりまえ
北欧でまったく同じことを思い知らされました。予備知識がほとんどないまま、初めて北欧を訪れたときのことです。僕たちが知っているようなグローバル企業のビルが、19時くらいに電気を落としていて。
今思うと無知で恥ずかしい限りですが、当時の僕はそれを見て「北欧の人はあまり働かないから、裕福じゃなさそうだなぁ」と解釈したんです。帰国して調べてみると、1人あたりのGDPが日本より断然よくて「えーっ!?」と。
僕の方が長時間働いているのに、明らかに負けているじゃないか、とびっくりして。ただ、思い返してみると、彼らが僕たち日本人と比べて何倍も優秀、というわけでもないんですよ。現地でたくさんのビジネスマンと会いましたが、能力的にはそう変わらない気がしました。
何が違ったんでしょうか?
彼らには人海戦術という手段がないんです。人口が多いスウェーデンでも900万人、フィンランドでも500万人程度。「人間がめちゃくちゃがんばる」という発想をはなから捨てている。
日本の常識は世界の非常識、とはこのこと。僕が北欧で著書を出していたら「あたりまえだろう」と言われそう。日本では「なんて革新的なんだ!」とかほめられていますが(笑)。
たしかに。日本だと「なんでこんなに早く店じまいするんだ」と怒る人もいますが、向こうではそれが一切なかったんです。社会全体が、仕事を早く終える状況を肯定していて。「社会ってそういうもの」「お店は18時に閉まるもの」「バカンスに行った担当者とは4週間くらい連絡が取れなくなるもの」って。
4週間!?
サラリーマンとして働いていた時期、ヨーロッパの会社とある製品の部品についてやりとりをしていて、こう言われたんです。「担当者が4週間ほどバカンスで休んでいるので、4週間後に改めてご連絡します」と。衝撃ですよ。
それに対して僕は困ったなと内心思いながら、うちの顧客が怒っているから今すぐ対応してください、と必死で伝えるわけですが、相手は「お互いの働き方にリスペクトのない相手とは取り引きしません!」みたいなことを平気で言う。
強いなぁ! 強すぎる。
お客さま、スタッフ、取り引き先……三者が幸せになる方法
ヨーロッパ圏の人と働くと、ワクワクする感覚や新たな発見はもちろん、われが身を振り返ることがたくさんあるんです。「それをしなければ、あなたの会社は倒産するんですか?」と問われているな、と感じたことが何度もあります。
おもしろいですね。さっきの話でいうと「この時間で閉めます」「バカンスに行くので◯週間連絡できません」と言う相手に対し、「なんやねん!」というか「それ、ええやん!」と対応するか。
前者をスパッと切ることができるなら、無理難題を押し付けてくるお客さまは去っていくし、逆に自分たちのやり方に納得・賛同し、自分たちに合わせてくれるお客さまが残る。どっちのお客さまと付き合いたいか、という話ですよね。
僕たちも会社を起こしたとき、そういう状況を実現させるために、BtoCの仕事でしっかり収益を出せる状態をつくるまでは、BtoBの仕事に一切手を出さないと決めていました。
そうやって8年ほどBtoCに注力してきた結果、前期あたりからそろそろBtoBにもいけるな、と手応えを感じるようになったんです。
はい。
2015年7月に提供をスタートした広告事業がBtoB領域の一例ですね。記事広告コンテンツ「BRAND NOTE」では、第一弾として良品計画さまとコラボして、オリジナルコンテンツを配信しました。
ここのビジネスをBtoCのECと並行的に成立させ、どちらにも過度に依存しすぎない状況をつくっていくことで、どの責任を果たしていくかを自分たちで決める自由を得て、幸せにやっていけるのではないかと考えています。
取引先やお客さまも同じでしょうね。幸せになれると思いますよ。たとえば取り引き先企業の上司が部下に「クラシコムさんに電話で◯◯の件、確認してよ」と言っても、時間は18時を少し過ぎたころだったとする。
部下は「いやいや、クラシコムさんは18時以降、電話がつながらないんですよ。もう営業時間は過ぎています」と。上司としても「それならしょうがいないね、僕たちも帰ろっか」となりますよね。これ、お互いにハッピーな状況だと思うんですよ。これをがまん比べみたいにお互いやり続けると――?
プロレスみたい(笑)。受けの美学とも言い換えられそうです。
そういえば最近、土日に営業していない不動産屋の話を聞きました。すごくないですか? 土日に内見に行く人って多いじゃないですか。
ですねぇ。すごい発想。
土日に営業してくれている不動産屋がいることで、僕たちもメリットを得ています。土日に営業をしない不動産屋さんという選択肢があっても悪くはありません。どの責任を引き受けるかはそれぞれの事業主が主体的に決められるのですから。
同感です。僕たちもそういう商売をしたいなと思っていて。いろんな人から「会社がこのまま大きくなると、なかなか今みたいに綺麗にはいかないよ」というように言われることがあります。でも、ある面白さ、美しさをもったまま大きくなるという選択肢は本当にありえないのかなとモヤモヤ考えてきました
そんな中で『チームのことだけ、考えた。』やお話を通じて垣間見たサイボウズさんが、まさに独自の方法や考え方をもって面白さや美しさを表現しながら上場企業として成長を志向されている姿に、僕たちはすごく勇気をもらいました。
組織として大きくなっても、僕らの選択肢は実現できるのかもしれない、と考えるようになっています。今後もよろしくお願いいたします!
こちらこそです。ありがとうございました!
執筆:池田園子/写真:田所瑞穂/企画:藤村能光(サイボウズ)、長谷川賢人(クラシコム)
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