インターン大学生の疑問
「東京なんか来なければよかった」と後悔しないために──秋田出身の私が地方就活生に伝えたいこと
「就職を機に地元を出て、東京で働いてみようか」
地方出身で就職活動をする学生の多くは、1度はこう思ったことがあるのではないでしょうか。人生の節目ともいえる意思決定を前に、地方就活生が納得のいくキャリアを選択するにはどうすればいいでしょうか。
就職活動をしている地方学生向けの「就活シェアハウス」を運営し、日々多くの地方就活生と接する伊藤豪さんに「地元・東京のどちらにいても、納得感のあるキャリアを形成する考え方」を伺いました。
就活で悩む「地方都市」、悩めない「地方地方」
3月から就職活動が解禁になりましたね。シェアハウスを利用している地方就活生も、この時期に「就職を機に東京へ出るか否か」を悩んでいるんじゃないでしょうか。
悩んでいる学生は多いです。まず前提として、地方によって悩みの種類が全然違うんですよね。
地域によって違う、ということでしょうか。
例えば僕の地元の秋田のように、地方の中でもさらに都市部から遠い地域を「地方地方」って言っているんですけど、その地域の学生は、そもそも地元に職がなかったり、環境や生活インフラにすごく不満を抱えていたりする。
上京せざるを得ない側面があるんですね。
はい。だから上京するかどうかを最後まで迷う学生は、福岡とか札幌のような「地方都市」の子が多いですね。「地方地方」とは違って、地元にいても働く場所や生活インフラが整っていますから。
では、「地方都市」の学生は進路選択のときにどういったことを考えていることが多いのですか?
彼らの迷い方ですごく多いのは、例えば「地元の銀行や公務員の仕事」と「東京での民間就職」。働き方も環境も全然違うけど、地元の有力銀行と、自分のあこがれの仕事を天秤にかけてるんです。
そういう友人もいたなあ。「安定」と「刺激」を天秤にかけていたのかもしれませんね。
そういうことだろうと思います。ただ、単純にそういう括りができる話ではないと思っていて。
「就活熱」が冷めて、初めて気がつく本当の自分
以前シェアハウスを利用してくれていた中部地方の学生がいました。就職活動中はめちゃくちゃ東京に来ていて、長期間滞在しながら、東京の企業の選考を受けていたんですよ。
上京する気、満々ですね。
でも、結果選んだところって、地元の有力銀行だったんですよね。
へえー!
理由を聞くと、「地元に残ることが、自分らしいと思った」って。
彼は東京に出て精力的に就職活動をしながら、「都会に出てきてバリバリ働くかっこいい自分」をイメージしていた。
でも、それって本当にそうなのかな、自分らしいのかなと、選考を受けながら自問自答していった結果、やはり「地元」だった。
ちょっと気持ちはわかります。就活って嘘はつかなくても、自分を少し「かっこよく」みせるというか、多少ハイにならないとやってられないところもあるじゃないですか。
で、就活がひと段落ついて、進路をどうしようってなった時に、自分の元来の性質みたいなのがよみがえってきて、急に熱が冷めたような感じになる……。
東京に出てみると「こんなに自分を高められるような働き方があるんだ」「こんなに仕事ができるかっこよい大人がいるんだ、なんか素敵だな」って。それこそちょっとハイになっているだけだったっていうこともあるんです。
そんな一瞬の出来事で人は変わらないですし、たまたま就活で東京にきて、たまたまイケてるベンチャー企業に出会って、自分もこういう働き方ができるかもって熱くなっているだけかもしれません。
でも、自分の本当の志向や望みは、違うところにある。
そう。そこで自分の人生を掘り下げていって、「生まれ育った土地で働こう」という考えに帰結する人は多いです。
でも、そこまで悩み切れた人は、すごく納得感を持って地元に帰っていきます。
そうですよね。ちゃんと挑戦していろいろ選択肢を自分で得た結果、やっぱり自分はこういう人間だって腹落ちする。その過程がすごく大事ですよね。
そういう人って、本当に魅力的なわけですよ。
単に「そこで生まれ育ったから」という受動的な理由ではなくて、自らいろんな価値観に触れた上での最適解として、地元を選んだ。自分で自分の人生を選択している人は、すごく魅力的です。
キャリアの納得感は、「どこで働くか」だけでなく「家族とのかかわり方」も影響
キャリアへの納得感に影響する要因として「家族とのかかわり方」も大きいと思います。
家族ですか。
納得感を持って進路を決定できた人は、東京・地元のどちらに就職するにしても、就職の相談を両親や家族にしていることが多い。
昔から自分のことをよく見ている人としっかり話すことで、就活中の「自分像」があまりブレてなくなるからかもしれないですね。
そうなのかなと思います。僕らのシェアハウスでも、夜中にいきなり電話が掛かってきて、外に出て行く子がいます。「何してたの?」って聞くと、「親に就職の相談をしてたんです」とか。
へえー。
それって就活のフェーズでいうと、だいたい最終選考あたりなんですよ。 1次・2次選考といった最初の入り口では、先輩や身近な社会人に相談してることがほとんどなんですけどね。
大事な意思決定の場面になるにつれて、自分の考え方の軸が、「外」からどんどん「内」に来るようなイメージですね。
地方でも東京でも、納得してキャリアを構築できる人は、「自分の本来の性質を知ってくれている人」とディスカッションして進路を決めたっていうのも大きいかもしれません。
なるほど。私自身は母も専業主婦で仕事のこともよくわからないから、就活中にはほとんど相談しなかったんですよ……。
まあ、僕もそっち側の人間ですね(笑)。
そうなんですんね。身近な人との関係性が濃くない人にとって、就活って余計に孤独な戦いかもしれませんね。
自分の選択に対して「あなたはそれで大丈夫だよ、間違ってないよ」って言ってくれる人がいないわけじゃないですか。「自分は本当にこれでよかったのか」っていう思いと、自分の意思だけで戦わなきゃいけない。
本当にそうですよね。
伊藤さん自身も、今シェアハウスの事業をそういう気持ちで頑張ってらっしゃると思うんですが。
そうですね。僕は心が折れそうになったときは「これからこういうことをやる」っていう目標を、周りの人にがっつり宣言しちゃいます。
わざわざ居心地のよい地元から出てきているからこそ、今必要な情報や人脈を、どんどん集めていかなければいけないっていう思いに駆られていて。
あー。わかります、すごく。
だからどんどん動いていくためにも、「自分のことを語る機会」を多くしています。するとほかの人の話を聞く機会も増えるから、お互いの人生の目標ををシェアしているというか、自分がここにいる目的を再認識しています。
そういうときに集まってきてくれた人が、悩んだときに自分の「初心」を思い出させてくれる役割を担ってくれるのかもしれないですね。
編集:椛島詩央里/写真:尾木司
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