みんな、どんな複業をしているの?(30〜50代)
複業で「地方が軸、東京は拠点」に挑戦──人生100年時代を生きるために、サイボウズで地方中心の働き方を選んだ
私は、新潟県妙高市在住で、しごとのみらいというNPO法人を運営しています。私にとってサイボウズでの複業は「新潟×東京」で働く新しい可能性であり、「二足のわらじ」で働く新しいチャレンジであり、あえて組織に所属する新しい働き方であり、とてもパワフルな試みです。
この記事では「地方×複業」をテーマに、地方を拠点に実践しようとしているワークスタイルや、複業が地方創生に与える可能性、先行きの見通しが立ちにくい現代に考えられる多様な働き方やパラレルキャリアの提案、これらを実現するための工夫や、これから挑戦していきたいことについてお話します。
「なるほど、こんな働き方もできるんだ!」を考えるきっかけにしていただければ幸いです。
「地方が軸で東京は拠点」を選んでいる理由
たくさんの会社があり、たくさんの仕事があって、たくさんの人がいる東京──。都市部で働くことは「仕事」も「機会」もあり、そのメリットは地方で仕事をするよりも断然多いと感じます。実際、地元を離れて都市部で働く方はたくさんいます。私も28歳でUターンするまで神奈川県で働いていました。
今は、地方を軸にした働き方を選んでいます。なぜなら「地方でやりたいことがある」からです。
まず、「代々受け継がれてきた土地や地域を守りたい」と思っています。
私の家には田んぼや畑があり、米や野菜を作っています。専業農家ではなく、周りでは耕作放棄地が増えていますが、できればこの財産を受け継ぎたいと思っています。
また、地方に住んでいると、子どもが減り高齢者が増えるさまをリアルに感じます。地域経済が衰退している今、「地域が守れればいいな」と思っています。
できれば、地方に仕事も作りたい。その一環で、地域活性化につながるプログラムの開発にチャレンジしています。
私の専門は職場のコミュニケーションやチームワークの改善ですが、今、自然を生かしたコミュニケーション&ストレス改善プログラムが作れないかと計画し、事業化したいと考えています。
また、若い世代には「地方に住みながら働く可能性を示したい」と思っています。
インターネットの技術が進んで、離れた場所でも仕事ができるテレワークの環境が整いつつあります。地方に住みながら、全国を相手に仕事ができる「さま」を見せることができれば、若い世代も「地方に住んでいてもいいんだ」と、未来への可能性を見いだせるはずです。そのようなロールモデルになれればいいなと思っています。
地方における仕事の現状
地方における仕事の現状は、あまり良好とはいえません。
私が住んでいる中山間地では、仕事があまりありません。そのため、多くの人が車で数十分の街中に出て働いています。また、子どもたちも、高校を卒業すれば首都圏の大学に行きます。仕事はないし、人は減る。地域は衰退の一方です。
生まれ育った街が衰退していくのを見ているのは、なんともさみしいものです。もし、あなたが地方出身なら、地元はどうでしょうか。
実際、私が専門の仕事など皆無です。2007年に起業しましたが、当時からそれを見越して「地方を拠点に全国を相手に仕事をするためにはどうすればいいか」を考え、インターネットを主な活動の場にしてきました。
地道に活動してきた結果、Webメディアや人事・労務の専門誌への寄稿、書籍の出版、企業研修や講演の依頼など、さまざまな機会を得ることができました。ビジネス環境としては決して恵まれた環境ではありませんが、それなりの実績は残してきたつもりです。
それでも、すべてが順調か……と言われれば、まだまだです。仕事の依頼を受けても、「東京に来る機会はないか」と言われてそのまま流れた仕事も数知れません。
地方を拠点にしたいけど、仕事の課題はたくさんある……。いろんな「難しさ」を感じてきました。
そんなときです。サイボウズの複業採用を知ったのは。
地方でやりたいことが実現できて、経験と専門スキルを生かせる複業
サイボウズの複業採用を知ったのは2017年1月です。ホームページにはこうありました。
「理想でつながり、いっしょにチームワークあふれる社会を目指す仲間を増やすため、本業を持ちながらもサイボウズでの仕事に興味を持っていただける方を募集しています。サイボウズの理念や考え方に共感いただける方、これまで培ってきたご経験や専門スキルをサイボウズで生かしてみませんか」
私の活動テーマは、「楽しく働く人を増やす」です。職場のコミュニケーション改善を通じて、ストレスを抱えず、楽しく働ける環境づくりを支援しています。「チームワークあふれる社会を創る」という理念に近く、とても共感しました。また、「本業を持ちながらでもいい」「これまでの経験や専門スキルを生かせる」のも魅力でした。
「地方でやりたいことにもチャレンジしつつ、これまでの経験と専門スキルを生かせる」……これはいいなと思いました。そこで、複業採用に応募したのです。
「地方×複業」―東京の組織に属しながら地方で働くメリット
東京の組織に属しながら、地方で働くメリットについて、次のように考えています。
1つ目は、「生活基盤を確保しつつ、地方でチャレンジしたいことができること」です。
「組織に属する」ことは、毎月一定の収入が得られるということです。生活基盤が確保できます。サイボウズでは、チームワーク研修やサイボウズ式のコンテンツ作りにかかわります。これまで、研修やコンテンツ作り、執筆に多く携わってきたので、今までの経験や専門スキルを生かせます。
当初の2か月は、週2日東京で働き、その後は新潟で、リモート環境で働く予定です。サイボウズの仕事をしながら、地方で実現したいことにチャレンジできます。
2つ目は、「新しい人脈やネットワークが広がること」です。
地方にいると接する人は限られますが、東京に来れば、今まで出会ったことのない新しい人脈やネットワークが広がります。新潟で実現したいことを首都圏で話せる……これが、どのようにつながっていくのかはわかりませんが、私にとって、「話せる」ということ自体が、とてもありがたいことでした。
逆の見方をすれば、私のような外部の人間の視点や価値観は、サイボウズの社員にとっても役立つのではないかと思っています。
3つ目は「大好きな環境で働けること」です。
「大好きな環境」は人それぞれだと思いますが、私は山があって、川があって、自然が豊かな新潟の妙高が好きです。そこで働けるというのは、この上ない喜びです。仕事に行き詰ったときは、気分転換にきれいな池のほとりを歩いたり、畑に出て草むしりをしたりします。首都圏に比べて地方は生活コストが安いのも魅力です。
社会における複業の可能性
ピーター・ドラッカーは著書『明日を支配するもの』で、「パラレルキャリア」を提唱しています。
パラレルキャリアとは、「現在の仕事以外の仕事を持つこと」や「非営利活動に参加すること」です。現代は企業よりも人の寿命がのび、一つの組織だけでは人生設計ができなくなってきているのが、その理由です。
また、ロンドンビジネススクール教授のリンダ・グラットンは、書籍『LIFE SHIFT』で、これからは「100年生きる時代」と言っています。
「人生100年時代」を踏まえ、実際に複業を始めてみると、複業には社会の課題を解決するさまざまな可能性があるのではないかと感じ始めています。複業が社会に与える可能性について感じていることを共有します。
1つ目は「人生設計としての複業」です。
ドラッカーが指摘しているように、今後、定年後の人生が長くなることが予想されます。これまでは退職金や年金が頼りでしたが、お金のことを考えると「長く働く」ことを前提にしておく必要があるでしょう。
しかし、これまでは、「会社は会社」「定年後は定年後」と分けて考えている人が多かったと思います。
もし、「ずっと働く」ことを前提に、複業によって現在の仕事以外に仕事を持っておけば、ひとつの仕事の収入がなくなっても、もうひとつで収入が得られます。これまでの「1か0」ではなくなるため、人生の安心感が増すと思います。
少子高齢化が進み労働人口が減少する今後、経験豊かな人材を複業の形で採用できる複業は、企業にとってもメリットがあるでしょう。
2つ目は「チャレンジするための複業」です。
これまで、「もっとスキルを身につけたい」「実現したい夢がある」など、仕事で実現したいことがある人にとって、それを実現するためには一か八かで会社をやめて、転職や起業をするしかありませんでした。けれども、転職がうまくいく保証はありませんし、起業が成功するとも限りません。
けれども、複業が可能ならスキルアップもできるでしょうし、複業先で満足できれば、辞めなくてもいいかもしれません。また、起業したい人にとっては、最低限の生活を確保しつつ、新たなチャレンジができるでしょう。
3つ目は「家族を守る複業」です。
少子高齢化が進む中、今、高齢者の介護が問題になっています。これまで、地方に住む親の介護をするなら、会社を辞めて地方に移住するしかありませんでした。けれども、仕事があるのかもわからない地方に一か八かで移住するのは、かなりリスクのあることでした。
そのため、近年はリモートワークができる会社も増えてきましたが、まだ限られているのが実情です。
もし、今の会社でも働きつつ、地元の会社でも働くことができたら、緩やかに、安心して地方に移住できると思います。また、地方の会社が複業を始めたら、首都圏で経験を積んだ、移住を望んでいる人材と出会うきっかけになるかもしれません。
4つ目は「地方に戻るのが前提の複業」です。
地方で暮らしていると、若い世代が仕事のために首都圏に出て行ってしまうのは、とても悲しい気持ちになります。もちろん、「田舎なんて嫌だ」という人を引き留めるつもりはありませんが、「本当は地元が好きなのに、仕事がないから首都圏へ」という人も少なくありません。
親元を離れて1人で生計を立て、生活するのはいい経験になります。けれども、ある年齢になったら地元に戻りたい人にとって、これまでは、仕事があるかわからないけれど一か八かで会社を辞めるか、農業かなにかで生計を立てるか、首都圏に残るかという選択肢しかありませんでした。
もし、複業ができて、今までの仕事と地方の仕事が両立できたら、緩やかに地方に戻れると思いますし、二足のわらじでもいいでしょう。若い世代が地元に戻ることができたら、地方創生にもつながるのではないでしょうか。
複業する上での課題
複業が一般的になるまでにはまだまだ時間が掛かるでしょう。契約形態や労務管理、情報セキュリティなど、さまざまな課題もあるかもしれません。仕事に対する価値観の大転換も必要でしょう。
実際、すでに私自身、課題を感じ始めています。これまで、自分の裁量でタイムマネジメントをしていた分、「サイボウズの仕事は週2日」と割り切るのは意外と難しいです。コンテンツを作ったり、文章を書いたりする仕事には「ノリ」があるので、つい、やりたくなってしまうのです。
今は週2回、東京オフィスで働いており、新潟と物理的に離れているので区切りはつけやすいですが、今後、リモート環境で働くようになったとき、仕事の割り切りは課題になるだろうと予想しています。複業には働く側の自己管理が求められそうです。
これ以外にも、今後、さまざまな課題が出てくるでしょう。
なお、サイボウズでも複業ははじめたばかりの制度なので、コミュニケーションを密にとりながら、必要に応じて柔軟に対応していくことにしています。
今後選ばれるのは「多様性が受け入れられる働きやすい会社」
「地方×複業」とこれからの働き方について見てきました。
長時間労働や労働人口の減少など、労働者や企業が抱えるさまざまな課題を解決するため、「働き方改革」に注目が集まっています。残業時間の上限設定やテレワークの推進など、さまざまな対策が始まっています。
一方、本来の働き方改革とは、1人ひとりの状況やニーズにあった「多様な働き方ができる」ことだと思います。それは、単に、「時間」「場所」「お金」という測定可能なものだけではなく、今後の人生設計や地域社会のことまで踏まえた、かなり大きなテーマなのではないかと思います。
複業採用は、労働者や企業が抱える課題を解決するひとつの可能性です。サイボウズにとっても、私にとってもチャレンジです。「社員を一社でしばる会社」よりも、「働き方の多様性が認められている、働きやすい会社」のほうが、結果的に選ばれるような気がします。
今後の人生や働き方、実現したいことを考えて、サイボウズを選びました。
複業を通じて得たこと、感じたことは、今後もフィードバックしていきたいと思っています。
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執筆
竹内 義晴
サイボウズ式編集部員。マーケティング本部 ブランディング部/ソーシャルデザインラボ所属。新潟でNPO法人しごとのみらいを経営しながらサイボウズで複業しています。