
2017年9月13日、サイボウズは日経新聞朝刊に一面広告「働き方改革に関するお詫び」を掲載しました。
「今、この国に『働き方改革ブーム』が到来し、私たちの活動に広く注目していただけるまでになりました。ところが、ところがです。私たちの意思はまったく伝わっておりません」
同シリーズで、サイボウズ代表取締役社長の青野慶久が伝えたかったものとは、なんだったのか。「御社の働き方改革、ここが間違ってます!」(PHP新書)を上梓した少子化ジャーナリストの白河桃子さんと、たっぷり語り合います。
「僕の言葉として発信するのはトゲがありすぎるかと(笑)」

ちょうど前回お会いしたときは、キントーンの「ノー残業楽勝! 予算達成しなくていいならね」が話題で。
いつも、いいタイミングでお会いできるので話を聞くのが楽しみです。

キントーンの広告に次ぐ、「働き方改革」を“いじる”広告の第2弾として出したんです。


当初は「みんなもっと働き方改革やろうよ!」みたいなものをイメージしてたんですが、この1年で世の中の雰囲気がガラッと変わったので、どんなものを出そうかと。

そこからの流れは本当に早かったですね。

経営者が焦って、残業削減にばかり目が向いている。そこに一石を投じたかったんです。

白河桃子(しらかわ・とうこ)。少子化ジャーナリスト・作家。相模女子大客員教授。内閣官房「働き方改革実現会議」民間議員。「一億総活躍国民会議」委員。東京生まれ、慶応義塾大学卒。婚活ブームを起こした「婚活時代」(山田昌弘共著)は19万部のヒットとなり、流行語大賞に2年連続ノミネート。著書に「妊活バイブル」(講談社新書)「女子と就活」(中公新書ラクレ)「産むと働くの教科書」(講談社)「格付けしあう女たち」「専業主婦になりたい女たち」(ポプラ新書)など。最新刊「御社の働き方改革、ここが間違ってます! 」(PHP新書)


ただし、それではあまりにも言葉がきついのではないかとなりまして(笑)アニメであれば、少しぐらい厳しい言葉でもさらっと届いて、笑ってもらえるかなと。

「女性活躍? 昔っからしているっつーの!」って。共感しました(笑)。

声も全部内山さん一人で演じているんですよ。
(※)人気アニメ『紙兎ロペ』『野良スコ』原作者

こんな意見広告を出せる会社(サイボウズ)が世の中に存在していることもすごい。
でも、そういえば「アリキリ」の広告掲載が一部で断られたそうですね。



てっきり何か文句でも言われるのかと思ったら、「ぜひ意見交換をさせてください」と。すごく前向きでした。

私の本のタイトルも「御社の働き方改革、ここが間違ってます」なんですが、今発展途上期で社員にしわ寄せがいっている現状です。
あれは、青野さんの元に実際に寄せられる声なんですか?

それこそ、広告制作で広告会社の人と話すと
「最近、急に帰れ帰れってすごくて。でも仕事量変わんないからムリすっよね。ハハハ」
みたいな、まさに「アリキリ」の世界がそこにあるんですよ。
「女性活躍推進」に本気で取り組んだ企業はいない?


働き方改革を本気でやるなら、評価制度や給与体系まで変えなければ意味はない。
もっと経営者の本気の覚悟が必要なのに。

と思う現場の人間からすれば、仕事のやり方は変えずに、時間だけ短く押さえつけられたら、「いやいや、ちょっと待ってくれ」と文句も言いたくなる。

青野慶久(あおの・よしひさ)。1971年生まれ。愛媛県今治市出身。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立した。2005年4月には代表取締役社長に就任(現任)。社内のワークスタイル変革を推進し、離職率を6分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得している。2011年からは、事業のクラウド化を推進。厚生労働省「働き方の未来 2035」懇談会メンバーやCSAJ(一般社団法人コンピュータソフトウェア協会)の副会長を務める。著書に『ちょいデキ!』(文春新書)、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)

ただし、本気で土台を変える覚悟がないと、改革は必ず失敗します。
「女性活躍推進」にしても結局制度だけ作って風土は変わらないまま。女性活躍に本気で取り組んだ企業は、はっきり言ってほとんどないと思います。


改めるべきは男性も含めた長時間労働で、場所と時間が固定的な一律の働き方、古いビジネスモデル。
それなのに今回もテレワークや在宅勤務の制度だけ作っておしまい、とならないか心配です。

いろんなパターンが予測できますが、もしも悲観的シナリオだとしたら……。長時間労働だけを取り沙汰して、結局サービス残業が増えてしまう、なんてことがあるかもしれませんね。

これは昭和のアンインストール。経営課題ですから。

何とかここにつながったらいいですね。

残業削減したら、業績も落ちて給料も減って消費も停滞して「何もいいことはなかったね」と。
短期のうちにそんなエビデンスもどきを集めて、また元に戻ってしまうことを一番危惧しています。


ヴィジョンがあるかないかが重要です。長期的に見たら、売り上げや給与は増えるはず。


情報を伝える側のマスコミの人たちが働き方改革に対してネガティブだと感じていて。
働き方改革が世の中に浸透してきたと思ったら、働き方改革に反旗を翻すような特集を打つんじゃないかと……そんな“揺り戻し”が怖いです。
衆議院の解散でリセットされた「働き方改革関連法案」はどこへ行く?

青天井だった残業時間の上限に制限を設ける残業規制と、高度プロフェッショナル制度(※一定の年収を超える専門職を対象に成果に応じて給与を支給する)をセットで通そうとしていたのですが、次の国会でどうなるか?





育児・介護などで時間制約がある人が、第一線を退かないといけない。
能力ではなく「会社に24時間を捧げられるかどうか」で評価されている。これが「差別」だとちゃんと気づいてほしい。


もっと自由に、好きなときに休めるのが一番いい。
「働き方改革」とは、社員とその家族の不幸をなくすこと

一つの制度を作って型にあてはめるようなやり方だと、働き方改革は楽しめない。
仮に定時で帰るのが普通の社会になったとしても、定時まで働けない人はいるわけですから。


アリキリ第3話の「イクメン編」で、“強制イクメン”を強烈にいじってますけど「男性社員の育休取得が注目されているから全員取らせよう」も、やっぱり違うんですよ。

妻の実家がものすごく近くて、サポート体制も万全なところに、食事を自分で作れないような夫がいても、逆に妻の負担になることだってあるでしょう?

「夫が日中ずっと家にいるのは嫌だ」と。制度として使えることは大事ですし、実際テレワークの導入によって、夫の子育て時間が平均32分伸びたという調査もありますが。
でも、家族構成や家の間取りによって、テレワークが向かない家庭があるので、コワーキングスペースなど多様な選択肢も必要ですね。

その考え方がもっともっと広がってほしいです。


しかもそれが売り上げ増加につながっている。
指示待ち社員が一人もいなくて、全員が能動的に自主的に動いている。働く時間の「質」が、本当に高い。

そのプレッシャーのおかげで気合が入ります。

社員の幸福度を考えることが、そのまま会社の利益になる時代だと考えると、すごくいい時代ですよね。

確かに「社員やその家族が幸せかどうか」が、働き方改革のものすごく重要なポイントです。会社の業態・業種もそこには関係ない。


その不幸を含めて改善することが働き方改革だと考えています。
文:玉寄麻衣 編集:田島里奈/ノオト 撮影:栃久保誠 企画:小原弓佳
変更履歴:文中の「そういえば「アリキリ」の広告掲載を断ったメディアがあったそうですね。」という一文を、「そういえば「アリキリ」の広告掲載が一部で断られたそうですね。」に変更いたしました。(2017年11月7日)