長くはたらく、地方で
「社員旅行」以上、「社員研修」未満の農作業キャンプをしたら、参加者が勝手にチームワークを発揮してくれた話
サイボウズで複業をしながら、地方中心の働き方をしている竹内義晴が、これからの仕事や人生のあり方を語る「長くはたらく、地方で」。今回のテーマはサイボウズの理念でもある「チームワーク」。オフィスを飛び出て田舎で農作業をしたら、誰かが強力なリーダーシップを発揮したわけではないのに、最適なチームワークが自然と生まれていた。
サイボウズには「コネクトキャンプ」という制度がある。
一言で言えば「『社員旅行』以上、『社員研修』未満」のようなイベントである。
旅行にしろ、研修にしろ、「会社のイベント」といえば、よほど目的意識がない限り、どこかしらに「義務感」があるものである。「本当は行きたくないけど、参加しろっていうから」「会社命令だから仕方ない」――そんな気持ちで旅行や研修に参加した経験がある読者も多いのではないか。
コネクトキャンプはこれらとは本質的に異なる。年に一回、自由に参加でき(参加しなくてもOK)。企画や社内の有志によって行われる。これまで「ボードゲーム合宿」「タグラグビー」「サバイバルゲーム」などが企画・実施されてきた。つまり「楽しいイベント」なのだ。ちなみに、費用は会社持ち。
私は新潟県妙高市でリモートワークをしながら、サイボウズで複業している。そこで、住んでいる地域性を生かして、コネクトキャンプ「そばの収穫体験」を企画することにした。
同じ会社で働くも初対面の面々
実施したのは11/3(祝)~11/4(土)。
今回の会場となる妙高高原は長野県との県境、北陸新幹線では長野駅と上越妙高駅とのちょうど中間にある。今回の合流地点は長野駅だ。
参加したのは、北は仙台、南は松山から10名の社員。その多くが初対面だ。本社がある東京オフィスの参加者でさえ、部署が異なる人ばかり。最初はなんとなくぎこちなく、よそよそしい。
「同じ会社の社員と言えども、他の部署の人は知らない」……ある程度の規模の会社ならよくある話だろう。
だが、仕事というのは社員の協力関係によって成り立っている。部署や拠点をまたいだネットワークがある方が、仕事は断然、スムーズに進むものである。
コネクトキャンプには、このような「社員の中に今までなかったつながりを作る」目的がある。
田舎とチームワークを存分に味わう企画
長野駅から妙高への移動はマイクロバス。車窓には雄大な自然と、秋の青空が流れる。
車内では名前と現在の仕事、今回参加した目的など、自己紹介を交わした。「打ちたてのそばが食べたい」「農業体験をしてみたい」「社内のつながりが欲しい」など、参加目的はさまざま。
この企画をするにあたり、「せっかく田舎に来てもらうのだから、田舎を存分に味わってもらおう」と考え、一日目は「そば打ち体験」、二日目は「そば刈り体験」と「そばづくし」にすることにした。
また、オフィスでは体験できない「チームワークの大切さ」を感じられたら……とも考えた。農業は共働作業にうってつけだ。私は以前より自然や農業にはチーム作りやストレス改善に役立つのではないかと考えてきた。
1時間ほど車を走らせると、そば打ち体験の会場ハートランド妙高へ到着した。ハートランド妙高はそば打ち体験のほか、クラフト体験や農業体験、妙高名物「笹ずし」づくりなどの調理体験ができる「都市農村交流施設」だ。
はじめての共働作業
ほとんどの参加者にとって、そば打ちは初体験である(実は、私も)。打ち方は先生に教えていただく。
最初は慣れない手つきで、おっかなびっくりそば粉に触れる。
そばは一人でも打てるが、ここはあえて二人で一チームとした。今回の旅、初めての共働作業である。
ほとんどの人が今回初めて会うため、最初はなんとなくぎこちない。だが、慣れてきたら少しずつ会話もはずみ、楽しくなってきた。
難しいそば切りもこなし……
初めてにしては、意外と(?)おいしそうにできた。湯で加減は「沸騰したお湯にそばを入れ、再沸騰してから一分間」とのこと。
心の距離をぐっと縮めた瞬間
初めて打ったそばを食らう。今まで食べたどのそばよりもおいしい(もちろん、「そんな気がするだけ」なのだけど)。
しばらくすると、「他のチームのそばも食べてみよう」と、チーム入り乱れての試食大会が始まった。同じ材料で作ったはずなのに、チームによって味がかなり違う。
それと同時に、「このチームのそばは一番そばっぽい」「このチームのそばは腰があるね」と参加者の中に自然と会話が生まれる。今までなんとなくぎこちなかった雰囲気が和み、心の距離が一気に縮まった気がした。
つながりを作る上で、共働作業は大事なんだね。
田舎と都会のチームワークの違い
そば打ち体験終了後は、宿に移動。満月がきれいだ。
宿に到着後は懇親会!……の前に、チームワークに関するセミナーを企画した。
セミナーのテーマは、「都会と田舎のチーム作りの違い」について。講師は、東京で会社を経営しながら、新潟で雪を中心にしたアウトドアアクティビティの事業を営んでいるスタジオジャパホの塚田卓弥さん。
塚田さんによれば、「都会と田舎では、チームを作る際のコミュニケーションの順番が違う」という。都会は、理想の「共有」によって共感が生まれるのに対して、田舎では「共働」(同じ体験を積む)によって共感が生まれるそうだ。
「都会の感覚で、正しい事、かっこいい事、正解を言うのでなく、田舎では何も言わずにまず共働。これが地域との事業ではまず必要だと感じ、日々行動しています」と塚田さん。田舎では「まぁ、とりあえず飲もうか」から始まるが、飲むことだって共働だ。
企業によっては、さまざまな地域で事業を行っている会社もあるだろう。この順番を知っていることは、異なる環境でチームを形成する上で、とても大切なのではないかと思う。
たまには心置きなく語り合いたい夜もある
セミナーが終わった後は懇親会。頭にたっぷり汗をかいた後は水分補給も欠かせない。ビール、焼酎、新潟の地酒、ソフトドリンクなど、めいめいが好きなものをいただきながら、おなか一杯になるまで食べ、胸いっぱいになるまで話し、笑った。
会社で真面目な話をするのもいいが、時にはオフィスを離れて、お酒やソフトドリンクを飲みながらゆるい話をするのもまた、楽しい。また、会社帰りの飲み会は帰りを気にしなければならないが(それが救いになることもあるが)、時には時間を気にせず、心置きなく語り合いたい夜もある。
宴は夜更けまで続き、AM2:00まで起きていたチームもなかったとか、あったとか。
そばの収穫体験でチームワークを実感
起床。
二日目は「そばの刈り取り」と「脱穀」作業を予定していた。「脱穀」とは、そばの実を外すこと。米で言えば「米の粒を稲穂から取り離す」作業である。
食事を済ませて農場へと向かう。しごとのみらいで管理している農場で、今年の8月、有志でそばの種をまいた。
しかし、外はあいにくの雨。これではそばの刈り取りができない。
「気合いで刈ればいいだろう」と思うかもしれないが。無理に刈っても湿ったそばの実は脱穀ができない。
こんなこともあろうかと、前日、刈り取りを一人でやっておいた。
脱穀はかなり年代ものの「脱穀機」を使う。昭和初期のものだろうか。今の時代、このような機械を使って脱穀する人はまずいないが、手作業のほうが共働作業になりやすいかなと考えた。
足でペダルを踏むと、突起のついた丸いドラムがぐるぐる回る。ここに実のついたそばを当てると、衝撃でそばの実が落ちる……という仕組みである。
一通り説明をし、実際にやってもらう。最初は、おっかなびっくりの参加者も……
慣れてきたらペースが上がってきた。
しかし、一通り体験するとペースが落ちた。中には「傍観者」になる人も……。
そんなときだ。「竹内さん、今日はどこまでやるんですか?」と声が掛かったのは。
「どこまで?あー、言っていませんでしたっけ?全部です。全部やらないとお昼ご飯も食べられません」と答えると参加者の表情が変わった。
ふと気づけば、それぞれの参加者が自然と役割分担をし、チーム一丸となって作業をする姿がそこにはあった。
これをチームワークと呼ばずして、何をチームワークと呼ぶのだろうか。
農作業で得た「チームワークで大切なこと」とは?
作業終了後は近くの公民館に移動し、お昼に。その後、今回の体験を通じて、思ったり感じたりしたことを振り返り、共有した。
いくつかの意見を紹介しよう。
- 目標を共有しないときより、共有(時間と作業を明示)した後の方が、効率的・効果的に作業ができ、かつ、楽しくできた
- 自分ができるところで役割分担がされ、自然と効率の良い体制に最適化されていった点が面白かった
- 誰かが強力なリーダーシップを発揮したわけではなく、各々の判断で自然と分業が進んだ
- 他部署間なのにこんなチームワーク感が出せて仲良くなるのなら、飲み会ではなくこういう体験をすることで、さらにチームワークを高められるんじゃないかと感じた
「チームワークあふれる社会を創る」が理念のサイボウズ。
そばの収穫で私たちが体験したのは、誰かが強力なリーダーシップを発揮したり、何かを指示したり、教えたりしたわけでもないのに、参加者が自然とチームワークを発揮していたことだった。オフィスではなかなかできない体験だ。
新しい制度を実現する難しさ
コネクトキャンプには「チームワークを発揮しやすくする風土をつくる」という目的で、2017年に始まった、まだ新しい制度だ。
しかも、一見すると「社員旅行」にも見えるし、「社員研修」にも見える。見方を変えると「業務と直接関係のないイベント」にも見えるコネクトキャンプは、「何のためにやっているのか?」という声も、社内には少なからずある。
周囲からの理解を得つつ、かつ、楽しいイベントをゼロから企画するためには、相応の労力と時間が必要だった。
そこで、周囲を巻き込むために、私が普段、自然や農業を通じて楽しいと感じていること、大変なことを包み隠さずグループウェアで共有した。また、人事とも数回の打ち合わせを行い、参加者が集まるように協力してもらった。
しかし、目標の人数まで集めることはできなかった。
それでも、実現しようと思ったのは、オフィスから離れて、リモートワークで働いている環境や、田舎のよさを知ってもらいたかったこともあるし、私自身が、多くの社員とつながりたかったこともある。
目標人数まで集めることはできなかったが、少なからず、「社員同士がコネクトする」という目的は、達成できたのではないかと思う。このような活動を継続し、少しずつ広げていきたいと考えている。
長くはたらく、地方で | サイボウズ式SNSシェア
執筆
竹内 義晴
サイボウズ式編集部員。マーケティング本部 ブランディング部/ソーシャルデザインラボ所属。新潟でNPO法人しごとのみらいを経営しながらサイボウズで複業しています。