インターン大学生の疑問
コミュニケーションは「あなたと私」だけで成り立っているわけではない──平田オリザ×武田砂鉄
コミュニケーション能力を磨けば、他人と接するときにうまくコミュニケーションをとることができるのだろうか──?
前編では劇作家の平田オリザさんと、ライターの武田砂鉄さんに「コミュニケーション能力とは何か」というテーマでお話を伺いました。
後編では、「わかりあえる」コミュニケーションばかりしていると、「同じような経験をしているという幻想を持ってしまう」「コミュニケーションは能力じゃなくて複数の要素で成り立っている」など、そもそもコミュニケーションとはなんなのか? について深掘りしました。
人間の会話には余計なものがたくさん流入している
*前編では「サイボウズ式」の話し手の顔がアイコンになっていて嫌い。というお話がありました。
とりわけ、こういったサイトでは、会話のやりとりが短く、双方の合いの手が頻繁に入る。
読んでいる人は「この2人はこんな風にスムーズに会話したんだな」と思うけど、まったくそうではない。
「あ、あの、えっと、その〜」と口ごもり、「全然それはもうアレですね」とかよくワケの分からないことを呟く。そうやってノイズになる言葉は、掲載されるときには入らないですよね。
タイトにしぼられて伝わる対話が「良きもの」と理解されてしまう。
だからこそ、平田さんが著書で書かれていた「冗長率」*という考え方は、もっといろんなところで問われたほうがいいと思うんです。
*「冗長率」:一つの文章の中に意味伝達とは関係ない無駄な言葉がどのくらい含まれているのかを数値で表したもの。
どんな人間でも1から10まで伝えたいことを明確に話せる人なんていない
最近の学校教育ではアクティブ・ラーニング*、ロジカル・シンキング(論理的思考)、クリティカル・シンキング(批判的思考)などが大切だと言われていて。
*アクティブ・ラーニング:課題の発見や解決方法を、主体的・協働的に学ぶ手法。参加型や双方向型の授業などをそう呼ぶこともある。何を学ぶかではなく、どのように学ぶかということに焦点があたっている。
「おっしゃることはわかるんですけど……」という相手の意見を一度取り入れた上での言い方と、「それはちがいますよね」という最初から突き返してしまう言い方は伝わり方が違うわけじゃないですか。
学校教育は、ヨーロッパでうまくいった方法を、日本語の特性を考えずにそのまま直輸入するから、戸惑う人が生まれてしまうんです。
今の教育だと、40人クラスのうち37人がコミュニケーションを嫌いになってしまいます。
「対談の原稿は時間軸に沿って、そのまままとめるだけではいけない。対談の前半で話されたことが後半にまた形を変えて出てくることがある。それはもしかしたら、本人にとっては無意識かもしれない。その時は、後半の部分を前半に移植してみるといい」
と言われて。
今この場で、順序立てて言いたいことを伝えなければ、と無理に意識する必要がなくなるわけで。
「わかりあえる」「察しあえる」コミュニケーションばかりしていると、同じような経験をしているという幻想をもってしまう
人間だけが、異なる複数の共同体をまたがって生きている。
お父さんと子どもでも違う体験をしている。だからお父さんが狩りから帰ってきたら、家族に「こんなでかいマンモスがいてさ」と伝えなくちゃいけない。
ただ、「わかりあえる」「察しあえる」といった温室のようなコミュニケーションばかりしていると、みんなが同じような経験をしているという幻想をもってしまいやすい。
それによって、「伝えたい」というモチベーションが低下しているんじゃないか、というのが、僕のコミュニケーションへの問題意識の出発点でした。
コミュニケーションは「能力」ではなく、複数の要素で成り立っている
こうして話しているときであっても、自分は100%平田さんのことを考えているわけではない。
目の前にいる編集者の表情を気にしているし、あるいは、「この対談が終わった後、昼飯どこで食べようかな」とか「夕方からの打ち合わせ、面倒くさいなぁ」ってことだって、どこかで頭に置きながら、今こうして対話をしている。
そう考えないと、コミュニケーションがなにかなんて見えてこない気がします。
俳優がうまくセリフが言えないのは、もちろん俳優の主体的な能力の問題もあるんだけれど、環境の問題がある。
たとえば小道具が一個なかったり、目の前の風景がいつもと少し違ったりするだけで、あるセリフが出てこないってことが起こるんですよ。
俳優だけではなくて、人間の言語活動もおそらくそういうふうになっていますよ。
主体性を否定するわけではなく、主体性の範囲を明確にするといい。どこまで私たちは主体的に喋っていて、どこまで喋らされているのかを意識することが大切ですよね。
執筆・くいしん/撮影・橋本美花/企画編集・木村和博
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執筆
撮影・イラスト
橋本 美花
主に人物写真を撮らせていただいているカメラマンです。お仕事以外では海外へ行ってスナップ写真を撮ることが大好きです。自転車に乗りながら歌うことも好きです。