20代、人事と向き合う。
【覆面座談会】わたしたちが大企業を3年で辞めたワケ――どうすれば、若者たちが抱える会社への閉塞感をなくせるか?
2021年の厚生労働省の報告によれば、新規大卒就職者の31.2%が、3年以内に離職しているといいます。しかも、こうした状況はこの数年に限った話ではなく、なんと30年近く続いています。
しかし、統計だけでは、なかなか若手社員たちの実際の胸の内まで知ることはできません。そこで今回は、彼らの生の声を聴くべく、実際に大企業を3年以内に辞めた若手社員4名を招き、座談会を実施しました。
モデレーターを務めたのは、自身も大企業を3年で辞めた経験を持ち、「社員が閉塞感を覚えず、幸せに働ける会社をつくりたい」という想いから、初の著書となる『拝啓 人事部長殿』を6月17日に上梓したサイボウズ人事部の髙木一史。
若者たちが会社を退職した理由、当時抱えていた不安や葛藤、これからの企業像について本音で語り合う様子をレポートしつつ、座談会を経て20代人事である髙木が何を感じたのかを記事の最後にまとめています。
スキルが磨けない、出世競争、顧客ニーズとの乖離……それぞれの退職理由
まずは自己紹介も兼ねて、みなさんが大企業を3年以内に辞めた理由についてうかがえたらと思います。
前職は大手の機械商社だったのですが、自分の力ではなく、会社のネームバリューだけで商品が売れてしまうことに危機感がありました。
大学時代の友人が仕事に励み、スキルアップしている姿を見ると「自分、大丈夫かな」と焦ったりもして。
それで自分のスキルを高められる環境を求め、社会人3年目の夏に外資の保険会社へ転職しました。
入社前は、顧客の人生に寄り添う仕事ができると期待していたのですが、営業職だったこともあり、カードや保険の販売など、ノルマ達成のための仕事が中心になってしまい、入社前に思い描いていたイメージとのギャップを感じました。
大企業特有の出世争いも苛烈で、そこに躍起になっている先輩たちを見て、「わたしはこうはなれないな」と。
いまは中小の出版会社へ転職し、総務と人事、社長の秘書周りを担当しています。
桜井さんと同じく顧客のニーズに合わない提案をしなきゃいけなかったり、コロナ禍などで、これだけデジタル化が求められているのに印鑑文化がなかなかなくならなかったりして。
それで、まったくモチベーションを保てず、スキルアップにもつながらないと感じて、退職を決意しました。
実はちょうど一昨日内定をいただき、昨日上司に退職を打ち明けたところです。
いまちょっと疲れているので、今日はみなさんとお話しして、元気をいただきたいなと思っています(笑)。
今年4月から社会人専門のスクールに1年間通って、転職はその後、行う予定です。
人によって退職理由はほんとさまざまですね。
転職タイミングも悩みのひとつ? 「あと1年」と先延ばししていると、なかなか辞められない状況も
100%のスキル習得を求めるなら1年では足りないし、そのスキルって銀行内だけしか通用しない気がして。だったら早く辞めて、次の挑戦をしようと思いました。
退職はしましたが、会社自体は好きなので、職種を変えてクリエイターとして戻ることができるのなら、最高だなと思います。
サイボウズだと、もともと正社員として週5日働いていた人が音楽活動をするため退職し、現在は業務委託として働くケースがあります。
ほかにも、副業で起業した人が、週4日、3日……と徐々にサイボウズの業務割合を減らしつつ、最終的に独立したという事例も。
ただ、個人的には情報技術をうまく活用することで、管理やコミュニケーションのコストがさがり、マネジャーを支援する体制づくりもしやすくなるんじゃないか、と思っています。
若手社員たちが抱える、未来への漠然とした不安感
将来的に結婚して子どもができたらお金もかかりますし、少子高齢化で働き手が減っていく中で年金をもらえる保証もない。
いろんな漠然とした不安があって、どうしても保守的な考え方になってしまう面があるんです。
そういう気持ちを上司に思い切って打ち明けてみたことがあるんですけど、「『大企業だから安泰』とかないよ」と真顔で言われて、はっとして。
個人的には、いろんなトレードオフを受けいれた上で会社に残る、という選択もすごく大事だと思っています。転職してむしろうまくいかなくなるというケースもあるわけなので。
会社選びは「自分にとって何が大切か」で選ぶ時代へ
わたしの転職先は、大手志向だった新卒就活時には選択肢に入らなかった中小企業です。でも、残業はあまりないし、上司も早く帰ってお子さんの食事を作ったりしていて。
いまの自分にとっては、理想の働き方ができる会社なんです。
でも、わたしみたいにそうはなれない人もいる。希望の働き方を叶えるために、ちゃんと自分の価値観と照らし合わせて頭を使って会社を選ばないといけないんだなと思いました。
職場の雰囲気やコミュニケーション……会社の風土に悩むことも
実際、前職の上司から「若手はもっと意見を出せ」と言われたので、意見を出してみたら「お前ら分かっとらん。俺が教えてやる」と返されたこともあって……。
個人の価値観の多様化に対応できる、働き方の選択肢が必要
銀行では2、3年に1回必ず異動、転勤させられるのですが、いま取り組んでいる仕事や顧客に長く向き合いたいと考えている人も多いと思います。
もちろん、それには顧客との関係性が密になりすぎてはいけないとか、金融業界特有の理由もあります。
でも、仕事が選べる余地があることで、より活躍できるようになる人もいると思うんです。
入社前の段階で「うちの会社はこうだよ」と一人ひとりに偽りなく伝えていったほうが、入社後のミスマッチが減ると思うので。
最近は見直しが進んで、現実的な仕事内容の紹介にシフトしてきているようですが、入社前の期待とのギャップを埋める努力は必要だと思いますね。
キャリアアップをしたい人から仕事をほどほどにしたい人まで、いろいろな人が共存できる会社へ
だから、転職するなら若いうちにチャレンジしなきゃと焦ってしまう自分もいて。
人生は一度きりだからこそ、もっと気軽にいろんな仕事を経験できるといいなって思うんです。
そもそもわたしは、仕事で自己実現をしたいとはあまり思っていなくて。転職したのも、前職では理想の働き方を受け入れてもらうのが難しいと感じたからなんです。
今日は「3年で大企業を辞めた若手社員」という括りでみなさんに集まっていただきました。
実際にお話を聞いてみて、「若手社員」とひとくくりにはできない、働くことへの多様な理想や価値観があるなと思いました。
改めて、本日はご協力いただきありがとうございました。
結びに代えて、髙木からのコメント
改めて思ったのは「3年で辞めた若手」とひとくくりにしても実に多様な個性の人がいる、ということです。
会社の外でも通用するスキルを身につけ、バリバリ成長していきたい人。出世競争に伴う苛烈な働き方よりも、ワークライフバランスを大事にしたい人。一向にデジタル化が進まない仕事の進め方に違和感を覚えた人。実業務と顧客ニーズにギャップを感じている人。取り組む仕事にこだわりのある人。いくつかの仕事を複数経験してみたい人。
多様な個性を自覚、表明することに慣れているいまの若い世代が活躍していくために、今後、どのような人事制度が必要なのか、改めて考えさせられました。
ほかにも、辞めた理由の1つに、本音をなかなか言いづらいといった会社の「風土」を挙げている人や、年齢が上がるにつれ転職がしづらくなるという、日本社会の構造にまで踏み込む発言をする人もいました。
とはいえ、いまの会社のしくみを変えることが会社の利益にもつながらなければ、それは意味がないよね、という現実的な話もありました。
会社の「閉塞感」には、個人の価値観、会社の事業の状態、日本社会の構造など、さまざまな要因が複雑に絡み合っていて、人事制度を変えただけで、状況を劇的に改善する、というのは難しいのかもしれません。
それでも、社内に人事制度の選択肢を増やしていくことは、閉塞感をなくすきっかけの1つにはなるんじゃないかと思っています。
時間や場所、職務を限定する正社員という選択肢が社内に増えていけば、ワークライフバランスを大事にしたい人や、特定の仕事にこだわりがある人も活躍できる幅が広がるかもしれません。
また、市場価値に近い報酬体系で評価される人が出てくれば、外部労働市場もいまよりは発達してくるかもしれません。
1つの会社の中で出世することだけがモチベーションじゃなくなっていけば、上司の顔色を伺ってオープンに問題をあげることができない、という風土も多少は緩和されるかもしれません。
副業や兼務が一般的になることで、いろんな仕事を経験してみたい、という人にも活躍のチャンスが増える可能性もあります。
そして、こうした人事制度改革を、日本中の会社が(もちろん各社それぞれの事情に合わせた形で)推し進めていくことで、相乗効果が生まれ、日本社会全体で競争力を高めていく(パイを増やしていく)ことができれば理想的です。
これからもたくさんの人から意見をもらうことで、閉塞感のない会社はどうすればつくることができるのか、探求し続けたいと思いました。
『拝啓 人事部長殿』(著:髙木一史)
トヨタを3年で辞めた若手人事が、「どうすれば日本の大企業の閉塞感をなくせるのか?」という問いを掲げ、その回答を手紙形式でまとめた1冊。12社への制度事例の取材、日本の人事制度の歴史、サイボウズの変革の変遷を学ぶ中で見つけた「どうすれば会社は変わっていくことができるのか?」「これからの組織に必要なものはなにか?」を提案しています。
企画:高部哲男/執筆:中森りほ/編集:野阪拓海(ノオト)/撮影:栃久保誠
20代、人事と向き合う。
人事の仕事とはなんでしょうか? サイボウズの20代若手人事の髙木一史は、人事の仕事は「会社の理想と個人の幸福を両立させること」だと先輩たちから教わってきました。しかし、いま会社の理想も、個人の幸福も多様化し、唯一の正解を見つけづらい時代になってきています。そんな中で、これから会社はどう変わっていったらいいのでしょうか。6月17日に人事に関する書籍『拝啓 人事部長殿』を上梓した髙木が、若手なりの視点で掘り下げます。
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