アメリカでも、カイシャが人を幸せにする方向に進んでいないのではないか──社長 青野×副社長 山田、海外に再挑戦する理由

「なぜサイボウズは、2度目の海外進出に挑んでいるんですか?」
サイボウズ式編集部の新メンバーとして海外発信のミッションに挑むアレックスは、素朴な疑問を感じていました。
サイボウズは過去に一度、アメリカへ進出して失敗しています。それなのになぜ、また海外へ出ていこうとするのか……。
その問いに答えてもらうため、アレックスは代表取締役社長の青野慶久と副社長の山田理を「サイボウズBAR」に招いたのでした。今日はアレックスがバーテンダー役。
「ちょっと時間は早いけど、とりあえず乾杯しましょうか」
2人が追いかけ続ける海外の景色とは――。
「インターネットなら世界中で売れるやろ」。1回目のアメリカ進出で、見事に大失敗


(*)高須賀宣、畑慎也、青野


あり得ないですよね。まだ日本での売上もほとんど立っていないのに、友だちの旦那さんのオーストラリア人に製品内の文章を訳してもらって、ホームページも作って。
でも当時から、何とか海外へ進出したいと思っていました。



サイボウズの社内にある「BAR」で、2人にお話を聞きました。まずは乾杯





ローカライズだ何だと言いながら孤軍奮闘して、本社に助けを求めても大変さを理解してもらえない。逆に「何でそんなに金がいるねん」と言われてしまうような……。


僕たちは十分にリソースを持っていなかったのが、逆によかったのかもしれません。撤退の決断をずるずると引き伸ばすことがなかったから。
文化も企業の形も違うのに、ノー調査で突撃してしまった


そもそも日本の事業で資金的な余力を得られていないのに、アメリカにも投資し続けなければいけないという無理ゲーでしたし。




お客さんのところにヒアリングにいったら、「なぜ上司に僕のスケジュールを見せなきゃいけないんだ? 上司が僕のことを信頼していれば、見せる必要はないじゃないか」と言われるんですよ。




例えばPCなら、どこの製品にもインテルのCPUが入っているじゃないですか。
僕たちもそんな感じで、完成品はベンダーさんに任せて、その下を支えるレイヤーの製品を作らなきゃといけないんだと痛感しましたね。

青野慶久(あおの・よしひさ)。1971年生まれ。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立した。2005年4月には代表取締役社長に就任(現任)。社内のワークスタイル変革を行い、2011年からは、事業のクラウド化を推進。著書に、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない』(PHP研究所)など。


びっくりしたのは、「ファミリー経営しているリムジン会社用」のパッケージソフトがあって。


市場自体が大きくて、どんどん新しいプレイヤーが参入してくるから、自分たちの立ち位置をしっかり決めておかないと太刀打ちできないんですよ。

(*)Google、Apple、Facebook、Amazonの4社



2回目のチャレンジのときは日本の事業も伸びていたし、山田さんが入って上場して10億円ほど調達できたので、国内の売上も順調で資金的な余裕もありました。
文化に依存せずに提供できるサービスについては、マイクロソフトのような最強の競合とも棲み分けられるよう研究していました。
「本社をアメリカへ移すべきでは?」「子育てがあるから無理」「じゃあ僕が行ってもいいですか?」


もう1つは、アメリカに世界最高峰のソフトウェア企業が集まっていることですね。そこで実績を残せれば、さらなるグローバル展開が見えてくる。

だから僕は「本社をアメリカへ移すくらいの気持ちでコミットすべきでは?」と提案したんですけど。





山田 理(やまだ・おさむ)。サイボウズ 取締役副社長 兼 サイボウズUSA(Kintone Corporation)社長。1992年日本興業銀行入行。2000年にサイボウズへ転職し、責任者として財務、人事および法務部門を担当し、同社の人事制度・教育研修制度の構築を手がける。2014年からグローバルへの事業拡大を企図し、米国現地法人立ち上げのためサンフランシスコに赴任し、現在に至る

どんなに資金があっても、アメリカでもう一度戦うには「最高のサービスを生み出せるチームを作る」しかないと思っていたんです。
しっかり時間をかけて、サイボウズっぽいチームを作らなきゃいけない。そのためには山田さんに行ってもらうしかないと。

間に本部長が入って青野さんと話しているレベルではなく、実質的に青野さんがアメリカへ行ってコミットしているような状態じゃないと進まない。
だから、僕が青野さんと同じように判断できることは大きいですね。


でも、日本の副社長が来ているとなれば本気度も伝わります。
「権限はちゃんとあるのか?」と聞かれれば、「俺が来てるってどういうことだと思う?」と答えられますからね。

日本で言うところの働き方改革はとっくに終わっているアメリカ。だけど幸せじゃない?

アメリカにもサイボウズの理念をそのまま輸出できていると思いますか?

アメリカは多民族でダイバーシティが当たり前なんだけど、「優秀な人がいかに会社を成長させ、株価を上げられるか」ばかり注目されている面もあると思っていて。
優秀な人たちでさえ「お金のために自分はどこまでやらなきゃいけないの?」「もっと人生を良くしていきたいんだけど」と感じるようになってきている。それも背景にあるのかもしれません。




でも、そんな働き方改革を経験した人たちが今になって「幸せじゃないよね」と感じ始めている。

Alexander Steullet(通称アレックス)。サイボウズ式のグローバルコンテンツ担当として、2018年11月にサイボウズへ入社。 ソ連生まれ、スイス出身。


サイボウズの文化が広まっていけば、キントーンも自動的に広まっていくはずです。
従来型の社内システムでは基本的に権力を持つ人が情報を統制して成果主義を推進するけど、キントーンは真逆で、みんなに情報を開放していくための仕組みですから。
幸せになるために人が作ったカイシャが、人を不幸にしている

人のためにカイシャがあるんじゃなくて、カイシャさんのために人がいるような状態になっています。
アメリカではちょっと違って、CEOが人やお金を支配する仕組みとしてカイシャを利用している。
これって、「幸せになっていない人が多い」という点では共通していますよね。

だけど、今は日本でもアメリカでも、カイシャが人を幸せにする方向に進んでいません。
だから僕たちはシンプルに「人を幸せにするカイシャにしよう」と言えばいいんだと思います。そこで働いている人が幸せになるためにカイシャがあるのだと。




このメッセージは、アメリカが長い歴史の中でずっと目指してきた理想像とも重なります。ずっとやりたくて仕方がなかったこと、でもまだ実現できていないこと。

僕たちは、アメリカの夢を応援できる存在としても活躍していきたいですね。
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執筆

多田 慎介
1983年、石川県金沢市生まれ。求人広告代理店、編集プロダクションを経て2015年よりフリーランス。個人の働き方やキャリア形成、教育、企業の採用コンテンツなど、いろいろなテーマで執筆中。
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