カイシャ・組織
日本では「美学」を大切にしすぎるんですよね──「勝つこと」もいい組織に必要な条件
3月30日に開催されたチームワーク経営シンポジウム2019「新しいカイシャとティール組織について語ろう」。
ゲストは伊那食品工業・最高顧問の塚越寛さん、FC今治オーナーの岡田武史さん、『ティール組織』解説者の嘉村賢州さん、エコノミストの崔真淑さん。サイボウズ代表取締役社長の青野慶久を合わせた計5名で「どうすればカイシャは進化するのか」を考えました。
後半は参加者からの質疑応答タイム。前半
の白熱した議論を受けて、オンライン経由で会場から届いた質問は100個を超えました。「心を鬼にした」青野さんが一部を抜粋して、登壇者の方々と語り合いました。
「いい組織」をつくりたいけど、そもそも「いい組織」ってなんだろう。
不健康の辛さを知っていたから、「利他の精神」が身についた
青野
まずは、たくさんの方から来ていた「塚越さんのような経営者になるにはどうすればいいのでしょうか」という質問です。
塚越さんは、今のような利他の精神や、社員の方々を家族だと思って大切にする考えをもともとお持ちでしたか?
塚越さんは、今のような利他の精神や、社員の方々を家族だと思って大切にする考えをもともとお持ちでしたか?
塚越
いやいや、生まれつきの性格ではないですよ。私は17歳から3年間、肺結核でずっと入院して、思春期の間は寝ていないといけなかったんです。
その辛さを知っているから、他の人にはできる限り優しくしたいと思うようになりました。そして社員にも「他人に『ありがとう』と言われるような、利他の精神をもちなさい」と伝えてきました。
その辛さを知っているから、他の人にはできる限り優しくしたいと思うようになりました。そして社員にも「他人に『ありがとう』と言われるような、利他の精神をもちなさい」と伝えてきました。
最初から利他の精神をもった人だけを採用していたわけではないんですね。
塚越
そうですね。僕がずっと言っていくうちに、社員にも少しずつ考え方が浸透してきました。自分の考えがブレなかったのが良かったのかな、と思っています。
青野
シンポジウムの前半では、塚越さんから「人生一度きり」という言葉が何度か出ていました。17歳からの3年間が、塚越さんの死生観をつくったんですね。
塚越
社内の作業環境をしっかり整えて、健康診断も必ず行ってもらうのも、社員に病気になってほしくないからです。
病気だけではなく、事故にあいにくいよう、営業所は閑静な住宅街においています。
作業効率としては悪いかもしれないけど、社員の安全を守るためには絶対に必要なことなんです。それに、そこまで考えあげたら、社員も「この会社のために」と思ってくれるでしょう。
病気だけではなく、事故にあいにくいよう、営業所は閑静な住宅街においています。
作業効率としては悪いかもしれないけど、社員の安全を守るためには絶対に必要なことなんです。それに、そこまで考えあげたら、社員も「この会社のために」と思ってくれるでしょう。
青野
なるほど。社長の利他の精神が、社員の利他の精神を引き出しているんですね。
業績が下がっている会社の経営者ほど、お付きの人がゾロゾロやってくる
青野
次に崔さんに「イケてる社長とイケてない社長を見分けるのはどうすればいいのでしょうか」という質問がきています。
経営者の「モラル」と「利益」のバランス感覚が大切だと思います。経営者のバランスを見るために、いろいろなポイントがありますが、私が注目しているのは、社外取締役です。
アメリカの研究で、「S&P500」という米国株式市場に組み込まれている上場会社の社外取締役の94%が、CEOの同級生や元同僚だったり、友達チームだったと結果が発表されています。同時に、その仲良しの度合いが高いほど企業価値がよろしくないという話があります。
社外取締役は取締役の1票をもっているので、はっきり言ってうるさい存在じゃないですか。そのポジションにあえて仲間や友人ではなく関係ない人を置いているのは「自分を律することができる経営者」だと判断する材料になります。
アメリカの研究で、「S&P500」という米国株式市場に組み込まれている上場会社の社外取締役の94%が、CEOの同級生や元同僚だったり、友達チームだったと結果が発表されています。同時に、その仲良しの度合いが高いほど企業価値がよろしくないという話があります。
社外取締役は取締役の1票をもっているので、はっきり言ってうるさい存在じゃないですか。そのポジションにあえて仲間や友人ではなく関係ない人を置いているのは「自分を律することができる経営者」だと判断する材料になります。
青野
社外取締役を置いてないサイボウズとしては耳が痛い話ですね。
すみません。もちろん、全部に当てはまる話ではないですよ。
青野
経営者が厳しい環境に自分をおく覚悟がないとやれないぞ、と。
あとはあくまで個人の経験談ですが、番組などで経営者とご一緒するときに、業績が下がっている会社ほどお付きの人がゾロゾロと多くて、うまくいっている会社ほど少人数で来る印象です。それも自己顕示欲の表れなのかな、と。
青野
なるほど。こういう「俺すごいんだぞ」とアピールするような経営者って、組織の色でいうと何色なんでしょうか。
嘉村
アンバーやオレンジが当てはまると思います。要は、このふたつは地位を表明することで統率しやすくなる組織です。
指示を誰にあおげばいいのかわからないと現場が混乱するので、明らかに上であると示さないといけないんでしょうね。
指示を誰にあおげばいいのかわからないと現場が混乱するので、明らかに上であると示さないといけないんでしょうね。
いい組織には「美学」と「勝利」のどちらも必要
青野
岡田さんに、シンプルながら鋭い質問が届いています。「“いいチーム”ってなんでしょうか。絶対に必要な条件はありますか」。
岡田
「美学」と「勝利」どちらも追い求めることですかね。サッカーには「勝ち負け」があるから、それを前提に考えないといけない。「勝つ」のはいい組織に必要な条件のひとつです。
ただ、日本では美学を大切にしすぎるんですよね。たとえば、「武士は食わねど高楊枝」という言葉があります。「いや、食わないと戦えないでしょ」と個人的には思うんですが、なぜか現実よりも美学を重んじてしまうんですね。
ただ、日本では美学を大切にしすぎるんですよね。たとえば、「武士は食わねど高楊枝」という言葉があります。「いや、食わないと戦えないでしょ」と個人的には思うんですが、なぜか現実よりも美学を重んじてしまうんですね。
岡田
ブラジルW杯のときに、選手がカメラの前で「俺たちのサッカーやります」と、口をそろえて言っていたんですよ。それを見ながら、「ああ、やばいなあ」と思って。
当時監督をしていたザッケローニに会って食事をする機会があったので、「ああいうことを言っているときはよくないぞ」と言ったら、怒って帰っちゃった。
当時監督をしていたザッケローニに会って食事をする機会があったので、「ああいうことを言っているときはよくないぞ」と言ったら、怒って帰っちゃった。
青野
ははは。
岡田
W杯に負けたあとザッケローニから「お前が言っていたことはわかった。でもな、まさかW杯で死に物狂いで戦わないやつがいると思うか?」と言われたんです。
「俺たちのサッカー」が大事なのはいいけど、死に物狂いで勝たないといけないんですよ。「俺たちのサッカー」には、口にはしていない「だから負けてもしょうがない」という言い訳がついている。
いいチームは、当然美学やポリシーをもっていないといけない。しかし同時に結果も出さないといけないんです。
どっちかなら誰だってできる。なので、両方を追ってはじめて「いいチーム」といえるのかな、と。
「俺たちのサッカー」が大事なのはいいけど、死に物狂いで勝たないといけないんですよ。「俺たちのサッカー」には、口にはしていない「だから負けてもしょうがない」という言い訳がついている。
いいチームは、当然美学やポリシーをもっていないといけない。しかし同時に結果も出さないといけないんです。
どっちかなら誰だってできる。なので、両方を追ってはじめて「いいチーム」といえるのかな、と。
組織で必要なのは、ホワイトパワーで自立して、モチベーションを上げていくこと
塚越
それは会社も同じですよね。「幸せだ」と言っていても、会社が倒産してしまっては意味がない。
試合に勝つような条件が会社にも必要なんですよ。ただ、そういう中でも最も大切なのは「人生の幸福」だと忘れてはいけないと思うんですよね。
それが社員のモチベーションにつながります。やる気と言ってしまうと月並みですが、たとえばティールも、そのための組織形態ですよね。
試合に勝つような条件が会社にも必要なんですよ。ただ、そういう中でも最も大切なのは「人生の幸福」だと忘れてはいけないと思うんですよね。
それが社員のモチベーションにつながります。やる気と言ってしまうと月並みですが、たとえばティールも、そのための組織形態ですよね。
岡田
そのモチベーションが、主体的にうちから湧き出るモチベーションか、周りから煽られて上がるモチベーションのふたつがあると思っていて。
たとえば日本がホーム以外のW杯で戦ってベスト16にいったのは、僕と西野朗さんのときだけ。どちらも、周りから叩かれて叩かれて湧き出てきた、ブラックパワーなんです。
一方、ヨーロッパの南西のチームは「僕らは勝つのが好きだ」と言う。これホワイトパワーなんですよ。
ブラックパワーは強烈なエネルギーだけど短期的。長期的に見れば、日本人がホワイトパワーで自立して、モチベーションを上げていく必要があると思います。
たとえば日本がホーム以外のW杯で戦ってベスト16にいったのは、僕と西野朗さんのときだけ。どちらも、周りから叩かれて叩かれて湧き出てきた、ブラックパワーなんです。
一方、ヨーロッパの南西のチームは「僕らは勝つのが好きだ」と言う。これホワイトパワーなんですよ。
ブラックパワーは強烈なエネルギーだけど短期的。長期的に見れば、日本人がホワイトパワーで自立して、モチベーションを上げていく必要があると思います。
青野
たしかに憎しみの場合、その強烈なパワーをずっと保つのは難しいですもんね。
岡田
だから組織にとって大事なのは、自立した選手を育てること。「監督があんなことを言ったから」と他人のせいにしがちだけど、プレイも人生も、自分で選べるんですから。
青野
いやあ、おもしろいですね。モチベーションが2種類ある、というのは新たな発見でした。
主体的に出てくるモチベーションをどう引き出していくのか、これは考えていく必要がありそうです。
主体的に出てくるモチベーションをどう引き出していくのか、これは考えていく必要がありそうです。
文:園田もなか/編集:松尾奈々絵(ノオト)/撮影:小野奈那子
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