役員のボーナスの一部が、株主のさじ加減で決まるのはアリですか?──株主と会社の理想の関係について議論してみた
サイボウズの株主総会後に行われたパネルディスカッション。前編では、「会社と株主の良好な関係はどうやったら築けるのか」を主なテーマに、面白法人カヤック代表取締役CEOの柳澤大輔さん、DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー編集長(当時)の岩佐文夫さん、サイボウズの青野慶久社長、山田理副社長が熱いトークを交わしました。
後編では、株主総会から参加してくださった株主のみなさんとパネルディスカッションからの参加者による意見や提案、質問に答える形で、さらに議論を深めていきます。飛び出す提案は、どれも非常にオリジナリティあふれた面白いものばかり。この中から、実際にサイボウズの新しい制度が実現するかもしれません!
頑張った役員には、株主のさじ加減でプラスのボーナスを出してはどうでしょう?
(会場からの質問) 役員の給与の総額を決めて、がんばった役員には株主側からいくらかをプレゼントするのはどうでしょう? 株主のさじ加減で+αのボーナスが出ますよと。
いいですねえ。僕は無責任に言いますけど(笑)。柳澤さん、いかがでしょう?
出すか出さないかだと、株主のみなさんは利益を残したいでしょうから出さないかもしれませんが(笑)、出す金額が決まっていて、役員5人の分配を株主が決めるというのはいいですね。 ルックスがいい人の分配が多くなっちゃうみたいなことがあるかもしれませんが、金額の一部ならいいんじゃないでしょうか? ウチもサイコロで給与の一部を決めたりしていますし。
サイボウズでは、社員の給与は市場性に基づいて決定しています。スキルや働き方から、この人が転職したらこのぐらいの給与をもらえるだろうという決め方です。 一方で僕は、自分の給与を決める時にいつも悩むんです。じゃあ市場性で決めようと思い、ヘッドハンティング会社の人に話を聞いたんです。そうしたら経営者の給与って幅がありすぎてわけがわからなかったんですよ。
ほう。
「この会社は伸びる」と判断したら、安い給与で経営を引き受ける人もいるそうです。業績を上げたら、自分の給料もボーンと上がるからです。逆に、業績が悪い会社の経営者の給与は意外に高いそうです。誰も引き受けたがらないので(笑)。このあたりも、市場性で需給のバランスが成り立っているわけです。 「では僕はどれくらいが妥当でしょうか?」と聞いたら、「取りたいだけ取ったらよろしいがな」と言われて(笑)。
面白い。
そこに株主の方が入ったら意識も変わりますし、よい効果が出るかもしれないですよね。
面白いですねえ。そうなったら、僕は即、株主重視の経営者に変わりますよ(笑)。
ははは。
一般の人に人気投票的にかかわってもらうのと違い、実際にお金が関係する株主の方なら、本気で投票してくれるでしょう。そこに意味もある。ただ、給与の大部分が決まるとなると、カミさんに相談しなくちゃいけなくなりますが(笑)
「日本企業の社会的価値をこう測ります」というモデルケースを作ってくれませんか?
企業の社会的な活動のインパクトをどう測るかが課題になっています。サイボウズなら、財務だけでなく、チームワークが向上した会社を今期どのくらいつくれたかを測る指標にしたほうが面白いのではないかと。 サイボウズやカヤックには、「日本企業の社会的価値をこう測ります」というモデルケースになってもらいたいです。
素晴らしいご意見ですねえ。山田さん、いかがですか?
サイボウズは、指標としてはユーザー数を重視しています。「いかにたくさんの方々にサイボウズ製品を使ってもらえているか」にこだわっているからです。 サイボウズの活動はすべて、世の中を豊かにするための活動です。資本主義のルールの中で必ずしも勝者になる必要はないと思っていますが、敗者になると、今の活動を維持できなくなる。なので、維持するためのKPIとして、売り上げや利益も見ています。 売り上げや利益が大きいほうが、社会にインパクトを与えて役に立っているという面もありますが、僕らの一番のKPIはあくまでユーザー数です。 社会的価値については、よく学生さんから「サイボウズはどんなCSR活動をしているんですか?」と聞かれるんです。僕は、「サイボウズはCSR活動しかやっていない」と答えています。
ご意見を聞いて、われわれがユーザー数にこだわっていることを、もっと強く打ち出していったほうがいいのかなと思いましたね。もちろん社内では周知しているのですが、社外にももっとアピールしていくべきだなと。
最近は、「企業活動の価値を測る指標を見直さなくてはいけない」という意識が高まっていますよね。 幸せや豊かさの定義が変われば、指標も変えていかなくてはいけない。そこで包括的資本主義という考えが生まれ、いろいろな人が持続可能な指標を探しています。
カヤックさんではどんな指標を使っていますか。
「面白指数」ですね。NPS(ネット・プロモーター・スコア)の手法を使って、「社外の人にどれだけカヤックという会社を勧めたくなるか」を社員に聞いて数値化しているんです。 社外の人に会社を勧めたくないということは、何か問題があるわけじゃないですか? 指標の数値の低い人には面接で話を聞いたりするなどして、社内的には指標と理念とリンクしながらやっています。 ですが、社外で「面白がる人を増やす」というのは、数値化が難しくて……。サイボウズさんの場合は、ユーザー数という明確なものがあるんでしょうが。
僕が一番好きなドラッカーの言葉は「測定できないものは管理できない」というものです。 社会的な価値と経済的な価値の両立を目指す時に、どうしても社会的価値が負けてしまうのは、数値化ができないからなんです。それをする努力が非常に大事です。
その点、NPOは本来、返す必要のない寄付で成り立っている組織なので、企業とは全然違った指標で回せるはずです。 個人的にはマジメな組織が多い印象ですが、NPOこそ可能性を秘めていると思うんですよね。
株主が会社を選べるように、会社も株主を選べるようにしてみては?
山田さんが、「株主は会社を選べるが、会社は株主を選べない」とおっしゃいましたが、「会社が選ぶ株主」を一定数つくってもいいのではないでしょうか。 例えば、若い学生やフリーターは、サイボウズを応援したくても、お金がなくて株が買えなかったりしますよね? そこで、サイボウズが選んだ人に株主になってもらう。 もちろん、株主として会社に意見を言ってもらったり、会社の行事に参加してもらったりといった制約をつけた上で。いかがでしょう?
これまたすごいのが来ましたね(笑)。これをやったら世界初レベルでしょうね。全部は難しいでしょうが、甲子園の21世紀枠みたいにある一定の枠を設けて、わたしたちにも選ばせてほしいと。そうすると、会社と株主の関係も変わりますよ。
僕は法律の専門家ではないので、法的に可能かわからないですけど、非常に面白いと思います。
何らかのスキームをつくればできるかもですね。サイボウズの自社株をわたすから、5年任期で株主を務めてください、みたいに。 今、自社株はただ寝かせているだけですからね。それを渡すことで、新たな価値や行動を生み出せるかもしれない。
やりたいですねえ。「ぼく、サイボウズの株主の選抜に落ちたよ」みたいなことが起きたりして(笑) 株主とのかかわりが面倒なら非上場企業に戻ればいい。簡単な話で、実際に検討したこともあるのですが、そうするとどんどんクローズな会社になりますよね。 自分たちが選んだ人だけで経営するのが果たしていいんだろうか? と思うんです。いろいろな人がサイボウズについて意見を言ってくれて、僕らもそれを聞かなくてはいけない。そのほうが、多様性があって健全だと感じます。 いずれにせよ、「会社が選ぶ株主」が一部いるのは、メッセージとしても面白い。法的にも可能ではと思いますね。本気で考えたいです。
ステークホルダーで一番重要視しているのは誰ですか? 株主、社員、お客様?
会社を取り巻くステークホルダーは株主、社員、顧客、パートナーなどいろいろですが、どれを一番重視していますか? バランスの取り方が難しいと思いますが、どのように勘所を押さえているのかなと。
僕があまり支持しないのは、カテゴリーごとに序列をつけることです。社員が1番で、顧客が2番目、株主が3番目、みたいなのは、非常に違和感がありますね。 だって、社員にもお客様にも株主にもいろいろいるじゃないですか? なんでカテゴリーごとに見る必要があるんだろうと。サイボウズには週3回しか出社しない社員もいる一方で、パートナーさんの中にはサイボウズのことばかり考えて週5日働いてくれている人もいる。どっちが大切やねん? という話ですよ(笑)。
ええ。
カテゴリー化すると思考停止するし、多様性も失うので、そういう考え方はしたくありません。どのカテゴリーのステークホルダーが大事、ではなく、1人ひとりを見たいです。 いろいろなかかわり方がある中で、サイボウズの理念に少しでもコミットしてくれるとありがたいし、たくさんコミットしてくれるともっとありがたい。それだけのことかなと思います。
根本的には、青野が言ったとおりなんですけど、じゃあどうバランスを取るかについては、悩んでいます。配当金額ひとつ決めるのにも悩むし、社員の給与を決めるのにも悩む。ずっと試行錯誤ですね。 ただ、サイボウズがやりたいことを持続的にやれた分だけ、世の中に価値を提供できると思うので、途切れないようなバランス配分は、常に念頭に置いています。
多様性が重要と言われながら、なぜ株主総会は画一的なんでしょうか?
株主との関係性について、カヤックさんの取り組みはめずらしく、先進的だといわれますが、逆にいえば、まだまだ普通でも一般的でもないということですよね? 最近、多様性が重要とあちこちで言われていますが、なぜ広まっていないのでしょう? 結局、世の中一般や多くの企業の考え方は変わっていないのでしょうか?
私は、かなり広がってきたなという印象です。ただ、広がるのが遅いんですよね。 19年前にカヤックを立ち上げた当時、「面白く働く」といったら、諸先輩方に怒られましたからね。「仕事とはつらいものなんだ!」と(笑)。
ははは。
けれども今は、好きなことを仕事にしようという人も多いし、「ウチの会社が健全に経営できているかは、この指標で見てほしい」と独自の指標を示す会社も出てきています。多様性は広がっていて、悪い方向には向かっていないと思います。
働き方についても、なぜ社会や会社は変わらないのか? とよくいわれますが、そういうことを言う人は、古い体質の会社の中で、苦しい顔で働いている人だったりするんですよ。 「ウチの会社は古いんです」と言われても、そういうあなたも変わっていないよね、そこでずっと働いているだけじゃないですか、という話になる。 転職して別の会社に行けばそんなことは言わなくなるし、イケていない古い会社も、社員がどんどん抜けていけば存在しなくなる。世の中はあっという間に変わります。 結局、変わらないのは1人ひとりの行動で、一歩踏み出せない人が多いから。人間、そんなものなのかもしれません。ただ、確かに動いていると思います。もっとみんなに行動してもらいたいですね。
柳澤さんがおっしゃるように、時間がかかるんだろうなと思っています。働き方改革も、サイボウズでは10年以上前から進めていますが、ここにきてやっと日本全体でもそういう動きになってきました。 一方、米国では、働き方は比較的自由ですが、経営のやり方が株主を重視しすぎ、短期的な収益を求めすぎになって、貧富の差が拡大するといった問題が噴出しています。米国ではこれから、経営のやり方を変えることが大きなテーマになっていくと思います。 働き方がそう簡単には変わらないのは、経営と一体になっているからです。日本でも、働き方とともに、経営のやり方をどう変えていくかを議論しない限り変わらない。まだまだ時間がかかるでしょうね。
サイボウズはしょせん売り上げ100億円もいっていない会社ですから、僕らの話に耳を傾けてくれる人はまだ少ないと思います。でも1000億円になって、世界中の数億人がサイボウズ製品を使っていて、働き方も素晴らしいとなると、もっと多くの人が本気で話を聞きに来てくれるでしょう。 僕らがすべきなのは、働き方を変えていきましょうと言い続けながらも、みんなが見ている株価や売り上げ、利益といったKPIでも成功すること。そうしたら、世の中が一気に変わると思うんです。
有意義なディスカッションになったのは、株主のみなさんといっしょにつくり上げたからこそ
最後に感想を含めて、ひと言ずつお願いします。
こういう機会をつくれて良かったし、参加してくださった株主の方々に感謝しています。 サイボウズがやっていることが必ずしもすべてよいというわけではなく、あくまでこういう考えの会社もある、ということなんですが、賛同していただいている方々もたくさんいらっしゃると感じています。今後も発信を続けて、株主総会もよりよい場にしていきたいと考えています。
とても有意義な場でした。柳澤さんの取り組みを伺って、サイボウズは株主のみなさんにコミットしていただいて、いっしょに会社をつくっていく努力がまだまだ足りていないなと感じました。 みなさんからいただいた意見から、僕らが考えたこともなかったような、クリエイティブなアイデアがたくさん出てきました。実現に向け、真剣に取り組んでいきたいと思います。
このディスカッションに参加するにあたり、過去のサイボウズ式の記事などを読ませていただき、非常に勇気づけられました。 今日改めて、こういう会社を応援する人が増えればいいなと感じると同時に、僕自身、サイボウズの株主になりたいと思いました。ぜひ審査をお願いします(笑)
僕も柳澤さんのお話を伺うのは今日が初めてだったんですが、やはりすごく面白かったし、サイボウズさんの考え方についても改めて共感しました。 予想以上に面白かったのが、株主のみなさんの意見です。みなさんといっしょにつくり上げたからこそ、今日のディスカッションが大変有意義な場になったと実感しています。 個人的には、山田さんの意見にもっとも触発されました。「主催者が一番面白くない会議を主催している」。この意識を変えれば、株主総会もきっと楽しいものになるんだろうと思います(笑)。来年のサイボウズさんの株主総会に期待しています。
文:荒濱 一/写真:谷川 真紀子
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執筆
荒濱 一
ライター・コピーライター。ビジネス、IT/デジタル機器、著名人インタビューなど幅広い分野で記事を執筆。著書に『結局「仕組み」を作った人が勝っている』『やっぱり「仕組み」を作った人が勝っている』(光文社)。