職場に親友って必要?「社員同士の友情」は仕事の生産性につながるんです

お互いの健康のために社会的距離を保たなければならない今、職場で良好な友人関係を維持することは、最優先事項ではないのかもしれません。
友情の専門家であるシャスタ・ネルソンさんは、「職場に友だちをもつことは、自分が幸せになるためだけでなく、チーム、リーダー、ビジネス、社会のためにも非常に重要だ」といいます。 職場における友情の重要性と、それらを育む方法について、Kintopia 編集長のアレックス・ストゥレが取材しました。仕事に限らず、私たち人間には「友情」が必要

でも、シャスタさんの研究によれば、この考え方は健全とは言えないようです。なぜ職場に友だちが必要なのでしょうか。

ほとんどの人は、有意義な人間関係を求めています。
世界中で孤独を感じている人の数がとても多いのは、全体的に何かがうまく機能していないからで、他者との関係性やつながり方を見直す必要があります。


子どものころに通っていた学校と同じように、職場では定期的に同じ人たちとやりとりをします。孤独を感じたまま1日を終えるなら、他者との関係を望む気持ちが満たされないと言ってもいいでしょう。
友情は人の幸せに大きく関わっています。
身体的、精神的な健康にも欠かせません。仕事の満足度にも常に関係しているので、とても大切なことなのです。

シャスタ・ネルソン。職場における健全な人間関係や友人関係の専門家。神学修士。講演や執筆を通して、社員のエンゲージメント、チームの文化、売上、社員の採用や定着の直接的な関係性に光を当てている。健全な人間関係を構築するための戦略指導も行い、個人の幸福や健康にも貢献。ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、ロサンゼルス・タイムズといった有力紙や雑誌にも取り上げられている。2020年には最新刊の『The Business of Friendship: Making the Most of the Relationships Where We Spend Most of Our Time(仮訳:友情とビジネスー職場の人間関係を最大限に活かす方法)』を上梓

ビジネスの面ではどうでしょうか。

職場での友情が、離職率の低下、従業員のエンゲージメントや顧客サービスの向上につながるという研究は、長年行われています。
ギャラップ社が過去20年間に行った国際的な調査では、「最も優秀な従業員は、職場に親友がいる」という結果が出ています。マイヤーズ・ブリッグス協会など、ほかの組織が行った研究でも、この結果を裏付けています。


さらに、安心感が高まり、サポートされていると感じます。その結果、顧客への対応も改善するでしょう。


従業員が「自分の体験を他者と共有できる」と感じていると、レジリエンス(跳ね返す力)が培われるそうです。
従業員のレジリエンスがあるからこそ、会社が急激なショックに見舞われても、衝撃から立ち直り、ストレスの多い状況でも前進し続けることができます。
不確実性の高い時代だからこそ、ビジネスには健全な人間関係が不可欠なのです。
「友情」とは、お互いの存在が認識され、安心と充足がある関係

たとえば、今回の取材は、どの程度の友情になるのでしょうか。

このインタビューのような対話は、最も浅いレベルの友情です。
お互いに自分の存在が認識されていると感じ、価値観が共有され、会話に安心感があり、最後には気持ち良く交流を終えられる関係です。
こうした交流を続ければ、友情は深まります。
アメリカのある研究によると、他人から知り合いになるまでに50時間、友だちになるには80から100時間、そして親友だと感じるには200時間かかるそうです。


子どもの頃は誰かと充実した時間を過ごすのは簡単だったと思いますが、大人になると、「継続的に一緒に過ごす時間」を意図的につくる必要があります。
時々一緒にランチを食べて楽しむくらいでは、「自分が認識されていて、日常生活の中でサポートを受けている」とは感じられないかもしれません。

本当に職場に親友が必要なのでしょうか? 普通の友だちがたくさんいるだけではいけませんか。

全員が親友をつくる必要はありませんが、職場における親友の存在は大きいです。
先ほどのギャラップ社の調査では、「職場に親友がいる」という質問に対して、反発の声が多く寄せられました。
主任研究員によれば、別の質問も試してみたそうですが、「親友」という言葉とエンゲージメントの関係性が強かったため、あえて「親友」という言葉を残したそうです。
友情は「積極性」「一貫性」「脆弱性」からできている


「積極性」とは、お互いにポジティブな体験をもたらします。喜び、刺激、誇り、感謝、笑い、共感、楽しみなど、お互いに心地良くなる感情です。
私たちが友だちをつくるのは、こうした対話が心地良いからです。
「一貫性」とは、時間をつくり、信頼を獲得し、自分から行動を起こすことです。楽しい時間を過ごすだけでは、必ずしも友情にはつながりません。繰り返し体験を共有する「一貫性」が必要になります。
思い出をつくりたければ、お互いに時間をつくって顔を合わせるしかありません。一貫性がなければ、信頼も生まれません。
「脆弱性」とは、素の自分をさらけ出し、必要ならば非を認め、許したり、謝罪したりするタイミングを知っていることです。
お互いの性格を理解し、相手の反応を予測できることです。関係が密であればあるほど、批判を恐れずに弱みをさらけ出せます。
研究者によって言葉は違いますが、この3つがどの友人関係にも当てはまる、核となる要素です。


安心で信頼できる職場環境をつくろうとしているならば、この点は特に重要です。
「積極性」と「一貫性」も交えて、相手に見せられる弱い部分も少しずつ増えていき、時間と共に「脆弱性」も増加していきます。

たとえば給与、昇進、政治、宗教、恋愛関係といった話題をタブー視するのは古い考え方ですか?

内容によって相談相手を変えた方がいい場合もありますが、だからといって、給与のような話題を常にタブー視する必要もないと思います。
「脆弱性」にとって一番大切なのは、「積極性」と組み合わせることです。
もしあなたが給与の話をするなら、自慢話だけで終わらせてはいけません。少なくとも相手の気分が良くなるような話し方をしましょう。
自分の収入が相手よりも高いとしたら、相手が昇給する方法を一緒に考えれば、絆が深まりキャリアにも繋がるかも知れません。情報の開示がゴールではなく、話が終わった時に、お互いの気分が晴れていることが大切です。
人間関係は、一貫性と積極性がないと枯渇して死んでしまう

残念ながら、今は状況が変わってしまい、また新しいパターンを作らなくてはいけません。

同僚と一緒に過ごすのも簡単ではないですし、やりとりがすべてオンラインになって、積極性を保つのも難しくなりました。
パンデミックの中で、どうすれば良い友人関係を築けるでしょうか。

パンデミックが終息した後、以前と同じ友人関係を再開できると期待してはいけません。「終息したら終わり」ではなく、物事が以前の状況に戻るには時間がかかることを念頭において、すぐに行動を起こしましょう。


この「沈黙」を個人の問題と結びつける人が多いのですが、実際は一貫性のある対話方法が見つかっていないだけです。
一方で、新しいテクノロジーを駆使して一貫性を保つ方法を見つけている人もたくさんいます。その場合に大きな課題になるのが、「積極性」です。
Zoomでやりとりをした後、高揚感ではなく疲労感がつのることはありませんか?


そんな人は、まずZoomで「前向きで意味のあるやりとりをする方法」を考えてみてください。
お互いの近況を話したり、仕事とは関係のない質問をしたり、課題を検討する時間を取ったり、簡単なことで構いません。参加者の存在をしっかり認識しましょう。


マネージャーが誇り、刺激、喜びなど、前向きな言葉を選んで、チーム全員がそれを実現するためにできる取り組みを話し合うのがおすすめです。会議の結論を出す必要はないので、とにかく会話を楽しみましょう。
こうした会話をする場所をつくるだけでも、チームに気持ち良く働いて欲しいと思っているのが伝わりますし、そのための具体的なアクションも見えてきます。
方法は色々ですが、何か行動を起こすべきなのは間違いありません。人間関係は、一貫性と積極性がないと枯渇して死んでしまいますから。

関係の維持については、どこまでが個人の責任で、どこまでがリーダーや組織の責任なのでしょう。

個人レベルでもできることはありますが、今の状況下では、マネージャーだからこそ、できることもたくさんあると思います。
たとえば勤務時間を短縮して、「ビデオ会議疲れ」を減らせれば、さらに人間関係に力を注げるかもしれません。パンデミックによって、生産性の形も変わってきていますから。
マネージャーが率先して、チームや会議の時間を使って、お互いの近況を聞くなどして、積極的な交流を進めるのもいいでしょう。
オンラインのブレークアウトルーム(グループ分け)という便利な機能を活用すれば、少人数で会話ができます。


毎週木曜日の10時になると、「さぁ雑談の時間です」とメッセージが来る仕組みなのですが、入社したばかりの社員や交流を大切にする社員の間で、とても好評だったようです。


社員が課題や不安を話し合える場をつくるために、企業ができることはたくさんあります。
在宅勤務で苦労しているアクティブなメンバーに、そういった感情は普通であって、会社のリーダー達はサポートしたいと思っていると伝えましょう。
職場ほど、自分と違うタイプの人と出会える場所はない

私は所属する人の96%が日本人という東京のオフィスで働いていますが、プライベートで会うのは英語を母国語とする人ばかりです。
自然な行動だと思いますが、少数派への偏見にもつながると感じています。どう思いますか?

友情の構成要素である一貫性、積極性、脆弱性を親しみやすい人に対して発揮する方が簡単なのは当然でしょう。
アレックスさんの場合は、英語話者の方が親しみやすいわけですよね?
誰にでも絆は必要ですし、いま親しくしている友だちや自分が興味を寄せる相手に対して、後ろめたさを感じる必要はありませんよ。


プライベートでは、タイプの違う人とのやりとりを避けるのは簡単ですが、多様な友人関係をもつことで、得るものも多いです。簡単に自分と違うタイプの人と出会い、知り合えるのが職場だと考えるといいかもしれませんね。
親友になる必要はありませんが、「積極性」「一貫性」「脆弱性」という三角形に基づいた友人関係を重点的につくってみてください。

そういう人に対して、メリットをどう説明したらよいでしょうか?

さらに、多様な友人関係をもつことで、共感する力が生まれます。共感する力はトレーニングとメンテナンスが必要な筋肉のようなもので、自分と同じような人と常に一緒にいても、あまり鍛えることができません。
異なった世界観を教えてくれる人との対話は、知識や共感する力を鍛え、人間として、そしてリーダーとして成長させてくれます。
リーダーシップの専門家は口をそろえて、リーダーとしてのスキルを身につけるには、共感する力が欠かせないと言うでしょう。
今の時代、人と関わらない仕事はほぼありません。私たちの行動はどこかで人間関係や顧客、同僚、社会全体など、自分を取り巻く環境に影響を与えています。様々な人と関係をつくろうと努力すればするほど、生活の質が高まる人がほとんどだと思います。
待っているだけでは、友情は生まれない


名前を書き出すだけでも、「どうしたらもっと有意義な会話ができるかのか?」「もっと継続的に交流するには、どうしたらいいのか?」と考えるようになるので、十分に効果があります。
待っているだけで友情は生まれません。自然の成り行きのように思える友人関係でも、振り返ってみれば継続的に一緒に時間を過ごし(一貫性)、互いを知り合い(脆弱性)、楽しい時間を過ごしてきた(積極性)から生まれた関係だと気が付くでしょう。
優先的に大切にしたい人を見極めて、「最近どう?」と連絡してみてください。前の会話に出てきたトピックに関する記事を送ったり、仕事の近況を尋ねたりしてください。親しい関係を継続したいと思う人を意識的に見極めておきましょう。

それとも対象を広げてみるべきでしょうか。

必ずしも友だちという位置づけでなくても、メンターのような存在でもいいのです。自分の可能性を広げてくれる人を入れて、新しい人間関係をつくるのは良い挑戦だと思います。
そうすれば、パンデミックですら、人間関係をつくるスキルの向上という貴重なチャンスに変えられますね。
企画・執筆:Alex Steullet/翻訳:ファーガソン麻里絵/編集:神保 麻希
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編集

神保 麻希
サイボウズ株式会社 マーケティング本部所属。 立教大学 文学科 文芸・思想専修 卒業後、新卒で総合PR代理店に入社。その後ライフスタイル系メディアの広告営業・プランナーを経て、2019年よりサイボウズに入社。