「多様性のある職場だから、いい結果が出る」わけではありません。まずは異文化理解から始めよう──エリン・メイヤー
多様性の理解が広がるにつれ、私たちは、自分の強みや違いを持った個人であることを受け入れることが求められます。しかし、自分たちの文化の特徴を、より掘り下げて考える人は多くはありません。
人々が異なることを文化の側面から理解するには? 『異文化理解力』のエリン・メイヤーさんに、仕事において文化を超え、物事を成し遂げる「多様性のある職場環境」のポイントについて、Kintopia編集長のアレックス・ストゥレが聞きました。
※この記事は、Kintopia掲載記事「How Understanding Culture Can Unlock the Business Potential of Global Diversity」の抄訳です。
文化的な多様性の恩恵を受けるには、余白が必要
多様性の基本的な考え方を聞かせてください。
組織は「考え方や思想の多様性」を模索すべきという主張もあれば、ジェンダーや民族性といった「人口統計上の多様性」が大切という意見もあります。
さらに、エリンさんの専門分野である「文化の多様性」は、ほかの多様性と比較して、ビジネスにとって常にプラスなのでしょうか。
そもそも、多様性のある環境が常にプラスになるとは考えていません。
文化のミックスが進むほど、誰にとってもいい結果が生まれると楽観的に考えがちです。しかし、多文化主義の混乱から生じるマイナス面は考慮されていません。
*ハイコンテクストとは、コミュニケーションや意思疎通を図るときに、前提となる言語や価値観、考え方などの文脈が近い状態を指す。
日本には「空気を読む」という慣用句がありますよね。
「空気を読む」能力があると、暗黙のメッセージを読み取って、すばやくコミュニケーションを取ることができます。こういった同質的な文化では、プロセスを重視し、混乱を最小限に抑えることで効率性があがるんです。
ただ、突拍子もないアイデアでイノベーションを起こそうとすると問題が起きます。巻き込む人たちの文化的な違いを理解していないと、多様性の利点が台無しになりかねません。
多様性の恩恵を受けるには、余白が必要なんです。
そうです。多様性があればあるほど、イノベーションはうまくいきます。よりイノベーションを加速させたいなら、ジェンダーや民族の多様性も有効です。
アイデアがぶつかり合って、本当のイノベーションを生み出す「自由な思考」を求めるなら、多様性がある環境が適していると思います。
圧倒的に男性が多い日本企業ならば、ぜひ女性の数を増やしましょう。異なる文化的背景を持った人の採用も検討すべきです。
コンテクストの違いを知ろう
*ローコンテクストとは、コミュニケーションや意思疎通を図る際に、前提となる言語や価値観、考え方などの文脈が少なく、より言語に依存したやりとりが中心になること。
ローコンテクストな文化では、簡潔、明確、明示的なコミュニケーションが重視されます。
多様性がある環境では、簡潔で明確なローコンテクストのコミュニケーションが効果的です。
異なる文化圏の人と仕事をするとき、簡潔で明確なコミュニケーションを心がけなければ、メッセージは誤解され、コミュニケーションが崩壊します。結果、効率的に仕事ができなくなってしまいます。
コミュニケーションの責任は伝える側にあり、理解してもらえなければ、うまく伝えられなかった私の責任です。
ええ。ローコンテクストな文化では、最も明確な話し方をする人がスマートとされます。一方、フランスや日本といったハイコンテクストの文化では、さまざまなレベル感で会話ができる人がスマートです。
これは、どちらの文化にとっても興味深いことなんです。
だからハイコンテクストな文化で育った人に「そのコミュニケーション方法は、多数の文化が混ざり合う環境では通用しません」と説明するのは非常に難しいのです。
でも、わかり合うことは不可能ではありません。
わたしも研究を通して、多くの人がコミュニケーションの方法と違いに理解を示して、コミュニケーションの方法自体を磨いていく姿を見てきました。
自分の文化を笑いの種にしてしまうのもいいですよ。「文化が違うから、やり方も違うけれど、理解して適応しようと努力していますよ」という姿勢を見せましょう。
実は、そうとも言い切れません。
効率とはいかに早く仕事を進められるかであり、ハイコンテクストなコミュニケーションの方が、スピードは速いからです。
全員がハイコンテクストなコミュニケーションをしていれる環境では、同じ内容を繰り返す必要も、全員の理解を確認して回る必要もありません。その意味では、ハイコンテクストなコミュニケーションのほうが効率的です。
言葉には、言葉そのものだけではなく、言葉の裏側や文脈にも意味があります。ハイコンテクスト文化では、洗練された多層的なコミュニケーションこそ効果的だと考えられます。
そのメッセージを伝達するのが伝える側の責任です。同時に聞き手もメッセージを読み取る責任があります。
多様な文化の違いは、オープンに話し合おう
その通りです。日本の文化でおもしろいのは、非常に謙虚であり、極めて折り目正しいことです。しかし、親しくない人との会話にユーモアを持ち込むと、気まずくなりがちです。これが自虐にもつながるのですが。
その場合は、文化の違いをきちんと説明するといいでしょう。複数の文化的背景を持つ人が参加する会議なら、事前にこう連絡してみましょう。
「いろいろな文化的な背景を持つ人が出席する会議なので、できるだけ明確な話し方をしてください。時間をかけて要点を繰り返し、全員に意図するメッセージが伝わるように心がけてください」
素晴らしいアドバイスですね!
わたしは皮肉たっぷりのユーモアが習わしの文化で育ったのですが、日本ではこの手のユーモアが通用しないと気づきました。
皮肉を言って自虐しようとしたら、単にネガティブな人間だと思われた経験があります。
「ちょっと待って、今のは冗談だから!」と説明することになって、結局おもしろくなくなってしまうんですよね(笑)。
アレックスさんのご出身であるスイスのフランス語圏は、かなりのハイコンテクスト文化です。ユーモアの違いや文化的な機微を、あるハイコンテクストの文化から別のハイコンテクスト文化に持ち込んでも、うまくいかない例です。
きちんとした意図を持って明確に伝えようとしても、文化的な行き違いは避けられません。
こうした誤解が原因で失敗しないためには、どうすればいいでしょう。
文化の違いについて、もっとオープンに話し合ってほしいです。話をすればするほど、周囲の状況が理解でき、生じた疑問も好意的に解釈しやすくなります。
「誤解の原因は、文化の違いかもしれない」。ここを理解しようとすれば、柔軟性が高まり、ビジネスにもプラスに働きます。
1つ例をあげます。わたしがアメリカのミネソタ州で、日本にいる日本人と仕事をしているとします。
ミネソタの人には「日本は階層主義的で、トップダウンの文化だ」という理解はあるものの、「日本では合意のもとで意思決定される」ことを知らない可能性があります。
そうすると、日本人と仕事をしたアメリカ人は、トップダウンの文化なのに、なぜ意思決定に時間がかかるのか疑問に思うかもしれません。
ある文化の知識と実際に目にする行動にギャップがある場合は、お互いの文化を照らし合わせて、ギャップが大きな部分をどう克服するか話し合ってください。 文化の違う人たちに声をかけて、どういうことなのかを尋ねてみるのもおすすめです。
「もっと速く意思決定されると思っていたが、文化的な誤解が生じているようだから、今後の意思決定を見直しましょう」と伝えればいいのです。
そして、できるだけ笑いに変えてください。1つ言えるのは、多様性のある環境で成功した会社の共通点は、文化的な違いをおおごとにしません。文化的な違いを話しあって、笑いのネタに変えています。
多文化の理解には「カルチャー・マップ」を役立てよう
カルチャー・マップを使います。文化を8つの行動指標に分けてマッピングしています。詳細は書籍『異文化理解』で触れています。
たとえば日本と中国をマッピングすると、8つの指標のうち6つは比較的近い位置関係にあります。どちらの文化も階層主義的で関係性を重視します。多少の違いはありますが、ほかの文化と相対的に比べれば、かなり近いといえます。
ただ2つの指標で大きな差が見られます。
日本人は時間や約束厳守で、組織構成に重きを置きますが、中国人は柔軟性を重視します。中国人がトップダウンで迅速に決断するのに対し、日本人は合意志向が強いです。
このように、どんな文化でも比較してマッピングが可能です。
類似点と相違点を見れば、文化的な要素がチームに与える影響を理解できますし、どうすればより効率的に仕事ができるかを議論する機会が生まれます。
階層 |
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第1 |
誰にでも当てはまる共通の人間性 |
性格や出身地に関係なく、嫉妬やプライドといった心理的な動機は誰でも持ち合わせている |
第2 |
文化 |
どういった背景を持った人物なのか。どんな風に育てられて、どんな世界観を教えられてきたのか。文化はコミュニケーションの方法や信頼の築き方などに影響する |
第3 |
組織的なもの |
わたしたちが所属する組織にも独自の文化があり、影響を受けている |
第4 |
個性 |
1人ひとり性質が異なりますし、同じ家庭で育った双子でも、性格は異なる |