サイボウズのつくりかた
テレワークは「学び放題」の環境だった──若手をフォローしてわかった「後輩なり放題」のススメ
社会人歴約20年のタイミングでサイボウズに転職してきた、喜屋武みどり。その後まもなく「縁もゆかりもない仕事」に関われる機会を得たものの、新しい分野をどう学んでいくべきかで悩んだそう。
最終的に見つけ出した「新しい学び方」とは?
縁もゆかりもない仕事が舞い降りてきた。数か月前に「うちのチームの仕事も兼務で手伝わない?」と、突然これまでやったことがないお仕事の誘いがきたのだ。
いくつになっても、何かを期待されるのは嬉しい。それがまた未知の領域となるとなおさらだ。今回、わたしがお誘いをうけたのは、ブランディングのチーム。
少し前までは、周波数帯域の規格に関わるお仕事をしていた。ブランディングとは、だんごと花ぐらい離れている職種だ。
直接的な実利がわかりやすい、おだんご系の規格の仕事か、人の感性に働きかける企画の仕事。
おだんご系の仕事を多くしてきたわたしに、商品の魅力を伝えるお花系の仕事を提案してきた人は、当然これまでいなかった。
かしこい人なら自分の適性を考え、引き受けるかどうかを決めるのだろうが、ブランディングというきらめく言葉に好奇心をくすぐられたわたしは、お誘いに乗ってみることにした。
と、同時に「誰を頼ればいいのかしら?」と、不安がよぎる。
そのチームの専属メンバーではないわたしには、チーム内に直属の上司がいるわけでもなく、特定の誰かが無知なわたしの面倒を見てくれるわけでもなさそうだ。
サラリーマンの嘆きの一つとして、上司や先輩に恵まれず、といった種類のものがあると思うのだが、今回のわたしにはそもそも、そんな関係性の人がいない。
いや、いるのかもしれないが、どう関係性を築けばよいのかわからない。しかも今はテレワークだから、なおさら難しい。
困ったものだ。
社会人歴 約20年目のわたし、新卒2年目に学ぶ。
まずは、週1でミーティングに参加することになった。
仕事の判断基準がわかっていないので、
「ブランディングの人たちは、言葉にめちゃくちゃこだわるのねぇ」
「みんなが白熱していた、あの微細なニュアンスの違いを理解することが、この仕事をする上での肝なのかなぁ」
と、漠然とした感想を持つことからのスタートだ。
社会人経験の年数だけは立派にあるのに、たいして役に立てない自分に、はがゆい気持ちになってくる。そして、できない自分が、ちょっぴり恥ずかしい。
そんなわたしと近しい立場にいたのは、社会人歴2年目で転職してきた今井さんだ。
彼はこのチームの専任で、先輩からビシバシ指導を受け、どんどん仕事を進め、ぐんぐんと成長している。その様子は、わたしのグループウェア上に流れてくる。
「ふむふむ。記事企画は、自分の体験から疑問を育てていくのがいいのねぇ」
「あ、でも自分の感覚と社会の関心が交わるところを考えないといけないのか」
企画の仕事は、 “人の心を動かす”ことが重要であることに、先輩たちからの指摘で改めて意識することになる。長年やってきた仕事のロジックで、無意識に頭を動かしていた自分に気づかされる。
学び直しの必要性を痛感したと同時に、いいアイディアが降ってきた。
「そうだ! 今井さんと一緒に学ぼう」
勝手に、今井さんの仕事のやり方を観察することにした。
やる気に満ちあふれた彼は、毎週すごい勢いで目をキラキラさせて、新しい企画を考えてくる。そして、先輩から矢のようなフィードバックが、次々と飛んで来る。
そのやりとりを、わたしは業務のすき間に盗み見ることにした。
本来であれば、わたしも同じように企画をどんどん提出して、直接フィードバックをもらうのが、学びの観点からは効率がいい。
だが、他の仕事と兼務していると、リソース的に厳しい。だから、わたしに先駆けて、企画を手掛けてくれる彼の存在は非常にありがたい。
すでにこの分野での経験がかなり長い先輩だと、企画の精度が高いので、会議の場ではスルっと話が決まってしまうことが多い。そうすると、まだこの仕事に詳しくないわたしには学びが残りにくくなる。
自分と似たようなところでつまずきそうなレベルが近しい人が、どう学んでいるかを見ている方が、いまのわたしのレベルには合っている。
隣の上司は青くない。
若いときのわたしは、周りにあるもの全てを、ベスト・オブ・ベストで囲みたがっていた。
モノを買うときもそうだし、会社や仕事を選ぶときもそうだ。だから、もちろん一緒に働く人たちにも、自分が到達できなさそうな極みにいる「天才」たちであることを望んだ。
高い理想のもとで働けた方が、うんと成長すると信じていたからだ。
そんなあるとき、職場にドラマの主人公みたいな理想的なマネージャーが現れた。
理路整然と論理的に説明するロジカル派だ。その人は同僚の上司だったのだが、天才にあこがれるわたしには、その環境がすこぶる羨ましかった。
ただ、同僚は違う意見を持っていた。詳しくは教えてくれなかったが、わたしが想像しているものとは、現実は少し異なっていそうだ。
そんなわたしに新しい視点を与えてくれたのは、ロシアの天才心理学研究者、レフ・ヴィゴツキーだ。
彼の研究によると、「人は模倣できることしか学ぶことができないし、その人の理解の現在地と近しい人からしか、模倣することができない」とわかったらしい。
この結果を踏まえると、あこがれの天才の神ワザを近くで見続けるより、自分の数歩先ぐらいを歩いている身近な存在をフォローする方が、より効果的に学習できると言えそうだ。
「なるほど。だから、あのとき、天才上司のもとで働いていた同僚は、わたしの反応に少し顔をゆがめて応えたのかもしれない」と、過去がフラッシュバックしてくる。
それから年月を経て、いまのわたしは、うんと年下の彼をとりまくやりとりを注視している。その方が、学習効率的によいことを、身をもって知るようになったからだ。
学びはビュッフェ形式で。
これまで企業では、職場の天才が成し遂げた成功事例のナレッジシェアが行われてきたと思う。しかし、本当はそれに加えて、「背伸びをしたら手が届きそうな、身近な人の考え方ややり方」の共有が必要なのかもしれない。
何を考えて、どう進めるかの過程が可視化された情報がたくさんあれば、ひとりひとりの学びのステージにあった情報を入手できるのでよさそうだ。
ちょうどわたしが、天才やベテランではなく、身近で年下の彼を追いかけているように。
サイボウズだと他部署を含め、他の人の仕事の進め方をグループウェア上で見ることができるので、そこを眺めるだけでも見習いたい人をオーダーメイド式で選べる環境がある。
まるで「誰の後輩にでもなり放題」かのようだ。
この環境は、どこかビュッフェ形式のお食事スタイルと似ている。ちょこちょことつまみ食いをしながら、自分に合うものを発見するようなプロセスだ。
そのときの冒険心や好みのジャンルに応じて、オリジナルの料理コースをつくるあの感じに近い。
それは誰かが選んでくれた、ベストな(はずの)コースメニューより自分のティストに合いそうな気がするし、仮にコースの選択を失敗しても選び直せばいい。ビュッフェ形式には、コースメニューにはない気軽さがある。
他にもやり方はいろいろありそうだ。
例えば、
- 「この人にぜひ教わりたい」という人に講師をお願いして、社内勉強会を開催する。
- 数か月後にはこうなりたいと思える人の仕事のやり方に、聞き耳を立てる。
- 一緒に学びたいことを伝えて、業務をお手伝いする形で、さまざまな人の学びを吸収する。
など。
学びのビュッフェを増やす方法はいくつもあるし、少し意識すれば作り出せる。
いつ叶うかわからない、あこがれの上司や先輩のもとでビシバシ指導されることを夢見るより、こうした学びのビュッフェを増やすことを考えるほうが確実だし、身になるのではないかと今は思うのだ。
執筆・喜屋武みどり(サイボウズ)/イラスト・ヒグマ
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執筆
喜屋武 みどり
2020年にサイボウズへ中途入社。kintone認定資格チームのプロモと運営業を中心に複数のチームを兼務で働いています。最近の関心は、40代からのたのしい働き方シフト。