ここ最近、よく耳にする「多様性」という言葉。むずかしそう、ちょっと聞き飽きた、間違った言動をしそうで怖い——。そんなふうに感じている人もいるのではないでしょうか。
実は、サイボウズ式編集部にとっても「多様性」というテーマはハードルが高く、わからないこともたくさんあります。
そこで、この度、「多様性、なんで避けてしまうんだろう?」という特集を通して、あらゆる切り口でこのテーマを探求することにしました。
記念すべき第一回目は、編集部の「多様性」にまつわるエピソード、むずかしさを感じるシーンや想いを座談会形式でお届けします……!
「自分と他者のちがい」に気づいた話
鮫島
多様性において「自分と他者のちがい」を知ることは重要だと思うのですが、編集部はどんなタイミングで「他者とのちがい」を感じたのか、聞いてみたいです!
鮫島みな(さめじま・みな)。2018年新卒入社。特集「多様性、なんで避けてしまうんだろう?」の担当。営業職を経験後、現職の編集部へ。幼少期をサイパンで過ごす
穂積
僕高校生のとき部活でバスケをやっていて、勝つためにやらないと意味がないと思っていたんですよね。そういうバスケしか知らなくて。だから、大学でバスケサークルに入ったときも、周りに自分の考えを押し付けてしまったんです。
高橋
その感覚、わかります。
穂積
でも、サークルって関わりは自由で、グラデーションがあるじゃないですか。周りから「お前みたいに勝つためだけに集まっているわけじゃないぞ」って言われて、そこで初めて「スポーツって勝ちがすべてじゃないんだ! 」って気づいたんです。あれは自分の価値観の狭さにぶつかった経験でしたね……。
穂積真人(ほづみ・まさと)。2021年キャリア入社。前職では総合広告代理店で勤務。福島県に在住しながら、複業で「移住施策アドバイザー」を勤める
深水
「こうあるべき」って他者に対しても、自分に対してもあるんでしょうね。異なる価値観を知ることで、自分自身の理解も深まることってあるなと思いました。
藤村
僕は学生時代のインターンシップですね。ある会社のインターンシップに集まった人たちが「徹夜してプラン練ろうぜ!」ってタイプだったんですけど「俺、寝たい……」って思ったんです(笑)。
そのとき初めて「自分って、心身に負荷をかけてまで打ち込むのは苦手なのかも」って気づいたんです。あと、自分はそこにいけないんだ、っていい意味で諦めがつきました。
高橋
僕も大学で学生記者をやっていて、自分一人にできることは限界があるんだなって知りました。
なにかできない・つまずく経験って「自分と人はちがう」ことを知るきっかけになるのかもしれませんね。
ちがいを認識したところで、難しさはある
神保
でも、自分と人のちがいってむずかしいですよね。わたしは昔「自分の業務が終わっていても、先輩が帰らないから、帰りづらい」がずっとありました。
勇気を出して帰ると、まれに怒られちゃうこともあって。「自分(先輩)がまだ残っているのになんで先に帰るんだ!」って。
神保麻希(じんぼ・まき)。2019年キャリア入社。前職では総合PR代理店で広告営業・プランナーを担当。「心理的安全性」のテーマに興味関心あり
神保
「相談したいことがあったのに……」って言われたんですけど、だったら「相談したいことがあるから、残ってほしい」って言ってくれればよかったのにって……。むずかしかったですね。
竹内
その上司の方は、なぜ「相談したいことがあるから残ってほしい」って言ってくれなかったんでしょうね?
神保
下のメンバーから上に聞くべき、って思っていたらしいです。「なにかやりますか?」「なにかわたしが直すことありますか?」みたいに。たしかに、コミュニケーションが足りなかったのかもしれません。
でも自分がチームをもって、同じ立場にたったときに、先輩の気持ちがわかりました。上司は、自分の困りごとや悩みごと、いわゆる弱い側面を部下に見せちゃいけないって思い込んでしまうんだと思います。
だとしたら、わたしも歩み寄って聞いた方がよかったかな……。とも思いましたが、なかなかうまく噛み合わなくてむずかしかったですね。
鮫島
そこの「察する能力」みたいなものがないと、怒られてしまう機会が増えちゃうこともありそうですね……。
高橋
僕、その察する能力がないのでやばいですね(笑)。なんか、ある程度カテゴリごとに行動パターンが読めるなら、察せられると思うんですよ。でも、人によって考えも行動もちがうので、察することってすごく難しくなっている気がします。
高橋団(たかはし・だん)。2019年新卒入社。大学で学生記者をしながら、スポーツとチームワークに関心を持つようになる。複業ではフォトグラファーとして活動
鮫島
たしかに。相手の背景を想像することはすごくいいことだけど、「どこまで想像していいのかな?」「勝手な想像しちゃっていないかな?」って不安になりますよね。
多様性って、つい避けてしまうこともあります……。
深水
わたしも以前、電車で妊婦さんだと思って席を譲ったら妊婦さんじゃなかったことがあって、その人にすごく怒られてしまったんです。想像の失敗例ですね。
深水麻初(ふかみ・まうい)。2021年新卒入社。特集「多様性、なんで避けてしまうんだろう?」の担当。大学では社会学を専攻し、ジェンダーを学ぶ
深水
その経験がトラウマで、最近はもう気軽に席を譲れなくなってしまいました。結局寝たふりをしてしまうこともあって……。
穂積
良かれと思ってやったことで、失敗してしまうことってありますよね。
深水
結局は、なにをやっても「それは間違ってる!」って言われてしまう気がするんですよね。関わらなければ失敗することもない、だからつい避けたくなってしまう。失点を減らすみたいな感覚はありそうですね。
鮫島
あー、たしかに。たとえば、社内の人から聞いた話だと、髪型の変化に気づいてもあまりコメントしないようにしてるっていうのはよく聞きますね。
無意識のうちに相手を傷つけてしまっていないか不安みたいな。
神保
それだとわたしも、友人に付き合ってる人いるの? とか聞かないようにしています。気軽に話せるトピックが減っている感覚はありますね。
鮫島
いろんなことが気軽に話しにくくなっている、みたいなイメージがあると、多様性って避けてしまうのかもしれませんね。
してしまう側と、受ける側。想いが噛み合うのはむずかしい
Alex
もし、違和感のある発言をされたとしたら、「それは間違ってる!」の伝え方や受け取り方は、もっと工夫ができそうですね。
僕はスイス出身なのですが、外国人だから日本語ができないとか、箸が使えないと思われて、不必要な配慮をされてしまうことがあります。でも「それは間違ってる!」と強く言ってしまう前に、しっかり考えるようにしていますね。
アレックス・ストゥレ。2018年キャリア入社。スイス出身。サイボウズ式の英訳やグローバルコンテンツを担当。イギリスのノッティンガム大学で修士人権法を学び、2016年から日本に在住
Alex
さっき深水さんが言ってくれたように、強く指摘することで、相手にとってトラウマになってしまう可能性が大いにあるからです。そうすると、多様性のことは考えたくない!って思ってしまう人が増えてしまうだけなので。
竹内
言う側も受け取る側も、いろんなことを思って、いろんな配慮をして……。みたいなことが重なっていることってたくさんありそうですね。
深水
バイアスって、必ずしも外れているわけではないのがまたむずかしいポイントですよね。
たとえば、あげてくださった例の場合、外国人に当たり前のように日本語で話したら、逆に配慮できていないと思われないかな……。とか考えちゃいます。
Alex
個人の特性と社会の傾向は、分けて考えた方がいいですね。「社会の傾向を理解したら個人の特性もわかる」とは思わず、あくまで参考程度に知るといいと思います。
個人は一人ひとり異なるものとしてとらえるべきですね。この例だと、まずは普通に日本語で話しかけてください。もし相手が理解していないようなら、ゆっくり喋ってみるとか、英語で喋ってみるとか、試してみるといいと思います。
鮫島
さっきの上司の話でも出てきましたが、もしかしたら「配慮」ってバイアスを助長してしまう可能性もありそうですね。〇〇なら〜するべきだろう、みたいな。
穂積
「配慮できていないことが失礼に当たる」って感覚はありますね。たとえば田舎の実家だと、横との関わり合いが強いんです。
自分の家の草を刈るついでに、隣の家の雑草も刈ってあげる、とか
「気遣い」の連続なんですよね。そうやって生きてきた人たちにとっては、普通なことなのかもしれませんが。
Alex
そもそも、バイアスにネガティブなイメージがつきすぎているのかもしれませんね。人間は誰しもバイアスを持っているので、指摘する側もされる側ももっとフラットにコミュニケーションが取れるとベストなんですが。
一番良くないのは、違和感のあるバイアスのかかった発言があった時に、受け取る側が「それはだめだよ!」と全否定しまうことだと思います。
藤村
人の価値観に正しいも間違いもないから、注意する行為は、そこにもまたバイアスがかかっている場合もありますよね。
竹内
竹内義晴(たけうち・よしはる)。2017年キャリア入社。新潟でNPO法人を経営しながら、サイボウズで複業している。コミュニケーション心理学やコーチングが専門
Alex
そういう人は、なにかしらの原体験があったのかもしれません。知らなかったことで、すごく批判されてトラウマになってしまったとか。
トラウマから醸成された価値観をほぐしていけるといいんだけど、それがむずかしいから、最終的には多様性を「避ける」になってしまうのかなって思います。
社会の流れと個人の実感値のギャップ
藤村
正直、今はもう多様性を知っていないと社会についていけなくなる感はありますね。今まで避けていたとしても、もう避けきれないよっていうテーマな気がしていて。
藤村能光(ふじむら・よしみつ)。2011年キャリア入社。サイボウズ式の編集長。複業で事業会社のメディア運営を支援。ゆくゆくは、故郷の大阪や関西に帰りたいと思っている
鮫島
「多様性」とか「SDGs」ってバズワード化していて、表面的な言葉だと指摘されることも多いですが、個人的には、社会が前進しているという意味ではポジティブな側面も多分にあるんじゃないかなと思います。
藤村さんがおっしゃってくださったように「もう避けきれないな」と感じて、関心を持ち始める人が一定数生まれることを考えると、大企業のような影響力を持つ組織が旗を揚げて活動するのは重要なことだなと。
もちろん、実態が伴っていない表面的なアクションには課題があると思いますが。
竹内
実際に少し調べるだけで、「これやっておかないとまずいぞ」って事実がたくさんあることがわかるよね。
だから、今回のサイボウズ式特集「多様性、なんで避けてしまうんだろう?」では、みんなが「これはやっておかないとね」「たしかに大切だね」って思えるなにかを示せるといいなと思ったり。
サイボウズ式特集「多様性、なんで避けてしまうんだろう?」
特集始まります!
高橋
でも正直、多様性は配慮すべきなんだろうというのは頭ではわかるけど、一個人としては実感しにくいなあとも思っています。
穂積
僕も同じです。たとえばコロナになったとき、サイボウズには多様な働き方があるからすぐ対応できた、って部分があったと思うんです。
大きな変化に対応するために、組織・集団・チームとして多様であることは、生き残るうえで重要なことだなっていうのは、大きい概念としては腑に落ちています。だけど、一個人としては実感しづらい。
あとはどこまで想像したり、なにを考えたりしたらいいのか、ゴールが見えにくいなって思います。チェックリストとかあるとわかりやすいかも(笑)。
Alex
多様性のすべてを理解することは、誰にもできないと思います。完璧に理解しなきゃって思うと、ハードルが高くなって、多様性を避けてしまいそうです。
個人的には、多様性のベースとなる「他者との関わり方」を理解できていれば、それでいいと思っています。ほかのもう少し専門的な知識については、ケースバイケースで学んでいけばいいんじゃないでしょうか。
深水
多様性に関する原体験をもっている人は、多様性を自分ごと化しやすいと思うんです。でも、原体験ってあとから気づくことがほとんどじゃないですか。
だから、実際に体験しているときはスルーしちゃうんだと思うんです。
鮫島
多様性に関する原体験がない人っていないと思っていて。たとえば、「男性だから〜」「女性だから〜」みたいな類のバイアスに当てはめられたり、つい発言してしまうことってみんな一度はあると思っていて。
ただ、その原体験には、強烈なものから軽いものまで、人それぞれグラデーションがあると思います。この多様性特集では、そんな読者が記事の内容と自身の経験を重ねて、「そういえば自分も……」と考えてもらえたらよさそうかなーとか思っています。
神保
あと「個人として実感しづらい」のは、原体験への期待値が高すぎるからかも? と思いました。たとえば、運命の相手に出会ったらビビッとくる、みたいな話あるじゃないですか。
でも実際には、もちろんビビッとくる人もいれば、そうでない人もいる。そんなふうに、ビビッとくるはずなのに! の期待値が高い状態と似ているのかなって(笑)。強く実感できるタイミングがくるはずだ! って考えてしまっているのかも。
深水
ああ、その感覚わかります。「特別な経験がないと多様性の大切さは実感できない」みたいな思い込みはあるかもしれませんね。
「井の中の蛙」にならないために知っておく
Alex
少し話は変わりますが、どんな新しいアイデアも、すでに存在しているものを組み合わせて作られますよね。
誰もが、自分の周りにあるなにかを参考にしている。だから、自分の視野や選択肢が増えるほど、参考にできるものが増えて、クリエイティビティが上がるんです。
高橋
たしかに! 音楽も、ドレミファソラシドの音階があるから曲を作れるんですよね。ほかにもジャンルとか楽器とか、いろんな知識を知っているから新しい曲を生み出せる。
自分の引き出しや選択肢がたくさんあるから、幅広いものが作れるんですよね。
深水
そう考えると、人間関係もいっしょかもしれませんね。いろんな人と関わるほど、自分の価値観は豊かになりますし、手持ちの選択肢が多ければ多いほど、自分の可能性も広がりそうですね。
Alex
「井の中の蛙大海を知らず」じゃないけど、いろんな選択肢や多様な価値観を知らないことってこわいなと感じたから、実際に僕はいま日本で生活をしています。
鮫島
なるほど! 共感できるかは別として、いろんな人と接しながら「こういう人もいるんだ」って知っておくことって、自分のためにも大事ですよね。
「多様性」というテーマのとらえ方は人それぞれ。わからないことや、むずかしいなと感じることもたくさんありますが、正解がないテーマだからこそ探求する意義があるのではないでしょうか。
この特集を通して、みなさんといっしょに多様性の「むずかしさ」をほぐし、なんだか今までよりも生きやすいな、働きやすいな、と思えるヒントを見つけられたらいいなと思います。
特集『多様性、なんで避けてしまうんだろう?』 始まります!
サイボウズ式特集「多様性、なんで避けてしまうんだろう?」
ここ最近、よく耳にする「多様性」という言葉。むずかしそう、間違った言動をしそうで怖い——。そんな想いを抱えている方もいるのではないでしょうか。サイボウズでも「多様性」を大事にしていますが、わからないこともたくさんあります。この特集では、みなさんといっしょに多様性の「むずかしさ」をほぐし、生きやすく、働きやすくなるヒントを見つけられたらいいなと思うのです。
企画・編集:鮫島みな、深水麻初/イラスト:マツナガエイコ
変更履歴:事実関係の表記と表現に誤りがあったため、以下の箇所を変更いたしました。(2021/12/14 16:10)
変更前:僕は田舎暮らしですが、横との関わり合いが根強いんです。隣の家の雑草が伸びていたら刈ってあげる、とか「よかれと思って」の連続なんですよね。
変更後:例えば田舎の実家だと横との関わり合いが強いんです。自分の家の草刈りついでに、隣の家の雑草も刈ってあげる、とか「気遣い」の連続なんですよね。