世代間ギャップ、若手社員が離職しないために「複数のコミュニケーションルート」が必要だった
近年、上司と若手社員との間で世代間ギャップを感じている人が増えているようです。
世代間ギャップ自体は、必ずしも近年起こり始めたわけではありません。にもかかわらず、世代間ギャップを感じている人が増えているのは、社会の変化が早いからなのかもしれません。
先行きが見通せず、何が正解か分からないいまの時代。本来なら一人ひとりの個性を発揮し、さまざまなアイデアを出し合いながら、新たなチャレンジができるチームをつくっていきたい。世代間ギャップを越えた「新たなチーム」を創っていくためには、何が必要なのでしょうか。
『Z世代・さとり世代の上司になったら読む本』(翔泳社)の著者で、サイボウズ式編集部員でもある竹内義晴の寄稿です。
2022年5月、ボクは『Z世代・さとり世代の上司になったら読む本』を出版した。この機会をいただいたのは、出版社からの「近年、中堅・ベテラン世代が、若い世代との間に世代間ギャップを感じている人が多いようだ」との依頼からだ。
龍谷大学が2022年に行なった調査によれば、上司・部下の約7割が、価値観が合わないことをあきらめている、という。
世代間ギャップ自体は、近年起こり始めたわけではなく、人類が誕生したときからあるのではないかと思っている。いや、そこまでさかのぼらなくても「最近の若い世代は~」とか、「これだからおじさんは~」といったやりとりは、以前からあった話だ。
それにもかかわらず、世代間ギャップを感じている人が増えているのは、以前よりも社会や情報技術の変化が早く、価値観の違いが生じやすいからなのだろう。
世代間ギャップを感じる2つの原因
本を出版してから、世代間ギャップに関する講演依頼が増えた。企業からの相談で多いのは、管理職を対象にしたものが大半だ。
課題としてよく伺うのは「若い世代が何を考えているのか分からない」という悩みである。そこで「若い世代の価値観を知りたい」「どのように接したらいいのか、関わり方を知りたい」という依頼が多い。
管理職が世代間ギャップを感じる原因は、大きく分けると2つある。1つは「そもそも、若い世代と話をしていない」ケース。もう1つは、コミュニケーションに対して「管理職側と若い世代側の認識があっていない」ケース。
1つ目の「そもそも、若い世代と話をしていない」について。「若い世代が何を考えているのか分からない」という管理職に対して、ボクはよくこんな質問をする。「ところで最近、若い社員の方とはいつ話をしましたか?」「どのぐらいの頻度で話をしていらっしゃいますか?」――すると、多くの管理職が、若い世代とほとんど会話をしていないことに驚く。
会話ができない理由には、「話すきっかけがない」「共通の話題がない」「パワハラ、モラハラと言われるのが怖い」など、いくつかの理由があるだろう。だが、エスパーでもない限り、話をしなければ、相手が何を考えているのか分からないのは当然だ。
この場合の解決策は「もっと、ざっくばらんに話す機会をつくりましょう」となる。サイボウズの場合「ザツダン」がそれにあたる。
2つ目の、コミュニケーションに対して「管理職側と若い世代側の認識があっていない」について。これは、人事の方からよくいただく相談なのだが、若手社員が離職するとき「上司が話を聞いてくれないから、もう、あきらめた」という理由を挙げる人が少なくないという。
そこで、人事の方が管理職に「コミュニケーションを取っていたのか?」と確認すると、管理職からは「取っていた」という回答を得るケースが多いという。ここには、「管理職は話を聞いていると思っているのに、若い世代側は話を聞いてもらっている感じがしてない」というギャップが生じていることがわかる。
なぜ、このようなギャップが生じてしまうのか。それは、管理職側がよかれと思って「それは違うよ。その場合は……」とすぐにアドバイスしてしまったり、「それって、何が原因なの? なぜ起こったの?」と、まるで尋問のように理詰めで問い詰めたり、「オレが若い頃はさぁ」と、話を聞くどころか自分の成功体験を雄弁に語ってしまったりしてしまう点にある。
若い世代は、ただ「話を聞いてほしい」と思っているだけなのに……。こんな1on1ミーティングは拷問でしかない。
この場合の解決策は、管理職側が傾聴のトレーニングをすることになる。
若い世代は「場を変える行動」を起こしにくい
組織の中に世代間ギャップがあるとき、管理職側の課題については、さまざまな解決策がある。問題なのは「若い世代が管理職側に世代間ギャップを感じているときの解決策」である。
先日、ある企業で世代間ギャップに関する講演を行なった。世代間ギャップが起こる理由や、それぞれの世代の考え方や価値観の特徴、そのような価値観になった時代背景、近年の組織づくりのトレンド、傾聴をはじめ、世代間ギャップを縮めるためのコミュニケーションの手法などについてお話した。
講演後、若い参加者から次のような質問をいただいた。「話の内容はとてもよく理解できました。でも、わたしの上司は話を全然聞こうとしてくれません。その場合、どのようにすればよいのでしょうか?」
この、若い参加者からの質問には、大きな問題が潜んでいる。それは、若い世代からは「具体的な行動を起こしたくても起こせない」という事情だ。
管理職世代が世代間ギャップを感じている場合、「もっと若いメンバーの話を聞く時間をつくろう」「話を聞くときは、相手の話を遮らずに、まずは聞くに徹しよう」など、自分の意思で解決策を探り、行動することができる。
一方、若い世代は違う。「管理職との関係をよくしたい」と思っても、自分から行動を変えることは難しい。なぜなら、話を聞いてくれない上司に対して、「アドバイスもいいのですが、もっと話を聞いてくれませんか?」とは言いにくいし、上下間のコミュニケーションルートが、直属の上司しかいなければ、それ以上、自分の意見を話す機会がないからだ。
近年、「上司ガチャ」という言葉があるが、若手社員は自分の上司を選ぶことができない。その結果、現状を受け入れあきらめるか、会社を辞めるかしか選択肢がなくなってしまうのである。
複数のコミュニケーションルートをつくる
直属の上司が話を聞いてくれない若手世代の社員に対して、会社として、組織として何ができるのか?
先ほどの、ある講演で若い参加者から「わたしの上司は話を聞こうとしてくれません。その場合、どのようにすればよいのでしょうか?」という質問をいただいたとき、ボクはふと、サイボウズ社内でのやりとりが頭をよぎった。「サイボウズの若い社員は、どんな行動をしているだろう?」「もしも、直属の上司が話を聞いてくれない場合、サイボウズの社員ならどうするだろう?」
ふと浮かんだ答えは、「直属の上司が話を聞いてくれなくても、自分の意見を発信する場所はあるな」だった。
サイボウズでは、業務で必要な情報のやりとりの多くをグループウェアで行なっている。もし、上司が話を聞いてくれなくても、何かしらの意見があれば、グループウェアに「いま、〇〇で困っている」「この問題を解決するためには、〇〇をすればいいんじゃないかと思っている」といった意見を書き込むことができる。
つまり、コミュニケーションのルートが直属の上司だけではなく、複数あるのである。
こういった取り組みは他にも広がりを見せている。パナソニックで行なっている「K2プロジェクト」では、社員それぞれの考えをオープンな場で発信したり、オンラインでザツダンできる仕組みを作っているそうだ。「自分たちで考え、自分たちを変えていく」サイクルがまわりはじめているという。
もちろん、自分の意見を発信するにしても、関係がギスギスするような言葉遣いには気を付ける必要はあるだろう。また、どこまで本音を書けるかは、グループウェア上の雰囲気にもよるかもしれない。だが、少なくとも、コミュニケーションのルートが直属の上司以外にもあると、とりあえず、誰かに伝えることができるし、一人で抱え込まなくてもよくなる。
また、上司以外の人とザツダンしてみるのもいいかもしれない。たとえば、サイボウズにおけるザツダンは、業務時間中に、部署や立場を越えて行うことができる。その方法も、全社で共有されているスケジューラーに「〇〇について相談があるのですが、ザツダンをお願いできますか?」と入れるのみだ。
このように、コミュニケーションのルートが直属の上司以外にも複数あると、コミュニケーションをあきらめたり、一人で抱え込んだりしなくてもよくなり、離職まで追い込まれなくてもいいケースが増えるのではないか、と思ったのだ。
さまざまな試行錯誤を重ねるいまの時代だからこそ
こういったコミュニケーションルートの確保は、悩みや課題と言ったネガティブな話だけではなく、「本当は〇〇がいいと思う」「〇〇がしたい」といったポジティブな内容を伝える場合にも有効だ。
先行きの見通しが立ちにくく、何が正解か分からないいまの時代に、多くの企業では、社員からさまざまなアイデアを出してもらい、自発的に動いてほしいと願っているのではないかと思う。実際、講演に伺うと、人事や企業研修担当の方から「もっと自発的に意見を言ったり、行動したりできるようにしたい」といった声をよく聞く。
とはいえ、その手段がなければ、具体的なアイデアや意見はなかなか出てこないのではないか。ましてや、コミュニケーションルートが直属の上司しかなければ、上司が「それ、いいね」と、周囲に話を通してくれない限り、そのアイデアは表に出ることもないし、社内を巻き込んだ取り組みにすることも不可能だ。
しかし、そういった「本当は〇〇がいいと思う」といった小さな意見に、アイデアの火種があるように思うのだ。直属の上司だけではなく、個々人の意見やアイデアをつぶやける場って、必要なんじゃないかなぁ。
たとえば、ボクはいま、サイボウズ社内で小さなプロジェクトに取り組んでいる。「中堅・ベテラン世代の、これからのキャリアを形成する」という、1人の課題感から取り組み始めたマイクロプロジェクトだが、最初に起こした行動は「自分の考えを、社内のグループウェアに書き込む」ことだった。
現状は、まだまだ小さいプロジェクトだが、少なくとも、数人の共感者が現れた。グループウェアに書き込む前に、直属の上司にも話はした。だが、上司とのやりとりだけでは、こうした動きにはならなかったのではないかと思う。
つまり、若い世代からのアイデアを活かし、自主的に行動してほしければ、上司以外とも情報が共有できるようなコミュニケーションルートがあるといいのだ。
若い世代の離職率を減らすために
最後に、講演で、若い社員から受けた「わたしの上司は話を聞こうとしてくれません。その場合、どのようにすればよいのでしょうか?」の質問には、次のように答えた。
「確かに、直属の上司の方が話を聞いてくれない人の場合、それ以上は行き詰まってしまいますよね。その場合、まずは、ほかの上司や同僚、人事の人などに話をしてみてください」
加えて、人事の方にはこう提案した。
「若い世代が離職を選んでしまうのは、あきらめを感じた時です。今回のような、管理職向けの研修に加えて、グループウェアのような、若い世代が直属の上司以外にも悩みや課題、アイデアを共有できるような、複数のコミュニケーションルートが確保できる仕組みをつくるといいかもしれませんね」
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執筆
竹内 義晴
サイボウズ式編集部員。マーケティング本部 ブランディング部/ソーシャルデザインラボ所属。新潟でNPO法人しごとのみらいを経営しながらサイボウズで複業しています。
撮影・イラスト
松永 映子
イラストレーター、Webデザイナー。サイボウズ式ブロガーズコラム/長くはたらく、地方で(一部)挿絵担当。登山大好き。記事やコンテンツに合うイラストを提案していくスタイルが得意。