「批判してはいけない」は、実は誤解です——思考はズレてあたりまえ、だからこそ「健全な批判」がチームに不可欠

いまや当たり前に使われるようになった「心理的安全性」という言葉。心理的安全性が高い組織はよい組織だと言われているけど、そもそもそれってどういう状態なのだろう? どうすれば、心理的安全性って生まれるのだろう?
「仕事のしんどさ」をテーマとしたイベント「#サイボウズ式Meetup vol.17」に引き続き、心療内科医の鈴木裕介(Dr.ゆうすけ)さんと、株式会社NOKIOO取締役の小田木朝子さんに、「心理的安全性の高い組織をつくる」という観点からオンライン取材を実施しました。
そもそも「心理的安全性」ってなんだっけ?

前提として「心理的安全性」とは、思ったことが言い合えるような、関係への信頼があることを指します。
言いづらい指摘とか、自分自身の不安を「この人には言っても大丈夫だ」という安心感が確保されている状態です。

そのせいで、逆に言いたいことが言えなくなるようなジレンマが生じているような気がします。

小田木朝子(おだぎ・ともこ)。株式会社NOKIOO取締役。企業の人材育成・組織開発支援を担うHR事業を立ち上げた。「人に頼るスキル」であるヘルプシーキングはじめ、多数の人材育成カリキュラムの開発・講師および講師育成を手掛ける。2022年4月に『仕事は自分ひとりでやらない』を出版。写真は「サイボウズ式Meetup vol.17」での様子。


同プロジェクトでは、成果を上げるチームに共通する特徴のひとつに「リスクなく健全な批判ができる」ことが挙げられました。
つまり、「それは問題なのでは?」「こういう考えもあるのでは?」など、批判的な意見を言っても責められたり不利益を被ることがないと安心できること。
チームで成果を上げるためには、「健全な批判」が欠かせず、「健全な批判」が生まれるには「心理的安全性」が欠かせない。こうした構図の中で、心理的安全性が注目されるようになったんですね。


結果として「心理的安全性なんて気にしてたら、無難なことしか言えなくなり、議論が進まなくない?」みたいなモヤモヤが生まれてしまっているのです。
自分と相手の思考は、必ずズレていくもの

しかし、誰もが自分の考えが正しいと思いたいものなので、ズレを認識するのはどうしても不愉快なこと。だからこそ、「ズレ」を感じていても、見て見ぬ振りをしたくなってしまう。
一番の問題は、そうして放置し続けた結果、ズレが致命的なほどに広がり、関係性が修復できなくなってしまうことです。そのリスクを軽減するためにこそ、健全な批判が必要なのです。

鈴木裕介(すずき・ゆうすけ)。 心療内科医。秋葉原内科saveクリニック院長。「Dr.ゆうすけ」として、ライフワークとしてメンタルヘルスに取り組み、講演やSNSなどでの情報発信を行っている。


そういう前提で、ズレが広がりきる前に修正する機会を意図的にもっておこう、という考え方ができるといいですよね。少なくとも僕はその方が安心だと思います。

同様に、「ズレ」という言葉にもネガティブなイメージがありますよね。心理的安全性以前に、「批判」や「ズレ」という言葉に対する受け止め方が鍵になっているような気がします。
批判を受け入れるには「信頼関係」が必要

その原因は「批判自体がかなり繊細なコミュニケーションであること」、「批判には関係性が影響すること」の大きく2つあると思います。


一方で、受ける側も批判を「攻撃」と受け止めて、防衛の力が働いてしまいがち。自己弁護やシャットダウンのモードに入ってしまうと、批判する側が伝えたかった肝心なメッセージが伝わらない、ということもある。
僕もそうなんですけど、タイミングやコンディションによって、耳の痛いことを正面から受け止めるのはすごく難しいですよね。


つまり、批判の内容や仕方以前に、「相手の話を素直に受け入れよう」という土台となる関係性が必要なんです。


難しく思えるかもしれないけど、みんな最初は下手だから、批判する方もされる方も、それを承知のうえで、ともに健全な批判を目指していけるといいと思います。
自分を客観的に分析する力を身につける


加えて「自分の立場からこれを言ったら、相手にどう受け止められるかな」とフラットに考えられることが大切になるでしょう。

自分を客観的に分析するのは、健全な批判を受け入れることにもつながると思っています。


でも、「他者が思う自分」を素直に受け入れがたいケースが割とあって、その難しさはまさに健全な批判への向き合いとつながる部分が多いと感じます。


もちろん、最初はうまくできないこともあるかもしれない。でも、みんな初心者マークから始まるんだから、焦らずやっていいと考えられるといいですよね。
「上司と部下」以外にも、フィードバックの選択肢があるといい

そう考えると「上司と部下だけでうまくやってくれ」はかなり難しい要望なんです。そのため、フィードバックをもらう対象は「上司から」だけではなくて、縦・横・斜め、いろんな関係性から選べるといいですよね。

上司・部下の縦のつながりって権力差もあるし、直接的な評価対象だから、どうしても停滞しやすいものです。だから、利害関係がないところでのコミュニケーションの逃げ道を用意しておくことはとても大事。
メンター制などのオフィシャルなものを導入してもいいし、話しやすい組織外の人などオフィシャルじゃないものを取り入れてもいいと思います。

「うまく言えない」ことほど言っていくべき

仮にどんなに繊細な伝え方をしても、受け手が「失敗したくない、批判されたくない」とガードが強いと、どうしても受け取ってもらえなくなってしまう。


もやもやしているときに「考えがまとまったら言おう」「うまく言葉にできないから伝えるのはやめておこう」と、自分の意見や気持ちを引っ込めてしまう。
とくに上司・部下の関係性の中では、部下は「ちゃんと言語化できないものは伝えてはいけない」「結論のないことを言ってはいけない」と考えがちです。
部下側はそうした思い込みを手放すところから始めるとよさそうです。

でも、そもそも言語化や大事なことが引き出されるまでにはタイムラグが生じるものです。消化しきれていない問題も「なんか気になる」とか「もやもやする」といったレベルでのコミュニケーションで示していけるといい。


SNSシェア
執筆

撮影・イラスト

編集
