居心地の良さか、グローバル化か? 選択を迫られる日本の組織
グローバル化によって、世界中の企業が外国人社員の採用に頭を悩ませています。日本でも、この受け入れの課題について話し合われています。
外国人社員だけでなく、多様なメンバーが集まるサイボウズも、決して他人事ではありません。
外国人社員が日本で直面する問題や、グローバル化する組織に必要な視点について、名古屋大学大学院言語文化研究科の森田亮さんにお話を伺いました。
外国人社員を悩ます、目に見えない境界線
いま日本の社会は高齢化と、国際化の進展に直面しています。そのため、多くの企業がこの状況に対応する必要があると感じています。
また、日本には均質なワークスタイルがあり、そこから各社が独自のアイデンティティを築いてきました。
この日本式の人材マネジメントは、外国人社員に必ずしも優しいとは言えなくて……。なぜだと思いますか?
私はずっと大学で働いてきましたが、大学での経験は日本のいろいろなタイプの組織にもあてはまると思います。
外国人社員が努力の報酬として期待するのは金銭ですが、日本では年功序列が収入と昇進を左右します。つまり努力よりも在籍期間が重視されるんです。
もうひとつは、若手社員の配属問題です。総合職の道に進めば、配属に関する希望を出しにくくなり、大きな不満につながります。
最後は外国人社員に課せられる二重の制約です。国際化の担い手として期待されながらも、日本人のような振る舞いも求められます。
アメリカの小学生はひとと違ったり、独創的であることはいいことだと教えられます。
しかし、日本の学校では、他の生徒と同じように行動するように言われます。まさに「出る杭は打たれる」です。
あまり知られていないんですが、政治学には「内的フロンティア(interior frontiers)」という概念があって、再び注目されています。
たとえば新しい国に行くと、まず国境がありますよね。その国にいくには、入国前の手続きが必要です。
でも手続きを終え入国したとしても、「目に見えない境界線」が存在します。その内側にはいれないと自分の居場所もありません。
このような障壁は日本だけでなく世界中に存在します。
「波風を立てるな」という態度は、国際化とは相容れない
1960年代に流行した、日本の独自性や例外性をアピールしたエッセイです。たとえば「和牛を消化できるのは日本人の胃袋だけ」などと書かれています。
「日本人なんだから、英語を話さないのは当然だ」という例もよく見られます。でも、実際には複数の言語を話せる人は世界中にいますよね。
もし組織運営の大半が日本語で行われているなら、すべてを英語に翻訳することは、費用やリソースの観点から非論理的かもしれません。
もっとみんなで英語を使うように呼びかけるには、どうしたらいいのでしょうか?
サイボウズの経営陣は、国際化にメリットがあると信じていますか?
ソフトウェア事業で長期的にグローバル企業と競争するならば、日本市場に固執していられません。
今は社内の翻訳・通訳チームがいて、頼りになっています。日本語が話せなくても、意思決定プロセスに参加できる取り組みも進んでいます。
全体的にはずいぶん改善されましたが、まだ道のりは長いですね。
でも最後は組織全員で納得する必要があります。納得感がないと、それが外国人社員に向けられる態度に現れて離職率が高くなります。
世界の大学ランキングの順位を見ていると、残念な結果も出てきます。
教授陣も問題意識はあるのかもしれませんが、自分たちの日常生活に影響がなければ行動しないでしょう。
イニシャルコストがかなり大きいので、さきほど「信じる要素」も関わると申し上げたわけです。
外国人社員は信頼されていないと思って、あまり長く働かずに辞めてしまう。
在籍期間が短いから、役職に就けない。
離職率も高く、役職に就いている外国人社員もいないとなると、外国人社員が信頼されていると感じる環境は作れません。
どうすれば悪循環から抜け出せるんでしょうか?
「これが日本のやり方だから」と繰り返し言われるとうんざりしますし、外国人社員に「事態が好転するまで踏ん張れ」というのも無理な話です。
日本には、プロセスを疑わない組織がたくさんあります。過去と同じやり方を踏襲し続けるんです。
こういった「波風を立てるな」という態度は、国際化とは相容れませんよね。
アイデンティティを守るか、外部から学ぶか?
でもすべてを柔軟に対応していたら、日本人社員は「自分たちのビジネスや日本の独自性が失われてしまうのでは?」と考えるかもしれません。
日本のワークスタイルの評価できるところはありますか?
外国人社員にとっては不満かもしれませんが、部署をまたぐ定期的な配置転換は組織の全体像をくまなく把握できます。
日本企業は革新的で優れた問題解決能力も備えています。間違いなく国際的な実力派プレイヤーです。
日本はかなり同質的な社会ですが、高い創造性を発揮していますよね。なぜでしょうか?
むしろ「もっと強くなるにはどうするか」、「自己満足に陥らないためにどうすべきか」を問うべきです。
このところ中国が国際舞台でリスクを負いつつ、ますます革新性を発揮しています。だからこそ、考えるべき大事な問いです。
日本企業が「これまでのやり方で十分だ」と自己満足に陥ってしまったら、決して勝てないでしょう。
日本人はアイデンティティが失われる恐怖をリアルに感じています。一方で労働人口の高齢化が進んでいるため、外国人社員の受け入れは必須です。
日本企業にできるのは心を開いて、柔軟に、海外から学ぶことです。
日本人のアイデンティティも大切ですが、世界経済が向かう先を俯瞰するのも大事です。
すべての人が幸せな状況は不可能。必要なのは「折衷」
仕事をするために雇われているのに、国際化の促進も期待されています。これが、離職率が高くなってしまう理由のひとつだと思っています。
外国人社員は生活のため、キャリアを築くために日本にやってきます。外国人社員を大量に雇っても組織は自動的に国際化しません。企業のトップが関心を持って、オープンである必要があります。
同時に外国人社員側にも、理解が必要です。
日本企業に入社して「私の国ではこういうやり方なんです」と言えば、周りが自分に合わせてくれると思ってはいけませんよね。
こういうことが起きるたびに外国人社会全体が後退してしまいますが、それでもリスクは背負うべきです。試行錯誤する時期もあります。
そして、経営陣も日本人社員の居心地の良さを求めるのか、国際化を優先するのかを明確にする必要があります。
両立は無理でしょう。
国際的なランキングでも比較的上位につけていて、日本語と英語の両方で運営しています。
日本人の教員にとっては迷惑な話かもしれませんが、「すべてのひとが幸せな状況」を作るのは不可能です。ある程度の折衷が必要なんです。
受け入れる側も、受け入れられる側も、お互いが努力して、「共に戦うんだ」という実感が高まるといいですね。
企画・執筆:Alex Steullet/翻訳:ファーガソン麻里絵/編集:神保 麻希/撮影:高橋団
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執筆
撮影・イラスト
高橋団
2019年に新卒でサイボウズに入社。サイボウズ式初の新人編集部員。神奈川出身。大学では学生記者として活動。スポーツとチームワークに興味があります。複業でスポーツを中心に写真を撮っています。
編集
神保 麻希
サイボウズ株式会社 マーケティング本部所属。 立教大学 文学科 文芸・思想専修 卒業後、新卒で総合PR代理店に入社。その後ライフスタイル系メディアの広告営業・プランナーを経て、2019年よりサイボウズに入社。