「ふつう」を、問い直してみよう。
多様な「ふつう」に寛容でいられるのは、理念や文化がしっかりある組織だから──平田はる香×青野慶久
体調が悪いのに仕事を休めなかったり、上司の理不尽な叱責に言い返せなかったり……。ちょっとおかしいなと思っても、「だって『ふつう』そうでしょ?」と言われたら、何も言えなくなってしまう。
でも、その「ふつう」って、いったい誰が決めたのだろう。なんで、守らないといけないのだろう。
パンと日用品の店「わざわざ」代表の平田はる香さんがサイボウズ式ブックスから発売した書籍『山の上のパン屋に人が集まるわけ』は、そんな世の中の「ふつう」を問い直した一冊です。
今わたしたちを苦しめる「ふつう」とは一体何なのか、どうすれば「ふつう」にまつわる悩みを乗り越えられるのか。今回はそんな世の中の「ふつう」をテーマに、平田さんとサイボウズ代表の青野慶久が対談を行いました。
子ども時代から感じていた「ふつう」への違和感
3歳のころに東京から静岡へ引っ越してきて、風土の違いを感じる場面も多々あり、次第に「自分はまわりの『ふつう』と違うのかも」と思うようになったんです。
たとえば小学校4年生のころ、父子家庭であることをからかった同級生に対して、わたしが馬乗りになって叩いてしまったことがあるんです。
でも先生は、手を出したわたしではなく、同級生だけを怒りました。それに対して「わたしだって悪いことをしたのだから、いっしょに怒られるべきだ」と言って、すごく揉めた記憶があります。
『山の上のパン屋に人が集まるわけ』を読んでいても思ったのですが、平田さんは「対等」や「対価」であることに、強いこだわりがありますよね。
そのとき、わたしは「ほかの人が亡くなったときはこうならないのに、なぜその有名人だけはテレビで何日にもわたって扱われるのだろう。人の命は平等のはずなのに」と思ったんです。
こんなふうに中高生のころから、素朴な疑問を発言すると責められたり、押さえつけられたりすることが増えていきました。
しかし、祖母だけは「お前は素晴らしい考え方をもっている。それに気づけたことを大事にしなさい」と言ってくれたんです。それ以来、自分のこういう考え方をもっていてもいいんだ、と思えるようになりましたね。
立場を問わず、おたがいの「ふつう」を話し合う
たとえば中学生のころ、「ノートの半分を漢字の書き取りで埋めてきなさい」という宿題を出す先生がいたのですが、僕はそれが嫌だったんです。
「漢字を覚えるのが目的なら、1日1個覚えれば中学の1年間で習う漢字はすべて覚えられるじゃないか」と考えて、ノートに漢字を3個だけ書いて提出しました。
僕からしたら、漢字を覚えさせたい先生と、覚える気はあるけどたくさん書きたくはない僕のバランスを取った提案のつもりだったんです。でも、先生はバカにされたと思ったようで、すごく怒ってしまって。
「大人だから正しいことを言っている」みたいな態度がおかしいでしょ、と。それを子どもに指摘されたときに逆ギレされるのも不思議でした。
わたしはただ、ずっと話し合いたかっただけなんですけどね。
情報共有の「ふつう」を変えたいから起業した
当時、新人だった僕は周りの先輩社員が忙しそうに働くなか、彼らがどのような案件をどれくらい進めているのか、まったく見えないことにもどかしさを感じていたんです。
もう少しみんなの仕事がわかれば、自分が手伝えるかもしれないのに、と。そこにビジネスチャンスがあるのではないかと思ったんです。
僕は、情報共有を嫌うという世の中の「ふつう」は、変えたいと思ったんですよね。それは単に効率化だけじゃなく、対等に話し合いをするためでもあって。
僕はおたがいがオープンに話すことで、自ずとおたがいに納得のいくところに物事がおさまっていくと思うんです。
「ふつう」と違う人は、「先駆者」なのかもしれない
でも、僕が生まれ育った愛媛の田舎では、ひとつ上の世代は兼業農家ばかりです。世代や場所が異なるだけで、副業が当たり前の世界になったりするんですよね。
すべてが当てはまるわけではないですが、歴史を振り返ると基本的にマイノリティは先駆者と言い換えられると思っていて。
マジョリティのほうが変化は遅いから、先陣を切るマイノリティが時代をつくっていくんです。周りの「ふつう」と違う人がいたら、「変な人」ではなく「先駆者」だと捉えればいいのかもしれませんね。
世の中には多様な「ふつう」が溢れている
ただ、全員がそうではなくて、探せば意外とわかってくれる人もいるんです。
もともと、わたしは主婦だったので「起業なんて信じられない」と言われるような環境にいました。
その後、起業して周囲に個人事業主が多い環境に移りましたが、そこでもあまり話が合わなかったんですよね。わたしと同じように事業の拡大を目指す人や、積極的に新しいシステムを取り入れようとする人がいなかったので。
でも、法人化して経営者の友人が増えると、当たり前のように経営やシステムの話題が挙がり、話が合うと感じるようになりました。
何よりもうれしかったのは、自分の夢を話しても、誰も笑わなかったこと。全員が本気で受け止めて、「実現できるよ」と応援してくれるんです。
もちろん一歩踏み出す勇気はいるけど、たとえ別の環境が合わなくても、またもとの場所に戻ってくればいいんです。
どういう経緯で組んだのか聞いてみたら、「ネットを通じて知り合った」と言うんです。昔だったら、考えられないことですよね
多様な「ふつう」を守るために「文化」がある
自分たちの「ふつう」を表明することで、それに共感する人が集まってくるし、合わない人は無理に近づかないという選択ができる。
たとえばサイボウズには、サッカーが大好きでワールドカップのときだけは絶対に2週間休んで海外に行く社員がいるんです。世の中にとっては「ふつう」じゃないかもしれませんが、その人にとっては「ふつう」のこと。
その「ふつう」を守るためには、チームメンバーに適切に情報を共有していく必要があります。
その企業にとっての「ふつう」、つまり企業理念や規則、文化ですね。
たとえばサイボウズでは、多様な個性を尊重すること、公明正大で隠し事をしないこと、など。そういったサイボウズの「ふつう」は、絶対に守ってくださいね、と。
世界には多様な「ふつう」が溢れていて、それぞれの「ふつう」に良いも悪いもない。そして、「ふつう」の感覚が似ている人たちとともに働けることが、個人の幸せにもつながっていくのかもしれませんね。
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サイボウズ式特集「ふつうを、問い直してみよう。」
世の中にある、「ふつう」という言葉。「みんなと同じ」という意味で使われていますが、「ふつう」って、実は一人一人違うもの。長時間労働が「ふつう」な人もいれば、家族第一が「ふつう」な人もいる。世の中ではなく、それぞれの「ふつう」を尊重することが必要なのではないでしょうか。サイボウズ式ブックスから発売された『山の上のパン屋に人が集まるわけ』をきっかけに、さまざまな人と一緒に「ふつう」について考えてみます。
企画:あかしゆか/執筆:園田もなか/編集:野阪拓海(ノオト)/撮影:高橋団・佐野 嘉紀
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執筆
撮影・イラスト
高橋団
2019年に新卒でサイボウズに入社。サイボウズ式初の新人編集部員。神奈川出身。大学では学生記者として活動。スポーツとチームワークに興味があります。複業でスポーツを中心に写真を撮っています。