本とはたらく
上司と部下がわかりあえないのは、主体性をめぐる不幸なすれ違いのせい――早稲田大学 大学総合研究センター・武藤浩子
あなたの会社は「主体性」という言葉に振り回されていませんか?
今回は『「主体性」はなぜ伝わらないのか』(ちくま新書)の著者である、早稲田大学 大学総合研究センターの武藤浩子さんに、主体性にまつわるコミュニケーション問題を解消するためのアドバイスを伺いました。
「あの人は主体性がない」。では「主体性」の意味、説明できますか?

『「主体性」はなぜ伝わらないのか』(武藤浩子/ちくま新書)「主体性」が伝わらないのは誰のせいだ!? 学生や若手社員は、自分に「主体性がある」と思っているのに、企業や上司は「ない」と感じている。なぜ認識がズレるのか。不幸なすれ違いの原因を究明する。(筑摩書房ホームページより引用)
以前は「熱意」「意欲」「志」などが、企業が求める資質の上位に選ばれていたのですが、「主体性」が選択肢に現れるやいなや、求める資質のトップに躍り出たんです。
武藤浩子(むとう・ひろこ)。早稲田大学 大学総合研究センター次席研究員(研究員講師)、博士(教育学)。IT企業に長年勤めたのち、大学院へ進学。その後、東京大学高大接続研究開発センター特任助教等を経て、2025年より現職。専門は教育社会学。

企業の成功パターンがわかっていた昔のように、そのパターンに向かってトップダウンで指示をして社員を働かせるのでは、とうてい太刀打ちできなくなった。そこで、社員それぞれにより強く「主体性」を求めるようになりました。

しかし、2020年ごろになると、「主体性」は「思考力」「協調性」と結びつくようになりました。いまの企業は「主体性」という言葉を使って、社員に対して「考えてほしい、協調・協働してほしい」と考えているのだと思います。

上司と部下、主体性をめぐる不幸なすれ違い



でも、その新入社員は「あ、主体性が否定された。この会社は主体性を求めてないんだ」と思ってしまう。会社の中ではこのような「主体性」の意味をめぐる不幸なすれ違いが多いと、わたしは思っています。

同時に、考えるだけでなく、考えたことを発信するのが大事とも言っていました。「主体性」は「自分なりに考える(内的活動)」「発信する(外化)」、そして「仕事に関して協働する」を含んでいるのです。

「迷惑をかけてはいけない」という呪いを解くために、社内で共通言語をつくる
だけど、上司はその姿勢を「やってない」「部下がわかってくれない」というように思ってしまうんですよね。

「迷惑をかけてはいけないという呪い」をどうやって断ち切るかもとても重要です。サイボウズでは、その点についてどう対処していますか?

それとはほかに、企業理念で「主体性」を定義しています。引用すると、「多様な個性を活かし合うためには、一人ひとりが主体性を発揮し、よりよいチームづくりに関わっていくことが重要です。主体性の発揮とは、自らの選択や意思決定によって生じる出来事の責任を引き受ける覚悟を持つことを指します」としています。
ほかの会社でも工夫すべきところですね。たとえば、この本の「主体性」の意味を参考にしながら、社内で「主体性」の意味を共有してみる。また、それぞれの会社によりフィットするように、「主体性」の意味を定義しなおしてもいいでしょう。
控えめな人の主体性はどう判断すればいい?

けれども、なにか評価する材料、たとえば昇給、昇進のきっかけになるようなアウトプットを出してくれないと、なかなか難しい。

「石の上にも三年」は、主体性、そして仕事のおもしろさにつながっていた

インタビューした管理職の人たちも、会社に入って最初の2、3年は主体性はなかったと言っていますし、10年経ってからやっと主体性を持ったという人もいました。なので、そんなものだ、ぐらいの気持ちでいればいいと思います。新入社員であれば、2、3年でようやく会社の状況がみえてきて、人間関係も少しできるころだと思いますから。
けれど、たまたまチャンスが巡ってきた時にチャレンジしてみたら、主体的にできた、ということもあります。ある程度の時間や経験も必要なので、焦らないのが重要ですね。

最近では、思考する段階でAIの力を借りることもあると思います。今後、主体性の意味はさらに変わってくるでしょうか?
でも、そういう時代においてわたしたちが手放しちゃいけないのは、「自分にとっておもしろいことをする」ことだと思います。AIが出した答えをそのまま発信する「コピペマシン」にはなりたくないですよね。
考えることって意外とおもしろいじゃないですか? 自分たちがさらにおもしろがれるようにAIを使っていくほうが、みんなが幸せに楽しく生きていけるんじゃないかと思いますね。

ただ、注意していただきたいのは、上司と部下でおもしろいと感じる点が違うということです。それぞれの人がそれぞれのおもしろさを見つけて、仕事に取り入れる必要があります。
みなさんには、「自分にとっておもしろいことをする」「仕事をおもしろいほうにもっていく」というのを柱として持ってほしいですね。

企画・編集・執筆:小野寺真央(サイボウズ) 撮影:加藤甫
サイボウズ式特集「本とはたらく」
働き方の価値観が多様化し、どのように働き、どのように生きるのかが問われている現代。そんな時代にあって、「本」というメディアは「働くこと」を自分で見つめ直すきっかけをくれるのではないでしょうか。「本を読むこと」を通じて、私たちと一緒に、仕事やチームワークに繋がる新たな発見を探しに行きませんか?
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執筆
小野寺 真央
サイボウズ式ブックス副編集長。メーカー、出版社勤務を経て、2022年にサイボウズ入社。趣味は読書・演劇・VTuber・語学勉強・ラジオ・旅行。複業で小説の編集をし、ラジオパーソナリティを目指している。
撮影・イラスト
加藤 甫
独立前より日本各地のプロジェクトの撮影を住み込みで行う。現在は様々な媒体での撮影の他、アートプロジェクトやアーティスト・イン・レジデンスなど中長期的なプロジェクトに企画段階から伴走する撮影を数多く担当している。
