1000人1000通りで「個人とチームの理想を合わせる」なんて、ぶっちゃけ無理じゃないですか?

2024年10月、サイボウズ式では『サイボウズは「100人100通り」の働き方をやめます』と題した記事を公開しました。
従業員数が1000名を超え、大企業化しつつあったサイボウズ。新しく入社したメンバーや採用候補者から「サイボウズなら働き方を何でも自由に選べる」と極端な解釈をされてしまうことも。その結果、個人的な希望を実現できることが前提のようにとらえられ、マネジャーがメンバーとのコミュニケーションに苦慮する場面が出てきました。
そんな現実を踏まえてパーパスやカルチャーを問い直し、さらに会社規模が大きくなってもチームの生産性とメンバーの幸福を両立させるため、「100人100通りのマッチング」に取り組み始めたのです。
あれから1年。チームとメンバーの理想をすり合わせるマッチングは、すべてが順風満帆というわけではありません。メンバーとマネジャーの間には、互いの理想をリクエストし合うことへの認識のずれが生じることもあります。
そこでサイボウズでは、チームとメンバーのあり方や、100人100通りのマッチングにおける原理原則を定めた「サイボウズ流 チームの原理原則」を作成しました。
なぜ原理原則が必要なのか。原理原則によってメンバーとマネジャーの会話はどのように変わるのか。サイボウズ代表の青野慶久と、原理原則の作成に関わったメンバー2人が語りました。
久々の離職率アップは「意味のある変化」だった




青野 慶久(あおの・よしひさ)。サイボウズ代表取締役社長。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年サイボウズを設立。2005年現職に就任。著書に『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)、『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。』(PHP研究所)など


ただ、一人ひとりが自分の理想と向き合い直した結果なのだとすれば、意味のある変化だったと思います。
理想を言えないメンバーの悩み、理想を引き出すマネジャーの苦労


荻野 亜由子(おぎの・あゆこ)サイボウズ株式会社 社長室・全社戦略本部 所属(兼務)。法務、人事、チームワーク総研を経て現職。サイボウズの社内大学「CAAL(Cybozu Academy for Ambitious Leadership、カール)」の事務局として、立ち上げから運営に携わり、現在は卒業生の次世代リーダーとしての活躍にむけた実践の場としてCAALアルムナイも運営中


サイボウズ式 編集チームの「働く場所ポリシー」

ただ、若手メンバーなど自分の理想をまだ明確にできていない人は、うまくリクエストできずに悩んでいるかもしれません。

部長のような役割を担っている管理職の中には、数十人のメンバーと接している人もいます。「一人ひとりとのマッチングは大変そうだな」と感じますね。

藤村 能光(ふじむら・よしみつ)。マーケティング本部 人材・組織支援部長 兼 全社戦略本部 理念体系部長。サイボウズの社内大学「CAAL」に1期生として参加後、「サイボウズ流 チームの原理原則」の制定にかかわる。2025年10月からは理念体系全般の編集に挑戦中

ずっと言葉にしてきた企業理念の「外側」を考えた


青野による、フィロソフィ作成におけるグループウェア上での呼びかけ






藤村さんが「フィロソフィという曖昧な概念ではなく、世の中に広く当てはまる『原理原則』が必要なんじゃないか」と指摘してくれたんです。

でも内心はドキドキしていたんですよ。それまでは青野さんの哲学を言葉にしなきゃいけないと思っていたので。


サイボウズでは重要なことを決定する際に、社員みんながオープンな場で議論ができるよう、「全本部会議」という経営会議に議案を持ち込みます。その中で、さまざまな社員から「フィロソフィって何?」「伝わりづらい」といったフィードバックが寄せられたんです。

100人100通りのマッチングを、世の中一般に通用する「チームとメンバーのあり方」の原理原則にしていくためには、概念的にもっと広げて考える必要がある。これまで僕たちが言葉にしてきた「チームワークあふれる社会を創る」という企業理念の外側を考えなければといけないと思っていました。

サイボウズを野球部だとすると、野球がとにかく大好きで、「甲子園に行くぞ!」という目標を持って入ってくる人もいます。
そこに、「自分はサッカーがしたいんです」と言って、野球部に入ろうとする人がいたらびっくりしますよね。「ここは野球部だよ。サッカーがやりたいならサッカー部へ行きなよ」ってなります。これではマッチングに苦労してしまいますよね。

こうした前提が共有されていないと、メンバーとマネジャーのコミュニケーションはすれ違ったままになってしまいます。


他社に先駆けて失敗し、答えを見つけることが「チームワークあふれる社会」につながる


「サイボウズ流 チームの原理原則」 ver1.0のイメージ。理解しやすいよう、テキストと図でていねいに表現している。

この「サイボウズ流」とつけているところが大きなポイントですよね。

また、今回言語化したのは「マッチング」に関するもので、チームの原理原則には他の項目もあるかもしれません。
だからいまは「サイボウズ流」としていますが、もちろん他社で活用してもらっても構わないと思っています。ゆくゆくはオープンソースのようにして、社会のコモンセンスにしていければ理想的です。
他社も含めてディスカッションが進んだときに、「サイボウズ流」が取れたものになるんでしょうね。





これはある意味、企業組織の憲法のようなものだと思います。



何事もそうですが、働き方改革でも僕たちは前例のないことにチャレンジしてきて、成功も失敗もたくさん経験しました。
コロナ禍以降は、全社的に完全リモートワークを実施したり、事業の成長に合わせてたくさん人を採用したりしたことによって、新たな課題も明確になりました。
この場面で僕たちはどう立ち向かうか。他社に先駆けて失敗し、先に答えを見つけることが、僕たちの目指す「チームワークあふれる社会」につながるのだと思っています。
今回もそうしたチャレンジのひとつ。うまくいくかはわかりませんが、もし失敗しても僕にとっては「おいしい」んですよ(笑)。失敗は新たな知見につながるものだから。
原理原則があるから、自由にリクエストできるし自由に断れる



100人100通りのマッチング イメージ図。ゼロから作り上げているため手作り感満載


メンバーの個別の状況を知れば知るほど、「これ以上頼むと過度に負担をかけてしまうかも」と気をつかってしまうんですよね。リクエストのさじ加減を100人100通りで見るのは、とても難しいことだと実感じています。

原理原則に基づくことであれば、要望するのは自由。無理ならメンバーが引き受けなければいいだけなんです。

そう思えば肩の荷が少し軽くなったように感じますね。これは原理原則の意義として強調していくべきだと思いました。

個人的には先日、ものすごくよいマッチングを経験したんですよ。
サイボウズは2025年に、愛媛オレンジバイキングスというバスケットボールチームの運営に参画することになりました。バスケチームを上位カテゴリーのリーグに上げるためには、必要な基準を満たすアリーナを作らなければいけません。
そんなプロジェクトに関心を持つ人が社内にいるだろうか……と探していたところ、「もとミュージシャンでエンタメ事業に詳しい」「スポーツが大好き」「サイボウズでは映像と音声配信の専門家として活躍している」という、これ以上の人はいないと思われる適任者が見つかって。




普段から情報共有量が多いことが、おもしろいマッチングの素地になっているんです。雑談から相手の関心をつかむことが大切なんだと実感しています。
「ぬるま湯」でも「修羅場」でもない、一人ひとりに最適なマッチングがあるはず

こうした現象は、チームとメンバーの理想がかみ合っていない状況で、上司との対話をあきらめているからこそ起きるのではないでしょうか。

サイボウズは働き方が柔軟で、みんなが優しい。でも、その居心地のよさに危機感を抱いている人もいるのかもしれません。
わたし自身は子育てと仕事を両立しやすいという理由と、新たなチャレンジをしたい気持ちでサイボウズへ転職しました。でも日々忙しくしていると、つい働きやすさに依存してしまう瞬間も正直あって。


片方に偏ると、職場はぬるま湯か修羅場のいずれかになってしまう。一人ひとりにとって最適なマッチングを、一人ひとりが見つけていかなければいけません。
チームの原理原則を共通言語として、メンバーもマネジャーも互いに関心を寄せ合い、よいマッチングがたくさんあふれる社会にしたいですね。
まずは僕たちがサイボウズ社内で実践し、時には失敗もしながら、世の中と意見交換していきたいと思っています。
企画・編集:竹内義晴(サイボウズ) 執筆:多田慎介 撮影:加藤甫
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執筆

多田 慎介
1983年、石川県金沢市生まれ。求人広告代理店、編集プロダクションを経て2015年よりフリーランス。個人の働き方やキャリア形成、教育、企業の採用コンテンツなど、いろいろなテーマで執筆中。
撮影・イラスト

加藤 甫
独立前より日本各地のプロジェクトの撮影を住み込みで行う。現在は様々な媒体での撮影の他、アートプロジェクトやアーティスト・イン・レジデンスなど中長期的なプロジェクトに企画段階から伴走する撮影を数多く担当している。
編集

竹内 義晴
サイボウズ式編集部員。マーケティング本部 ブランディング部/ソーシャルデザインラボ所属。新潟でNPO法人しごとのみらいを経営しながらサイボウズで複業しています。