サイボウズとライフネット生命保険で育児休暇を取得した男性社員4名。育児休暇を取り、家族とじっくり向き合うなかで見えたのは、「妻と子供の息をつく暇もない怒涛の生活」でした。
夫婦のささいなズレはどうして生まれてしまうのか。サイボウズワークスタイルドラマ「声」(ドラマは公開を終了しました)を見ながら、妻の気持ち、夫の気持ちを考えてみました。パパたちの家族と向き合う奮闘の様子が伝わる座談会となりました。
「サイボウズ式」とライフネット生命の「ライフネットジャーナル オンライン」のコラボレーションでお届けしています。「正直、男性が育児で休むって不安ですか?(前編)」「子どもと触れ合う時間は仕事より大切?(後編)」も合わせてどうぞ。
なぜ夫の「良かれと思ってやること」はだいたい裏目にでる?
みなさんワークスタイルドラマ「声」をご覧になって、どのシーンが気になりましたか?
第4話(「夫の言い分」)の奥さんが家族の写真を見せるシーンですね。奥さんは家事・育児で疲れていて、だんなさんも仕事で疲れていて。お互い疲れている中で、だんなさんがせっかく子どもにプレゼントを買って帰ったのに、奥さんの反応がすごく悪い。逆に奥さんがうれしそうに家族写真の入った写真立てを見せようとすると、今度はだんなさんは無反応。 女性と男性では大事に思うポイントが違うので、こうしたお互いイラッとしてしまう“ささいなズレ”というのは、うちにも近いことがあるなと思いました。
奥さんが家事をしている横で、だんなさんは缶ビールを飲みながら、スマホでゲームしているシーンとかも。
自分と重なるところはかなりあった気がします。「せっかくこっちだって気を遣っておもちゃを買ってきているのに、なに、その素っ気なさは。ちょっと奥さん分かってくださいよ」と感情移入してしまいましたね。
でも第5話の「妻の言い分」を見たら、わかったでしょ?
わかったんだけど、でも「精一杯頑張ってるじゃん、俺!」っていう、やり場のない気持ちが…。
奥さんの疲れ具合とかを伺いながら、おもちゃのことを言うタイミングを考えなくちゃいけなかったんじゃないのかな。少しだけタイミングを見計らうだけで、お互いハッピーになれるんだから。
ドラマでは大きいおもちゃに奥さんが「どこに置こうかな」とげんなりしていましたけど、普段もっといっしょに行動できていたら、『なんで、それ選ぶ?!』っていうことはなくなるかも。ドラマのだんなさんは日常を知らないから、奥さんが収納に困る気持ちを“察する”ことができなかったんでしょうね。
でも、夫としてはサプライズ感を狙っているわけじゃないですか。普段だったら「これ買っていい?」って聞くところを、残業が続いて気まずいからこそ、あえて内緒でやって喜ばせようとしているわけで。それをあんな風にそっけない対応をされちゃったら、スマホに逃げたくなる気持ち、わかるなぁ。
「家族を守るために働く」って、どういうこと?
ドラマの中で出てきた「家族を守るために働く」っていう言葉にドキッとしたんですけど。金銭面以外に、「家族のため」って何を指していると思いますか?
いやらしい話だけど、お金は当然ありますよね。でも、それを盾にはできないというか、仕事でお金を稼いでいるからって家庭をないがしろにしていい理由にはならないと思うわけで。特にうちは子どもが3人もいるので、言葉よりも行動が大事かなと思っています。
「家族を守るために働く」には、外でお金を稼ぐだけではダメで、家の中や家族をケアすることも含まれているということでしょうか。
でも初めからうまくはいかないじゃないですか。僕は子どもが生まれて育児をキックオフしたばかりなので先輩方に聞きたいのですが、これまでどうやってきたんですか?
1人目のときは、ほぼ奥さんに家事と育児はおまかせでした。2人目以降は自分も実際に参加してみて、「知らないところで、そんなことまでしていたんだ」というしてくれていたことの全容がやっとわかって、すっごい焦りました。それまでは、家事や育児について楽観的で、かなり調子に乗っていましたからね。
うちは、僕が掃除をすると(掃除が)不十分らしくて、あまりやらせたくないみたいなんですよ。そういうのって、やっぱりありますよね。奥さんのやり方に抗えないっていうのは。
子どもがお腹を空かせているとき、スマホを触って暇そうにしている自分には何も言ってこないのに、家事でいそがしそうなママにはご飯をねだっている姿を見て、『子どもが求めているのは自分じゃなくてママなんだ』って気付いた瞬間があって。そのときに『子どもとの信頼関係ができていなければ、妻の負担が大きすぎて家族として成り立たないんじゃないか』と危機感を持ったんです。そこから「体験入学させてくれ」と妻に言って、何をすればいいか聞くところから始めました。
家事を“やった感がゼロ”に耐えられない…
家事をやり始めると、自分は良かれと思ってやったことで、逆にこじれることって、あるじゃないですか。そういうときは、どうするんですか?
それはもう、腹を割ってしゃべるしかない。自分がこうした方がいいと思っても、相手にはそうしない理由があるから。そのお互いの中にある“なぜ”について認識を合わせてから、“じゃあどうするか”を決めたらいいかなと思っていて。 今は思うところがあっても、自分のやり方を押し付けないようになりましたね。最初は絶対にぶつかるんですけど、『あっ、しまった』と思う回数を減らしていくというか。
ちなみに、みなさんは洗濯物が散らかっていたら、黙ってたたみますか?
僕はたたみますよ。
でも、たたんで片付けようとしたら、「これは、ここじゃない!」って怒られません? 奥さんのルールなんて、わからないですよ…。
それはもう全部聞いた方がいいですよ。自分で判断するのは絶対にやめた方がいい。
こっちとしては、奥さんが知らない間にやっておいたら、ほめてくれると思ってやってるのに…。
気持ちはわかるんだけどね。僕はやった後で、「やったけど、もし変なとこに入れてたらごめんね」とひとこと添えるようにしています。
それじゃ、“やった感がゼロ”じゃないですか。達成感がないというか。
奥さんは僕たちの知らないところで、たくさんのことをやっているわけだから、少しのことで「やったから、すごいでしょ?」って言われても…。
それを求めちゃうと、成り立たないですよね。
「わたしは店長、あなたバイト。次やったら、クビよ」
肥田さんは育休を1ヶ月半取られたそうですが、その間の家事や育児の分担はどうされていたんですか?
基本的には奥さんの指示に従っていました。1回、食器のしまう位置で、ものすごく怒られたことがあって…。奥さんが料理をしているときに「あれがないんだけど」と探していたんですけど、僕は元あった場所がわからない食器を空いてるスペースにテキトーに片付けちゃう悪い癖があって…。「え…、わからない」と言ったら、「ちょっと待ちなさい!」と。
あら(笑)。
奥さんも僕も飲食店でアルバイトしたことがあったので、「バイトしてたときは、決められたところに片付けてたでしょ? なんで今それができないの? わからなかったら私に聞いてって、言ってるよね? 勝手にやられちゃうと、逆に仕事が増えちゃうってわからない?? あなたバイトだったら、クビだよね」って。もう、おっしゃる通りなんですけど…。決め台詞は「わたしは店長、あなたバイト。次やったら、クビよ」って。そこから完全に指示に従う側になりましたね。
(笑)まだまだ、いろいろありそうですね。
子どものお風呂を夕方5時からと決めていたので、僕がそれに向けて3時から気合をいれて2時間かけてお風呂掃除をしようとすると、「今、あなたに求めているのは、そこじゃない」と。でも、少しぬめりがあったら、気になりません?
気になるところが、夫婦で全然違いますよね。最初は言っちゃってましたよ。「ここ、まだ髪の毛あるけど」みたいな。でも、一番の理想形は、言わずに自分で気づいてやって「これ、やってくれたの?」って喜んでもらえる感じですよね。
マジかぁ…。そんな高みがあることを、今日初めて知りました。今はまだ“自分で勝手に判断してやるのをまずやめて、指示を仰ぐ”というところで、盛大に転んでいる感じですね…。
3人も子どもがいると、洋服も誰のものかわからなくて、とりあえず畳んで片付けるんですけど、やっぱり間違えちゃって。でも奥さんはその姿勢がうれしいようで、洋服のタグに名前の頭文字を入れて間違えないようにしてくれました。そういう歩み寄りやすり合わせも、きっとこの先にあると思いますから、気を落とさないでください。
『子どもといっしょにいられて、いいよね』と手放しでは言えなくなった
お話を聞いている感じだと、みなさん、あまり明確に家事や育児の分担は決めていないのでしょうか?
家事に関しては、子どもが生まれる前から分担してきた延長という場合が多いんじゃないですかね?うちは完全に僕が担当しているのはゴミ出しだけ。あとは「疲れてるから、やってほしい」と言われたことは、もちろんやりますけど。あえて奥さんが望んでいないところには手をだしません。
うちは子どもが生まれる前から明確に決めてはいなかったので、今もそんなに変わっていないです。子どもができる前は奥さんが看護師で土日出勤や夜勤もあったので、そんなときは僕がごはんを作っていましたし。早く帰ってごはんを作ってもらったら、洗い物は僕がするとか。 今は奥さんが育休中で家にいるので、平日は特に奥さんの負担が多くなっていますけど。奥さんが復帰してからが、怖いですね。今のバランスでは難しいだろうと思うので。
逆にきっちり分担しない方がいいような気もしますよね。分担している部分が終わってないのに相手がスマホを触ってたりすると、絶対イラッとするじゃないですか。
臨機応変にコミュニケーションしていった方がいいと。ちなみに、育休をきっかけに夫婦間のコミュニケーションや役割分担が変わった方はいらっしゃいますか?
積極的に買い出しに行くようになりました。育休の間は僕が全部料理をしていて、「おっぱいにはゴボウがよいとかチーズは良くない」とかわかるようになったので。味は落ちるんですけど、スピード重視で効率性を突き詰めています。『俺だったら、こんだけ早くできるんだぞ!』みたいにドヤ顔でアピールして。…自己満足ですけどね(笑)
子どもが3人いると同時並行にしなければいけないことが必ず出てくるので、もう妻から声をかけられた瞬間に「ハイッ!」と体が反応する感じです。昔は『なんだよ』と思っていたんですけど、今は『あっ、そうだよね』とやることがとにかくたくさんあることがわかったので。初動は変わったかもしれない。 後回しにしたとしても、最後は奥さんからお願いされるので、せめてやるならお願いされる前にやるほうが、アピールにもなりますし。
育休を取る前って、子どもといっしょにいるのは、もっとずっと楽なイメージを持っていました。ドラマでもありましたけど、『子どもといっしょにいられて、いいよね』って。でも現実を知ってしまうと、手放しで“いいよね”とは言えなくなりましたよね。 会社から帰ってきて、猛ダッシュでごはんを作って、食べさせて、食器を洗って、洗濯して、寝かしつけて…で、子どもは寝ない。もうほんと『お疲れさまです』としか言いようがないです。
育休で奥さんの日常を見て、その大変さがわかったんですね。
だって、自分の時間が完全にゼロじゃないですか。育休中、最初に妻に言われたのが「30分でいいからコンビニに行きたい」でした。「その間だけでいいから、何とか子供を見ていてほしい。おっぱいをあげたら、絶対に30分はもつから。何かあったら、オムツだけ替えるだけでいいし」と。 『奥さんが必要としているのって、こういうことなんだな』と、そのとき初めてわかりました。家事自体は奥さんが隙間時間で自分のペースでできたとしても、“1人の時間を作る”っていうのは、僕にしかできない。ドラマを見ていても『この奥さんに必要なのは、そういう1人の時間かもな』と思いましたね。
1時間でも奥さんを家庭から解放してあげることが大事
最後に、共働きでうまくやっていくには、どんなことに気を付ける必要があると思いますか?
ドラマのラストシーンと同じで、夫婦間の“ささいなズレ”は、そう簡単になくなるものではないので、経験を重ねていくしかないのかなと。行動や気持ちの“理由を聞く”“理由を探る”といったコミュニケーションが、やはり大事だと思います。
僕はドラマの4話(「夫の言い分」)と5話(「妻の言い分」)で夫と妻それぞれの目線で描いたものを見てわかることがあるように、1日でいいからお互いの立場を変えてみるしかないんじゃないかなと思います。 今日“保育園のお迎えはだんなさん”で、“残業するのが奥さん”といった感じで。帰宅後にやらなければいけないタスクを1度すべて1人で背負ってみた上で会話ができることが必要なのかなと。
お互い逆の立場を経験してみるんですね。
そうでないと、世のだんなさんの中には『おまえは早く帰って家にいるんだから、楽でいいじゃん』っていう気持ちが、やっぱりどこかしらにあると思うんですよ。これはもう、1回やってみて経験から実感するしかないんじゃないですよね。
うちもたまに奥さんから「残業したい」と言われることがあって、何度か立場を交代したことがあるんですけど、『大変だな』というのが身にしみるので、確かにやってみたほうがいいかもしれませんね。
肥田さんの話にもありましたけど、育休中に奥さんといっしょに過ごして、子どもたちが寝るまでボーッとする時間が本当にまったくと言っていいほどなかったので、1時間でもいいから、奥さんを家から解放してあげることが大事だと思いました。帰ってきたら、すごくうれしそうに「ありがとう」と言ってもらえたので。
やっぱり大切なのはコミュニケーションじゃないでしょうか。ドラマの夫婦は、お互いどこか違和感を感じながらも、できるだけ波風を立てないように、その違和感を見て見ぬ振りして過ごしていましたけど。その結果がすれ違いが起こっていたので、お互いに踏み込んで話し合う時間を、意識的に持ったほうがいいんでしょうね。 月に1度でもいいから、“これからの家族の生活をどうしていきたいか”とか、“子どもの教育についてどう考えているか”とか、普段それぞれ考えていることのすり合わせをする。お互い子どもを大事にする気持ちは同じだとしても、ベクトルがあってないと意味がないですから、うちもやらないといけないなと思っています。
文:野本纏花/写真:村上悦子/編集:小原弓佳
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