長くはたらく、地方で
サイボウズで複業。収入源は3つ──そんな私の「パラレルワークはじめての確定申告」
地方でNPO法人を運営しながら、サイボウズで副(複)業している竹内義晴が、実践者の目線で語る本シリーズ。今回のテーマは、副業を始めると必ずついてまわる確定申告。そもそも、確定申告はすべきなの?どうやってやるの?
確定申告の時期である。
「副業 確定申告」で検索すると、Googleの関連する検索キーワードには、「ばれる」「しない」という言葉が並ぶ。
以前、「時間外」に「好きなこと」で副業。これって、何か問題あるかなぁ?でも触れたように、これまでは、副業を禁止している企業が多かった。給与以上の収入があると住民税が変わる。確定申告によって副業が会社にバレることを不安視する人が多いのだろう。
ネット上には「○○万円以下は確定申告しなくてよい」という記事も多い。
副業がこれまでのような、「会社には内緒で」「本業の隙間時間でお小遣い稼ぎ」のようなイメージなら、「確定申告をしなくて済む方法」に意識が向くのも分からなくはない。
そもそも、確定申告とは?
企業に勤めている場合、特別な理由がない限り、確定申告をする必要はほとんどなかった。なぜなら、確定申告の代わりに、毎年11月から12月にかけて行われる年末調整によって納税額を算出しているからだ。
年末調整とは、毎月給与から概算で天引きされる所得税の過不足を計算し、正しい納税額を調整する手続きである。
一方、副業している場合、複数の収入源があるため、会社の年末調整だけでは正確な所得が計算できず、納税額を確定できない。そのため、確定申告が必要なのだ。
確定申告とは、1月1日から12月31日の1年間に得た個人の所得を計算し、納税額を確定。税金を支払うための手続きである。
確定申告、しなくて済むならしたくない
経験がない人にとって、確定申告は「何を、どのようにすればいいのか」が分からず、不安だろう。また、よく分からないことは、往々にしてめんどくさく感じるものだ。「しなくて済むならしたくない」とも、思うだろう。
実際、私自身そう思うことが多かった。
だが、もしあなたが「パラレルキャリアによるスキルアップ」や「これからの人生設計として」など、副業に何かしらの目的意識を持ち、長期的に始めたいと思っているなら、確定申告は「必ずする」ことを前提にしたい。
「所得による税額を確定する」という確定申告の意味を考えれば、本来、確定申告は必ずすべきだし、「確定申告はするものだ」と決めておけば、「自分の場合は確定申告するのかな?しなくていいのかな?」と不安になったり、悩んだりしなくてよい。
また、確定申告にはメリットもある。
ここからは、「副業=確定申告をする」という前提で話を進めよう。
副業家の確定申告4つのタイプ
副業家が確定申告をする場合、大きく分けるといくつかのパターンがある。
このパターンについては、以前、サイボウズで働いて「複業には4種類ある」と痛感し、やっぱり複業はいっしょくたには語れないよねと思った話で触れた4つのタイプで見ていこう。
4つのタイプとは……
- 「個人+個人」タイプ
- 「個人+企業」タイプ
- 「企業+個人」タイプ
- 「企業+企業」タイプ
である。タイプ分けの詳細については、リンク先の記事を参考にしてほしい。
「個人+個人」タイプ
これは、ライターやフリーランスなど、個人事業主の人が、複数の仕事をするようなタイプである。
このタイプは、今までも個人事業主として確定申告をしているはずだ。「副業」はそれほど意識することなしに、今まで通り確定申告を行えばよい。
もし、今からこのタイプを目指すなら、まずは、個人事業主として、お金の計算や確定申告の仕組みを知る必要がある。文末に、私が個人事業主になったときの経験を記した。参考になれば幸いだ。
「個人+企業」タイプ
これは、個人事業主が主軸で、企業からも所得を得ているタイプである。
このタイプの場合、「個人+個人」同様、個人事業主として、日ごろから収支計算を行っているはずである。まずは、個人事業主分の確定申告に必要な手続きに意識を向けよう。
企業分は、個人事業主分のほかに、企業から発行される「給与所得の源泉徴収票」に書かれている、「支払金額」や「源泉徴収税額」を、作成した確定申告書に追記するぐらいでほとんど手間はかからない。
もし、不安なら、個人事業主の申告書類と、会社から渡された「給与所得の源泉徴収票」を持って申告会場に行こう。担当の方が丁寧に教えてくれるはずだ。
「企業+個人」タイプ
これは、企業が主軸で、個人でも所得を得ているタイプである。
「企業+個人」タイプは、「個人」の関わり方で2つのタイプに分かれる。
一つは、いわゆる「アルバイト」の形で企業と関わっている場合である。この場合、所得計算はアルバイト先の企業が行ってくれるため、確定申告は、次の「企業+企業」タイプと同じである。そちらを参照してほしい。
もう一つは、個人として仕事を受け、請求書や領収書を発行している場合である。この場合、金額の大小に関わらず個人事業主となり、決算書など、確定申告に必要な書類の作成が必要になる。
今まで、会社勤めで確定申告をしたことがない人にとっては、この、個人事業主分の書類を作るのが、最も大きなハードルになるだろう。参考までに、私の経験を文末に記しておいた。
「企業+企業」タイプ
これは、複数の企業に所属するタイプである。
このタイプの確定申告は、各々の企業から発行された「給与所得の源泉徴収票」を持って確定申告会場に行けば、簡単な手続きで申告できるはずだ。
なお、複数の企業に所属する場合、確定申告自体は簡単な手続きで済むが、その前に、社会保険の手続きや、毎月の給料から天引きする源泉所得税の計算方法など、どちらが、どのように支払うかを、それぞれの会社との間ですり合わせておく必要がある。
この話は内容的に別の話となり、この文面では足りないため、別の記事として改めたい。
副業家が確定申告をするメリット
これから副業を始める人にとって、初めての確定申告は面倒に感じることが多いだろう。
だが、メリットもある。そこで、いくつか挙げてみた。
1.自分が「どれだけ頑張ったか」分かる
サラリーマンの場合、給与明細や源泉徴収票をもらって気になるのは「総額がいくらか」よりも、「実際に使えるお金はいくらか」ではないだろうか。
だが、確定申告をすると必然的に、給与所得や個人事業主の事業収入を目にすることになる。金額の大小に関わらず「自分はこれだけ頑張ったんだなぁ」と認識することができる。
サイボウズで働く傍ら、個人事業主で副業しているAさんは、確定申告についてこう言っている。「確定申告って、個人事業主の成績表みたいなものだな。しかもそれを自分で作れるっておもしろい」
2.商いの基本が分かる
サラリーマンの場合、経理や営業に関わる仕事をしていないと、請求書や領収書はもらうもので、発行したことがない人も多いだろう。
個人事業主で副業すると、それがどんなに少額であれ「請求書の発行」「売掛金の発生」「売り上げ」「帳簿のつけ方」「領収書の発行」など、商いやお金の知識が自然と身につく。確定申告はその延長にある。
仕事をする上で、商いやお金の知識はないよりあったほうが何かと便利だ。
3.医療費等の控除が受けられる可能性がある
確定申告では、医療費や寄付金などを控除(税金の対象としない)することができる。
例えば、10万円以上の医療費は控除の対象となる。我が家は妻と子供2人の4人家族だが、今年の4人分の医療費(病院や市販薬の購入費)は15万円弱だ。それほど大きな病気にかからなくても、家族がいればこのぐらいの医療費はかかるだろう。
4.社会の仕組みを学ぶ機会になる
サラリーマンの年末調整は、煩わしい確定申告をしなくて済む便利な仕組みではあるが、自分がどのぐらいの給与を得ていて、どのぐらいの社会保険料を払い、その結果手取り額がどうなっているのかを意識している人は少ないだろう。
確定申告をすることで、これらの仕組みを理解でき、社会に対する視野が広がるだろう。
私の確定申告事情
最後に、私の確定申告事情を紹介しよう。
今回の確定申告は、私がサイボウズで複業を始めて(メインとサブの「副業」ではなく、複数の仕事を同時にこなすパラレルワークの「複業」)初めての確定申告になる。
私は、大きく分けると収入源は3つある。
- 個人事業主の収入(ライターやIT関係)
- NPO法人しごとのみらいの給与
- サイボウズの給与
確定申告ではこれらをすべて申告し、税金を納付(多く支払っている場合は還付)する。先ほどの複業4つのパターンで示せば、個人事業主と法人が2つであるため、2と4の複合ということになる。
なお、上に示した順番は、私がサラリーマンを辞めて、確定申告をするようになった順番でもある。
お金の知識は全くないずぶの素人
私がサラリーマンを辞めたのは2004年。最初の確定申告は個人事業主としてであった。
サラリーマン当時、プログラマーだった私はお金の知識が全くなかった。旅費などの経費は経理担当者に提出すればよかったし、請求書や領収書を発行したこともない。年末調整も担当者に言われるまま適当にやっておけば、なんとなくやり過ごすことができた。
個人事業主になるとそうもいかない。日々のお金の管理をしなければならないし、請求書や領収書を発行する必要もある。
また、確定申告について調べてみると、比較的簡単な白色申告と、多少複雑だが65万円控除が受けられる青色申告の2つの方法があることが分かった。
今後、まじめに事業をしたいと思った私は、最初から青色申告でいくことに決めた。青色申告には複式簿記という会計の知識が必要だが、お金の勉強にもなるし、税額の控除も受けられる。
そこで、日商簿記3級の資格と取ってから起業した。記帳はパソコンの会計ソフトを使った。
お金の流れを知る上で、簿記の勉強はやっておいてよかったと思う。企業会計に出てくる「貸借対照表」と「損益計算書」の読み方ぐらいはなんとなく分かる。
だが、今から思えば「簿記の資格を取るまでもなかったかもしれない」と思うこともある。個人事業主はマンパワーが限られる。それならば、面倒なことは便利なツールに任せて、事業に専念したいから。
今なら、会計の知識がそれほどなくても、安価に使えるクラウドの会計ソフトがあるし、お金の出入りを都度入力しておけば、確定申告に必要な決算書や申告書類も労力をかけずに作成できる。
はじめての確定申告
初めての確定申告は緊張した。ネットを調べれば必要な書類は容易に分かるが、作った書類が正しいか、全然自信がなかった。
とりあえず、会計ソフトで作成した決算書と、国民年金や国民健康保険、生命保険の控除証明書、医療費の領収書をまとめたものをもって申告会場に出向いた。確定申告書は、どこに、何を書いたらいいのかよく分からなかったため、申告会場で書こうと思った。
申告会場は混雑していた。番号札を渡され、ドキドキしながら待った。
番号が呼ばれて申告会場に入ってからは、「こんなに丁寧に教えてくれるのか!」と思うぐらい、税理士の方が親切に教えてくれた。初めてで不安だったが、安心できた。
もっとも、申告者の中には、お金の計算が得意な人もいれば、苦手な人もいるだろう(私は断然苦手だ!)。また、会場には老若男女、さまざまな人がいた。「こんなにいろんな世代がやっているのだから、ボクにもきっとできるはず」……そう思えた。
一昔前は、確定申告書を手で書かなければならず、「計算はこれで合っているのかな」「この項目の記載はここで合っているのかな」と不安になった。だが、近年はパソコンを使ったe-Taxで申告できる(申告会場で可能)。係の方の指示に従って入力していけば、難しいことはあまり考えることなしに、申告を終えることができる。
また、最近のクラウド会計ソフトは、手順に従って入力していくだけで確定申告書類が作成でき、マイナンバーカードなどの電子証明書があれば、オンラインでそのまま申告できるサービスもある。
法人分の追加は簡単
2番目のNPO法人を始めたときは、個人事業主分と法人分をどのように申告すればいいのかよく分からなかったが、この時も、「申告会場で聞こう」と、個人事業主分のほかに、NPO法人の「給与所得の源泉徴収票」を持って行った。
税理士の方に、「初めてなので教えてください」と言ったら、「法人からもらう給与所得の源泉徴収票のこの数字を、確定申告書類のここに転記すれば大丈夫ですよ」と丁寧に教えてくれ、迷うことはなかった。
今回は、サイボウズで複業を初めてはじめての確定申告だ。最初は、何か特別な手続きが必要なのか不安だったが、調べてみると源泉徴収票が1枚増えただけで、特別な手続きは必要ないようだ。安心した。
SNSシェア
執筆
竹内 義晴
サイボウズ式編集部員。マーケティング本部 ブランディング部/ソーシャルデザインラボ所属。新潟でNPO法人しごとのみらいを経営しながらサイボウズで複業しています。