長くはたらく、地方で
「時間外」に「好きなこと」で副業。これって、何か問題あるかなぁ?
地方でNPO法人を運営しながら、サイボウズで副(複)業している竹内義晴が、実践者の目線で語る本シリーズ。今回のテーマは、政府が後押しすると話題の「副業解禁」。長時間労働や情報セキュリティが不安視される副業だが、「仕事以外の時間」に「好きなこと」で副業して、何か問題あるの?
冬の寒空の下、昼間の仕事を終え、体を震わせながら夜な夜な工事現場に立ち、道路の交通誘導をする男性。あるいは、昼間の仕事の後、お酒が弱いのにスナックでアルバイト。酔っ払いオヤジの相手をする女性――「二つの仕事を掛け持ちする」状況として、テレビドラマではこのようなシーンがよく描かれる。
2017年の暮れ、政府は働き方改革の一環として、『副業・兼業の促進に関するガイドライン(案)』を発表した。「とうとう副業・兼業が解禁された!」と、メディア等ではにわかに話題になっている。
「これで堂々と副業ができるぞ!」と思っている人もいるかもしれないし、「副業、しなきゃいけないの?体もつかな?」と、不安に思っている人もいるかもしれない。
あるいは、「社員が『副業したい』と言って来たらどうしょう」「うちも制度を整えなければいけないのかな」「長時間労働とか、情報セキュリティとか、本当に大丈夫なのか?」と不安視している人事や労務担当者もいるだろう。
ところで、あなたにとって「副業のイメージ」はどのようなものだろうか。
- メインの仕事(本業)とサブの仕事(副業)がある
- 生活のため、お金のために働くダブルワーク
- 自分の時間を切り売りする
- 肉体労働のアルバイト
このようなものかもしれない。
なぜ、副業は禁止だったのか
本来、仕事以外の時間は自分の時間なのだから、趣味に使おうが、彼や彼女とデートしようが、家族と過ごそうが、本業以外の仕事をしようが、何をしようが自由なはずである。実際、憲法では「職業選択の自由」がうたわれているし、法的な規制もない。
だが、今までは一般的に、副業・兼業を「禁止」とする企業が多かった。その理由は、かつて、企業が就業規則を制定する際のひな型としていた厚生労働省の「モデル就業規則」では、副業・兼業は原則禁止になっていたこと、それを元に作成した多くの企業の就業規則も、当然、そのようになっていたことがあげられる、
また、今まで一般的でなかったために、気持ち的な抵抗もあるのだろう。私は2017年5月からサイボウズで複業(メインとサブがあるダブルワークの「副業」ではなく、複数の仕事を同時にこなすパラレルワークの「複業」)を始めたが、その様子が放映されたガイアの夜明け―どう働く?"人生100年"時代を観たという、ある経営者からは、「うちの会社では副業はありえない」との声が聞かれた。
そう考えると、多くの企業では「禁止」になっているのが普通だし、そもそも経験がないのだから、さまざまな心配をするのも当然だ。
会社の心配事―なぜ副業を解禁できないのか
ところで、なぜ企業は社員の副業を認めようとしないのか。何を心配しているのか。
先の、『副業・兼業の促進に関するガイドライン(案)』によれば、
企業が副業・兼業を認めるにあたっての課題・懸念としては、自社での業務がおろそかになること、情報漏洩のリスクがあること、競業・利益相反になることなどが挙げられる。
とある。また、このほかに長時間労働を心配する企業も多い。
もっとも、副業が冒頭に示した交通誘導やスナックなどで深夜まで働く働き方なら、このような不安を抱くのも当然だろう。
ここで疑問となるのが、そもそも副業・兼業すると、本当に「自社での業務がおろそかになるのか」「情報漏洩のリスクがあるのか」「競業・利益相反になるのか」「長時間労働になるのか」だろう。
逆に、どのような働き方なら、副業はOKと言えるのだろうか。
企業が心配する「副業リスク」は本当か?
サイボウズでは、2012年より副業を許可しているが、それ以前は許可していなかった。その理由は、多くの企業が心配しているのと同じだ。就業規則にも禁止と記されていた。
副業許可に踏み切ったのは、「テニスコーチをしたい」という社員からの声だった。そのときの様子を、当時、人事制度を作っていたサイボウズ副社長の山田理は、ある働き方改革の講演会で次のように語っている。
当時、副業禁止だったんです。社員から相談されたとき、最初は「本業に身が入らなくなる」と答えたわけです。でも「なんでやろ」って。「週末にテニスコーチやったら、ホンマに、本業に身が入らへんのかな」って。でも、よく考えてみたら、普段、会社に来ていて、「仕事に身が入ってない人、いっぱいいるな」って。「次、どこで飲み会やろうか」と昼間から一生懸命探している人とか、「週末どこいこうか」「デートどこいこうか」と考えている人とか。
「副業をしていても、していなくても、本業に身が入っていない人はいる」……この事実に気づいたとき、「副業を許可しようと思った」と山田は言う。
この副業、何か問題あるかなぁ?
「平日に」「本業の後で」「夜遅くまで肉体労働」のような副業なら、長時間労働や本業への影響が心配になるのも当然だろう。だが、テニスコーチのように「週末に」「好きなこと」をする副業ならどうだろう?本当に本業に影響を与えるのだろうか。
むしろ、「自分が大好きなことができてうれしい」「周りからも喜ばれる」「しかも、お金ももらえる」……周りも、自分もハッピーではないか。
会社から見たって、「好きなこと」「得意なこと」で充実感を抱いてくれたら、仕事にもさらに身が入りそうだ。
この副業、何か問題あるかなぁ?
というか、週末にテニスをやっている人なんて、ごまんといるだろう。彼らは仕事に影響を与えているだろうか。もちろん、「夢中になりすぎて朝までやっていた」みたいに、極端な例は別だが。
とはいえ、我々の副業のイメージは、冒頭の交通誘導員やスナックで深夜まで働くイメージなのだ。「週末にテニスコーチをやったら、本当に本業に身が入らないのかな。そんなことないんじゃないかな」と頭では理解できても、心配になるのも当然だ。
「好きなこと」で副業するサイボウズ社員の例
心配を取り除く一例として、副業を解禁しているサイボウズではどのような事例があるのかご紹介しよう。
営業を担当している権 大亮は、学生時代に得意だったテニスで、コーチの副業をしている。
働き方改革に関するマーケティングを担当している熱田優香は、ライティングや編集ディレクションの副業をしている。
また、マーケティングを担当している安藤耕史は、夫婦で飲食店を営んでいる。
彼らはサイボウズでの本業をフルタイムで働く傍ら、「会社に影響のない時間」に、「好きなこと、得意なこと」で、「自社に関係のない業種」を副業に選んでいる。
「好きなこと」なら会社の負担にならない
「そうはいっても、それはレアケースだよ」と言いたい気持ちも、よく分かる。長時間労働する人もいるかもしれないし、競業他社に情報漏洩する人もいるかもしれない。
そう、不安は尽きない。
だが、社員が「自分を犠牲にして」いるならともかく、「会社に影響のない時間」に、「好きなこと、得意なこと」で、「自社に関係のない業種」で、「社会に貢献する」副業だったらどうだろう?
まず、長時間労働について考えてみよう。
そもそも、「好きなこと」をやっているときは楽しいし、充実する。面白いから没頭し、自然とやりたくなる。実際、趣味やゲームなど、好きなことなら「時間を気にせず没頭する」みたいなことはよくある。
言い方を変えれば、長時間労働で問題となるのは「やりたくないこと」を「他人の意思」で「やらされる」ことなのだ。
もちろん、いくら好きなことだからといって、朝方まで副業しているのはいかがかと思う。だが、本人の意思でやっているのなら、それほど「長時間労働」を気にすることもないのではないか。
また、「本業以外」の仕事なら、情報漏洩のリスクもさほど気にならないだろう。
そもそも、情報漏洩のリスクは、「副業をしているから」というのは、本来、あまり関係がない。副業をしていようが、いまいが関係なく漏洩してはいけないのである。
「いや、本業に近い仕事なら、つい、言ってしまうこともあるだろう」という意見も分かる。でも、「つい、言ってしまう」なら、居酒屋で会社の愚痴を言っているときのほうが、リスクとしてはよほど高いのではないか。
「副業全面解禁」なら、心配事も多いだろう。だが、「会社に影響のない時間」に、「好きなこと、得意なこと」で、「自社に関係のない業種」で、「社会に貢献する」という限定付きの副業なら、試してみる価値はあるのではないだろうか。
副業を解禁するなら会社の負担にならない方法から
実際、サイボウズにおける副業も、最初は許可制の条件付きだった。その後、試行を経て、現在は業務や会社資産と関係ないものは、上司の承認も報告する義務もなく自由に行うことができる(関係あるものは報告する)ようになった。
そこで、副業を解禁するなら、いきなり「全面解禁」とはせずに、会社の制度や業務の負担にならないところから始めるのがいいだろう。そのポイントをいくつかまとめてみた。
1、副業は「自分の時間」で
副業は「自分の時間」に行うものである。そういう意味では、平日の業務時間外なら、本来なら自由ということになる。
しかし、社員の長時間労働が気になるのも不思議ではない。
もし、長時間労働が気になるなら、副業解禁時は「週末」という条件を付けてもいいかもしれない。「テニスコーチ」のような週末にできる仕事なら、本業の負担にもならないだろう。
2、本業とは関係ないことから始める
情報漏洩が気になる場合、本業とは関係ない業種から副業を解禁すれば、会社の負担は少ないだろう。
特に、本人が「好きなこと」「得意なこと」「やりたいこと」から選んでもらうと、社外で充実感を得られるため、社内にもいい効果が期待できるはずだ。
3、「副業で何をしているか」をオープンにする仕組みにする
これまでの、副業禁止が当たり前だった時代、それでも副業しようと思えば、会社に隠れてコソコソと行うしかなかった。すると、さまざまな情報を「隠す」という方向に意識が働くため、情報漏洩のリスクが高まるし、罪悪感の中で副業するしかなかった。これでは、会社にとっても、本人にとってもよくない。
そこで、副業を許可するなら、情報を「オープンにする」方向にしよう。
サイボウズ社内では、業務や会社資産と関係ないものは、上司の承認も報告する義務もないが、そもそも「副業OK」となっているため、「今度、○○の副業を始めたんですよ」と、通常の会話で話したり、グループウエアで公開したりしている社員も少なくない。
業種は、NPOで働くもの、ライターをするもの、農業をするものなど多種多様だ。
4、時間などの管理は本人に任せる
時間の管理は本人に任せよう。こうすることで、長時間労働などの管理を会社が背負わなくても済む。
もちろん、健康管理面を注意するようなアナウンスは、するに越したことはないが、「好きなこと」「興味があること」をやっているのであれば、さほど心配する必要もないだろう。
解禁するなら「本業に専念できる」副業から
政府の副業解禁に、「“本業に専念すべし”と言っていられなくなった」……との情報を目にすることがある。
企業側からすれば「本業に専念してほしい」と願うのはもっともな話である。
「本業に専念すべし」でいいのである。
だが、社員が「時間外(特に週末)」に「好きなこと」で副業したいと言うなら、それを制限するのも、また、おかしな話である。
本業に専念しながら、「会社に影響のない時間」に、「好きなこと、得意なこと」で、「自社に関係のない業種」で働く……。
この副業、何か問題あるかなぁ?
イラスト:マツナガエイコ
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執筆
竹内 義晴
サイボウズ式編集部員。マーケティング本部 ブランディング部/ソーシャルデザインラボ所属。新潟でNPO法人しごとのみらいを経営しながらサイボウズで複業しています。
撮影・イラスト
松永 映子
イラストレーター、Webデザイナー。サイボウズ式ブロガーズコラム/長くはたらく、地方で(一部)挿絵担当。登山大好き。記事やコンテンツに合うイラストを提案していくスタイルが得意。