複業を認めた会社は、社員の保険や年金をどう調整すべきか?――サイボウズ人事に聞いてみた

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地方でNPO法人を運営しながら、サイボウズで副(複)業している竹内義晴が、実践者の目線で語る本シリーズ。今回のテーマは、複業者の「保険と年金」。複業するとき、保険や年金ってどうなるの?

私がサイボウズで複業(メインとサブの「副業」ではなく、複数の仕事を同時にこなすパラレルワークの「複業」)を始めた当初、実は社員ではなかった。個人事業主として業務委託契約を結んだのである。

複業で「地方が軸、東京は拠点」に挑戦──人生100年時代を生きるために、サイボウズで地方中心の働き方を選んだ

なぜか。複業を始める上で、それがもっとも手っ取り早いと思ったからだ。

もちろん、最初から社員になることもできた。だが、保険と年金の手続きが気になったのである。

私は、複業には「個人+個人」「個人+会社」「会社+個人」「会社+会社」の4つのタイプがあると思っている。

サイボウズで働いて「複業には4種類ある」と痛感し、やっぱり複業はいっしょくたには語れないよねと思った話

サイボウズでの複業を業務委託にすれば、「個人(今までの仕事)+個人(サイボウズの業務委託)」となり、今まで通り保険は国民健康保険、年金は国民年金のままでよい。仕事はすぐに始められる。

一方、「個人(今までの仕事)+会社(サイボウズの社員)」の場合はどうなるのか。私の場合サイボウズでの勤務は週2日だ。

そもそも、こんなに短い勤務時間で社会保険や厚生年金に加入できるのか。できたとしても、さまざまな手続きが必要で、仕事を始めるまでに時間がかかるのではないか。

このような不安から、複業を業務委託で始めることにしたのである。

私の場合は「個人+個人」と「個人+会社」の選択で悩んだが、これをお読みの多くの方は、きっと会社員の方も多いのではないかと思う。

会社員が「会社+個人」「会社+会社」のスタイルで複業を始める際、保険や年金はどうなるのか?

「正直、よく分からない」という人が大半ではないか。

そこで、サイボウズで人事や労務にかかわっている浅賀佑子さんに、複業社員の保険や年金の扱いについて聞いてみた。

複業社員の保険や年金はどうなるの?―サイボウズ人事に聞く

竹内義晴
浅賀さんは複業採用や、「複業したい」という社員の労務に関する相談にのっていらっしゃるのですよね。
浅賀佑子
はい、そうです。
竹内義晴
複業採用って、働き方や契約形態に関係なく、一緒に働く仲間を採用するわけですけど、初めて聞いたときびっくりしませんでした?
浅賀佑子
そうですね。サイボウズは元々、社員の複業を認めていました。でも、「これからは複業する人を社外から採用するんだ」とびっくりしました。
竹内義晴
そりゃあびっくりしますよね。
浅賀佑子
と同時に、ちょっとした不安もありました。
竹内義晴
不安というと?
浅賀佑子
他の会社で働いている方がサイボウズで複業するということは、その方が働いている会社の人事と私たちとの間で、保険や年金などの調整が必要なんじゃないかと思ったんですよね。

「これからは、相手先の人事と直接やりとりする時代が来るんだな」と思いました。
竹内義晴
それは……大変そう。
浅賀佑子
あと、会社によっては、社員の複業を歓迎していない企業もあるかもしれない。

「同じ感覚で複業の話ができるのかな? それはハードル高いな」とも思いました。
竹内義晴
複業を歓迎していない会社の人事との調整は、かなりハードルが高そうですね。

ところで、実際に複業採用がはじまってみて、複業を希望している方の会社の人事と、保険や年金の調整をすることはあったんですか?
浅賀佑子
それが、予想に反して直接会話をすることはなかったんです。「複業したい」というみなさんはマインドが自立しているからか、「人事にお任せ」という人はいませんでした。
竹内義晴
確かに「人事にお任せ」という気持ちでは、複業はできないかも。
浅賀佑子
働き方やキャリアのことを真剣に考えている人が多いんじゃないかなーと思います。必要な調整は自分でしてくれましたね。

複業者の保険や年金の手続きはめんどくさくないの?

竹内義晴
とはいえ、複数の企業にまたがって働くと、複業する人にとっても、人事にとっても、保険や年金の扱いが面倒臭くなる気がするんです。実際のところはどうですか。
浅賀佑子
そうですね。「やるべきことをやれば、それほどでも」という感じでした。
竹内義晴
具体的にはどんな感じですか。
浅賀佑子
労務的にみると、保険や年金のほかに、雇用保険や労災も合わせて考えた方がいいので、一緒にみていきましょう。

健康保険・年金

浅賀佑子
まず、健康保険と年金ですが、雇用形態が正社員か、契約社員か、パート・アルバイトかにかかわらず、加入要件を満たしていれば会社で入ることができます
竹内義晴
「加入要件」とは?
浅賀佑子
「1週間の所定労働時間および1か月の所定労働日数が、同じ事業所で同様の業務に従事している一般社員の4分の3以上」です。
竹内義晴
なるほど。一般社員と比べて4分3以上働いていれば、社会保険と厚生年金に入れるんですね。本業と複業の会社でその要件を満たす場合はどうなるんですか?
浅賀佑子
どちらの会社をメインとするかを複業する方が選んで、年金事務所に「健康保険・厚生年金保険 所属選択・二以上事業所勤務届」という書類を提出します。
竹内義晴
保険料を二重取りされることはないんですか?
浅賀佑子
保険料は、2つの会社の給与を合計して決定した後、それぞれの会社の給与割合で割り振ります。
竹内義晴
そうか。給与の割合で割り振るから問題ないんですね。
浅賀佑子
そうなんです。ちなみに、サイボウズで複業している社員は、「サイボウズの社会保険を抜けます」というケースはほとんどありません。

「他社での稼働は少しなので、サイボウズの社会保険の加入を継続したまま」という方がほとんどですね。
竹内義晴
そうなんですね。じゃあ、私のケースについて教えてもらっていいですか?

複業をはじめた当初は業務委託でした。でも、業務委託はなんとなく「外の人」みたいな感じがしたので、2017年8月に正社員に切り替えてもらったんです。
浅賀佑子
竹内さんは、正社員になったとき、社会保険の加入手続きをとりましたね。
竹内義晴
はい。それで今、週2日勤務の正社員なんですけど、労働日数は一般社員の4分の3以上じゃありません。でも、健康保険と年金はサイボウズで入っています。なんで入れたんでしょう?
浅賀佑子
サイボウズでは元々週3日勤務など勤務日数が少ない正社員もいて、柔軟な働き方ができるようになっています。

短時間正社員の場合、保険や年金に入る要件が別にあって、それを満たせば加入手続きが取れるようになっているんです。
竹内義晴
なるほど。短時間勤務でも正社員であれば加入できるんですね。じゃあ、逆に、会社に所属したまま個人事業主になるときはどうするのですか?
浅賀佑子
その場合は、先ほどの、社会保険に加入する要件を満たしていれば会社で加入します。要件を満たさない場合は、国民健康保険・国民年金に加入することになりますね。

雇用保険

竹内義晴
雇用保険について教えてください。私、サイボウズの雇用保険に入っていないんですよね。雇用保険に入れないと聞いたとき、最初、なんとなく不安になりました。何か条件があるんですか?
浅賀佑子
雇用保険の加入は、雇用形態にかかわらず、週20時間以上となっています。
竹内義晴
なるほど。週20時間以上という決まりがあるから、私は入れなかったんですね。
浅賀佑子
そうですね。
竹内義晴
よく考えてみたら、私は元々個人事業主として起業していて、雇用の保障は求めていなかったことを思い出しました。

もし、サイボウズを辞めても、ハローワークに行って失業保険をもらうつもりもないので。

労災

浅賀佑子
最後に労災ですが、労災は雇用形態にかかわらず、すべての労働者に適用されます。2社で働いていれば、両方の会社で入ります。複業か否かは、特別関係ありません。

1つの会社に社員として雇用されていて、1つは個人事業主になる場合も、会社の業務分は労災が適用になります。
竹内義晴
まぁ、労災に入るのは、会社としては当然ですよね。

複業するなら知っておきたいリスク

竹内義晴
保険や年金については基準が法令で決まっているので、確かに「やるべきことをやればOK」って感じですね。

私自身「複業だから」といって、特別難しい手続きがあった印象がありません。複業したい人が、自分で「どんな形で働きたいのか」を決めて、あとは人事と相談しながら、やるべきことを進めていけばよさそうです。
浅賀佑子
そうですね。
竹内義晴
複業する人にとって、労働時間や健康も気になるところです。人事として気にしていることはありますか?
浅賀佑子
複業採用が始まるときに、弊社の社労士にリスクを聞きました。そのとき、人事担当者としては、「社員の健康管理と労働時間の管理」「労災の補償」を知識として入れておいたほうがいいとアドバイスされました。

健康管理・労働時間管理

浅賀佑子
健康管理と労働時間の管理について、サイボウズでは、フルタイムで働くほかに複業するような社員には、週1回の休みを確保するように伝えています。
竹内義晴
そうなんですね。
浅賀佑子
また、サイボウズ社内の労働時間のほかに、複業先の労働時間も報告してもらうケースもあります。

社員に健康管理や休日の確保を意識づけながら、労働時間を把握するためです。記録しないと、本人も知らず知らずの間に働いてしまいますしね。
竹内義晴
時間を申告するのはちょっと面倒ですけど、健康管理も大事ですからね。

労災の補償

浅賀佑子
次に労災です。労働災害が原因で休業しなければならなくなったとき、収入の補償を国が保険から支給してくれます。でも、複業の場合「十分に補償されないリスク」があります。
竹内義晴
えっ!そうなんですか?
浅賀佑子
労災の補償額は、働いている会社の収入が基準になりますが、複業の場合、働いている会社によって、収入の差がある場合がありますよね。

例えば、A社とB社で複業していて、B社に関する仕事で労働災害にあったとします。
竹内義晴
はい。
浅賀佑子
この場合、B社の労災が適用されますが、A社とB社の収入割合が8:2の場合、補修額の計算基準は全収入の2割となり、十分な額にならないリスクがあります。

しかも、働けなくなるほどの事故の場合、A社の仕事もできなくなりますよね。
竹内義晴
それは……怖いですね。

複業者と人事のコミュニケーションが大切

竹内義晴
いやぁ、保険や年金って、なんとなく難しい感じがして、ちょっと避けて通るみたいなところがありました。よく分からないし。
浅賀佑子
そうですよね。
竹内義晴
でも、複業するなら、保険や年金、働く上でのリスクはちゃんと知っておいたほうがいいなと改めて思いました。知らないからといってリスクがなくなるわけじゃないし。
浅賀佑子
複業に関しては、世の中の法整備がまだ追いついていないところもあるので、複業したいという方と人事がコミュニケーションを取りながら「一緒に解決していく」という気持ちで取り組むのがいいのかなと思いますね。

イラスト:マツナガエイコ

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