上司がポジティブすぎると、本音がいえないんですよね──「自分は成果を出せる」という人ほど、弱さを見せる意識が大事
あなたは「自分の弱さ」をさらけ出せていますか?
弱さをチームのメンバーやリーダーに見せることで迷惑をかけてしまうかも──。そう思い悩んでストレスを抱えている人も少なくないのでは。株式会社cotreeのCOO・平山和樹さんはかつて、弱さを見せられずに抱え込んだことで心を病んでしまった経験があるといいます。
一方のリーダーにとっては、「感情的な弱さを職場に持ち込まれては困る」という思いがあるかもしれません。NPO法人クロスフィールズの創業者・小沼大地さんは、「常にポジティブに接していたことでメンバーを疲弊させてしまっていた」という過去を打ち明けます。
チームの一人ひとりが、ポジティブな面だけではなく弱さも見せあいながら、健康的に楽しく成果を追いかけるためには何が必要なのでしょうか。お2人の実体験をもとに語り合っていただきました。
あのとき泣かなかったら、メンバーはすぐにいなくなっていたと思う
そうすることで本当に問題を解決できると思っていたんですが、実際はそうじゃなかった。みんなは僕に本音を言えなくなっていたみたいです。
そんなバックボーンがあったから、「なんでもできなきゃいけないんだ」という前提でメンバーと接してしまっていたのだと思います。
組織がうまく進まなくなったとき、「団体の強みとか、良いところを出し合おう」と言ったんです。でもそこでメンバーの1人が「いや、今日はネガティブな部分、変えないといけない部分を話そう」と。
みんなに組織や個人の課題を出しあってもらったら、「自分らしく働けていない」「前の職場のほうがよかった」など、メンバーが次々に泣いていったんです……。
自分の強みだと信じていたポジティブさが、実は弱みでもあったのだと気づいた瞬間でした。僕の話す順番が回ってきたときには、言葉に詰まってみんなの前で泣いてしまいました。「みんな、本当にごめん」と一言だけ絞り出して。
しばらく経って、当時のメンバーから「あのとき小沼が泣かなかったら、メンバーはすぐにいなくなっていたと思う」と言われました。ある意味であの涙は、僕が初めてメンバーの気持ちを聞く姿勢を示した証だったのかもしれません。
僕が新卒で入社した会社は、優秀で「ビジネスマッチョ」な人が多い環境だったんですよ。
自分の仕事が遅かったのもあり、溜まっていく終わらない仕事で疲弊していきました。仕事のミスも増えていきましたが、当時の僕は他の人を頼るのが苦手で。
その結果、あるときメンタル的に不調になり、物理的に働けなくなってしまったんです。もちろん、自分を社会人として育ててくれた前職の方々には深く感謝しています。
その経験から、自分と同じような状況の人は世の中にたくさんいるんじゃないかと考えるようになりました。それでオンラインカウンセリングなどを手がけるcotreeに入社したんです。
事業として「人や社会の弱さ」と向き合っている会社だし、ユーザーさんに寄せられる不安定な思いと向き合うために何が必要なのか、ずっとみんなで話し合っているようなチームなんですよね。
目標達成ばかりを称賛していると、弱さをさらけ出しにくくなる
うまくいかないときには「うまくいかないなぁ」とSlackに書くし、例えば体調が悪いときなども、みんな自分からさらけ出すんですよね。
良し悪しがハッキリしていると、「他のものを認めない」というのもハッキリしてしまう。
目標に向かって頑張るときも、うまく行かず大変なときも、どっちも大事にしようという空気感がcotreeにはある気がします。
チームをよくしたかったから、苦手なマネジメントを手放した
今までは「チームをよくしたい」と口では言いつつも、やっぱり事業が好きだし、時間も十分につくれていませんでした。組織づくり専任のマネジャーを採用するという選択は「本当に小沼はチームをよくしたいんだ」「新しくきた彼なら、チームを変えられるかも」とみんなが思ってくれることにつながりました。
そういえば、新婚旅行に関するうれしいエピソードがありまして。
そんな悩みを知った周りのメンバーがコミュニケーションを取り、「同僚を幸せな新婚旅行に気持ちよく送り出すプロジェクト」が立ち上がりました。協力してそのメンバーの業務を一気に進め、2週間の新婚旅行に行けるようにしてあげたんです。
チームが大きくなると全体会議のメンバーも増えますよね。参加者が多いと時間も限られ、どうしても「いいこと」「前向きなこと」ばかり共有されがちです。そこで3〜4人ずつの4つのユニットに分けて、一人ひとりの発言量が増えるようにしました。
新婚旅行の話も、10人を相手にする場では打ち明けられなかったかもしれません。4人だったから言えたのだと思います。
「自由=なんでもあり」では組織は回らない
組織のルールや暗黙知がない状態で「自由がほしい」と訴えるメンバーの要望に応えても、「自由=なんでもあり」になってしまっては、チームはうまくいかないかもしれません。「優しい組織だと聞いて入社したのに、自分には全然優しくない!」と不満を言う人も現れるかもしれません。
cotreeの場合は、選考・採用段階での見極めを重視することで懸念を払拭するようにしていますね。「やさしさでつながる社会をつくる」というビジョンとのマッチ度合いはきっちり見ます。
ビジョンを実現するためのバリューを体現できる人かどうかも見極めます。人の弱さに思いを馳せられたとしても、「ずっとこの会社に守ってほしい」という考え方だとcotreeには向かないかもしれません。
「前向きならいいじゃん」という時代ではない。相手や自分の弱みと、どう向き合うか
ユーザーに選んでもらえる要因は「前向きさ」だけではなく、もっと複雑な「好き」「嫌い」「楽しい」「悲しい」といった感情が絡んでいる。
組織の中でも、実はみんな悩んでいるんだけど、それをなかなか言い出せない。
cotreeさんでは個人向けのコーチングも行っていますよね。実際に現場ではどんな悩みに接しているんですか?
一方でSNSを通じて、うまくいっている人のケースが見えやすくなったことで、「なぜ自分はダメなんだろう」と考えてしまう機会が増えていますね。
人と比べてしまいがちな時代なので、そうした意味では、「自分のことだけを考える時間」としてコーチングの重要性が増していると感じます。
コーチングって、人や自分の弱みとどう向き合うかが大切じゃないですか。そこでの会話が組織づくりのベースになっていくんじゃないかと感じています。
身近な半径の世界で打ち明けてみれば、景色が変わるかも
僕はメンバーとの合宿でそれを思い知らされ、「自分は何をやってきたんだろう」と考えさせられました。もしかするとメンバーの声にしか気づくきっかけはないのかもしれません。
今回の記事を読んで気づける人なら大丈夫だと思いますが、自己肯定感が強くて、「自分はそれなりに成果を出せる」と思っている僕のような人ほど、弱さを見せることを意識してみるべきではないでしょうか。
部長には「何をやっているんだ」と怒られちゃうかもしれないけど、社長からは「いいね!」と言ってもらえるかもしれない。
これからの時代はどんな業界でも、個々人の弱さと向き合うチームマネジメントが求められていくはずなので。
いきなり会社を変えるのは、めちゃめちゃ大変じゃないですか。今楽しくないなら、何をしたら楽しいかを考えてみたらいいかなと。そのあと「会社を変えたい」と思えるのであれば、ぜひ行動してみてほしいですね。
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執筆
多田 慎介
1983年、石川県金沢市生まれ。求人広告代理店、編集プロダクションを経て2015年よりフリーランス。個人の働き方やキャリア形成、教育、企業の採用コンテンツなど、いろいろなテーマで執筆中。