どうする? 在宅勤務
在宅勤務は「無機質よりも複雑な環境」の方が、実はタスクが進むんです
在宅勤務が始まったけれど、いまいち仕事に集中できない──。テレワークが浸透していくにつれて、家の仕事環境を整えることが大切になってきます。
「脳は会話に反応せずにはいられません。集中力を保つには、静かな場所が理想です」と話すのは、環境心理学者のサリー・オーガスティン博士。自分らしい空間との向き合い方とデザインのある暮らしを提唱しています。
「在宅勤務を快適にするデザインのススメ」について、Kintopia 編集長のアレックス・ストゥレが聞きます。
※この記事は、Kintopia掲載記事「How Environmental Psychology Can Help You Work Better From Home」の抄訳です。
居場所によって、心境は変わる。環境心理学って何ですか?
たとえば、色は創造力や分析力にどう影響を与えるか、天井の高さと社会的行動にはどんな関係があるか、手や足にものが触れた時、人はどう反応するか──などです。
さらに一歩ふみこんで、国や組織の文化が、特定の場所で、どのように人の体験や期待に影響を及ぼすかを、分析することもあります。
環境心理学者は、それぞれの個性がデザインにどのような影響を与えるか、あるいは与えるべきかを考えるのです。
素材や天井の高さ、色に気を配って、自分のバックグラウンド(背景)や性格とのつながりまでを考えるとなると、ちょっと気が引けます。
たとえば「デザインした部屋で何をするか?」を考えれば、どの感覚に着目すべきなのかわかってきます。
どんな目的の部屋なのかが大切であって、文化や性格に左右されない要素もたくさんあります。
たとえば、セージグリーンに白を混ぜると、リラックスする色が生まれます。逆もしかりで、明るい黄緑色のように、明るすぎず、彩度が高い色ほど元気が出ます。
人が語りかけるとき、声は口から聞き手の耳に直接届くのではなく、天井から跳ね返ってきます。天井が高いと、声が跳ね返って耳に入るまでの時間が長くなるので、フォーマルに感じられるんです。
アメリカで見かける派手な豪邸には、無駄に広いリビングと高い天井がつきものですが、声が反響してしまうので、友人と楽しい時間を過ごすのには向きません。
少しずつルールを理解すれば、自然に身についていきます。最初は考えるべき点がたくさんありますが、そのうち慣れますよ。
話を複雑にするつもりはないですが、私たちは「いつでも、どこかに」存在していますよね。その影響をコントロールするのがデザインなんです。
脳は会話に反応せずにはいられない。集中力を保つには、静かな場所が理想
コロナが終息しても在宅勤務の傾向は続くと思いますすが、自宅の仕事環境を整えるにあたって注意すべき点を教えてください。
ただし居眠りするほどリラックスしてはいけませんよ。寝ながら最高のパフォーマンスを発揮できる人はいませんから(笑)。
在宅勤務の場合、最適な仕事環境を整えるためにできることは限られていますが、リラックスするには、白みがかったセージグリーンの壁紙がおすすめです。
完全な静寂はかえって不自然なので、静かな場所が理想的です。これは自宅でもオフィスでも同じで、会話が耳に入ってこない空間がよいでしょう。
私たちの脳は、周囲の会話に反応せずにはいられないので、会話を遮断する必要があります。
ボリュームをしぼって、ストレスの抑制に効果的な自然の音を聞くとよいですよ。
土砂降りの雨音や台風の強風、オウムの鳴き声などは論外です。
音量は小さくても効果があります。隣人に迷惑にならない小さな音量で、天気のよい日に草原を流れる小川の音などを流してはどうでしょう。
自然光は、問題解決や対人関係にもプラス。居心地のいい環境はヒュッゲに学ぼう
自然光は、気分やパフォーマンスの向上に直結します。気分が良いと、問題解決や対人関係にもプラスになりますから。
すばらしい眺めが視界に入らなくても、自然光を浴びるだけでも効果的です。
寒色系の照明は、注意力を高めるので、分析的な仕事向きです。
暖色系の照明は、創造力や対人関係に効果的です。たとえば緊張する上司との会話には、暖色系の照明がある部屋が向いています。
ヒュッゲでは、社交に最適といわれる炎の光を使います。人間の進化の過程でも、大昔は炎を囲んで語らっていたことを考えると、現代人にも通じる感覚なのでしょう。
また、温かいものに触れたあとは寛容になり、共感も高まり、他者に対する温かい感情が持続するといわれます。
周囲の環境と人間の思考には多くのつながりがあって、本当に驚かされます。
視覚的に気が散る要素がある方が、仕事は進む。色、形、物のバランスも見てみよう
ある程度、視覚的に複雑な環境の方が作業は進みます。「視覚的に複雑」というのは、色、形、物がバランスよく整然と並んでいる状態です。
たとえばアメリカの建築家フランク・ロイド・ライトが設計した、住まいのインテリアを思い浮かべてみてください。自宅でもオフィスでも、理想のインテリア像として参考になります。
昔は、食料となる動物を見つける能力だけでなく、人間をエサとする動物を見つける能力も必要としていました。どちらの場合も、動物に先に気づかれてはいけません。
ものがあふれる雑多な環境では、周りを見わたすのが難しくなります。だから散らかっていると落ち着かない気分になるんです。
動き回るように進化してきた人間。自然を仕事環境に取り入れると、創造力もアップ
また、木材がストレス軽減に効果的であることもわかっているので、木製のデスクが一番ですが、難しければ木目調のものでもかまいません。
大切なのは木目がよく見えて、不規則な模様を描いていることです。不自然な模様でなければ、本物の木材でなくても大丈夫ですよ。
流れる水の音もリフレッシュ効果があるので、机に置ける小さな噴水もおすすめです。ミニ噴水があれば、わざわざ自然の音を集めたサウンドトラックを買う必要もありません。
在宅勤務の誘惑から身を守るには、視界に誘惑物を入れないことがおすすめ
テレビの近くに座っていれば「昨日の番組の続きが見たい」と思ってしまいますし、冷蔵庫の近くにいれば「ちょっと何か食べよう」という気になります。
こうした誘惑から身を守る配置やデザインはありますか?
ただし「必要以上に食べたい」「テレビを見たい」という衝動は、退屈やストレス、集中力の欠如が原因です。まずは、そちらに対処すべきでしょう。
結局のところ、物理的な環境を整えるといっても限界があります。
隣の家からおいしそうなにおいがしてきたら、気を取られてしまうのは当然です。壁紙の色で解決できる問題ではありません。
100%在宅勤務は黄色信号? 言葉とジェスチャー以外のシグナルを受け取るには
在宅勤務とオフィス勤務についての考えを聞きたいです。在宅勤務が向いている職種はありますか?
人間のコミュニケーションは、言葉とジェスチャーだけだと思いがちですが、違います。言葉以外にも、お互いにいろいろなシグナルを送っています。
たとえば、相手との距離、会話中に視線が合っているか、どのようなにおいがするかなどです。
においといっても「汗臭さ」の話ではありません。ハッピーなときと、そうでないときでは、人が発するにおいも変化するんです。
クリエイティブな職種でも、率直なフィードバックを直接受け取ることが大切です。
在宅勤務でも、このようなやりとりは可能ですが、対面のコミュニケーションには代えられません。
やり慣れた作業や単純作業を1人でしていると、だんだんと集中力が途切れて、作業効率が劇的に下がります。
人とのかかわりから生まれる、ちょっとしたエネルギーにふれるだけで、目が覚めるんです。
ビデオ会議では、アイコンタクトはできません。もちろんウェブカメラを見つめることは可能ですが、少し怖いですよね。
人を知るには、顔を合わせていっしょに過ごすしかない
人と人のやりとりは複雑なので、テクノロジーが進化しても、電話やビデオ会議を使って再現できるものではないんです。
もちろん、さまざまなツールを自由に使いこなせるのはすばらしいと思いますし、ツールなしに今の経済は成り立ちません。
ただ、現在の状況は、応急処置でしかありません。一時的な危機的状況にあるからこそ、みんながベストを尽くそうと努力しています。
危機が去って、職場に戻れるようになったとき、テクノロジーを使って仕事を進める代わりに、お互いに顔を見合わせて仕事をしようとする人は多いと思いますよ。
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執筆
撮影・イラスト
高橋団
2019年に新卒でサイボウズに入社。サイボウズ式初の新人編集部員。神奈川出身。大学では学生記者として活動。スポーツとチームワークに興味があります。複業でスポーツを中心に写真を撮っています。